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【アップデート】トランプ大統領誕生でどうなる? 為替市場の注目点は?

2016年12月

【アップデート】「トランプ・ユーフォリア」はいつまで続く!?

米大統領選で、共和党のトランプ候補が勝利した、まさかの「トランプ・ショック」から1か月近くが経過した。

市場では、所得税減税やインフラ投資といったトランプ氏の経済政策、いわゆる「トランプノミクス」が米経済を活性化させるとの期待が高まっている。いわば、「トランプ・ユーフォリア(高揚感)」と呼べるような状況だ。

新しい大統領が就任すると、最初の100日間は議会も協力的な姿勢で臨む「ハネムーン期間」とされる。その間に、新大統領は選挙戦で公約した野心的なアジェンダを実現しようとする。トランプ氏の場合は、「大統領らしい」勝利宣言直後から株高やドル高が示現しており、市場との間ですでに「ハネムーン」が始まっているかのようだ。

では、「トランプ・ユーフォリア」はいつまで続くのか。トランプ氏はまだ大統領に就任していない。したがって、具体的な経済政策が打ち出されるのは、まだ先のことだ。具体的な政策が出てこなければ、失望感が広がることもなさそうだ。

当面は、ホワイトハウスや閣僚の人事、議会との関係、FRBとの関係などを注視することになるだろう。政権移行チームの内紛が囁かれたり、主要閣僚にクセのある人物が指名されたりしているが、これまでのところ大きな失点はないようだ。

「トランプ大統領」は2017年1月20日に就任する。就任演説もさることながら、その後に上下両院の合同会議での所信表明演説がまずは注目だ。例年の一般教書演説に該当するものだ。そこで、優先的に取り組む課題が明らかになるだろう。

そして、2月下旬までに予算教書が発表される。これは、2017年10月に始まる2018年度の予算案であり、インフラ投資などの歳出項目が織り込まれるだろう。予算教書の発表を受けて、議会で予算審議が始まる。予算審議は夏ごろに山場を迎え、早ければ年度開始前の9月中にも成立する。ただし、年度開始後に成立がずれ込むことも珍しくはない。

大統領と同じ共和党が議会の多数派となっていることから、通常であれば大統領のアジェンダは比較的スムーズに議会を通過するはずだが、トランプ氏は共和党主流との間に大きな溝を作ったことで、議会がどこまで大統領に協力するかは未知数だ。

インフラ投資と並んでトランプ氏が提唱する所得減税は、2018年度予算の枠組みの中で審議されるかもしれない。ただ、成立を早めるために、単独の法案として審議することも可能だ。2001年に就任したブッシュ大統領は、減税を含む包括的な景気対策を打ち出し、共和党議会の協力によって同年6月にはこれを成立にもっていった。

以上から、「トランプノミクス」の詳細が明らかになるのは2017年に入ってから。それが立法化されて発効するのは2017年終盤以降となりそうだ。ただ、景況悪化などによって迅速な対応が必要となれば、2017年半ばまでに成立する可能性もなくはない。

それにしても、「トランプノミクス」の詳細が不明なままで、今後1-2か月はユーフォリアが続くのだろうか。気まぐれで変わり身の早い市場がいつまでも同じテーマで動くとは限らないが。


2016年11月

◆選挙結果:トランプ勝利と「統一された政府」

醜い中傷合戦が繰り広げられた2016年の大統領選挙は、共和党のトランプ氏が大方の予想を覆して民主党のクリントン氏に勝利した。獲得選挙人数は290対232(11月13日時点、ミシガン州の16人が未定)だったが、全米の得票数ではクリントン氏がわずかながらも上回ったようだ。クリントン氏にとっては、接戦州をことごとく落としたことが致命傷となった。

一方、連邦議会選挙は、共和党が上院、下院ともに議席数を減らしながらも辛うじて過半数を維持した。その結果、現在の「分断された政府」ではなく、大統領も議会も共和党が押さえる「統一された政府」が誕生する。ただ、予備選の最中からトランプ氏と共和党主流派との確執が表面化しており、深い溝を乗り越えて両者が融和できるかは不透明だ。

 

 

◆今後のスケジュール

まず、トランプ氏の立ち上げた政権移行チームが、オバマ政権からのスムーズな引継ぎを目指す。その過程で、新政権の主要メンバーが明らかになる。

12月19日には、選挙人が形式上の投票を行う(ただし、2000年の選挙では、党派とは異なる理由での棄権が1名あった)。翌1月6日に下院が選挙人の投票結果を承認し、20日の大統領就任式を経て、「トランプ政権」が正式に始動する。各省の長官・幹部を含む官僚は大統領が指名し、上院の承認を受けて任命される。

そして、1月末ごろに大統領による一般教書演説があり、所信表明が行われる。2月末ごろには2018年度予算教書が発表される。

大統領就任後の最初の100日間は「ハネムーン(蜜月)」とされ、議会は「お手並み拝見」とばかりに新大統領に寛容な態度をとることが多い。一方、新大統領は選挙戦中の公約の目玉を一気に実現しようとする。

 

 

◆注目ポイント

以下では、トランプ氏の選挙公約を基に、「トランプ政権」が目指そうとするものと、その実現性、為替相場への影響を考察した。

「トランプノミクス」は機能するか

トランプ氏が勝利演説でまず強調したのが、所得税減税とインフラ投資による経済成長率の押し上げであり、それに伴う雇用の創出であった。この、いわば「トランプノミクス」は80年代の「レーガノミクス」を彷彿させるものだ。

1980年に当選した共和党レーガン大統領は、大幅な所得税減税を断行する一方で、ソ連との冷戦下で「強いアメリカ」を標榜して軍備を拡張(インフラ投資ではないが、財政支出という意味では同じ)。いわゆる「レーガノミクス」だ。これによって経済成長が高まった一方で、期待された税収増(自然増収)は起こらず、財政赤字が拡大。国内の貯蓄と投資のバランスが崩れたことで(貯蓄<投資)、経常赤字が拡大。それが「双子の赤字」だ。

「レーガノミクス」により高い経済成長の下でインフレが加速、強い引き締め(大幅な利上げ)が行われ、また財政赤字を懸念して長期金利は大幅に上昇。その結果、ドル高が示現した。しかし、過度なドル高により米国は競争力を失って産業の空洞化が起こり、経常赤字が一段と拡大した。そのため、主要先進国がニューヨークのホテルでドル高の是正で合意した。いわゆる「プラザ合意」だ。

結論として、「レーガノミクス」は当初、ドル高の処方箋だったが、「双子の赤字」という世界の金融市場のかく乱要因を生み出したことで、長く続くドル安の遠因になったともいえる。

「レーガノミクス」には功罪、双方の評価が可能だが(*)、「トランプノミクス」は果たして「レーガノミクス」同様の結果を生むだろうか。一つ違いがあるとすれば、「レーガノミクス」が当初機能したのは、米国が世界経済のリーダーとしてけん引役を担い、また開かれた市場を提供したことで、世界の資金を引き付けることができたからだ。

後述するように、現在の米国にその能力も意思もないとすれば、「功」ではなく「罪」の部分がより強く意識されるかもしれない。

(*)例えば、軍備拡張は財政赤字の拡大につながったが、一方でソ連の崩壊を促した(早めた?)結果、90年代の国防費の削減を可能にした(いわゆる「平和の配当」)とみることもできる。

為替市場に直ちに影響しそうなのが、本国投資法(HIA, Homeland Investment Act)かもしれない。本国投資法は、米企業が海外に保有する資金(現地での利益の留保など)を一定期間、低い税率で米国に還流することを認めるものだ(設備投資など利用目的を限定する場合もある)。本国投資法が成立すれば、投資の増加により景気を押し上げる効果が期待できるほか、税収増につながる可能性もある。また、米国への資金還流を促すことで、ドル高要因となりうるものだ。ただし、期間が限定されることで、その効果も自ずと限定されるだろう。

自由貿易から後退するか

今回の大統領選挙では両党候補の「内向き」の姿勢が顕著だった。トランプ氏もNAFTA(北米自由協定)からの脱退や再交渉、TPP(環太平洋戦略的経済連携)反対などを掲げ、反グローバリズムの姿勢が鮮明だった。また、対米黒字を計上する貿易相手国には強硬な姿勢で臨むとし、とりわけ、中国などを為替操作国と認定して、高率関税の賦課も辞さない構えだ。

自由貿易からの後退は、経済成長にブレーキをかけるだけでなく、すでにグローバル化が進展している現代においては、海外展開する米企業にとっても大きな打撃となる可能性がある。

金融市場のかく乱要因か

トランプ氏は、リーマン・ショックの教訓を基に成立した金融規制改革法(ドッド・フランク法)の撤廃に前向きだ。法令対応のコストが高すぎて、中小金融機関の足かせになっているとの理由からだ。しかし一方で、銀行・証券の兼業を禁止したグラス・スティーガル法の復活を主張しており、金融市場の健全な機能を阻害する可能性もある。いずれにせよ、金融機関や金融市場参加者にとっては不確実性が高まることなりそうだ。

 

「イエレン議長を再任しない」との発言は、大統領にFRB議長指名の権限がある以上、なんら間違ってはいない。ただし、それがイエレン議長、あるいはFRBの政策判断に影響を与えることを意図したものなら、深刻な問題だ。中央銀行の独立性が脅かされている国の通貨や金融資産は、世界の投資家から敬遠されるからだ。

また、トランプ氏が選挙戦中に、「米国の景気が悪化すれば、債務の再交渉もありうる」と口走ったことも、実は大きな問題だ。これは、「景気が悪くなったら、デフォルト(債務不履行)も考えますよ」と言っているに等しい。

米国国債の発行残高の約4割は外国人が保有している。仮に、政府が初めから「踏み倒し」も念頭に置いて国債を発行するとすれば、一体誰がそれを買うだろうか。

外交・安全保障はどうか

トランプ氏の公約の目玉といえるのが、「メキシコ国境の壁」だ。「不法移民を本国に強制送還する」と同様に、選挙用のレトリックとも考えられるが、実現しようとすれば、外交面のみならず経済的混乱も避けられないだろう。善悪は別として、不法移民は労働力として(あるいは購買力として)、米国経済にしっかりと根付いているからだ。

また、日本を含め同盟国には駐留米軍の費用負担(全額?)を求めるとしている。トランプ氏は選挙勝利演説で、諸外国との協調を表明したが、相手をビンタしながら握手を求めているようにもみえる。

さらに、現代の安全保障は、レーガン時代の米ソという単純な対立軸では読み解けない。「トランプ大統領」は、複雑な地政学リスクに対応できるのか。それを可能にする優秀なブレインを抱えているのか、現時点では判断不能だ。

 

 

◆今後のトランプ氏の言動にヒント?

オバマ政権からの継続性が期待できた「クリントン政権」と比べて、「トランプ政権」に関わる不確実性は高い。選挙結果を受けて、市場は、株高、金利高、ドル高で反応した。トランプ氏が減税とインフラ投資による景気刺激を改めて約束したこと、そして大統領と議会を共和党が牛耳る「統一された政府」でそれが可能になるとの観測が背景にあった。

ただし、トランプ氏が選挙公約のうち、どの部分に注力し、どんな政策を打ち出してくるかは必ずしも明確ではない。また、議会がどの程度協力するかも不透明だ。今後、トランプ氏の発言や、新しい議会との関係、政権メンバーの選択などに、それらの疑問に対するヒントが出てくるとみられ、引き続き注目したい。

 

(チーフアナリスト 西田明弘)

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