今月の特集

BREXIT(英国のEU離脱)の衝撃! これからどうなる?

2016年07月

6月24日の英国の国民投票で、「EU(欧州連合)からの離脱」が選択されました。世論調査では直前まで「離脱」と「残留」が拮抗していましたが、開票前には「残留」が優位との楽観論も浮上していたこともあり、結果を受けて金融市場は大荒れとなりました。

為替市場ではポンドやユーロが売り込まれ、それらの通貨に対してドルが上昇、そしてドル以上に円が上昇しました。また、リスク回避により世界的に株価が急落、安全資産として主要国の国債が買われました(利回りは低下)。

BREXIT(英国のEU離脱)は、先の長いプロセスです。今後どうなるのか、概観してみましょう。

英国経済への影響(長期):経済成長率は年0.25-0.5%低下か

まず英国がEUに残留する場合と離脱した場合を比較すれば、経済面では後者のマイナスが大きそうです。EUという単一市場への参加から享受するメリットの喪失、対英投資の減少、移民制限による人口増加率の低下、ロンドン金融市場の地盤沈下、そして、それらの結果として長期の経済成長力は低下するでしょう。

ただし、その影響の度合いは、英国とEUがどのような経済関係を新しく構築するかによってかなり変わってきます。大まかに3つのパターンがあるようです。

(1)    EEA(欧州経済領域)への参加
EU離脱による悪影響を最小限にとどめる方法が、一部でノルウェー方式と呼ばれているものです。ノルウェーはEUに加盟していませんが、EUとともにEEA(欧州経済領域)を形成しており、EUの単一市場のメリットを享受しています。EEAには、EU非加盟のアイスランドやリヒテンシュタインも参加しています。
もっとも、ノルウェーはEUに拠出金を支払っており、人の移動の自由など一定のルールを受け入れています。一方で、EUのルール策定に影響力を行使することはできません。
英国の国民投票は移民規制が大きな争点であったことを考えると、英国がノルウェーと同様に人の移動の自由を受け入れることは難しそうですが、何らかの条件を付けてEEAに参加することは可能かもしれません。

(2)    個別の経済協定の締結
EU非加盟のスイスがEUと結んでいるように、個別に経済協定を締結するケースです。どのような協定を結ぶかによって影響は異なりますが、(1)と後述する(3)の中間的なものとなります。

(3)    WTO(世界貿易機関)ルール
英国とEUが特定の経済協定を結ばずに、WTOのルールに従うケース。自由貿易の促進を目的として創設されたWTOには現在160か国以上が加盟しており、事実上、単一市場のメリットを完全に失うことになるでしょう。英国経済への悪影響が最も大きくなりそうです。

英財務省によれば、EUを離脱してから15年後の英国の経済規模は、EUに残留し続けた場合に比べて、(1)で3.8%、(2)で6.2%、(3)で7.5%、それぞれ小さくなると分析されています。単純計算すれば、年間のGDP成長率が0.25%から0.5%低くなるイメージでしょうか。

英国経済への影響(向こう2年程度):リセッション(景気後退)も

実際のBREXITは、現行スケジュールでは早くても2年後です。それまで英国はEUの一員であり続けます。しかし、その間にも、英国経済には下向きの圧力が加わりそうです。
先ほどとは別の英財務省の分析では、(1)「移行期」効果、(2)「不確実性」効果、(3)「金融状況」効果があるとされています。EU離脱はどのような形であっても、英国の貿易や投資の開放性は低下するので、最終形に至る過程においても経済にマイナスの影響があるというのが(1)。最終形がどうなるか不確実であることが経済行動を抑制するのが(2)。そして、(3)は、国民投票の大勢判明直後にポンドや株が大きく売り込まれたように、金融状況の変化が景気に与える効果です。

英財務省によれば、「不確実性」や「金融状況」の効果が比較的マイルドな「ショック小」のシナリオでも、英国経済はリセッション(景気後退)に陥るとのことです。また、「ショック大」のシナリオでは、GDPがEU残留の場合と比べて2年間で最大6%も小さくなるとのことです。

また、IMFの経済見通しでも、EU離脱の影響が大きいケースでは2017年に大幅なマイナス成長が予測されています。


欧州大陸への影響:懸念される反EU運動

EU内でドイツに次ぐ経済規模を誇る英国が離脱すれば、EU経済にも下押し圧力が加わりそうです。ただ、英国のEU向け輸出が同国GDP(国内総生産)の13%を占めるのに対して、EUの英国向け輸出は同地域GDPの3%に過ぎません。

EUへの悪影響は、経済面よりも政治面が大きそうです。そうでなくとも、EUの枠組みが域内住民を縛る一方で豊かにしていないとして、各国で反EU運動が勢いをましていました。ユーロ圏への参加を見送ったデンマークやスウェーデン、ユーロ圏のオランダやフランスで、英国同様の国民投票を求める声が強まっているとの調査結果もあるようです。

ユーロ圏では、緊縮政策を余儀なくされたギリシャ、イタリア、スペインなどで反ユーロ、反EUの傾向がとりわけ強いようです。

ギリシャは、債務危機に端を発してユーロ離脱の危機に瀕し、政局が流動化したのは、ごく最近のことです。昨年9月の再選挙を経て、SYRIZA(急進左派連合)を中心とする連立政権が維持され、チプラス首相の下で経済改革が進められています。EUによる金融支援も続けられています。もっとも、国民がいつまで緊縮政策に耐えられるか。チプラス政権が盤石でないだけに、楽観は禁物でしょう。

イタリアでは6月20日、反EUの中心である「五つ星運動」がローマとトリノの市長選で勝利しました。今年10月に政治制度の変更に関する国民投票が実施される予定ですが、「五つ星運動」はこれと別に英国同様の国民投票を求めているようです。

スペインでは6月26日に総選挙が実施されました。昨年12月の選挙で、どの政党も過半数の議席が取れず、また連立交渉も失敗に終わっていたからです。事前の予想に反して、反EU派は勢力を拡大することはできませんでしたが、これなどは英国民投票が「反面教師」として作用した結果かもしれません。

欧州統合の推進役となってきたドイツやフランスとて例外ではありません。
ドイツでは、難民問題のハンドリングも災いして、メルケル首相の求心力が低下しています。早ければ来年8月にも実施される総選挙で、メルケル首相の連立与党が政権を維持すると今のところみられています。ただ一方で、反EUの極右政党「ドイツのための選択肢」が躍進、得票率が5%を超えて念願の連邦議会での議席獲得となるのはほぼ間違いなさそうです。

フランスでも、オランド大統領と与党社会党の著しい地盤沈下がみられます。その一方で、移民排斥を訴えるル・ペン氏の極右政党「国民戦線」が着実に勢力を増しています。来年4-5月の大統領選挙や、同6月の議会選挙でも、「国民戦線」が台風の目になるかもしれません。

これから来年にかけて、EU加盟国で国政選挙が相次ぐだけに、欧州大陸における反EUの動きは懸念されるところでしょう。

世界経済への影響

BREXITが貿易面から世界経済に与える影響は無視できる程度かもしれません。しかし、金融市場の混乱が世界経済に大きな悪影響を与えうることは、過去の多くの「○○ショック」が示している通りです。だからこそ、英国民投票の結果判明直後に、G7(財務大臣・中央銀行総裁)は緊急声明を発表したのです。そして、市場動向を注視し、流動性供給など必要な手段を用いる用意があることを強調しました。
国民投票の結果は、短期的に主要国の金融政策に緩和方向のバイアスをかける役割を果たしています。英国では、国民投票の影響に対応するためカーニー総裁が金融緩和の可能性に言及しました。米国では、利上げ観測が大きく後退しており、FFレート先物に基づけば、「2017年まで据え置き」が市場のメインシナリオになりました(6月30日時点)。金融政策見通しの変化は、為替相場や株価にも影響を与えることになりそうです。

EU離脱のプロセス

国民投票の結果をもって、自動的にBREXITが決まったわけでも、EUとの離脱交渉が開始されるわけでもありません。国民投票はあくまでも国民の意向を示すものであり、法的拘束力はないからです。
実際のBREXITに至るまでの手続きは以下の通りです。BREXITはEUからの離脱の初のケースであり、その進め方は必ずしも明確に定義されていないようです。したがって、不透明な部分も多く、あくまで目安です。

英国で新首相の就任

国民投票に法的拘束力はありませんが、キャメロン首相は、民意が明確に示されたとして、英国政府がBREXITを進めることを約束しました。ただし、自身は辞意を表明しており、9月9日までに選出される後継者がEUとの離脱交渉を行うとのことです。

EUとの交渉開始

まず、EUの基本条約であるリスボン条約の第50条に基づいて、英国がEUに対して離脱の意思を通知します。何を持って「通知」とするかは決まっていないようです。議会の承認を得て、英首相が書簡を送るか、声明を発表するかになりそうです(国民投票の結果が通知に該当するとの解釈も不可能ではないようです)。
その後、英国とEUが離脱条件を交渉します。交渉は、通商、税制、ビザ(査証)など多岐にわたります。英国はEUとの交渉と並行して、EU外の国々とも新たな条約や協定に関して交渉する必要もありそうです。

英国とEUとの交渉期間は2年間ですが、EU全加盟国の承認があれば、延長することは可能です。一方、延長が承認されなければ、交渉での合意がなくとも、2年後に英国はEUを離脱することになります。

他方、英国議会がEU法の順守を謳った国内法を破棄すれば、一方的に離脱することが可能との見方もあるようです。ただし、その場合はEUとの間に大きな禍根を残すことになりそうです。

不測の事態は起こらないか

英国とEUの離脱交渉中、あるいはその前に不測の事態は起こらないでしょうか。
例えば、EU離脱派が保守党党首=首相になった場合、保守党の残留派の賛同を得て議会で不信任決議が可決されるかもしれません。総選挙で政権交代が実現すれば(EU離脱の是非が改めて争点になるかもしれません)、新政権がEUとの離脱交渉にどこまでコミットするかは不透明でしょう。
一部の公式機関が予測したように英経済がリセッション(景気後退)入りしたり、あるいはスコットランドの独立の動きが加速したりして、国民の意向に変化が生じる可能性もありそうです。
リスボン条約第50条には、EU離脱を通知した国が翻意して残留することを認めたり、それを禁止したりする条項は存在しないようです。

英国が実際にEUから離脱するまでには、まだまだ紆余曲折があるかもしれません。

(チーフエコノミスト 西田明弘)

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