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マイナス金利は通貨安戦争の引き金となるか?欧州諸国の事例からの考察

2016年03月

日銀は今年1月29日にマイナス金利を導入しました。民間銀行が日銀に保有する当座預金の一部の金利を0.1%から-0.1%に引き下げました。日銀は、新しい金融政策の枠組みを「マイナス金利付き量的・質的緩和」と呼び、「量(資金供給)」「質(資産買入)」「金利」の3つの次元で緩和手段を駆使して、2%の物価目標の早期実現を目指すとしました。

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日銀当座預金の金利
出所:日銀資料より抜粋

日銀の黒田総裁はマイナス金利導入後の会見で、その狙いについて、市場金利に「より強い下押し圧力を加えていく」と説明しました。マイナス金利の適用が始まった2月16日以降、満期10年以下の国債の利回り(いわゆる市場金利)がすべてマイナスになったことをみれば、総裁が「マイナス金利は効果があった」と胸を張るのは当然かもしれません。

ただ、日銀の隠れた目的の一つだったとみられる為替相場は、マイナス金利導入の発表直後こそ一時3円近いドル高円安になりましたが、その後はドル安円高に振れています。日銀はマイナス金利の導入に際して、「今後、必要な場合、さらに金利を引き下げる」と宣言しました。円高が続けば、インフレ目標の達成が一段と難しくなるだけに、それを阻止して、むしろ円安を演出するために、日銀はマイナス金利を一段と拡大するでしょうか。

欧州では、「マイナス金利の明確な効果は通貨安(だけ)だ」との指摘もあります。実際、マイナス金利を導入しているデンマークやスイスは、対ユーロでの自国通貨高を抑制することが大きな目的でした。同じくスウェーデンやユーロ圏の場合は、デフレ回避が主な目的ですが、ユーロ圏の中央銀行であるECBがマイナス金利を導入した際に、ドラギ総裁はユーロ高をけん制する発言を行いました。

自国通貨高の阻止と通貨安の追求の間に、明確に線を引くことは難しいでしょう。日銀の動向次第では「通貨安戦争」が改めて意識される可能性も否定はできません。

マイナス金利 - 欧州の事例:

以下では、現在マイナス金利を導入している欧州諸国事例をみておきましょう。

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デンマーク

デンマーク国立銀行(中央銀行)は、2012年7月にマイナス金利を導入しました。最大の要因は、自国通貨クローネとユーロとの連動性を維持するためでした。

デンマークは英国同様に、ユーロ圏への加盟を見送る、いわゆる「オプトアウト」を選択しました。したがって、統一通貨ユーロではなく、クローネを使い続けています。ただし、EU内での為替相場の安定を維持するため、ユーロ誕生前にあった「為替相場メカニズム(ERM)」を継承した「ERM II」に組み込まれており、クローネの対ユーロ相場を±2.25%以内の狭い変動幅に収めています(現在の対象通貨はクローネのみ)。

そして、クローネをユーロと連動させるため、デンマークの金融政策もユーロ圏にほぼ連動して運営されています。2012年7月5日にECBが利下げを実施した際、デンマーク国立銀行は単独での利下げによって0.05%まで低下していたCD(譲渡性預金)レートを翌6日に-0.20%としました。
CDレートはその後も引き下げられ、2016年3月7日時点で-0.65%となっています。

デンマークのマイナス金利は、クローネの対ユーロ相場を安定させるという通貨政策の一部でもありました。

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スウェーデン

スウェーデンは90年代に金融危機を経験していたこともあって、リーマン・ショックの影響は軽微でした。そのため、リクスバンク(中央銀行)は、リーマン・ショック後の比較的早い段階から利上げを進めましたが、結果からみて時期尚早の利上げがデフレ圧力を強めたため、積極的な金融緩和へと転換しました。2014年7月、リクスバンクは預金金利を-0.5%へ引き下げました。2015年2月には主要政策金利であるレポレートを-0.1%へとマイナス化させ、国債買い入れを開始しました。
2016年3月7日時点で、レポレートは-0.5%、預金金利は-1.25%となっています。

スウェーデンのマイナス金利は、デフレ圧力に対する積極的な金融緩和の結果でした。

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スイス

スイスは2011年9月以降、フランの対ユーロ相場の上限を設定しました(1ユーロ=1.2フラン)。そして、フランがその上限を超えないように無制限介入を実施してきました。ユーロ圏で債務危機が発生すると、逃避先としてフランが買われて大幅に上昇、スイス経済にとって大きな打撃となったからでした。
しかし、フラン売りユーロ買いの介入が頻繁に行われた結果、スイスの外貨準備はGDPの7割まで膨れ上がりました(日本や中国の外貨準備はGDPの3割程度)。

スイス国立銀行(中央銀行)は、2014年12月にフラン高を抑えるために預金金利を0%から-0.25%へ引き下げました。そして、2015年1月にはフランの対ユーロ上限を撤廃するとともに、預金金利を-0.75%へ引き下げました。

スイスのマイナス金利は、主にフラン高圧力を抑制する目的で導入されました。

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ユーロ圏

ECBは2014年6月に預金金利を0%から-0.1%へ引き下げました。2015年1月にQE(量的緩和)を決定する前のことでした。インフレ率見通しの下方修正(=デフレ懸念)が直接の原因でした。ただし、当時の記者会見で、ドラギ総裁が「現在のインフレ率は為替レートの影響を受けている」と語ったことは、マイナス金利導入にユーロ高をけん制する意図があったことを示していそうです。実際、ユーロは対ドルで2014年6月の1.35ドル近辺から、2015年3月には1.05ドル前後まで下落しました。

ユーロ圏のマイナス金利は、直接的にはデフレ懸念への対応でしたが、ユーロ安誘導の思惑もあったようです。

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(チーフアナリスト 西田明弘)

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