今月の特集

アメリカ大統領選挙ガイド、為替市場は何に注目すべきか

2016年02月

最新版(2016年11月)「アメリカ大統領選挙ガイド2、クリントン対トランプ。為替市場への影響は?」はこちら。

アメリカの大統領選挙は4年に1度のお祭りだ。選挙の結果次第で、外交や経済政策などに大きな変化が出る可能性もあるため、為替市場の注目度も高い。

政権が代われば、政策も変わる

米国では政権が交代すると、とりわけ政権党が代わると、政策が大きく変更されることがあり要注意だ。やや古いが、81年に誕生した共和党のレーガン政権は、大規模な減税と軍備拡張を推進した。減税が税収増につながると信じ、またソ連との冷戦下で「強いアメリカ」を標榜したからだ。結果は、財政拡張と金融引き締めのポリシーミックスのなかで、ドルが大幅に上昇し、それがドル高是正を目指した85年9月のプラザ合意へとつながった。

また、93年に誕生した民主党のクリントン政権は、日米貿易不均衡への対策としてドル安円高を容認した。一定水準を超える円安にしないという意味で、当時の財務長官の名をとった「ベンツェン・シーリング」という言葉がもてはやされた。ただ、95年以降は後任のルービン財務長官が米国へのスムーズな資金還流を優先して「強いドルは国益にかなう」と繰り返し、ドル高容認へとかじを切った。

 

ことほどさように、新政権の政策は為替市場にも影響を与えるということだ。もちろん、大統領候補が、選挙戦序盤に掲げた政策を一貫して主張し続けるとは限らない。また、議会の勢力図がどうなるかによって、新政権の政策は日の目を見もするし、葬り去られたりもする。それでも、有力候補が声高に主張するならば、為替市場もそれを無視するわけにはいくまい。

大統領選挙の概要

まず、民主党と共和党の大統領候補を決める予備選が2月から6月上旬まで続く。そして、7月の両党の党大会で、それぞれの正副大統領候補が正式に指名される。その後、両陣営による選挙キャンペーンが本格化、正副大統領候補による討論会(ディベート)などを経て11月8日の投票日を迎える。大統領のほかに、上院の3分の1の議席、下院の全議席、一部の州知事なども改選される。

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投票の仕組み

大統領選挙は有権者が選挙人に投票する間接選挙の形式を採るが、選挙人は支持する候補を明確にしているため、実態は限りなく有権者による直接選挙に近い。

選挙人数は、州ごとに連邦議員と同数が割り当てられる。すなわち上院100人(各州2名)、下院435人(州ごとに人口比例制)。これに連邦議員がいない首都ワシントンDCの3名が加わり、合計538人。州ごとのウィナーテイクオール(勝者の総取り)方式で、過半数(270人以上)の選挙人を獲得した候補が次期大統領に選ばれる。事実上、二大政党(民主党と共和党)の候補による一騎打ちとなる。ただ、どの候補も選挙人の過半数に届かなければ、連邦議員の投票によって上位候補の中から大統領が選出される。

過去のイレギュラーな大統領選挙

・92年ロス・ペロー旋風

テキサスの大富豪ロス・ペロー氏が、財政赤字削減を主張して無所属で出馬(*)。20%近い得票率だったが、選挙人を獲得することはできなかった。ロス・ペロー氏に票を奪われたことで、民主党クリントン候補が42.9%という低い得票率ながら、370人の選挙人を獲得して当選した。今回、共和党の指名を獲得できなかった場合に、トランプ氏が無所属で出馬する可能性があると噂されている。また、ブルームバーグ元NY市長が無所属での出馬を検討しているという。

(*)大統領選挙では、毎回無名の泡沫候補が無所属で多数出馬する。ただ、大手メディアに取り上げられたのは、近年ではロス・ペロー氏と、消費者運動のリーダーであるラルフ・ネーダー氏ぐらいだろう。

・2000年ブッシュvsゴア

フロリダ州の投票結果があまりに僅差だったため、劣勢だった民主党ゴア陣営の要請によって票の数え直しが実施された。両者の差はさらに縮まったが、手作業による数え直しに時間がかかったため、州務長官(共和党)が規定に従って数え直しの中途終了と共和党ブッシュ氏の勝利を宣言。12月12日に、最高裁で州務長官の行動は正当との判断がくだされ、翌日にゴア氏が敗北宣言をしたことで、ブッシュ氏の勝利が確定した。11月7日の投票日から36日後のことだった。ブッシュ氏が獲得した選挙人は271人で当選に必要な270人にわずか1人を上乗せしただけだった。フロリダ州の選挙人は25人で、同州での投票結果が逆転していれば、ゴア大統領が誕生するところだった。

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2月1日に予備選がスタート

さて、両党の指名候補を選出する予備選(*)は2月1日のアイオワ州でスタートした。そして、早ければテキサスなど南部を中心に10数州が集中する3月1日のスーパーチューズデーあたりで、序盤戦の最有力候補(フロントランナー)が明確になりそうだ。

(*)州の指名候補を選出する方式は、各地区の集会所で話し合って決める「党員集会」と、投票により決める「予備選」がある。アイオワ州は党員集会。次のニューハンプシャー州は予備選。本稿では便宜上「予備選」と総称している。

アイオワ州では、本命が苦戦する波乱の結果となった。共和党は、クルーズ上院議員が、事前調査でリードしていた不動産王ドナルド・トランプ氏に勝利した。また、下馬評の高くなかったルビオ上院議員が僅差の3位につけた。一方、民主党は、最有力とみられるクリントン氏が勝利したものの、サンダース上院議員との得票率の差はわずか0.2%だった。果たして、予備選を消化するにしたがって、どういった序列になるのか、はたまたアイオワ州で下位に甘んじた候補が盛り返してくるのか、非常に興味深いところだ。

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有力4候補はTPPに否定的!?

ところで、共和党上院リーダーのマコンネル議員によれば、TPP(環太平洋戦略的パートナーシップ)の議会承認は大統領選挙後まで先送りされるようだ。上述した有力5候補のうちルビオ氏を除く4人がTPPに批判的、ないし反対の立場を鮮明にしており、TPP成立にとって不安材料だ。新大統領の就任は2017年1月であり、それまではオバマ大統領が執務する。しかし、オバマ大統領が求心力を失ってレイムダック化するなかで、議会が新大統領の主張を忖度(そんたく)しないとも限らない。

共和党候補からはドル高けん制も?

共和党のトランプ氏は、中国を為替操作国と即座に認定して、強硬姿勢で交渉に臨むとしている。また、移民規制の強化を主張している。他方、クルーズ議員は自身の政策のなかで「ドルの安定」を謳っており、現在のドルは「高い」との見解を表明している。

有力候補がドル高けん制発言をしたり、諸外国への配慮を怠った内向きの政策を提案したりするようであれば、グローバル化の進む金融市場にもそれなりの影響は出そうだ。

(チーフアナリスト 西田明弘)

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