今月の特集

2016年の為替相場展望

2016年01月

2015年のレビュー

2015年は米ドルが全面高でした。2013年の対欧州通貨を例外とすれば、ここ3年連続で「ドル高」が続いたことになります。他の主要中央銀行に先駆けて米FRBが金融政策の正常化を進めたことが背景だったと考えられます。2013年はバーナンキ前FRB議長がQE(量的緩和)の縮小を予告しました。2014年はFRBが実際にQEを段階的に縮小して終了しました。そして、2015年は年末ギリギリまでもたつきましたが、ついに利上げを開始しました。

2015年の円は米ドルに次ぐ「強い」通貨でした。2013年の円のほぼ全面安が4月の日銀の質的量的緩和開始、いわゆる「黒田バズーカ」第1弾、2014年の円全面安が10月の同第2弾、別名ハロウィーン緩和を背景としていたことを考えると、2015年の円の強さは「日銀が追加緩和をしなかったから」と考えれば分かりやすそうです。


2015年のドル円以外の通貨のパフォーマンスをみると、ユーロやポンドといった主要通貨の対ドル下落率が比較的小さい一方で、豪ドルやNZドルといったオセアニア通貨が、それぞれの国での利下げを受けて下落しました。カナダドルも原油安を背景に軟調でした。そして、トルコリラや南アランドといった新興国通貨の下落率がとりわけ大きくなったのは、米国の利上げ開始によってグローバルな資金の流れがアゲインストに変わるとの懸念が強まったためでしょう。

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2016年の展望

さて、2016年は「バンピーな米ドル高」を予想します。
「バンピー(相場が荒れやすい、あるいは変動が大きい)」になる理由は、米ドルの実効レートが既に歴史的にみてかなり高い位置にあり、材料次第で調整が入りやすいと考えるからです。

そして、大統領選挙やTPPの議会承認に絡んで、米国内からドル高是正を求める声が高まりやすいという政治事情もあります。大統領選挙は2月の予備選を皮切りに7月の各党の党大会を経て11月に投票日を迎えます。つまり、ワシントンはほぼ一年を通じて大統領選挙一色になります。有力な大統領候補が声高にドル高を批判すれば、あるいは議会で保護貿易的な動きが台頭すれば、ドルの下落に拍車をかけるかもしれません。

とりわけ、年前半、それも早い段階では、米追加利上げや日欧追加緩和などの観測が高まらず、ドルが調整する、例えば115円や1ユーロ=1.2ドルに接近する局面もみられるかもしれません。

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他方、「米ドル高」になる理由は、そうは言っても米国で利上げが続けられると考えるからです。賃金やインフレ率の伸び悩みが、金融市場が「ゆっくりした利上げ」を想定する根拠です。逆に言えば、賃金やインフレ率の加速が現実のものとなるならば、現在の市場が織り込むペース(2016年中に2回)以上の利上げが実施されるでしょう。2015年12月時点で、イエレン議長を含めたFOMC参加者の予想の中央値は「2016年中に4回の利上げ」です。FOMC参加者の予想はマチマチであり、「4回」がコンセンサスというわけではありませんが、参加者の過半数(17人中9人)が4回以上の利上げを予想しているという意味です。

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米ドルが上昇する局面では、ユーロや円は軟調な展開となりそうです。2015年12月に実施されたECBの追加緩和、日銀の金融緩和補完策ともに、市場の失望を招きました。それだけ思い切った追加緩和は難しいということかもしれませんが、ユーロ高、円高という市場の反応は中央銀行が望むところではなかったでしょう。通貨高や株安による景気への悪影響を相殺するためにも、追加緩和が改めて検討されそうです。とりわけ、日銀は、2017年4月の消費再増税をサポートするためにも、2016年半ばごろに追加緩和に踏み切る可能性がありそうです。

一方で、英ポンドは比較的底堅く推移しそうです。英国では、2016年中に国民投票が実施されてEU残留が決定する可能性があります。そうなれば、「EU離脱=英経済にダメージ」との懸念は払しょくされるでしょう。また、BOE(英中銀)がFRBに続いて利上げを開始すれば、あるいはそうした観測が強まれば、英ポンドの支援材料となりそうです。
そして、同じ産油国通貨でもある英ポンド以上にカナダドルは原油価格の影響を受けそうです。ただ、対米ドルで10年ぶりの安値まで下落したことで、通貨安がカナダ景気の回復に寄与しそうです。原油価格が下げ止まるようであれば、カナダドルは反発するかもしれません。

豪ドルとNZドルのオセアニア通貨は、それぞれの国での利下げ観測が重石(おもし)となりそうです。2016年後半にかけて利下げ打ち止め感が強まれば、反発する展開もありそうです。ただ、とくに豪ドルについては、中国の景気次第で利下げ観測が根強く残って足を引っ張られるかもしれません。

トルコリラや南アランドなどの新興国通貨は、2015年同様に米利上げによって下押し圧力を受けやすいとみられます。これまでの通貨安による物価上振れに対応するためにも、相応の利上げが必要でしょう。重要な鍵を握るのは、利上げが実施されるかどうかではなく、米国の利上げの影響を相殺するのに十分な利上げができるかどうかでしょう。その点に関して、2015年11月の利上げが市場から不十分と判断された南アフリカ、引き続きエルドアン政権からの利下げ要求が露骨なトルコともに、やや心許ないところです。

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以上の見通しに対して、市場がリスクオフに傾く材料には注意が必要でしょう。
まず、米利上げの累積効果に対する懸念が、投資家心理の悪化を通じて米株価や社債、なかでもジャンク債などの金融資産の価格に悪影響を及ぼす可能性があります。格付けの低い新興国の債券にも同様のことが言えそうです。
中国は景気対策を強化する方向のようですが、言い換えればそれだけ先行きが予断を許さないということかもしれません。そうであれば、資源価格の下落が継続して、大手資源企業の破たんや、資源国の財政収支・国際収支悪化の深刻な事態が起こるかもしれません。
地政学的リスクも引き続き無視できません。あってはならないことですが、主要都市における大規模テロの可能性も完全には排除できません。

(チーフアナリスト 西田明弘)

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