今月の特集

世界に広がるマイナス金利、為替相場への影響は?

2015年11月

要旨:
・資金を貸した側が借りた側に金利を支払うのが「マイナス金利」
・市場金利のマイナス化は、国債の「需要>供給」が極端な形で反映されたもの
・「ゼロ金利制約」によって、量的緩和(QE)が導入されたが、
 近年はマイナスの政策金利を採用する例が増えている
・「マイナス金利」は通貨安要因。通貨高阻止を狙ったマイナス金利の例も
・「マイナス金利」は異例の金融緩和を反映した異常な状態。正常化に向かうのか、
 マイナス金利がさらに広がるのかが注目される。

マイナス金利とは

「マイナス金利」とは文字通り金利がマイナスであることです。通常、資金の貸借においては、借りた側が貸した側に対して、借り賃として金利を支払います。しかし、金利がマイナスだと、借りた側がお金を受け取り、貸した側がお金を支払うことになります。

以下では二つの「マイナス金利」について考察します。一つは、市場金利のマイナス化であり、もう一つは政策金利のマイナス化です。中央銀行が極端な金融緩和を行うなかで実現するという意味では、両者は密接に関係しています。

市場金利のマイナス化

市場金利は国債の利回りです(短期金融市場では国債を介さない資金のやり取りもありますが、ここでは単純化のために、市場金利=国債利回りとします)。

そして、国債の利回りは、国債市場における需給(需要と供給)によって決まります。国債を買いたいのは主に投資家であり、国債を売りたいのは主に国と投資家です。市場金利の低下(=国債価格の上昇)は、国債を売りたい量に対して、国債を買いたい資金が大量にある状態で起こります。市場金利のマイナス化はそうした状況が極端な形で発生していると考えられます。

 

ではなぜ、金利を払ってまで国債を買いたい投資家がいるのでしょうか。それにはいくつかの理由が考えられます。

第一に、投資家が一段の金利低下(マイナス幅の拡大)を予想している場合です。この場合は国債価格が上昇することになるので、投資家は売却利益を得ることができます。通常、国債の残存期間が短くなると金利は低下する傾向があります。これをロールダウン効果と呼びます。これが当てはまる場合、マイナス金利であっても国債を一定期間保有することによって利益が期待できるのです。

第二に、資金の保管コストがマイナス金利による支払い分を上回っている場合です。投資家が大量の現金を保管するには、金庫が必要でしょうし、警備費用がかかるかもしれません。そうした場合、マイナス金利であっても、国債に投資することは合理的な判断と言えるでしょう。

第三に、国債は様々な金融取引において担保として利用されます。そのため、金融機関は金利を払ってでも一定量の国債を保有しておく必要があると考えられます。

金利のマイナス幅が拡大を続ければ、どこかの段階で上記の理由に照らしても国債に投資することが合理的でなくなるはずです。ただ、それがどの水準なのかは必ずしも明確ではありません。

2003年6月に日本の無担コール市場で史上初めてマイナス金利が発生しました。市場金利のマイナス化が広がったのは、リーマンショックや欧州債務危機を経て、主要国の中央銀行が、後述するような量的緩和(QE)やゼロ金利政策を推し進めてからです。ドイツの2年物国債利回りは2012年7月に初めてマイナスとなり、2014年夏以降はそれが常態化し、かつマイナス幅が拡大しています。そして、2015年11月11日の時点で、ユーロ圏の主要国をはじめ、日本を含む多くの国で2年物国債利回りがマイナスになっています。

政策金利のマイナス化

景気を刺激する必要がある場合、中央銀行は政策金利を引き下げます。いわゆる「利下げ」です。景気に対する効果は、名目の政策金利より、名目の政策金利からインフレ率を引いた実質金利によって主に決まります。インフレ率が高い場合、政策金利をその水準以下に引き下げれば、実質金利はマイナスとなり、景気が刺激されます。しかし、インフレ率が非常に低い場合、あるいはマイナスの場合(=デフレ)、政策金利をゼロにしても、実質金利は十分に下がらず、景気刺激効果が期待できない場合があります。

 

従来、金利の下限は「ゼロ」だと考えられていました。これを「ゼロ金利制約」と呼びます。2008年のリーマンショック後に、政策金利を事実上ゼロまで下げた日銀やFRBは、追加的な金融緩和の手段として、国債を購入することで市中に資金を放出する量的緩和(QE)に訴えました。

一方で、「ゼロ」は制約ではないとの考えから、政策金利をマイナスにする中央銀行が出てきました。スイス国立銀行(中央銀行)は2014年12月に政策金利であるLIBOR誘導目標を0%から-0.25%に引き下げました。2015年1月にさらに利下げを行い、2015年11月9日現在の政策金利は-0.75%です。市場金利同様に、政策金利のマイナス幅の拡大余地がどれだけあるのかは不透明です。

スイス国立銀行のほかにも、リクスバンス(スウェーデン中央銀行)やデンマーク国立銀行(中央銀行)が政策金利をマイナスにしています。また、ユーロ圏では、ECB(欧州中央銀行)が近々に主要政策金利をマイナスにするとの観測も浮上しています。

マイナス金利が為替相場に与える影響

中央銀行が金融緩和を行う、あるいは市場金利が低下することは、その国の通貨にとって下落材料だと考えられます。なかでも、量的緩和や政策金利のマイナス化といった思い切った金融政策が必要とされる状況下で、その国の通貨は買われづらいことでしょう。

通貨高の阻止を狙ったマイナス金利の例もあります。上述したスイス国立銀行のケースでは、安全な投資先を求めて国内に資金が流入してスイス・フランを押し上げることを阻止することが狙いでした。マイナス金利の導入に際して、スイス国立銀行は「ここ数日間、多くの要因が安全な投資先を求める需要の拡大を促した。(導入は)スイス・フラン建て投資資産を保有する妙味を小さくし、フラン相場の上限維持に役立つ」と説明しました。

スイスは、2011年のユーロ圏の債務危機に際して、逃避資金の受け皿となりスイス・フランが大幅に上昇した経験があり、デフレ懸念から対ユーロで上限を設けていました。マイナス金利の導入はそれを守る意味がありました。

余談ながら、今年1月にスイス国立銀行が対ユーロでの上限撤廃と政策金利のマイナス幅拡大を発表し、スイス・フランが急騰したことは記憶に新しいところです。

最後に

マイナスの政策金利や市場金利は、異例の金融緩和を映した異常な状態ということができるかもしれません。今後、米FRBが6年ぶりの利上げを検討しているように、その他の国でも金融政策の正常化への動きが出てくるのか。それとも、ECBが追加緩和を検討しているように、異例の金融緩和の維持や強化が必要になるのか。そして、そうした金融政策の変更が、国債市場のみならず、金融市場全体にどういった影響を及ぼすのか。そうした点を注意深く見守る必要がありそうです。

(チーフアナリスト 西田明弘)

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