今月の特集

求心力が低下する欧州統合

2018年06月

第二次世界大戦後から連綿と続いてきた欧州統合の歩みは二十一世紀に入って危機を迎えつつあるのかもしれない。欧州の主要国では、欧州統合に批判的なポピュリズム政党やナショナリズム政党が勢力を増し、ギリシャやイタリアでは政権を奪取するに至った。英国では、国民の選択によるブレグジット(EU離脱)の準備が佳境に入りつつある。以下では危機の本質を考察するとともに、最新の情勢を概観した。

 

欧州統合の歩み

欧州統合とは、欧州各国の政治、経済、社会を統合することによって、欧州に恒久平和をもたらそうとする試みと捉えることができる。

近代における欧州統合の歩みは、1952年の石炭鉄鋼共同体に端を発し、欧州経済共同体(EEC)や欧州共同体(EC)を経て、93年の欧州連合(EU)へと発展した。さらに99年にはEU加盟国のうち、独仏伊など12か国(*)により単一通貨を共有するユーロ圏が誕生して、加盟国を増やしながら今日に至っている。

(*)ただし、ギリシャは経済条件を満たせずに2年遅れて2001年に参加

 

危機の本質

欧州における経済統合は、ヒト・モノ・カネの移動を容易にして経済効率を高める助けとなった一方で、各国の経済政策の自由度を奪うという問題を抱えていた。

とりわけ、単一通貨を導入し、金融政策を一元化したユーロ圏ではその傾向が顕著であった。各国が独自に通貨政策や金融政策を運営することができなくなり、経済の調整機能は財政が一手に担うことになった。そして、経済力が強く財政負担を求められる国(ドイツやオランダ、フランスなど)では、国民の不公平感が強まった。一方で、経済力が弱く財政支援を受ける国(イタリアやスペイン、ギリシャなど)では、痛みを伴う経済構造改革や緊縮財政を強いられて国民の不満が蓄積した。

 

欧州債務危機

欧州統合の問題点が一気に噴出したのが、ギリシャ債務危機だった。2008年秋のリーマンショックにより、世界経済が低成長軌道にシフトしたことが背景にあった。

2010年春、ギリシャが財政赤字を小さくみせる粉飾を行っていたことが判明。ギリシャ国債が暴落し、ギリシャはIMFやユーロ圏による財政支援を受けたものの、2012年には事実上の財政破たんとなった。スペインやポルトガルの財政状況にも懸念が広がり、それらの国債も売り込まれて欧州債務危機へと発展した。

結局、2012年にESM(欧州安定メカニズム)などユーロ圏の金融支援体制が構築され、またECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁が「ユーロ(存続)のためなら、何でもする」と宣言したことで、欧州債務危機は終息を迎えた。

 

グレグジット

危機の終息後も、ギリシャやスペインなどを中心にユーロ圏各国は債務危機の再燃を防ぐべく、厳しい経済政策の運営を迫られた。とりわけ、IMFやユーロ圏から救済を受けたギリシャは、失業率が一時25%を超えるなど経済的困窮を極めた。そうした中で、2015年にはグレグジット(ギリシャのユーロ圏離脱)を唱えた急進左派連合「シリザ」が政権を奪取するに至る(グレグジットは撤回)。

 

難民問題とブレグジット

追い討ちをかけるように、シリア内戦により中東からの難民が欧州各国に大量流入して、社会的・財政的問題を引き起こした。その結果、難民支援を強く打ち出していたドイツでも、メルケル政権が軌道修正を迫られるなど、EUあるいはユーロ圏の結束に大きくヒビが入る事態となった。2016年6月の英国の国民投票でブレグジット(英国のEU離脱)が決まったのは、まさにその延長線上にある。

 

フランス大統領選挙とイタリア総選挙

2017年4月のフランス大統領選挙において、極左「国民戦線」のルペン氏が敗北したことで、吹き荒れていたポピュリズム・ナショナリズムにいったん歯止めがかかったようにみえた。しかし、それも束の間のことで、今度はイタリアで2018年3月の総選挙の結果、「五つ星運動」と「同盟」による反ユーロ政権が誕生している。

 

◆最新の情勢◆

 

イタリア:「五つ星」と「同盟」による反ユーロ政権が誕生

イタリアでは、3月の総選挙で過半数の議席を獲得した政党がなかったため、政権連立交渉が延々と続けられてきた。そして、6月に入って第1党となったポピュリズム(大衆迎合主義)の「五つ星運動」と反移民を掲げる第2党の「同盟」による政権が誕生した。

金融市場では、3月の総選挙前から「五つ星」と「同盟」の組み合わせは最悪のシナリオとされていた。いずれもが反ユーロの立場をとっていたからだ。実際、両党は、最低所得や年金改革の取り下げなど財政赤字の拡大につながり、ユーロの緊縮ルールに反する政策を唱えてきた。また、大統領に拒否された財務相候補は、政府はユーロを離脱する「プランB」を準備すべきだと主張していた。

「五つ星」と「同盟」が政治色の薄いコンテ氏を首相に立て、さらに穏健派のトリア財務相がユーロ離脱に対して否定的な発言をしたことで、市場はやや落ち着きを取り戻している。もっとも、上述したように、イタリアの新政権は反ユーロ的政策を推し進める可能性がある。「同盟」の党首で内務相兼副首相に就任したサビリーニ氏は、難民船の寄港と難民の受け入れを拒否して、移民排斥の党公約をすでに実践している。イタリアはユーロ圏でドイツとフランスに次ぐ第3位の経済規模を誇るだけに、楽観は禁物だ。

 

スペインではラホイ首相が不信任決議を受けて退陣

スペインでは、「国民党」のラホイ首相が退陣した。6月1日に議会で首相に対する不信任決議案が可決されたからだ。最大野党の「社会労働党」が発議し、複数の少数政党もそれを支持した。また、国民党が連立政権を組む新興政党の「シウダダノス(市民)」も、不信任決議案とは距離を置きながらも、ラホイ首相に退陣を迫っていた

不信任決議案の背景は、ラホイ首相の元側近が汚職事件で有罪判決を受けており、不正な資金が選挙に流用されたとの疑惑があったことだ。

ラホイ首相の退陣を受けて、「社会労働党」のサンチェス党首が新首相に就任した。ただし、議席数350の議会において、「社会労働党」は84議席しかない。不信任投票で足並みを揃えた「ポデモス」(67議席)やその他の政党に配慮する必要もあり、サンチェス新首相の政権運営は難しいものとなりそうだ。

現状で基盤の脆弱なサンチェス新首相が解散総選挙に打って出る可能性もあるようだ。最近の世論調査では、緊縮財政に反対する「ポデモス」が支持率を高めており、早期の総選挙となればポデモスが議席を増やしそうだ。緊縮財政はユーロ圏に共通のルールであり、それが蔑(ないがし)ろにされるようなら、ユーロ圏の求心力低下や通貨ユーロの下落圧力につながりそうだ。

 

「ブレグジット」の交渉決裂も。解散総選挙はあるか

英国のEU(欧州連合)離脱、すなわち「ブレグジット」の交渉が暗礁に乗り上げつつあるようだ。EUに加盟するアイルランドと、英国の一部である北アイルランドの国境をどうするか、それに関連して英国がEUの関税同盟に留まるか否かなどに関して、英与党内でも見解が分かれている。

EUは、6月末のEUサミット(首脳会議)までに英国が具体的な立場を示すよう要求している。そして、それがなければ「合意なき離脱」、いわゆる「ハード・ブレグジット」もやむを得ないとの構えだ。メイ首相が与党保守党内部を上手くまとめることができなければ、解散総選挙は避けられないとの見方もあり、今後の展開が注目される。

このまま行けば、「ブレグジット」は2019年3月末時点で実現する。そして、離脱後の英国とEUとの関係や移行期の措置に関する協定が発効するためには、今年秋にも協定案がEU加盟国全ての議会に諮られる必要があるとされる。残された時間は限られており、英国で解散総選挙ともなれば、「ブレグジット」は一気に視界不良となりそうだ。

 

(チーフエコノミスト 西田明弘)

資産運用としてのFXを身につける!
M2J FX アカデミア

Page Top