今月の特集

トルコリラ投資の考え方

2018年04月

以下は、マイナビニュースへの投稿、17年12月2日付「トルコ投資について考える - トルコリラの特徴と高金利なワケ」と、18年3月30日付「同 - トルコリラの最新情勢と今後の見方」を基に加筆修正したものです。

 

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個人投資家の間でトルコへの投資が人気となっているようだ。トルコは、欧州、アジア、中東・アフリカにつながる要衝に位置し、人口構造の若い新興国である。高い経済成長が期待でき、金利水準も高いという魅力がある。一方で、足元でトルコリラが対米ドルで2005年のデノミ以降の最安値を更新するなど、為替リスクが大きいのも特徴だ。

以下では、トルコ投資について考えてみたい。

 

トルコリラの特徴と高金利なわけ

まず、高い金利について。トルコでは短期も長期も金利が軒並み10%を超えている。金利がほぼ「ない」日本にいる投資家からみれば、うらやましいかぎりだろう。

もっとも、高金利の背景は主に2つ。一つは、インフレ率が高いこと。18年2月の消費者物価は前年比10.3%だった。モノの値段が上がるということは通貨の価値が下がるということと同義である。購買力平価の考えに基づけば、インフレ率が年率10%であれば、物価が安定している国の通貨に対して年率10%で下落してもおかしくない。

高金利のもう一つの背景は、経常収支が赤字であって、それを穴埋めするために高い金利で国外から資金を引き込む必要があるということ。とりわけ、現在のように先進国が金融を引き絞り始めると、経常収支が赤字の新興国への資金流入は難しくなり、あるいは資金流出が顕著になり、同国の通貨には下落圧力が加わりやすい。

2013年5月に米国のバーナンキFRB議長(当時)が金融緩和を縮小する可能性に言及しただけで、新興国通貨は下落した。特に、通貨下落が顕著だった国、あるいはそれらの通貨は「フラジャイル(脆弱な)ファイブ」と呼ばれた。トルコ(リラ)は、ブラジル(レアル)、インド(ルピー)、インドネシア(ルピア)、南アフリカ(ランド)と並んでその一員だった。

17年11月に、米国の格付け会社が新たな「フラジャイル・ファイブ」を発表した。オリジナルメンバーの中で、トルコ(リラ)だけが再び有り難くない称号を贈られた。ちなみに、他の4つは、アルゼンチン(ペソ)、パキスタン(ルピー)、エジプト(ポンド)、カタール(リヤル)である。

以上から、新興国通貨(ここではトルコリラ)の下落と高金利の間に密接な関係がみてとれる。

FX(外国為替証拠金取引)において、円で投資する側からみれば、トルコリラの下落分はスワップ(短期金利差)でカバーされる。そして、期待されるトータル・リターン(通貨騰落分+スワップ)は先進国通貨のそれを上回るはずだ。なぜなら、先進国通貨に比べて変動が大きく、流動性が低いトルコリラに期待されるトータル・リターンが先進国通貨と同じか、あるいは下回るならば、誰も投資するメリットを感じないからだ。もちろん、あくまでも合理的に期待できるのであって、保証されるわけではない。

 

トルコの債券や株式への投資について

トルコリラ建て債券への投資においても、基本的な考えは同じだ。元本の為替差損を金利収入でカバーするという図式になる。そして、トータル・リターン(為替差損益+金利収入)は先進国の債券に投資する場合を上回ることが期待できる。

最近、ネット上で個人投資家向けのトルコリラ建て債券投資の広告を見かけた。そのなかで、「100万円を投資して、為替相場に変化がなければ10年後に260万円になる」という趣旨のシミュレーションが示されていた。しかし、「為替相場に変化がなければ」という仮定はまず成立しないと考えるべきだろう。為替相場だけに上も下もありうるのだが、該当期間中にトルコリラが対円で小幅の下落にとどまるならばラッキーと考えた方が良い。

では、トルコへの株式への投資はどうか。個別企業の株は別として、主要株価指数への連動を目指す投資信託を考えてみよう。トルコリラ安になれば、輸出企業の業績改善を通じて株高要因となる可能性がある。ただし、トルコリラ安による株価押し上げ分が為替差損を十分にカバーできるかは不透明だ。トルコ企業は外貨(主に米ドル)建て債務を抱えるケースも多く、その場合はトルコリラ安が財務内容の悪化要因となりうる点にも注意は必要だろう。

債券投資にしても、株式投資にしても、トルコリラの下落リスクを回避したければ、為替ヘッジをしてはどうか。残念ながら、答えは「ノー」だ。為替ヘッジにはコストがかかる。そして、そのコストはほぼ短期金利差に等しい。つまり、トルコリラをヘッジして円建ての投資に換えようとすれば、高金利のメリットは消滅する。

以上の観測は、トルコだけでなく、その他の新興国への投資にも通じる部分が多い。

 

トルコリラの最新情勢と今後の見方

FX(外国為替証拠金取引)は当然のことながら、債券投資にせよ、株式投資にせよ、トルコへの投資のパフォーマンスはトルコリラの動向に大きく左右されるだろう。そして、トルコリラは、18年に入って、対円でも対米ドルでも史上最安値を更新してきた。

以下では、トルコリラの最新情勢と今後の見方について考察したい。

2016年7月のクーデター未遂以降、トルコの国内政治は、外から見る限り比較的落ち着いているようにみえる。17年4月には大統領権限を強化する憲法改正案が国民投票で可決された。19年11月に予定される大統領選挙後に発効するが、それをもってエルドアン大統領の2期目が盤石になるとの見方も可能だ。

トルコリラの足もとの課題は、経済ファンダメンタルズの悪化や地政学リスクだろう。

トルコのインフレ率は昨春以降、10%を超えて推移してきた。TCMB(トルコ中央銀行)は5%のインフレ目標を採用しており、上下2%を許容範囲としているが、その許容範囲の上限を大きく上回っている状況だ。

TCMBは、17年12月に0.5%の利上げを実施した。その後、インフレ率は鈍化するとの見通しに基づいて追加利上げには慎重である。しかし、トルコリラ安の進行によって、輸入価格が上昇しているとみられ、インフレ率が鈍化するとの前提そのものが危うくなっている。いまのところ、TCMBは静観の構えだ。エルドアン大統領はTCMBに対して断続的に利下げを要求しているようだが、TCMBはいずれ、大幅な利上げを含むトルコリラ防衛策を打ち出す必要が出てくるかもしれない。

トルコの経常赤字の拡大も懸念されるところだ。内需の堅調に加えて、エネルギー自給率が3割程度に過ぎないために原油価格の上昇が輸入を増加させている。経常赤字は海外からの資金で穴埋めされるものだが、世界的な金融緩和からの正常化(=過剰流動性の低下)や後述する対外関係の悪化もあってそれがスムーズにいかなくなりつつあるようだ。

そして、国内政治の安定と裏腹に、対外関係での摩擦が目立っている。とりわけ、米国との摩擦が深刻だ。トルコがクーデターの首謀者とみなしたギュレン師の引き渡しを米国が拒否。トルコが米大使館職員を逮捕。対イラン制裁破りへの関与の疑いで米国がトルコ人銀行家を逮捕。それらの出来事を経て、17年10月には両国が相互のビザ発給停止に至り、金融市場を揺るがせた(その後に再開で合意)。

そして、最近では、両国の関係は軍事衝突に発展しかねない危うさを秘めている。トルコはシリア国内のクルド人勢力をテロ組織として掃討に乗り出した。一方で、米国は同じクルド人勢力をIS(イスラム国)に対抗する先鋒として支援してきた経緯がある。トルコが侵攻を目指すマンビジには米軍も駐留しているとされる。

もともと、トルコと米国はNATO(北大西洋条約機構)の同盟国である。既に、両国関係者が緊張緩和に向けて協議を進めているとの報道はあるものの、予断は許されない。

18年1-3月の対米ドルでの騰落率をみれば、主要な通貨の中でも、トルコリラはアルゼンチンのペソに次いで下落率が大きかった。そのため、足下のトルコリラ安の要因が後退すれば、反発の余地は相応にあると言えるかもしれない。

ただし、トルコリラ投資を考える上で、次の2つの点に注意すべきだろう。

まず、最安値はいつまでも最安値とは限らないという点である。あらゆる通貨に共通することかもしれないが、新興国通貨の場合は特に当てはまるだろう。先進国と比べて新興国はインフレ率が高く、購買力平価の観点からみて中長期的には先進国通貨に対して下落する傾向にある。そのため、急落後に急反発した時につけた安値はなかなか更新されないように思えるとしても、知らないうちに更新されているケースは少なくない。

次に、変化幅と変化率の違いを認識することだ。投資を考えるうえで、変化幅よりも投資のリターンに直結する変化率が重要だ。例えば、同じ1円の変化であっても、変化率で考えれば(現在の相場を基にすれば)リラ円の1円は米ドル円の約4円に相当する。それだけ、細かな変化に敏感になる必要がある。

一般論でいえば、新興国通貨は先進国通貨に比べてハイリスク・ハイリターンと言える。トルコリラも、上述の点を踏まえたうえで投資を検討していただきたい。

 

(チーフエコノミスト 西田明弘)

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