今週はこう動く! マーケット羅針盤

2013/05/22 13:00「リーマン・シーリング」という可能性

いわゆる「甘利発言」で、円安容認の軌道修正が取り沙汰されるようになりました。渦中においては、政策当局者たちが何を考えているか簡単にはわかりません。ただ今回と似たような過去のケースを参考にすることはできます。そこで今回は1996年のケースについて考察してみたいと思います。
 
◆1996年の「ベンツェン・シーリング」
1995年80円から始まったドル高・円安は、1996年10月には110円を超える動きとなってきました。ではこのドル高・円安に対して、当時、日米政策当局者たちはどんなふうに考えていたのでしょうか。

当時、政策ウォッチャーたちの間で注目されたのが「ベンツェン・シーリング」でした。クリントン政権の初代財務長官のベンツェンが113-114円程度でドル高・円安をけん制したことがあり、それがビッグ3など米産業界とクリントン政権の間で、大統領選挙を控える中、一つのドル高・円安容認限界水準として意識されているというものでした。

さて、実際の為替相場も、1996年11月の米大統領選挙前、まさに「ベンツェン・シーリング」を意識するかのように115円手前で、ドル高・円安も足踏みするところとなりました。そして、大統領選挙で、クリントン再選が決定した直後に、115円手前から、ドル高・円安は急反転に向かうところとなったのです。

きっかけは「ミスター円」でした。1995年からの円高是正に功績が大きかったとして「ミスター円」との称号を与えられた異色の財務官僚、榊原英資氏が、クリントン再選決定翌日、ある新聞のインタビューに対して以下のように答えたのです。

「どうやら勘違いがあるのではないか。私は円安誘導なんてやっていないし、円高もほぼ是正されたと考えている」

最近、甘利経済再生担当大臣による「円高是正終了」を示唆したかのような発言が注目されましたが、こんなふうに並べてみると、この「榊原発言」は、「元祖・甘利発言」のような印象もありそうです。ただ、インパクトは「甘利発言」の比ではなく、1996年11月、この「榊原発言」を受けて、ドルは114円程度から110円台へ一気に急反落したのです。

これについて、有力な投資専門誌「バロンズ」はこんなふうに解説しました。「この日、世界の主役は再選を決めたクリントン大統領になるはずだった。そんなクリントンから主役を奪った人物がいる。ミスター円、榊原英資氏だ」

それにしても、こんなふうに見てくると、この「榊原発言」は偶発的なものではなかったように思います。主なポイントは、「ベンツェン・シーリング」と大統領選挙だったのではないでしょうか。日米の政治的な円安許容限度は「ベンツェン・シーリング」で、それを超え始めていたので、大統領選挙でのクリントン再選決定を確認するとすぐに円安リード役の「ミスター円」が幕引きに動いたということです。

では、今回はこの「ベンツェン・シーリング」に類する、日米間の政治的な円安許容限度の目安はあるでしょうか。たとえば、麻生財務大臣はしきりに、「円安といってもまだリーマンショック前よりは円高なのだから」などと発言します。リーマンショック前後の為替の水準は105円程度が境目になってきました。

「債券王」、ピムコの運用責任者であるB.グロスの「ニュー・ノーマル」という言葉は、世界経済はもうリーマンショック以前には戻れないといった意味で説明されることが基本なように、リーマンショックを時代の転換点とする考え方はあります。政治的に、為替もリーマンショック当時の水準に戻るまでは、あくまで異常の修正に伴う正常化といった不文律が存在する可能性もあるかもしれません。

1996年の政治的な円安容認が、「ベンツェン・シーリング」と米大統領選挙が一つのポイントになったという意味では、今回は「リーマン・シーリング」と、日本の7月参院選挙などがポイントになる可能性も一つ注目してみたいところです。(了)

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