今週はこう動く! マーケット羅針盤

2012/05/14 14:02円安第二幕の「前夜」なのか

1.ギリシャ不安の中でも米金利低下・ドル安は終わるのか
 
 ≪資料1≫は、日米の2年金利差とドル円のグラフを重ねたものです。ただ、2月14日に、日銀がインフレ目標を決めた後からは、日本の2年金利をゼロに、日米金利差ではなく、米2年金利だけにすると、このように、ドル円との相関関係は比較的きれいに続くようになっています。
 
≪資料1≫

出所:BloombergよりMarket Editors作成
 
 要するに、ドル円は、2月14の日銀インフレ目標決定前までは、日米金利差と同じように動いていたのが、2月15日以降は金利差ではなく、米金利と同じように動くようになったわけです。
 こんなふうに見ると、4月末に、日銀が追加緩和を決めたにもかかわらずドル安・円高になったのはとてもわかりやすいでしょう。すでに日本の2年金利をゼロまで織り込んでしまったドル円としては、日本の金利低下を通じ、ドル高・円安になるのは事実上不可能になっているというわけです。
 この結果、ドル高・円安が再開する鍵は、ほぼ全て米金利上昇再開にかかっているといった構図になっているということになるでしょう。ただその米金利も、上昇再開どころか、むしろ逆に過去2ヶ月低下傾向が続いてきました。
 ≪資料2≫は、長期金利の指標銘柄である米10年金利のグラフです。3月中旬から低下傾向となり、最近は2%を大きく割り込んできたことがわかります。そんな米金利低下の中で、ドル安・円高となってきたわけです。
 
≪資料2≫

 
 では、米金利はなぜ過去2ヶ月低下してきたのでしょうか。≪資料3≫は、この米10年金利に、軸を反転させたスペイン10年金利を重ねたものです。このように、過去2ヶ月の米金利低下は、スペイン債務不安拡大に伴うスペイン金利上昇と逆相関になっていました。つまり、スペインなど欧州危機再燃が米金利低下をもたらした「犯人」だったわけです。
 
≪資料3≫

 
 その欧州債務危機は、5月に入って行われた欧州諸国の選挙、とくにギリシャ総選挙の結果を受けて、ギリシャのユーロ離脱不安が再燃するなどきな臭い状況が続いています。それでは、欧州危機を受けた米金利低下もまだ続くということになるのでしょうか。
 ただ、≪資料4≫を見ると、ギリシャなどの不安がくすぶる中でも、スペイン金利は4月中下旬の国債入札を境に頭打ちとなり、低下に転じ始めたようです。ちなみに、今年1月に、欧州債務危機が一段落したのは、振り返ってみると、当時の主役の一つ、イタリアの国債入札が転換点だったので、その意味では、今回のスペインも大きなヤマを越えつつあるのかもしれないと私は考えています≪資料5参照≫。
 
≪資料4≫
 
  
  出所:BloombergよりMarket Editors作成
 
≪資料5≫
 
  
  出所:BloombergよりMarket Editors作成
 
 それでも、ギリシャのユーロ離脱ということへの警戒感は強いようです。その中で、ユーロも、1.3ドルを大きく割り込む動きとなっています≪資料6参照≫。ただ、そんなユーロドルと相関関係が続いているユーロ圏の中核である独1年金利は底堅い展開がこれまでのところ続いており、この独金利からすると、ユーロは下がり過ぎの可能性があります。
 では、なぜ独1年金利は底堅い展開が続いているかといえば、それはECBが今のところ追加緩和、第3次利下げに否定的な方針を示しているからでしょう。それにしても、ギリシャのユーロ離脱の可能性がある中で、ECBが第3次利下げを否定する強気の姿勢を今後も続けられるのでしょうか。
 
≪資料6≫

 
 ただ、最近のギリシャ不安再燃でも、今年1月まで欧州債務危機が広がった頃と比べていくつか違いがあります。その一つは、銀行の信用リスク悪化ということです。≪資料7≫は、TEDスプレッドという指標ですが、銀行の資金調達コストの目安になるものですが、今年1月まで急拡大したのが、最近は比較的安定した状況が続いています。
 
≪資料7≫

 
 TEDスプレッドは、銀行間の取引金利が上昇することで拡大するわけですが、今年1月にかけて、欧州債務危機が拡大すると、TEDスプレッド拡大により、銀行の米ドル資金調達コスト悪化が起こっていたのが、最近はそうなっていないようです。これはやはり、ECBの3年物オペに象徴される流動性対策の効果が大きいということではないでしょうか。
 そもそも、キリシャのユーロ離脱の可能性についても、私は懐疑的です。≪資料8≫は、ギリシャの各政党のユーロ離脱への姿勢をまとめたものですが、じつはユーロ離脱を強く主張しているのは共産党だけであり、総選挙での得票率は8%に過ぎません。たった8%の「民意」であるユーロ離脱が実現する可能性はまだ微妙ではないでしょうか。
 
≪資料8≫

 
2.米金利上昇再開で始まる8月87円目指す「円安2幕」
 
 以上のように見てくると、私は、欧州債務危機を受けた米金利低下がさらに続くかは微妙ではないかと思います。それでなくとも、≪資料9≫のように、すでに米10年金利は、先週までに8週連続の低下となりました。「100年に一度の危機」と呼ばれた中でも、米金利低下の連続記録は2008年12月にかけて7週連続で終わったことを考えると、連続的な米金利低下はいつ終わってもおかしくない段階に入っているのではないでしょうか≪資料10参照≫。
 
≪資料9≫
 

出所:BloombergよりMarket Editors作成
 
≪資料10≫
 
 
出所:BloombergよりMarket Editors作成
 
 ところで、≪資料10≫のように、金融危機真っ盛りの中でも、2008年12月にかけての米金利低下が7週連続で一巡した後は、米金利は比較的大きな上昇へ向かいました。米10年金利は、1ヶ月で0.5%、3ヶ月で1%の上昇となったのです。では今回はどうでしょうか?
FRBは現在、長期金利の低位安定を目指して長期国債を購入するツイストオペを続けていますが、FEDウォッチャーの間では、それが6月末で期限を迎えると、長期国債購入を止めるとの見方が有力なようです。米景気が比較的回復を続けており、米長期金利も歴史的低水準にあるためです。
 
 
 実際に、FRBが米国債購入を終了したら、何が起こるでしょうか。≪資料11≫は、代表的な米景気指標であるISM製造業景況指数と米長期金利からインフレ率を引いた実質長期金利のグラフを重ねたものですが、これを見ると、最近にかけての米金利低下は景気での説明範囲を超えた動きの可能性があります。
 
≪資料11≫

 
 そんな景気で説明できないといった意味で「異常な米金利低下」が、FRBの米国債購入や、ゼロ金利を2014年末まで続けるといった異例の方針の影響がどれだけあるのかわかりませんが、実際に米国債購入を止めるなら、それが試されることになるでしょう。
 本当にFRBが米国債購入を止めるかは、米景気の動向や、ギリシャのユーロ離脱などの影響次第ではあるわけですが、私はこれまで見てきたように、それらの影響を凌いで、FRBが米国債購入を止める可能性はあると思っています。
 それによって、米金利が上昇を再開するなら、最初にも述べたように、この数ヶ月のドル円は、米金利次第の構図になっているので、ドル高・円安の再開につながる可能性があると思います。
 私は、そもそも3月にかけて84円までドル高・円安になった動きは、52週線を大きくドルが上回ったことが一つの特徴で、それは経験的には一時的ではなく、新たなドル高・円安トレンドが始まっている可能性が高いと考えてきました。
 ところで、今回と同じように、ドル高へのトレンド転換で52週線をドルが完全に上回ってきた動きは、2000年と2005年があったわけですが、ともに、52週線をドルが越えてから半年間で10%程度の上昇となりました≪資料12参照≫。
 
≪資料12≫
 

出所:BloombergよりMarket Editors作成
 
 今回、ドルは2月に79円程度を推移していた52週線を越えて最近に至っているので、それが半年で10%のドル高・円安に向かっているなら、8月87円を目指す計算になります。3月84円までのドル高・円安が第一幕なら、夏から秋にかけて90円前後を目指す、そんな円安第二幕のスタートが徐々に近付きつつあるのではないかと私は考えています。(了)
 

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