今週はこう動く! マーケット羅針盤

2011/08/17 14:17ドル円の「74円説」を検証する

日銀の白川総裁は、日米の2年債利回り差とドル円は一定の相関性があるといった趣旨の発言を最近行いました。その2年債利回り差からすると、ドル円は74円程度までドル安・円高になる可能性が示唆されていますが、ではこれは正しいのでしょうか?
 
◆2年債利回りが示唆する74円は正しいのか
8月16日現在で、米2年債利回りは0.2%を下回って推移しています。では、まずこの2年債利回りが「行き過ぎ」ではないかについて考えてみたいと思います。
 
2年債利回りが「行き過ぎ」かを考える一般的な方法の一つに、10年債利回りとの差を見るというものがあります。現在の両者の差は2%程度(2年債:0.1866%、10年債:2.2284%)です。FRB(米連邦準備制度理事会)が2008年12月に実質ゼロ金利政策を採用して以降の2年債と10年債の利回り差は2-2.5%が中心(「資料1参照)ですから、10年債利回りとの関係で見るかぎり、0.2%を下回っている2年債利回りもおかしくはないと思います。
 
わかりやすい言い方をすると、10年債利回りが3%程度の時に、2年債利回りが最近のように0.2%を下回っているということは、金利差から考えてありえない、つまり2年債利回り低下は「異常」の可能性があるわけですが、最近の状況はそうではないということです。
 
<資料1>

では、そもそも10年債利回りが2%台前半で推移しているのはおかしくないのでしょうか。現在の米国のインフレ率は1.6%まで上昇しているので、10年債利回りからインフレ率を引いた実質金利は1%を大きく割り込んでいます(「資料2参照)。
 
このように、実質金利が1%を割り込んだのは、最近では2008年後半から2009年前半にかけての局面、つまり「100年に一度の危機」以来のことになります。つまりは、実質金利が1%を下回っている最近の状況は、リセッションを織り込んだ水準まで金利が下がっているということになるわけです。
 
<資料2>

◆リセッション金利と景気指標の「凄まじいかい離」
では、現在はリセッションなのでしょうか。これを考える一般的な方法は、景気指標との比較です。上述の「100年に一度の危機」で、米雇用者数(NFP)はどのように推移していたかというと、月50-70万人ペースでの大幅減となっていました。企業の景況感を示すISM(米供給管理協会)製造業景況指数は、好況と不況の境目とされる50を大きく下回り、40以下での推移となっていました。
 
では最近はどうかというと、この数ヶ月失望が続いたとはいえ、NFPは増加が続いています。ISM指数も50を上回った状況が続いています。NFPも、ISM指数も、これから悪化するかもしれませんが、上述の「100年に一度の危機」当時の結果とはまだまだかけ離れた状況にあります。
 
にもかかわらず、上述のように実質金利は「100年に一度の危機」の水準まで低下し、リセッションを織り込んだ動きになっているのです。景気指標と実質金利のギャップは、ある意味で凄まじいほど大きくなっているのを示しているのが「資料2でもあるわけです。
 
さて、これまでのお話を逆に戻ってみましょう。景気指標からすると、とてもリセッションとはいえない状況なのに、リセッションを織り込むほど下がった1%以下の実質金利は下がり過ぎの可能性といえるでしょう。
 
インフレ率が1.6%台まで上昇している中で、実質金利が1%以上になるということは、10年債利回りは2.6%以上という計算になります。10年債利回りが2.6%以上の水準にある場合、2年債利回りが最近のように0.2%を下回っているのは、2年債と10年債の利回り差の関係からすると難しいと思います。
 
そうであれば、0.2%以下の2年債利回りが示唆するドル円74円の見通しも変わってくるということではないでしょうか。
 
◆理論的水準と相場の違いを点検する方法は沢山ある
相場は、日々のイベントや指標結果などに一喜一憂する中で、時として大きく行き過ぎたり、理論的水準とのかい離が拡大することも少なくありません。今回見たような、リセッション、さすがに「100年に一度の危機」局面には程遠い状況にもかかわらず、その再来を織り込んだ水準まで金利が低下しているというのは、それに近い構図ではないでしょうか。
 
そんな行き過ぎや、理論的水準とのかい離を点検する一般的な方法を今回いくつかご紹介しました。ドル円は、日米2年債利回り差との関係で点検する。その2年債利回りは、10年債利回りとの差で点検する。そして、10年債利回りは、景気指標との関係で点検する。

相場は理論的水準に近い時もあれば、かい離することもあるのですが、それを点検して確認する方法が沢山あるということを知れば、とても落ち着くし、面白くなると思います。 (了)


 

※当レポートは、情報提供を目的としたものであり、特定の商品の推奨あるいは特定の取引の勧誘を目的としたものではありません。

※当レポートに記載する相場見通しや売買戦略は、ファンダメンタルズ分析やテクニカル分析などを用いた執筆者個人の判断に基づくものであり、予告なく変更になる場合があります。また、相場の行方を保証するものではありません。お取引はご自身で判断いただきますようお願いいたします。

※当レポートのデータ情報等は信頼できると思われる各種情報源から入手したものですが、当社はその正確性・安全性等を保証するものではありません。

※相場の状況により、当社のレートとレポート内のレートが異なる場合があります。

バックナンバー

  • 2019.01.21 更新今週の注目通貨(米ドル/円)◆要約◆・米ドル/円は最近の108円台のもみ合いを抜け、先週末にかけ110円に接近した。後押ししたのは、米株一段高によるリスクオン。・この米株一段高は、下がり過…
  • 2019.01.15 更新今週の注目通貨(米ドル/円)◆要約◆・米ドル/円は2015年8月チャイナ・ショック後の展開とこれまでのところ似ている。似た動きがこの先も続くなら、しばらく108-111円中心のもみ合いの可…
  • 2019.01.07 更新2019年の米ドル/円を予想する◆要約◆・米ドル/円は、2018年10月114円から米ドル安・円高トレンドに転換した可能性。きっかけは、9年間の米株高が終わり、株安へ転換したこと。・リスクオフ…
  • 2018.12.25 更新今週の注目(リスクオフの通貨選択)◆要約◆・リスクオフでは米ドル/円もクロス円もドルストレートも全て基本的には下落しやすいので、売りに適性のある通貨ペアを探す必要がある。・売りに適性のあるのは割…
  • 2018.12.17 更新今週の注目通貨(米ドル/円)◆要約◆・米ドル/円はこのまま小動きが続くと、値幅が2カ月連続の2円未満、年間値幅も10円を下回るといった具合に記録的な小動きにとどまる見通し。・19日のFOM…

「今週はこう動く! マーケット羅針盤」過去記事のタイトル一覧(月別)はこちら。

そのほかのマーケット情報

ページトップへ