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原油市場のレビューと展望

2022/08/05 20:33

WTI原油先物・日足・単純移動平均 5・10・20 一目均衡表 MACD
期間:2022/03/28~2022/08/01

WTI原油先物(日足)
チャート(時事通信社データより作成)

原油市況 ~中央銀行の利上げ観測から景気後退懸念が意識され、95ドル割れまで急落した後、足元の供給懸念と、景気後退からの需要減少懸念で上げ下げを繰り返した。一旦は104ドル台へと上昇するも再び93ドル割れと値を沈ませる展開となった。~

ロシアのガスプロムの不可抗力条項の宣言やFRBの1.0%の利上げ観測の後退などから104ドル台まで回復したWTIであったが、米ガソリン在庫が増加したことや欧州向け天然ガスの供給が予定通りに再開したことなどから供給懸念が和らいだことと、ECBが0.50%の利上げで合意し景気見通しに不透明感が強まったこと、さらには7月のフィラデルフィア連銀製造業景気指数が弱かったことから再び95ドル割れまで急落する展開となった。その後は再びロシアからドイツへのガスの供給量が減少されるという見通しや、FRBが秋以降から利上げペースを緩めるとの思惑からドル安に振れたこと、EIA週報で原油やガソリン在庫が大幅な取り崩しとなったことなどから支えられた。一方、米4-6月期GDP速報値が前期比年率で-0.9%となったことで景気後退入りが意識され売られるなど、強弱が混在する展開となった。しかし7月の月末には、OPECプラスの6月の産油量が当初の計画を日量284万バレル下回ったことや、米石油メジャーの四半期決算が過去最高となったことなどから一時高値で102ドルに迫るまでの上昇となった。その後は米国、欧州の経済指標の悪化から景気後退懸念が台頭して一時安値で92.42ドルと93ドルを割れるレベルまで売られることとなった。

7月20日、EIAの週報でガソリン消費は前週比・日量45万9000バレル増の日量852万1000バレルとなった。石油製品全体の需要は日量2102万5000バレルと、3月以来の高水準となった。一方、米ガソリン在庫が350万バレル増加した。
7月21日、欧州向け天然ガス供給が予定通りに再開した。また、ECBが0.50%の利上げで合意し、景気見通しに不透明感が強まったことから大幅安となった。
7月25日ロシアからドイツへ天然ガスを供給するノルドストリーム1の供給量が減少する通しであることから、供給逼迫が意識される格好となった。
7月26日、米政府が、3月に発表した1億8,000万バレルのSPR放出の一環として2,000万バレルを放出すると発表したことが重しとなった。
7月27日、FOMCで0.75%の利上げが決定され、 その後の会見でパウエル議長が、今後の指標次第で利上げペースを減速させることが適切と述べ、ドル安に振れたことが相場を押し上げた。またEIA週報で原油やガソリン在庫が大幅な取り崩しとなったことも支援要因となった。
7月28日、米4-6月期GDP速報値が前期比年率で-0.9%となったことで景気後退入りしたことが圧迫要因となった。
7月29日、OPECプラスの6月の産油量が、当初の計画を日量284万バレル下回った。一部の国に対する制裁措置などが影響したとみられている。このことから上昇。
8月1日、7月のユーロ圏製造業購買担当者景気指数確報値は49.8まで上方修正されたものの、景気判断の分岐点である50を下回った。7月の米ISM製造業景気指数は52.8まで低下した。大幅な下落となった。


今後の展望 ~リセッション入りが意識されて再び95ドルを割れる展開となっており、今後も景気後退懸念による下値への警戒が必要であろう。しかし、足元では依然ロシアからのエネルギー供給が不透明な状況が続いており、目先の下値は限定的だと考えられる。前回安値の90ドルで反転できるかがポイントとなろう。~

中国の国内需要の低迷など、需要の減少が警戒されているものの、ロシアが欧州へのガスの供給に対して不可抗力条項を宣言したり、ドイツへの供給を行っているノルドストリームの供給量を削減したりするなど、欧州においてのエネルギーの供給が不透明となっている。

また、G7によるロシア産原油の国際的な価格上限の導入やロシア産原油を輸送する船舶への保険提供禁止措置の発効など、対ロシア制裁の動きも進行中である。さらにはこの動きに対して、ロシアのノバク副首相は、ロシア産石油価格に設定される上限が生産コストを下回れば、ロシアは世界市場に原油を供給しないという認識を示し、西側諸国に警告を発している。引き続き不安定な供給事情に注意が必要であろう。

一方、高インフレに対応する中央銀行の利上げの影響で、景気後退懸念、原油需要の落ち込みが意識され、下値を模索する展開が続いているため、下落への警戒が必要である。前回の安値となる90ドルで切り返しが出来るかが目先のポイントとなろう。下値を確認したあとは再び105ドルを目指す展開もありうるか。


今後注目の動き

生産国、消費国の動き

・米国
米エネルギーサービス企業、ベーカー・ヒューズの週間データによると、米国内の石油・天然ガス掘削リグ稼働数は4週連続で増加し、月間では24カ月連続の増加となった。前週から9基増の767基となり、2020年3月以来の水準になった。石油リグ稼働数は6基増の605基で、20年3月以降で最高。ガスリグ稼働数も2基増えた。月間で石油・ガスリグ稼働数は14基増加したが、昨年9月以来で最小の伸びとなった。
米経済は、形式上は「リセッション(景気後退)」とみなされていて、米経済を支える個人消費が減速し、住宅投資や設備投資は減少した。米景気悪化で先行きの原油需要が伸び悩むとの見方が広がっている。

・EU
G7は先月、一定価格以上で売却されたロシア産石油の輸送禁止を検討することで合意した。
G7外相は今月の声明で、ロシアがエネルギー価格の高騰から利益を得るのを防ぐために、あらゆる選択肢を検討していると表明した。設定した価格かそれ以下で購入されていない場合は輸送を阻止する措置なども含まれるという。
アデエモ米財務副長官は、ロシア産原油の国際的な価格上限が12月までに導入されることを望むと表明した。

・ロシア
ロシアのノバク副首相は、ロシア産石油価格に設定される上限が生産コストを下回れば、ロシアは世界市場に原油を供給しないという認識を示した。

・OPECプラス
OPECプラスは8月3日の会合で9月の生産水準を現状維持とする方向で検討するが、小幅の増産も議論されるもよう。サウジアラビアは、増産を働きかける見通しととも伝えられている。また、米政府当局者はOPECプラスが8月3日に開く次回会合で、何らかの前向きな発表がある可能があると米政府は楽観視していると述べている。
8月の生産目標の引き上げで、コロナショック後に始まった過去最大規模の減産の巻き戻しが形式的に完了する。
OPECのハイサム・アルガイス事務局長は、OPECが生産協定を結ぶ上でロシアの参加は不可欠だとの見方を示した。同氏は「最近の原油価格上昇はロシアとウクライナの戦争だけに起因するわけではないと強調する姿勢は変えない」と発言。市場に増産余力が不足しているとの認識が広がったためだと指摘し、実際増産余力を持つ国はごく少数に限定されていると付け加えた。
サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコは、代表油種アラブ・ライト原油の9月のアジア向け公式販売価格を前月より1バレル当たり0.70~1.00ドル引き上げると予想されている。値上げは3カ月連続となる。予想通りであれば、指標となるオマーン・ドバイ産原油の平均価格に対する上乗せ幅は、5月に記録した過去最高の1バレル当たり9.35ドルを超える。サウジアラムコは、OPECプラス会合後に原油のOSPを公表するとみられる。

・中国
7月の中国製造業PMI50.4前月の51.7から低下し、市場予想の51.5を下回った。ロックダウン(都市封鎖)からの回復が、予想されていたほど前向きでない可能性を示唆し、原油市場の需要見通しが悪化している。

・アフリカ諸国
ナミビア、南アフリカ、ウガンダ、ケニア、モザンビーク、タンザニアなどで今後数年間に数十億ドルの開発投資が行われる可能性がある。試算によると、最も有望な国とされるナミビアは、この数カ月に試掘井で良好な結果が出ており、同国だけで日量50万バレル前後の石油生産が新たに可能になる可能性があるとされている。


CFTC建玉明細 

CFTC建玉明細 

CFTC建玉明細
出所:CFTC(米商品先物取引委員会)

CFTC建玉明細(7/26現在)
ファンド玉は、259,260枚の買い越し(先週比  -11,831枚)
買い越しは、4週連続減少。
当業者玉は、 283,489枚の売り越し(先週比  -10,200枚)
売り越しは、先週増加、今週減少。
総取組は、7週連続減少。


コーヒーブレイク
天然ガス価格高騰の影響と国内電力価格

ロシアの欧州向け天然ガスの供給が問題となっている。ロシアの国営エネルギー企業ガスプロムが、契約先の欧州の複数企業に対し「不可抗力により供給を保証できない」と通告したと報じられた。ロシアとドイツをつなぐ天然ガスの主要パイプラインが定期検査で供給が一時停止され、検査終了後も供給が再開されない、または大幅に供給量を削減する可能性が取り沙汰されている。しかし、一方でEUでは対ロシアへの制裁の一環としてロシア産原油の禁輸や上限価格の設定などが議論されているが、同時に将来的にはロシア産ガスの輸入削減も取り上げられてきた。

現在、原油価格はウクライナ侵攻以前の水準まで下落しているにもかかわらず、欧州の天然ガス価格は依然高値圏で推移している。その指標となるのはオランダのTTF価格である。そしてそのTTF価格に連動する形で、日本向けを含めた北東アジアのLNGスポット価格の指標であるJKMもTTF高騰の煽りを受け高値圏での推移となっている。

欧州はロシア産の天然ガス依存を減らすために他地域からのLNG輸入を増加させていることがその大きな要因である。米国からもかなりの量のLNGが欧州に輸出されているが、それでも、不足する部分は中東やアジアからも欧州へと輸出されている

よりTTFとの連動性が高まった北東アジアのスポット指標であるJKMの直近の値動きは以下のようになっている。

スポットLNG価格JKMは、27日には欧州での供給不安とアジア市場でのスポットカーゴの入手難を背景に上昇し52ドルとなったが28日には欧州ガス価格下落に伴い43ドルに下落した。29日は冬季需要に向け、取引活動が活発化したことにより上昇し46ドルとなった。欧州ガス価格TTFは、前週末の47.2ドルから、27日以降に想定されたGazpromによる更なるノルドストリームへのロシアガス供給削減を前に市場で供給不安が拡がり上昇し、27日に61.3ドルとなった。翌28日には価格の方向性を見極めるために市場参加者が静観し58.9ドルに下落、29日には57.1ドルとなった。【JOGMEC】

天然ガス・LNG価格推移
【出所; JOGMEC】

他方で、国内の電力事情に目を転じると、猛暑の影響もあり国内の電力需要は伸びており、12年ぶりの高水準となっている。太陽光発電もその供給を担うが、太陽光発電の発電量が減る夕方にかけては火力発電に頼らざるをえない状況である。そんな中、大手電力10社の2022年4~6月期決算では。東京電力ホールディングスや関西電力など7社が最終赤字となっている。火力発電に使う燃料費の高騰が収まらず、燃料費の上昇分を料金に転嫁できる制度の上限を超えたことによる影響である。燃料費調整制度で転嫁できるのは各社が設定する基準価格の1.5倍までとなっていて、東京電力の一般的な基準価格は以下の例に近いものである。

東京電力の価格表
【出所;東京電力エナジーパートナーHP】

国内のLNG輸入価格は原油連動による長期契約がかなりの比率を占めるものの、燃料不足で追加調達するLNGはそのスポット価格の指標であるJKMに連動する場合が多いのだが、上記のような直近のJKMの変動、例えば27日の52ドルでの調達価格を燃料費として発電を行った場合には固定費を除いたコストだけでも45.8円/kWhになる。この状況で、燃料費の変動が電力価格に反映されるのは3から5ヶ月後となっていることを踏まえると、今後益々電力価格が上がっていく事になる。

今後、電力会社は値上げや上限の撤廃に動くといわれており、欧州の天然ガス価格の動向が意外と私たちの日々の暮らしにも直接的に影響をあたえることとなることが実感できるのではないだろうか。



■筆者プロフィール
原 悠(はら はるか)

2000年より原油及び石油製品全般のトレードに携わる。 
ファンダメンタルズをベースに市況を分析していく。


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原悠

執筆者プロフィール

原悠(ハラハルカ)

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