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2014年09月日銀の物価目標達成に黄信号も!? 追加緩和に踏み切るか

日本銀行(以下、日銀)は、2013年1月22日に「物価安定の目標」を導入、具体的には消費者物価の前年比+2%としました。そして、今年4月の「経済・ 物価情勢の展望(展望レポート)」では、「暫くの間、1%台前半で推移したあと、本年度後半から再び上昇傾向をたどり、見通し期間(2014年度から 2016年度)の中盤頃に2%程度に達する可能性が高い」とし、さらに7月の中間評価で「概ね見通しに沿って推移すると見込まれる」とフォローアップしました。

 

7月の消費者物価は、生鮮食品を除く「コア」の前年比が+3.3%でした。日銀は消費税率引き上げ(5→8%)の影響分を2%と試算しているので、それを除いた前年比は+1.3%でした。まさしく、展望レポートの言う「1%台前半」です。

ただし、物価が全般に上昇しているというよりは、バラツキがあるようです。例えば、電気代やガソリンなどのエネルギーは7月に前年比+8.8%、食料は 同+4.5%でした。一方で、消費者物価のうち、食料とエネルギーを除く、いわゆる「コアコア」は同+2.3%でした。日銀によれば、消費税率引き上げ分は+1.7%なので、それを除いた「コアコア」は同+0.6%にとどまります。

 

 

日銀が「物価安定の目標」を導入した直後まで、消費者物価は前年比マイナスでした。したがって、「物価目標」の導入と、その達成のために黒田総裁主導で同年 4月に始まった「量的・質的金融緩和」によって、日本経済はデフレから脱却し、「物価安定」に向けて前進しているようにみえます。ただし、今後、以下の3つの点から目標達成に向けて黄信号が点灯する可能性はありそうです。

 

第1に、アベノミクスの下で示現した円安が、輸入インフレを通じて直接的に国内物価を押し上げる効果はほぼ一巡した可能性があります。円実効レートの前年比は昨年1年間に大きく下落し、それに呼応するように輸入物価は大きく上昇しました。しかし、円の実効レートの下落率は今年に入って縮小しています。円相場が現行の水準からあまり下落しないのであれば、輸入物価がさらに押し上げられることもなさそうです。

 

 

第2に、輸入インフレとも関係しますが、エネルギーの物価押し上げ効果はピークアウトした可能性があります。原油価格(WTI先物価格・円建て)は昨年夏に前年比+40%を超えていましたが、徐々に縮小して足もとでほぼゼロになっています。このまま原油価格が横ばいで推移すれば、これにやや遅れて追随する傾 向がみられる消費者物価の「エネルギー」も伸び率は鈍化しそうです。

 

 

日銀が目標としている消費者物価にはエネルギーが含まれます。これまではエネルギーが全体を押し上げる役割を果たしてきましたが、今後は逆に押し下げることになるかもしれません。

 

第3に、国内の需要と供給のバランスが緩む可能性があります。供給余力が大きくなるようであれば、物価に下押し圧力が加わるかもしれません。これが最も重要なポイントでしょう。円安や原油高による物価上昇は「コストプッシュ」型であり、企業収益や家計所得にとってあまり望ましい状況ではありません。同じ物価 上昇であっても、需要が増えることによる「ディマンドプル」型の方が望ましいと言えるでしょう。

 

日 銀の試算によると、今年1-3月期に需給ギャップ、需要(実現したGDP)と供給能力(潜在GDP)の差はリーマン・ショック後、初めてプラス(需要>供給能力)になりました。1-3月期の実質GDPが前期比年率+6.1%と、消費税率引き上げ前の駆け込みに助けられて大きく伸びたことが寄与しました。

 

しかし、4-6月期の実質GDPが反動で前期比年率-7.1%と大きく落ち込んだため、筆者の想定によると需給ギャップは再びマイナスに戻った公算が大きそうです。7-9月期に同+3.0%の成長を達成してもマイナスは続きそうです(下図参照)。需給ギャップの計測には様々なものがあり、幅を持ってみるべきでしょうが、需給ギャップの縮小(逆転)が一服した可能性があることは物価にとって良い材料ではないでしょう。

 

 

日銀が物価目標の達成を見込んでいるのは、「見通し期間の中盤頃」なので、2015年の夏または秋ごろで、今から約1年後です。目標達成の可否は、内外の経済情勢、為替動向など、今後の状況次第ですが、日銀は物価が目標を下回る可能性を感じているかもしれません。日銀は10月31日に公表する新たな展望レポートで経済・物価の見通しを下方修正するのでしょうか。下方修正するようであれば、それなりの対応、つまり追加の金融緩和とセットになるはずです。黒田日銀総裁は、見解や政策を変えることに「躊躇しない」とみられます。

 

(市場調査室)

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