今月の特集

2014年07月2014年後半の為替相場予想。1ドル=105円を超える条件とは?

2014年前半のレビュー:高金利通貨選好

今年前半に上昇が目立った通貨は、NZドルや豪ドルといった、いわゆる高金利通貨でした。ドル円などのインプライド・ボラティリティ(予想変動率)が、少なくとも1996年以降の最低を更新するなど、市場がこう着状態に陥るなか、金利差、FXでいうところの「スワップ」の重みが相対的に増して、高金利通貨が選好されたのでしょう。年内の利上げ観測が浮上した英ポンドも比較的堅調でした。

一方で、ドルは軟調でした。米景気が盛り上がりを欠くなかでイエレンFRB議長が金融緩和長期化の意向を鮮明にし、長期金利(10年物国債利回り)が年初から低下したためです。そして、黒田総裁が2%の物価目標達成に自信を深め、日銀の追加緩和期待が後退したことも、ドルの助けにはなりませんでした。

デフレ懸念からECBが追加緩和に踏み切ったユーロや、プラチナ鉱山でのストライキの影響で一時マイナス成長に陥った南アランドなども軟調でした。

2014年後半の見通し:
金融政策の方向性の違いを反映。鍵を握る米長期金利!?

足もとの「低ボラティリティ」相場は、いつまでも続くわけではないでしょう。今年後半にボラティリティが高まれば、為替相場にも流れが出そうです。そうしたなかで、日米欧を軸とした金融政策の方向性の違いが、改めて相場に反映されるのではないでしょうか。

具体的には、年内のQE(資産購入)終了がほぼ確実視され、2015年半ばごろの利上げ開始が現実味を帯びる(あるいは前倒し観測が高まる可能性のある)ドルが選好され、一方で追加緩和観測が根強いユーロや円が下落圧力を受けやすいというものです。

一つの鍵を握るのは、米長期金利でしょう。米長期金利は景気や金融政策に関する市場予想を織り込んでいち早く動く傾向があるため、その米長期金利が上昇しないようでは、なかなかドルがサポートされないからです。

米長期金利は以下の理由から、今後上昇基調に転じる可能性があります。

今年1-3月の実質GDP成長率は大幅なマイナス(前期比年率-2.9%)でしたが、4-6月期以降は景気の改善が確認されそうです。6月の非農業部門雇用者数(NFP)は上振れし、失業率はリーマンショック前の水準まで低下しました。「労働市場の改善は不十分」とのイエレン議長の判断もいずれ修正を迫られるかもしれません。物価は底打ち傾向が鮮明となっており、FRBの目標である2%に接近しています。

テーパリング(QEの縮小)の効果は、財政赤字の縮小(=国債発行額の減少)によって相殺されてきましたが、今後は明確な国債需給悪化(金利上昇)要因になりそうです。

米長期金利の上昇によって相場ボラティリティが高まるとすれば、ドル相場にとってプラスでしょう。その場合、クロス円のパフォーマンスはドル円を下回るかもしれません。ただ、NZドルや英ポンドなどは、それぞれの利上げ観測が下支えになりそうです。

 ユーロ圏では、ECBが追加緩和に踏み切る可能性があります。とりわけ、準備を進めているABS(資産担保証券)購入が実施されれば、ユーロに下押し圧力が加わりそうです。11月からECBが域内の主要銀行を一元管理するため、それを前に銀行のストレステストが実施されています(厳しい経済環境下でも銀行が十分な資本を維持できるかをシミュレーションするもの)。一部の銀行の資本不足が指摘されるなど金融不安が台頭すれば、一段のユーロ安要因となりそうです。

一方、日銀の追加緩和期待は次第に後退してきました。ただし、黒田総裁は「必要であれば躊躇しない」との姿勢を崩していません。年内に予定される消費税再引き上げの判断を前に、例えば10月の「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」発表のタイミングで、追加緩和が実施される可能性は否定できないでしょう。

GPIFの運用見直しは氷山の一角? 日本の対外証券投資が増えるか

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用見直しは円安要因と考えられます。運用資産は約130兆円あり、外債と外株の運用比率を計10%引き上げると仮定すれば、13兆円の円売り需要が発生します。これは日本の2013年の貿易赤字額に匹敵する規模です。

もっとも、重要なのはGPIFの運用見直しが運用成績の向上を狙いとしていることかもしれません。GPIFだけでなく、多くの金融機関が同様の問題を抱えており、リスク資産、とりわけ外貨資産の比率引き上げを検討しているようです。日本からの対外証券投資が為替ヘッジのないベースで顕著に増加するようになれば、円安に拍車がかかりそうです。

1ドル=105円を超える条件とは?

ドル円と日米長期金利差には強い相関があります。2012年以降の週次データを用いると、

「ドル円」=67.25円+「日米金利差」×16.94円 (相関係数0.88、決定係数0.77)

の関係式を導くことができます。2012年以降の相関関係が今後も続くと仮定して、下左表の日米長期金利差を、上記関係式に代入して算出したドル円相場のマトリクスは下右表になります。例えば、米長期金利3.00%、日本長期金利0.75%の組み合わせの時に、ドル円は105円超と試算できます。実は、これは今年初にドル円が105円を超えていた時の実際の日米長期金利とほぼ同じ水準です。

下の2つの表から、日米長期金利差が3%まで拡大するようであれば、120円が視野に入ることになります。逆に、米株が暴落するなどして、米長期金利が2%まで低下し、日本長期金利が小幅低下するケースでは、95円程度までの円高が想定されます(表中にグレーで示した「可能性が高いと思われる組み合わせ」は、2014年の日米の長期金利の関係式を基に設定しています)。

潜在的リスクオフ要因にも注意は必要

上で述べてきたように、2014年後半は米長期金利の上昇によるドル高を中心に据えたシナリオを想定しています。ただし、金融市場が大きくリスクオフに傾くようなケースでは、一時的にせよドルが(とりわけ対円で)下落する可能性もあります。潜在的なリスク要因には以下のようなものがあります。

◆米国政治情勢

米国の11月の中間選挙で、共和党が現在の下院だけでなく、上院でも多数派となれば、オバマ大統領のレームダック化に拍車がかかるでしょう。政治の混迷はドルにとってマイナスとなりそうです。財政交渉の難航により、政府機関の閉鎖や米国債のデフォルト(債務不履行)が意識されれば、強いリスクオフになる可能性もあります。ただし、そのタイミングは2014年中ではなく、2015年に入ってからとみられます。

◆資源価格の高騰、コストプッシュ型インフレ

農産物価格やエネルギーなどの資源価格が高騰すれば、コストプッシュ型インフレによって各国経済は打撃を受けることになりそうです。とりわけ、新興国においては深刻な政情不安につながる可能性もあります。その場合、資源国通貨が素直に上昇するとは限らないでしょう。

エルニーニョによって豪州や米中西部の穀倉地帯、あるいは東南アジア等が干ばつに見舞われる、イスラム武装勢力がイラク南部の油田地帯を制圧するなどのケースが考えられます。

◆消費税再引き上げの断念、財政破たん懸念

日本で消費税再引き上げが見送られ、財政破たん懸念が強まれば、日本の長期金利は大幅に上昇するかもしれません。ただ、このケースでは日米金利差が縮小・逆転しても、円高にはつながらないでしょう。「悪い金利の上昇」であり、資金が国外へ流出する可能性が高いからです。

その他、高騰を続ける米株の行方や、上述した欧州の銀行ストレステストの結果、9月のスコットランドの独立を問う住民投票(英ポンド安要因?)などにも注意が必要かもしれません。

(市場調査室)

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