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2018年03月2018年3月:米長期金利の上昇をどう理解すべきか

 

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昨年9月以降、米国の長期金利(10年物国債利回り)の上昇傾向が続いている。とりわけ、今年に入ってからの上昇は顕著であり、2013年のごく短期間を除けば、2011年夏以来となる3%台も視野に入る状況だ(3月2日現在)。

以下では、米長期金利上昇の背景と今後について考察したい。

 

「良い金利上昇」

景気の堅調とインフレ期待の高まり

まず大前提は米景気の堅調が続いていることだ。企業の景況感や消費者信頼感は高水準を維持している。昨年夏に複数のハリケーンが米東海岸を襲ったこともあり、いったん景気にブレーキがかかるかにみえたが、景気は何事もなかったかのように拡大を続けている。昨年12月にトランプ大統領の肝いりの税制改革(減税)が成立したことも、景気の先行きに明るい材料を提供している。

そして、インフレ期待がようやく高まりつつある。1月の時間当たり賃金はリーマン・ショック直後以来の伸びを記録した。賃金は変動の大きい統計ながら、ベージュブック(地区連銀経済報告)などの状況証拠は賃金上昇率の加速を示唆している。

労働市場のひっ迫に加えて、原油や銅などの国際商品市況の上昇により、「いずれ」インフレ率が高まるとの見方が強まっているようだ。

インフレ率の高まりは、長期的には購買力平価の観点から通貨安要因だ。モノの値段が上がるということは、通貨の価値が下がるという意味でもある。

ただし、インフレ率の高まりが景気の強さを背景としており、また利上げ観測を高めるのであれば、短期的には通貨高要因になりうるだろう。

利上げ観測の高まり

景気が堅調でインフレ期待が高まれば、当然のように利上げ観測も高まる。昨年12月のFOMC(連邦公開市場委員会)で公表された見通しによれば、参加者の中心的な予想は18年も17年同様に利上げ3回というものだった。

ただし、2月に就任したばかりのパウエルFRB議長は議会証言で景気や物価見通しに自信をみせ、利上げペースを加速させる可能性にも言及した。

 

「悪い金利上昇」

米国債の需給悪化

長期金利の上昇は、国債価格の下落と同義であり、国債の需給バランスが悪化していることを示している。昨年までフラット化が顕著だったイールドカーブ(利回り曲線)は、今年に入って一時スティープ化した(*)。これは米国債に対する投資家の信認の低下を表わす、いわゆる「悪い金利上昇」が強まったことを意味している。今年に入って長期金利の上昇にもかかわらず、米ドルが軟調であることもその証左といえる。

(*)短期金利の上昇幅(低下幅)が長期金利の上昇幅(低下幅)を上回れば(下回れば)、イールドカーブはフラット(平坦)化し、その逆の場合にイールドカーブはスティープ(右上がりの傾きが急になること)化する。

財政規律の喪失(米国債の供給増加要因)

昨年12月にトランプ大統領の肝いりで成立した税制改革は、個人や法人の減税を含んでおり、中立のCBO(議会予算局)によれば、10年間で1.5兆ドルの財政赤字拡大要因とされた。

今年2月に発表されたトランプ大統領の予算教書によれば、インフラ投資や国防費などの増額により、今後10年間の財政赤字は総額7.1兆ドルに達するという。

現在、議会は2018年度の予算を審議中。間もなく2019年度の予算審議も始まる。ただ、シャットダウン(政府機関の一部閉鎖)を終わらせる交渉のなかで、議会は今後2年間に国防支出と国防以外の支出をともに増額することで既に合意している。

このように、政府や議会が財政赤字の拡大を容認するのであれば、財政規律の喪失が大いに懸念されるところだ。

誰が米国債を買ったか(米国債の需要)

FRBの資金循環表によれば(下表参照)、2013-14年の国債発行額のうち、半分以上をFRBが購入した。いうまでもなく、FRBがQE(量的緩和)を実施していたからだ。

2014年10月にQEが終了すると、代わって米国債を購入したのは主に投信や各種ファンドなどの米国内の投資家だった。短期金利は限りなくゼロに近く、「利回り」を求めて米国債への投資が増えたものとみられる。

2017年(9月まで)は、外国人が再び大幅な購入に転じた。このうちかなりの部分が中国によるものだった。17年は久々に人民元高が進行しており、中国当局が人民元売り米ドル買いで元高のスピードを調整していた可能性がある。

 

米長期金利はこれからどうなるか

長期金利の先行きが、今後の経済・物価情勢に依存することはいうまでもない。2月の議会証言で、パウエルFRB議長は自然利子率(均衡金利)が上昇している可能性に言及した。そうであれば、利上げの着地点や長期金利の落ち着きどころは、金融当局や市場の従来の想定よりも上方にシフトしている可能性がある。

そして、米国債の需給要因にもますます注意する必要がありそうだ。

上述の予算教書によれば、2018年(厳密には年度)の米財政赤字は8,700億ドルへの拡大が予想されている。また、FRBは保有する米国債を2500億ドル程度減らす見通しだ。合わせて1.1兆ドルの米国債が市場に放出されるとの計算が成り立つ。これは2017年(見込み)の約2倍。それを外国人と米国内民間が購入することになりそうだ(上表参照)。

2018年に入ってからの米国債の購入状況に関するデータはまだほとんどない。米国債を大量に保有する中国や日本をはじめとした外国人が、米国債を積極的に購入するかどうかは定かではない。

今年1月には、「中国は米国債投資を見直す方向」との報道もあった。中国当局はこれを否定したものの、外貨準備に占める米ドル(≒米国債)のウェイトを下げるとしても不思議ではない。

また、日本の財務省統計に基づけば、今年1-2月の日本の対外債券投資は売却超過だった模様。国別の詳細は分からないが、日本の投資家が米国債だけは大量に購入しているということはないだろう。

一方、FRBの利上げによって国内のカネ余り(資金余剰)がタイトになれば、国内投資家が米国債に今まで通り資金を振り向けるかも同様に疑問である。

もちろん、米国債は、その安全性や流動性の高さを考えれば、必ず誰かが購入する。問題はどの価格水準(=金利水準)かという点だ。当たり前のことだが、人気がなければ価格は低下(=金利は上昇)する。

 

(チーフエコノミスト 西田明弘)

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