今月の特集

2017年11月米金融政策の仕組み、2018年の注目点

米国の金融政策の仕組み

2018年の注目点

 

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米国の金融政策の仕組み

米国の中央銀行

米国の中央銀行はFRB(Federal Reserve Board、連邦準備制度理事会)と呼ばれます。FRBはFed(フェド、あるいはフェッド)と呼ばれることもあります。FRBは、傘下に連邦準備銀行(Federal Reserve Banks、地区連銀とも呼びます)を擁しています。また、金融政策は、FRBの理事と各地区連銀の総裁が参加するFOMC(Federal Open Market Committee、連邦公開市場委員会)で決定されます。

FRB、連邦準備銀行、FOMCを総称して、連邦準備制度(FRS, Federal Reserve System)と呼び、これが金融政策を司る中央銀行制度です。ただ、慣例的には、「FRB」は理事会だけでなく、制度そのものを指すことが多いようです。

連邦準備制度理事会(正式名称はBoard of Governors of the Federal Reserve System)

ワシントンにある本部のことで、議長、副議長を含めて7人の理事がいます(他にも多数のスタッフを抱えています)。議長は大統領に指名され、議会上院の承認を受けて就任します。任期は4年間。副議長やその他の理事も同様です(ただし、理事の任期は14年間)。

連邦準備銀行(地区連銀)

FRBの傘下にあり、全米を12に分けた各地区を管轄します。12地区連銀のうち、ウォール街を管轄するニューヨーク連銀が金融政策に関して最も重要な役割を担います。

FOMC

FOMCは、ワシントンの7人の理事と12人の地区連銀総裁が参加して、金融政策を議論します。最終的には、7人の理事と、5人の地区連銀総裁の12票による多数決で金融政策が決定されます。投票権を持つ5人の地区連銀総裁は、常任のニューヨーク連銀総裁を除き、残り11人の総裁のうち4人が毎年の輪番制で決まります。

FOMCは年に8回、定例の会合があります。それ以外にも、金融危機の発生時など必要に応じて随時開催されます。

 

金融政策の仕組み

FRBは主に政策金利の引き上げや引き下げを通じて金融政策を運営します。FRBは、金融機関が短期資金をやり取りする市場(短期金融市場)で資金を出し入れすることで、そこで決まるFFレート(フェデラルファンド・レート)を一定水準に誘導します。政策金利とはFFレートの誘導目標のことで、簡便的にFFレートと呼びます。

各地区連銀が民間金融機関に資金を貸し出す際の金利が公定歩合で、かつては公定歩合が主要な政策手段でした。しかし、現在では公定歩合は副次的な役割にとどまっています。公定歩合の変更は、形式的に地区連銀が申請して理事会が承認する形を取りますが、現在では政策金利の変更に追随して変更されています。

金融政策手段には、短期金融市場で国債などを売買する公開市場操作の他に、上述の公定歩合操作や他にも支払準備率操作がありますが、ここでは説明を割愛します。

2008年に起こったリーマン・ショック後に、政策金利をゼロに引き下げてもなお金融緩和が必要になって採用されたのが、QE(量的緩和)などの非伝統的金融政策です。QEでは、国債や住宅ローン担保債券などの資産を大量に購入して、購入資金を市場に供給します。短期金利だけではなく、中長期金利を引き下げる目的もありました。

リーマン・ショック後に採られた、ゼロ金利やQEといった極端な金融政策を元に戻そうとするのが「正常化」であり、そのための手段は「出口戦略」と呼ばれます。

FRBはゼロ金利からの利上げを2015年12月に開始しました。QEは2014年10月に終了しましたが、QEで保有するに至った巨額の債券が金融緩和効果を持つとして、その規模縮小を2017年10月に始めました。現在、満期償還を迎える保有債券の再投資を段階的に縮小しています。

 

FRB議長の役割

FRB議長は中央銀行トップとして大きな影響力を持っています。「大統領に次ぐ権力者」と呼ばれることもあります。金融政策はFOMCでの多数決で決定されますが、議長が議論をリードし、議長の意にそぐわない決定が下されることはまずありません。事前調整が行われるとみられ、FOMCの票決で3名以上の反対者が出ることはほとんどありません。

議長は年2回、議会で経済や金融政策に関して証言を行います(旧ハンフリーホーキンズ証言)。その他にも、議会の公聴会での証言や講演を通して、金融政策に関するメッセージを送ることもあり、議長の発言は市場で注目されています。

 

ハトとタカ

FOMC参加者(議事録では、理事と総裁の全員が「参加者」、そのうち投票権を持つ人物が「メンバー」と定義されています)は、景気や雇用への配慮から利上げに慎重な(利下げに積極的な)「ハト派」と、物価抑制を重視して利上げに積極的な(利下げに慎重な)「タカ派」に分類されます。明確な区別はなく、あくまでも直近の発言内容などから、どちらの傾向が強いかが市場で判断されます。同じ人物であっても、局面によって異なる分類がされる場合もあります。

 

金融政策の予想

かつて、FRBは金融政策の変更を秘密裡に行っていました。そして、その変更を予想し、実際の変更にいち早く気付くのが、Fedウォッチャーと呼ばれる専門家の仕事でした。しかし、現在ではFRBを含む主要国の中央銀行は、「市場との対話」を重視して、政策意図を可能な限り伝達しようとしています。

それでも、金融政策の変更は、FRB自身も的確に予想することは不可能であり、Fedウォッチャーの仕事はなくなっていません。FOMCの声明や議事録、議長やその他のFOMC参加者の発言などは引き続き重要な判断材料になります。

FFレート(政策金利)先物やOIS(翌日物金利スワップ)などで、市場が織り込む金融政策変更の確率を確認することができます。

 

 

2018年の注目点

パウエル次期FRB議長の手腕

11月2日、トランプ大統領は次期FRB議長にパウエル理事を指名しました。議会上院が承認すれば、イエレン議長の後任として18年2月4日にパウエル議長が誕生します。

ジェローム・パウエル氏は、1953年生まれの64歳。大学卒業後にウォール街の投資銀行からキャリアをスタート。ブッシュ・シニア大統領の時に金融市場担当の財務次官。その後、投資ファンドのパートナー、ワシントンのシンクタンクの研究員などを経て、2012年5月にFRB理事に就任。以来、FOMC(連邦公開市場委員会)に参加して、金融政策決定のプロセスに関与してきました。

パウエル理事は、過去のFOMCで反対票を投じたことは一度もありません。これまでの発言などから、イエレン議長らと同様、利上げに対して慎重な「ハト派」とみなされてきました。

もっとも、パウエル理事の専門は、連邦政府や州政府の財政、金融制度などであり、いわゆるエコノミストとしてのバックグラウンドはありません。トランプ大統領がパウエル理事を選んだのも、金融政策のスタンスよりも、リーマン・ショック後に厳格化された金融規制の緩和を支持している姿勢が評価されたからかもしれません。

そのため、パウエル理事はFOMCでの議論をリードするというよりも、参加メンバーによるコンセンサスの形成を重視するかもしれません。最近の講演でも「経済情勢が予想通りに展開するなら、金融政策の正常化を継続すべき」と発言しています。これは、最近のFOMC声明文に沿った発言であり、基本的にイエレン路線の継承を示唆しています。

 

金融政策の正常化と課題

「金融政策の正常化」とは、リーマン・ショック後の極端な金融緩和策を元に戻すことを指します。具体的には、政策金利をゼロから徐々に引き上げることや、QE(量的緩和)によって購入し、現在も大量に保有している国債や住宅ローン担保証券などの債券を削減すること(いわゆるバランスシートの縮小)を指します。

幸いなことに、FRBはイエレン議長の下で既に金融政策の正常化を始めています。2015年12月に利上げを開始し、既に計4度の利上げを実施しました。また、保有する債券の残高を今年10月以降、減らしています(債券の売却はせず、満期償還分の再投資を段階的に減額していきます)。

そのため、パウエル新議長が直ちに難しい判断を迫られることはないかもしれません。それでも、金融政策はオートパイロット(自動操縦)ではありません。パウエル新議長が直面しそうな課題は以下の通りです。

FOMCのパワーバランス

まず、FOMCのパワーバランス。現在、7人の理事のうち3つが空席です。そのうち1つは10月に辞任したフィッシャー副議長分。イエレン議長が理事職(任期は2024年1月まで)も辞すならば、空席は4つになります。それら空席にトランプ政権がどういった人物を指名するか。また、ウォール街を管轄する、したがって金融市場で重要な役割を担うニューヨーク連銀のダドリー総裁が来年半ばで交代します。パウエル新議長がFOMCの新しいメンバーを上手くまとめていけるかどうか。

正常化をどこまで進めるべきか

より重要なのは、金融政策の正常化をどこまで進めるべきか、という点でしょう。具体的には、中長期的に目指すべき、政策金利の水準(均衡水準と呼ぶ)や債券保有額(バランスシートの規模)に関する判断がいずれ求められるでしょう。

物価や賃金の「謎」の解明

それらに関連して、景気の堅調が続いても物価がなかなか上昇しない点、とりわけ、失業率の低下が示唆する労働需給のひっ迫が賃金の上昇につながっていない点など。そうした「謎」について、パウエル新議長自身あるいはFOMCが、何らかの答えを見出す必要があるかもしれません。

的確なメッセージや構造ができるか

そして、経済・金融情勢が常に変化し、何らかのショック・イベントが起こりうるなかで、パウエル新議長が的確なメッセージを発し、かつ行動することができるのか。世界的な株高が続くなかで、市場は懐疑をもって見守ることになりそうです。

(チーフエコノミスト 西田明弘)

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