今月の特集

2015年10月恒例となった米デットシーリング(債務上限)問題と予算交渉の行方、為替市場の反応

要旨:

  • 米暫定予算成立で、政府機関閉鎖は回避。ただし、12月11日以降の予算分の交渉は継続中
  • 政府の債務残高がデットシーリングに到達しており、「異例の措置」で対応中。11-12月にはデットシーリングの引き上げが不可欠に
  • 政府機関閉鎖の悪影響は限定的だが、デットシーリング引き上げの遅れはデフォルト懸念を高め、市場の大きな動揺を招く可能性あり

デットシーリングの現状:Xデーは11月5日!?

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米連邦政府の新しい会計年度である2016年度が10月1日に始まった。予算が手当てされたのは年度開始のわずか数時間前で、それによって政府機関の閉鎖という事態は回避された。ただし、成立した予算は暫定的なもので、12月11日までの72日間をカバーするにすぎない。また、暫定予算の成立にあたっては、大きなコストも支払われた。歳出削減を強硬に主張する共和党内の保守派を取り込むために、オバマ政権に対して弱腰との批判に晒されていたベイナー下院議長(共和党)が10月末での辞意を表明している。

今後、12月11日以降の予算についての交渉が再開されることになる。来年11月の大統領選挙前に党派的対立が激化するのを避けるため、2年間の予算の大枠を決めようとの動きもあるようだ。ベイナー下院議長が残り少ない在任期間中に、あるいは新しい下院議長が予算交渉をまとめることができるのか、現時点では極めて不透明だ。

今後、デットシーリング(債務上限)の問題も浮上してくる。債務上限は一時停止されていたが、今年3月に復活した。そのため政府は「異例の措置」を使って資金繰りを続けている。しかし、財務省によれば、そうした「異例の措置」も11月5日ごろには尽きるらしい。デットシーリングの引き上げがなければ、その時点から手元資金で賄える分しか支出ができなくなる。現時点での手元資金は平常時を大きく下回る約300億ドルとされ、「異例の措置」が尽きた後は、急速に枯渇する見通しだ。

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政府機関の閉鎖は、国民にとっては大きな迷惑だ。ただ、過去の例では、株価やドルが下落したとしても、それらは限定的だった。政府機関の閉鎖が短期間かつ一時的であることが、予め想定されていたからだろう。

一方、デットシーリングは、もっと深刻な事態を引き起こしうる。デットシーリングの引き上げが遅れると、国債がデフォルト(債務不履行)する可能性が出てくるからだ。2011年8月のように金融市場が大きく動揺する可能性もある(後述)。

10月や12月のFOMC(連邦公開市場委員会)では、利上げ開始の是非が真剣に検討されるはずだ。ただ、予算交渉の行方がFOMCの判断に影響を与えかねない点にも留意する必要はあるだろう。

以下では、デットシーリングについて解説し、近年の予算交渉を概観しておきたい。

デットシーリング(債務上限)とは?

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正式には「法定債務上限」。デットリミットとも呼ばれる。法律で債務残高の上限が決められており、政府はその枠を超えて新たな借り入れを行うことはできない。債務残高が上限に達した場合、借り入れを増やすためには議会による上限引き上げの立法措置が必要となる。

米財務省によれば、1940年以降、債務上限は100回近く引き上げられてきた。近年、議会はデットシーリングを「人質」にして、予算や他の法案で政府に譲歩を迫る戦術を採ることがある。デットシーリング引き上げは単独の法案として審議することも可能だが、予算案とセットにして審議されることが多い。

政府債務のほとんどは一般向けおよび特別な国債であり、ごく一部の債務が上限の対象外となっている。また、債務が上限に達した場合、財務省は「異例の措置」と呼ばれる裏ワザを使って、しばらくの間は資金繰りを続けることができる。それらの措置には、公務員退職年金や公的機関向けの特別な国債の発行停止、償還、対象外の債券への置換などがある。

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デットシーリング引き上げの遅れは、デフォルトリスクを高める

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法案が未成立の場合の影響は、予算とデットシーリングの場合では違いがある。

予算は、歳出のうち支出額を毎年決定する、国防費などの「裁量的支出」のみをカバーしている。既存の法律によって支出額が決まる、社会保障給付や利払いなどの「義務的支出」は対象外だ。予算がカバーする「裁量的支出」は歳出全体の約3割に過ぎない。

新年度開始に向けて予算が未成立の場合、議会は一定期間の歳出を賄う暫定予算を成立させるのが通例だ。暫定予算も成立しなければ、予算がつかないため不要不急の政府機関は閉鎖される。予算が成立しなくても、社会保障給付や利払いは問題なく実行される。

これに対して、政府債務が上限に達した場合、予算措置が必要な支出だけでなく、社会保障給付や利払いなども含めて、政府債務の増加につながる支出は一切できなくなる。支出できるのは、手元資金で賄える分だけだ。社会保障給付や利払いの義務は自動的に発生するので、債務残高が上限に達したあとは、それらの支払いが滞って、デフォルト(債務不履行)する可能性が出てくる。

難航した近年の予算交渉

1995-96年:クリントン政権 vs 共和党議会、27日間の政府機関閉鎖

共和党議会が、歳出削減や財政均衡化、デットシーリング引き上げを盛り込んだ予算法案を可決。これに対して、クリントン大統領が拒否権を発動したことで、政府機関の一部が95年11月から96年1月にかけて2度、計27日間閉鎖された。1月6日に政府と議会が合意に達するまで、株価やドルに下落圧力が加わったが、その程度は限定的だった。

2011年:米政府デフォルトの危機と国債格下げ

債務残高が5月に上限に到達して、財務省は「異例の措置」を採用。その後も、オバマケア(公的医療保険)の見直しや歳出の削減を求める共和党議会と、オバマ大統領との交渉が難航。「異例の措置」が尽きるとされた8月2日の直前、7月31日にデットシーリングは引き上げられた。 7月下旬から8月上旬にかけて、NYダウは2000ドル下落。ほぼ同じ期間にドル円は5円程度の円高となるなど、金融市場が大きく動揺した。米国債が格下げされたことや、欧州でも債務危機が進行していたことなども、金融市場の動揺に拍車をかけた。

2012年:「財政の崖」

2013年1月1日に過去のブッシュ減税が期限切れとなり、また2011年7月(↑参照)に合意された強制的な歳出削減がスタートすることで、財政が急激に引き締められる予定となっており、「財政の崖」と呼ばれた。2012年中からオバマ大統領と共和党議会は「財政の崖」回避に向けて交渉を続け、1月1日未明にようやく合意に達した。 債務残高は2012年12月末に上限に到達。その後は2015年にかけて予算交渉の過程で、デットシーリングの「一時停止(=政府は制約なく借り入れが可能)」→「復活(その時点の債務残高を上限に設定)」→「異例の措置」が繰り返されることになる(↓参照)。

2013年:オバマ政権 vs 共和党議会、16日間の政府機関閉鎖

2013年5月にデットシーリングが復活し、政府はすぐさま「異例の措置」を採用。財務省が「異例の措置」が10月半ばに尽きると警告するなか、予算交渉が頓挫し、2014年度が始まった10月1日から16日間政府機関が閉鎖された。10月16日に2014年1月15日までの暫定予算が成立し、デットシーリングは2月7日まで停止されることになった。政府機関閉鎖に至る局面では、株価、ドルともに下落したが、その程度は限定的で、かついずれも政府機関の再開前に反発に転じた。

2014年以降:現在に至る

2014年に入って、2014年度予算の残りが成立。2月7日にはデットシーリングが復活したが、同15日には2015年3月15日まで停止することで合意が成立した。そして、2015年3月15日にデットシーリングが復活、その時点の債務残高18.133兆ドルが現在のシーリングとなっている。財務省は「異例の措置」によって資金繰りを続けている。

(チーフアナリスト 西田明弘)

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