今月の特集

2014年02月イエレンFRBの船出

イエレン議長ってどんなひと?

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(ジャネット・イエレン氏)

2月1日、FRB(連邦準備制度理事会)の議長にジャネット・イエレン氏が就任しました。イエレン氏は、1946年ニューヨーク州生まれ。エール大学で、ノーベル経済学賞受賞のトービン教授に師事。トービン教授から「人の幸福度を高める仕事」をするように励まされたと、のちに本人が語っています。
ハーバード大学助教授、FRBスタッフ(エコノミスト)などを経て、94年にFRB理事に就任。97-99年にクリントン大統領の下で、CEA(大統領経済諮問委員会)委員長を務め、2004-10年はサンフランシスコ連邦準備銀行(地区連銀)の総裁。2010年からFRB副議長を務めていました。
夫は、ノーベル経済学賞を受賞したジョージ・アカロフカリフォルニア大学経済学教授。

FRB初の女性議長、初の副議長からの昇格

ジャネット・イエレン氏は、1913年に創設されたFRBの15代目にして初の女性議長です。意外かもしれませんが、FRBの100年の歴史の中で、副議長から議長に昇格したのも初めてです。
イ エレン議長は、副議長以下6人のワシントン本部の理事と、全米に12ある地区連銀の総裁を束ねて、FOMC(連邦公開市場委員会)で決定される金融政策を 通じて、アメリカ経済のかじ取りを行うことになります。FRBは、「物価安定」と「最大雇用」という2つの義務、いわゆる「デュアル・マンデート」を負っています。その他、民間銀行の監督も、FRBの主要業務の一つです。

議長の任期は4年間で、再任は可能です。バーナンキ前議長の在任は8年間、グリーンスパン元議長の在任は19年間でした。

「失業」に強い関心、「物価安定」もおろそかにしない

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イエレン氏は、経済学者として、政策当局者として、経済の人間的側面、とりわけ失業問題に強い関心を抱いてきました。2013年2月の講演では、「私にとって、(失業率は)単なる統計ではない。失業によって労働者やその家族が苦しむのを熟知している」と語っています。
イエレン氏は、民主党員であり、民主党の伝統的な考え、つまり様々な社会・経済問題に対して、政府は有効な手段を持つとの考えを共有しています。高失業についても、金融政策で対応可能というのが基本見解です。
た だし、雇用創出を最優先する、根っからの「ハト派」とは言えないかもしれません。FRBでのキャリアを通じて、一層の金融緩和を求めてFOMCの決定に対 して反対票を投じたことはありません。逆に、理事を務めていた1996年には、インフレを懸念して同僚とともに金融引き締めを進言したものの、当時のグ リーンスパン議長に却下されたとのエピソードがあります。

バーナンキ前議長からスムーズにバトンタッチ

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(ベン・バーナンキ氏)

イエレン氏は、サンフランシスコ連銀の総裁、本部の理事、そして副議長として、FRBの政策決定に長く関与してきました。ゼロ金利政策、QE(量的緩和)、 インフレ目標の導入など、FRBが現在採用している政策の多くは、イエレン氏が主導してきた、あるいは支持してきたものです。また、副議長時代には、市場 とのコミュニケーション改善の担当として、3か月に一度の議長の定例会見を実現するなど、金融政策に関してできるだけ多くの情報を市場に伝達することにも 尽力してきました。
イエレン氏がバーナンキ議長から引き継ぐものは、自身が熟知した政策ツールであり、旧知のFRB関係者であると言えるかもしれません。

イエレン議長を支えるのは異色の副議長

もっとも全てが従来通りというわけではありません。新たにイエレン議長を支えるのが、フィッシャー副議長*です。フィッシャー氏は前イスラエル中央銀行総裁という異色の経歴の持ち主で、イスラエルとアメリカの国籍を持っています。アジア通貨危機やロシア危機があった90年代後半には、IMFの副専務理事(ナン バー2)兼チーフエコノミストを務めました。また、マサチューセッツ工科大(MIT)で教鞭をとっており、教え子にはバーナンキ前議長も含まれます。いわば、国際的な政策サークルの中の重鎮ということができるでしょう。
フィッシャー氏は、昨年11月の講演でQEについて尋ねられて、 「Dangerous but necessary(危険だが、必要だ)」と答えています。もっとも、フィッシャー氏がその後も同じ考えを持ち続けているのか、あるいはFRBのアウトサイダーからインサイダーになったことで考え方にも変化が生じているのか、その辺りは不明です。

(*インフレ警戒からQEの早期停止を主張している、いわゆる「タカ派」のフィッシャー・ダラス連銀総裁とは別人です)

イエレンFRBの金融政策とは?

昨年12月のFOMCの声明文には、「失業率が6.5%を下回っても、とりわけ物価見通しが2%の目標を下回り続けるならば、ゼロ金利を長く続ける公算が大きい」との一節がありました。これは、まさしくイエレン議長の考えと一致しているかもしれません。
一方で、FRBが、リーマン・ショック後の景気の落ち込みに対する、なりふり構わない金融緩和から、徐々に「正常化」に向けて動き始めたのも事実でしょう。 昨年12月のFOMCでは、QEの縮小が決定されました。FOMC関係者の間でも、2014年中にQEを停止するとの見方が多数派となっています。一方 で、上記の声明文にあるように、利上げ開始までの道のりが相当に長いことを示す、いわゆる「フォワードガイダンス」の強化によって、バランスを取った格好 です。

前途は多難かも!?

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イエレンFRBの前途には大きな課題が横たわっています。金融政策の「正常化」を進めていくかどうかは、今後の経済情勢に大きく依存しますが、「正常化」そのものが意図せざる結末をもたらす可能性もあるからです。
昨 年5月には、バーナンキ議長がQE縮小に言及しただけで、新興国を中心に世界の金融市場が大きく動揺しました。果たして、イエレン議長はQEをスムーズに 停止へと導くことができるのでしょうか。その先には、QEを通して大量に供給された流動性を市場から吸収するタスクが待っています。そして、さらにその先 には、政策金利をゼロから引き上げる必要性も生じてくるかもしれません。イエレン議長の在任中に全てが必要になるかどうかは分かりませんが、難しい判断を 迫られる局面は何度となく訪れそうです。

問われるイエレン議長の手腕(市場調査室)

ウォール・ストリート・ジャーナル 紙 の分析によれば、2009-13年の経済に関して、イエレン氏の予測がFOMC参加者の中で最も精度が高かったとのことです。もちろん、議長に求められる のは経済予測の精度の高さだけではありません。議長は、様々な、時にとして対立する見解を持つFOMC参加者の議論を主導し、一つの結論へと導かなければ なりません。
議長のスタイルも人によってマチマチです。バーナンキ前議長は、自由な議論のなかからコンセンサスを導く傾向が強く、その前任のグ リーンスパン元議長は、自分の主張を参加者に受け入れさせるカリスマ性がありました。イエレン議長がどのようなスタイルを採るかは、まだわかりません。最 初は手探りから始まって、徐々に自分のスタイルを確立していくのでしょう。
バーナンキ前議長は、就任2年後の2008年にリーマン・ショックへ の 対応を迫られました。グリーンスパン元議長は、1987年の就任2か月目にしてブラックマンデー(株の大暴落)に見舞われました。イエレン議長も、大きな ショックに対応することで鍛えられ、またその手腕を評価されるようになるのかもしれません。

(市場調査室)

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