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2015年07月ギリシャ、デフォルト。国民投票後のシナリオ、ユーロ離脱はあるか

国民投票の発表、資本規制の導入、IMFへの「延滞」 ▼
2013年キプロスの資本規制との違い ▼
国民投票後に何が起こるか:3つのシナリオ ▼
ユーロ圏から離脱したらギリシャはどうなる? ▼

国民投票の発表、資本規制の導入、IMFへの「延滞」

ギリシャと債権団の交渉が決裂し、ギリシャのチプラス首相は6月26日深夜のTV放送で、
債権団の提案を受け入れるかどうかの国民投票を7月5日に実施すると発表しました。

ギリシャの銀行から預金流出が加速するなかで、6月28日にはECB(欧州中銀)がギリシャの銀行に対するELA(緊急流動性支援)の増額を拒否しました。「取り付け」から銀行の連鎖破たんなど金融危機に発展する可能性が高まったため、ギリシャ政府は週明け29日から預金封鎖を含む資本規制の導入を余儀なくされました。

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さらに、ギリシャ政府は6月30日のIMF(国際通貨基金)への支払いを実行できず、広い意味での「デフォルト(債務不履行)」を起こしました。IMFはこれを「延滞」と定義し、直ちに「デフォルト」とするわけではありません。ただし、支払いがないまま約1か月が経過すると、「デフォルト」が宣言される可能性があるようです。

2013年キプロスの資本規制との違い

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ユーロ圏での資本規制は、2013年3月のキプロスに続く2例目となりました。ただし、ギリシャとキプロスの資本規制には大きな違いがあります。

キプロスのケースでは、同国への金融支援の条件として預金課税があり、そのための預金封鎖であり、資本規制だったのです。キプロスは地中海に浮かぶ小国ですが、経済規模に比較して銀行システムが極めて大きい、いわゆるマネーセンターです。預金者の3分の1は外国人とされており、ロシアなどによるマネーロンダリングが疑われていました。そこで預金者に負担を求めることが救済条件となったのです。換言すれば、資本規制は金融支援が実施されるための必要条件だったのです。なお、資本規制が完全に解除されたのは2015年4月でした。

一方、ギリシャのケースは、支援交渉が暗礁に乗り上げるなかで、資本規制がやむなく導入されました。先行きが予断を許さないという点では、キプロスよりも事態は深刻といえそうです。

国民投票後に何が起こるか:3つのシナリオ

◆ベストシナリオ:早期決着型

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国民投票の発表や資本規制を受けて、欧州の株式市場を中心に金融市場が大きく動揺。そうした状況下で実施される7月5日の国民投票で、債権団の提案に対してギリシャ国民は「イエス(受け入れ)」を選択。国民投票の結果を受けて、ECBがELA(緊急流動性支援)枠を拡大し、ギリシャへの資金供給を再開。早期に銀行業務が再開され、国民生活が徐々に平常に戻る。ギリシャ(国民)にとってのベストシナリオですが、手続き上の制約等もあって早期決着は難しいかもしれません。また、抜本的な問題解決までには時間がかかるという点では次のシナリオと同じです。

◆現実的なシナリオ:長期収束型

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最もあり得るシナリオは以下の通りです。ギリシャが債権団の提案を受け入れるとしても、同国が支援を受けて債務を履行するまでに時間がかかりそうです。支援が失効する6月30日を過ぎたことで、債権団の提案はいったん無効となりました。そのため、債権団の提案は、新たな支援(第3弾)の一環として再提案されるか、あるいはギリシャが新たに提案して債権団に承認される必要がありそうです。

債権団は、ギリシャが正式に提案を受諾し、それに関連した法整備を行うまで、支援を実行しないかもしれません。その場合、ECBの保有する35億ユーロのギリシャ国債が償還される7月20日が一つのヤマになりそうです。支援の実行までに時間がかかるほど、ギリシャ経済や金融システムは疲弊するでしょう。

債権団の当初の提案は、支援を5か月間延長し、その間に債務減免を含めた抜本的な問題解決に向けて交渉を続けるというものでした。抜本解決に向けた新たな交渉は、再び困難かつ時間のかかるものとなるかもしれません。

ギリシャ国民が「イエス」を選択した場合、「ノー(拒否)」に投票するよう求めていたチプラス政権は退陣し、総選挙が実施される可能性もあります。債権団との交渉や改革案の実行は、新政権の誕生まで待つ必要があるかもしれません。

◆リスクシナリオ:提案拒否、ユーロ離脱へ

国民投票は、あくまで債権団の提案を受け入れるか否かを問う形式となりそうです。ただ、債権団は「ノー」はユーロ圏あるいはEU(欧州連合)からの離脱とほぼ同義であると主張しています。ギリシャ国民が「ノー」を選択した場合、債権団が交渉再開を拒否すれば、ギリシャのユーロ離脱がいよいよ現実味を帯びそうです。

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「劣等生」ギリシャが離脱することでユーロ圏の「平均点」が上がり、ユーロは上昇するとの見方もありますが、ことはそう簡単ではないように思います。市場で、次の「劣等生」探しが始まるかもしれません。また、「通貨を不可逆的に統一し、後戻りはできない」との大原則が崩れることで、ユーロ圏内で様々な軋みが生じるかもしれません。

ユーロ圏から離脱したらギリシャはどうなる?

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ECBが資金供給を再開しなければ、ギリシャの銀行は流動性不足を解消できません。流動性不足が長期化すれば、ギリシャ政府は借用書(IOU)や独自の通貨を流通させざるをえなくなるでしょう。そうなれば、事実上の「GREXIT(ユーロ離脱)」です。

ギリシャが共通通貨「ユーロ」を放棄して、独自の通貨「新ドラクマ」を流通させるとします。ユーロは一定の比率、たとえば1:1で新ドラクマに交換されます(交換比率がどうであっても、後々の展開とは無関係である点に留意する必要があります)。ギリシャ国内の流通通貨も、銀行預金も新ドラクマに替わります。政府は新ドラクマ建ての国債を発行し、新ドラクマで支払いを行います。

一見、問題はないようにみえます。ところが、使用が開始された瞬間から新ドラクマは下落する運命にあります。変動相場制が採用されるなら、その下落は急激かつ大幅なものとなるでしょう。
ギリシャの経済困窮の根元は、自分たちの実力をはるかに上回る「強い通貨」を使用していたことです。したがって、新ドラクマに替わった瞬間からその調整が始まります。

ギリシャは、痛みを伴う急激な調整を経て立ち直る?

新ドラクマの急落により高インフレが発生、ギリシャ国民の実質購買力は大幅に低下し、景気はいったん大きく落ち込むでしょう。ただし、通貨の下落と実質賃金の低下によって対外競争力が増して輸出が増加、景気は徐々に回復に向かうでしょう。税収が増えて財政収支も改善します。つまり、大きな痛みを伴うものの、短期間でギリシャに必要な調整が行われることになりそうです。

判断が難しいのは既存の債権・債務がどうなるかです。例えば、ギリシャの企業が国外の金融機関からユーロの借入を行っているケースは、どうでしょう。ユーロ建てのままなら、多くの企業は債務の重さに耐えられないでしょう。新ドラクマ建てなら貸し手が大きく損をすることになります。
また、ギリシャ政府はユーロで発行した国債を強制的に新ドラクマに切り替えるのでしょうか。幸い、ギリシャ国債の大半を保有するのは、ギリシャの銀行を除けば、ユーロ圏の政府であり、IMFなどの国際機関や、ECBです。ギリシャ・ショックでユーロ圏の民間金融機関が連鎖破たんするリスクは小さいかもしれません。

「GREXIT」は大きな不確実性を伴う

そもそも、ギリシャの経済規模はユーロ圏全体の2%弱です。ユーロ圏経済への直接的な影響は小さそうです。ただし、金融市場の反応は違ったものになるかもしれません。市場が「第二のギリシャ」を求めて南欧の国々を狙い撃ちすることはないでしょうか。また、それらの国で、ギリシャ同様に緊縮策への不満から急進的な左派政党が台頭しないでしょうか。それとも、ギリシャのユーロ離脱が強烈な反面教師になるのでしょうか。「GREXIT」は大きな不確実性を伴うといえそうです。

 

過去のギリシャ関連記事はこちら↓

6月「【アップデート】ギリシャ、IMF返済を先延ばし。デフォルト(債務不履行)はあるか、今後どうなる? 」

5月「ギリシャはデフォルト(債務不履行)するか。その時、為替相場はどうなる?」

2月「ギリシャ政権交代:欧州債務危機は再燃するか。「ユーロ離脱」はあるのか」

(チーフアナリスト 西田明弘)

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