今月の特集

2015年04月英国総選挙の行方とEU離脱の可能性 為替相場への影響とは?

5月7日の総選挙

英国議会が3月31日午前零時に解散、5月7日の投票日に向けて選挙戦が正式にスタートしました。
最新の世論調査によれば、与党の保守党と最大野党の労働党が有権者の支持率でほとんど差のない大接戦となっています。また、保守党と連立を組んでいた自由民主党が支持を落とす一方で、欧州懐疑主義を掲げる独立党が支持を伸ばしています。

保守党と労働党と、どちらが多数派になるかは予断を許さない状況です。ただ、いずれもが単独で過半数を獲得できない可能性が高いとみられ、その場合はいわゆる「ハング・パーラメント(hung parliament)」として連立が模索されることになります。
連立工作が上手くいかなければ、再選挙の可能性もあり、政治の不透明感が一段と強まるかもしれません。

 


労働党ミリバンド党首
出所:労働党HP

選挙戦の最大の争点は、「経済」でしょう。どちらの政党に経済運営を任せれば、有権者が経済的により豊かになれるのかが問われます。企業や富裕層に優しい保守政党(保守党)と、中間層を支援するリベラル政党(労働党)との対決という構図は、日本や米国の状況と大差はないかもしれません。

EU離脱の是非

総選挙の隠れたテーマが、EU(欧州連合)からの離脱の是非です。ギリシャのユーロ圏からの離脱は「GREXIT」と呼ばれていますが、英国のEU離脱は「BREXIT」(あるいは「BRIXIT」)と呼ばれます。

 


保守党キャメロン党首
出所:労働党HP

キャメロン首相は、総選挙で保守党が勝利すれば、2017年末までにEU離脱の是非を問う国民投票を実施すると約束しました。そして、国民投票までにEU残留の条件交渉を行うとしています。キャメロン首相自身はEU残留を主張していますが、国民投票の実施が決まれば、EU離脱の可能性が意識されるでしょう。EU離脱を公約としている独立党が支持を伸ばしていることも気がかりです。他方、労働党はEU残留を主張しています。しかし、総選挙の結果にかかわらず、EU離脱の是非を国民に問うという作業は避けて通れないかもしれません。

なぜEU離脱か

英国にはもともと、大陸欧州とは一定の距離を保ちたいとの思いがあるようです。それは、ユーロ圏を創ったEMU(経済通貨同盟)への参加を見送る、いわゆる「オプトアウト」を選択したことからも見て取れます。

 

また、英国では、欧州委員会の決定やEU条約に縛られることなく、自らが政策を決定する権限を取り戻すべきとの意見も多いようです。例えば、英国への移民が大幅に増加しており、それに伴って社会保障給付の増加などが問題視されるようになっています。しかし、EU条約が、人の移動の自由を原則として保証しているため、英国がEUに留まる限り、移民制限などの政策を独自に採用することはできません。

EUに対する拠出金の大きさ(GDPの0.5%)に対する不満も、EU離脱論が盛り上がる要因の一つでしょう。

EUから離脱したらどうなる?

EU残留とEU離脱のメリットとデメリットを比較するのは、実はかなり難しい作業です。英国がEUから離脱した場合に、EUやEU以外の国々とどのような付き合い方をするのかが不透明だからです。

英国は、EU向け輸出が全体の約半分を占めています。EU離脱によって、EU市場への特権的アクセスを失うことは大きな打撃でしょう。また、当然のことながら、通商も含めてEUの様々なルール作りに関して、英国は発言権を失うことになります。

英国がEUとの間で現在と同等の貿易協定を締結し、さらにEU以外の国々とも積極的に自由貿易協定を推進すれば、マイナス面はカバーできるかもしれません。また、EUの規制から解放されて、国内面でも規制緩和を進めることができれば、経済を活性化させることも可能でしょう。

もっとも、そうした見方はやや楽観的過ぎるかもしれません。上述した移民制限を求める声は規制緩和とは真逆の方向です。EU離脱が英国経済にとってプラスとなるためには、相当に強固な政治意思と時間が必要でしょう。

EU離脱は、少なくとも短期的には英国経済にとってマイナスとの見方が一般的ではないでしょうか。金融業では深刻な影響が出る可能性もあります。ロンドン金融市場はニューヨークと並んで、グローバルな金融市場のなかでも際立った存在です。それも、国内経済の規模に比べて格段に大きな役割を果たしているのは、外国の参加者が多いためでしょう。かつて、外国人選手の活躍が目立つことに例えて「ウィンブルドン現象」と呼ばれたこともありました。

その英国がEUから離脱した場合に、これまで同様に外国からの市場参加が望めるでしょうか。ローカル市場に成り下がらないまでも、存在感の低下は避けられないでしょう。そして、外国金融機関は欧州拠点の中心をロンドンから大陸欧州、例えばフランクフルトなどに移すかもしれません。そうした場合、英国の金融資産や不動産、通貨ポンドに対する需要も大きく減退する可能性がありそうです。

EU離脱論の行方に注目

EUから離脱すべきとの主張は、決して新しいものではありません。5月の総選挙で保守党が勝利して、国民投票の実施が現実味を帯びるとしても、実施時期は2017年になりそうです(早期実施論もあるようですが)。そして、その間のEUと英国との、残留のための条件交渉の結果次第で、EU離脱論が強まることも、弱まることもありそうです。
ただ、EU離脱の可能性が意識されるほど、それに伴う不透明感が強いほど、ポンドを含め英国の資産価格に下落圧力が加わるかもしれません。

(市場調査部)

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