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2015年02月ギリシャ政権交代:欧州債務危機は再燃するか、「ユーロ離脱」はあるのか

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アレクシス・ツィプラス首相(40)
出所:ギリシャ政府ホームページ
 

1月25日のギリシャ総選挙の結果、急進左派連合(SYRIZA)を中心とした連立政権が誕生しました。ツィプラス新政権は、財政緊縮・経済構造改革路線を逆行させること、政府債務の減免交渉を行うことを公約しています。

新政権が公約を強硬に実現させようとすると、ギリシャに対する支援が打ち切られたり、新しい支援が難しくなったりすることで、同国のデフォルト(債務不履行)や「ユーロ離脱」の懸念が高まりかねないだけに、今後の交渉には注意が必要でしょう。

 

ギリシャ債務危機の本質

ギリシャは、もともと財政赤字が大きく、開始より2年遅れて2001年にユーロ圏に参加しました。その後も低成長や財政赤字が続きましたが、ユーロ圏に参加したことで、金融政策(利下げ)や通貨政策(通貨安の誘導・容認)などの対応策は使えなくなりました。そのため、金融支援を受け、その条件として財政緊縮や経済構造改革を進めてきたのです。

しかし、財政緊縮策や構造改革が経済を一段と疲弊させ、国民に痛みを強いてきたのも事実です。ポルトガルやスペインなど支援を受けた国でも状況は似通っていますが、それらの国に比べてギリシャは大ナタを振るわなければならなかった分、その影響が急進左派による政権交代という先鋭化した形で現れたのでしょう。

 

支援の経緯

ギリシャは2010年4月に財政収支の粉飾が発覚。資金不足に陥ったため、EU(欧州連合)、ECB(欧州中銀)、IMF(国際通貨基金)の、いわゆる「トロイカ(三頭体制)」から1,100億ユーロの支援を受けました。その際に、財政緊縮、経済構造改革、政府資産の売却による債務圧縮などを義務付けられました。

2011年10月には1,300億ユーロの支援第二弾を受けました。同時に、ギリシャ国債の保有者は、償還期間の延長、金利の引き下げ、額面の50%を超える減免を受け入れました。これは、一部の格付け会社によって国債のデフォルト(債務不履行)と認定されました。

2012年5月の総選挙では当時の連立与党が窮地に立たされましたが、6月の再選挙で辛うじて政権を維持、その後、サマラス政権は数々の歳出削減や公務員削減などの措置を実施しました。

ツィプラス政権の主張

2014年12月、大統領候補に対する議会の信任を得られず、サマラス政権が崩壊しました。そのため、年末に終了予定だった「トロイカ」の支援策第二弾は2か月間延期されました。今年1月の総選挙で勝利した急進左派連合(SYRIZA)は、選挙戦で財政緊縮・経済構造改革路線の逆行、政府債務の減免を公約しており、ツィプラス政権はそれらを実現すべくユーロ圏各国やECB、欧州委員会などと交渉を開始しました。

 

小さくない?デフォルト(債務不履行)のリスク

ギリシャにとって最大の問題は、支援の継続や新規支援がなければ、政府の資金繰りが行き詰まってしまうことです。「トロイカ」によって設定された短期国債発行残高の上限150億ユーロが引き上げられなければ、政府は2月中にも資金不足に陥るとの見方もあるようです。また、3月以降IMFローンの返済期限が順次訪れるうえ、7-8月にはECBが保有するギリシャ国債約70億ユーロが満期を迎えます。政府にとってそれらの資金調達も課題となってきそうです。ギリシャ国債がデフォルト(債務不履行)となるリスクは決して小さくないのかもしれません。

一方、政府債務の減免について、2月上旬に各国を歴訪したギリシャのバルファキス財務相はこれを直接求めず、新たな形の債務への交換を要請しましたが、債権者でもあるユーロ圏各国から芳しい反応は得られなかったようです。

「ユーロ離脱」はあるのか

ツィプラス政権もギリシャ国民も、ユーロからの離脱、いわゆる「GREXIT」は求めていません。ユーロ圏に留まりつつ、支援の条件を緩和しようとする、「条件闘争」を行っています。一方で、ユーロ圏もギリシャを引き留めておきたい思惑があります。ギリシャのユーロ離脱は経済・金融市場に大きな混乱を招くだけでなく、他の国にそうした動きが広がる可能性もあるからです。ギリシャ総選挙の前には、ドイツのメルケル首相らがギリシャの離脱の可能性に言及したとの報道もありましたが、あくまでもギリシャの有権者に対するけん制だったと考えるべきでしょう。

そもそも、EMU(経済通貨同盟)は不可逆的な統合であり、そこからの離脱は想定されていませんし、そのためのルールも存在しません。もちろん、ルールという意味では、新しく作れば存在しうるわけですが、そうするためのハードルは相当に高いと考えるべきでしょう。

したがって、ギリシャと「トロイカ」やユーロ圏各国との交渉がどこかで合意に達すると思われます。ただし、交渉の過程においては綱渡りが続くかもしれません。また、政権担当経験の浅いツィプラス政権が対応を誤って、ユーロ離脱を表明せざるを得なくなる、あるいはデフォルトを起こすなどの「アクシデント」が発生する可能性も完全には否定できません。ギリシャと、「トロイカ」やユーロ圏各国との交渉の行方から目が離せません。

 


(市場調査部)

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