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2014年10月トルコリラ、押さえておきたい「強み」と「特徴」

トルコリラ、押さえておきたい「強み」と「特徴」

トルコリラは、高い潜在成長性を有する経済をバックとした新興国通貨です。インフレ率が高いため、中長期的には対先進国通貨で下落してきました。一方で、高い政策金利によって、通貨の価格変化にスワップ損益を加えた収益率は、対円での過去10年間でみれば、豪ドルと遜色ない良好さでした。

もっとも、トルコの経常収支は慢性的な赤字であり、その穴埋めのために外国の資金に依存しなければならないという、新興国の典型的な弱点も持っています。昨年5月にバーナンキ米FRB議長(当時)が米国の金融緩和縮小の可能性に言及した際(「バーナンキ・ショック」)、資金流出懸念から株式や通貨が売られた「フラジャイル・ファイブ(脆弱な5か国)」の一員であったことは記憶に新しいところです。

さて、以上のような、いわば広く知られた特徴とは別に、押さえておきたい強みや特徴をみてみましょう。

高い潜在成長率、経済政策の適切な運営が鍵

トルコは、人口増加率が高く、その状態が今後も永く続くと予想されるため、高い潜在成長性を有しています。ただ、高い潜在成長性が具現化するかどうかは、財政や金融などの経済政策の適切な運営にかかっています。その点、経済政策の運営は比較的堅実と言えそうです。これは2000年代初頭に経済・金融危機やハイパーインフレを経験したことが教訓となっているのでしょう。

保たれる財政の規律

まず、財政の規律が保たれています。IMF(国際通貨基金)によれば、トルコの2013年の財政赤字は名目GDP比1.5%にとどまりました。また、財政収支のうち、国債費(利払い)を除くプライマリー・バランス(基礎的収支)はリーマン・ショック直後の2009年を除けば、近年は黒字が定着しています。プライマリー・バランスの黒字化は、健全な財政運営の重要な目安です。

また、政府債務残高は名目GDP比で趨勢的に低下しており、2013年末で36%に過ぎません。これに対して、ユーロ圏は90%を超えており、言うまでもなく日本は200%を超えています。

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経常赤字を穴埋めする資金の「質」の改善

財政規律が保たれるなかでも経常収支が赤字ということは、国内の民間投資が国内資金で賄われていないということです。だからこそ外国資金の呼び込みが不可欠なわけです。TCMB(トルコ中央銀行)によると、経常赤字を穴埋めするための外国資金の「質」が向上しています。バーナンキ・ショックのあった昨年5月までの1年間にトルコに流入した、外国資金の約3分の2が証券投資などの短期資金でした。つまりは「逃げ足」の速い資金でした。これに対して、直近1年間では、外国資金のほとんどが直接投資などの長期資金です。外国からの資金流入の安定度は増していると言えそうです。

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多様化する貿易構造

ところで、国際収支との関連で、トルコの貿易構造についても述べておきましょう。経常収支同様に貿易収支は基本的に赤字です。

輸出の主力は、かつての繊維・衣服から自動車や一般機械などの付加価値の高いものへとシフトしつつあります。輸出相手はEUが全体の約4割を占めますが、個々の国との関係ではいずれも輸出全体の10%を下回っており、輸出先の多様性がうかがえます。中国向けは全体の2.4%に過ぎないので、豪州(中国向け輸出が全体の4割弱)やニュージーランド(同2割強)のように、為替レートが中国景気の動向に直接左右されることはなさそうです。

輸入の中心は、機械・輸送機器、ついでエネルギーであり、両者で全体の5割を占めています。輸入相手はやはりEUが約4割で、個別の国ではロシア(主にエネルギー?)が最大です。

一部で国境を接し、かつ軍事的緊張が高まっている対中東では、輸出が全体の約2割、輸入が同1割弱です(上記、いずれも2013年データ)。

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トルコ中央銀行は自国通貨や経常収支の動向も注視

金融政策は5%のインフレ目標を設定しています(不確実性を考慮して±2%、すなわち3~7%が許容範囲)。ただし、TCMB(トルコ中央銀行)は自国通貨や経常収支の動向にも、先進国の中央銀行以上に注意を払っているようです。今年1月に政策金利を従来の4.5%から10.0%に引き上げたのは、バーナンキ・ショック後の資金流出が止まらず、トルコリラの下落が続いていたためでした。

もっとも、TCMBはバーナンキ・ショック直後から資金供給を絞っていたため、銀行間翌日物金利は政策金利を大きく上回って推移していました。すなわち、政策金利の動きが示唆するより早い段階から事実上の金融引き締めを行っていました。そして、外国資金が戻ってきたことで、TCMBは今年5-7月に3回、計1.75%の利下げを実施しました。

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9月25日のTCMBの会合では、金融政策の現状維持が決定されました。声明では、「インフレに影響を与えるインフレ期待、価格行動、その他の要因を注意深く監視し、インフレ見通しが顕著に改善するまではきつめの金融政策が維持される」とされました。8月の消費者物価上昇率が前年比8.9%と、TCMBの目標上限7%を大きく上回っているため、政策金利が大きく引き下げられることはなさそうです。

マクロ・プルーデンス政策によって融資の伸びを抑制

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金融引き締めに加えて、金融機関の融資を監視・監督するマクロ・プルーデンス政策の強化によって、国内の総融資額の伸びが鈍化しています。これは国内需要、さらには輸入の抑制を通じて、経常収支の改善やインフレ圧力の低下につながるものと期待されています。

相対的に高い銀行の自己資本比率

最後に、金融システムが比較的安定していることを指摘しておきましょう。世界銀行によると、トルコの銀行全体の自己資本比率(自己資本/総資産)は11.2%。リーマン・ショックを契機に資本増強を進めた米国の11.8%には及びませんが、日本やドイツの5.5%を大きく上回っています。リーマン・ショックを含む2007年から現在までの期間に、銀行の破たん・救済がなかった国はOECD34か国の中で唯一トルコだけだとの話も聞かれます。

「フラジャイル・ファイブ」から卒業できるか

財政が健全で、金融政策が慎重に運営され、金融システムが安定しているのであれば、トルコがユーロ圏のような債務危機や、リーマン・ショックのような金融危機の震源地にはなりにくいということでしょう。もちろん、新興国である以上、先進国以上に外的ショックには敏感でしょう。FRBのQE(資産購入)が終了して、利上げ開始が現実味を帯びた時に、トルコが「フラジャイル(脆弱)」でなくなったかどうかが試されるのかもしれません。

<本稿は、当社が10月1日に開催した「トルコ経済の実態を直に聞く。トルコ経済参事官・トルコ中央銀行東京代表との特別コラボセミナー」の内容を参考に作成しました。セミナーの様子と、資料はこちらをご覧ください>

 

(市場調査部)

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