今月の特集

2018年07月金融危機10年サイクル説

1987年10月 ブラックマンデー(米株の暴落)
1998年10月 LTCM(米ヘッジファンド)の破たん
2008年9月 リーマン・ショック
2018年? ???

近年、かくのごとく約10年ごとに金融危機が発生している。今年はリーマン・ショックの10周年にあたることもあって、何らかのショックが発生しないか警戒しておく必要はあるかもしれない。

過去の金融危機を振り返り、現在との類似点や相違点を概観した。

 

ブラックマンデー

87年10月19日(月)、NYダウが前週末から1日で508ドル、率にして22.6%下落し、世界の株価の急落を招いた。1日の下落幅が大きくなったのは、当時流行り始めていたコンピューターによるプログラム売買が原因だとされた。ただし、その年の初めから8月までにNYダウが40%超上昇するなど、株高が続いて過熱感があったことも大きかっただろう。

そして、85年9月のプラザ合意以降の米ドル安進行に歯止めをかけようとした、87年2月22日のルーブル合意が上手く機能しなかったことがある。ドル安阻止のために米国が引き締め気味の金融政策を運営する一方で、日本や西ドイツ(当時)は緩和的な金融政策を求められていた。しかし、西ドイツの連邦準備銀行(中央銀行)はブラックマンデー直前にインフレ懸念から利上げに踏み切っており、国際協調の乱れから米ドル安が再開しそうな状況だった。米ドル安の背景には、米国のレーガン政権下で拡大した財政収支と経常収支の「双子の赤字」があった。

なお、87年8月には、インフレファイターとして名高かったボルカー氏の後を継いで、グリーンスパン氏が米FRBの議長に就任している。グリーンスパン氏は金融市場ではあまり名が知られていなかったが、ブラックマンデーに際して積極果敢な流動性の供給を決断したことで、市場から信頼されるようになった。

 

LTCM破たん

98年8月、ロシアがデフォルト(債務不履行)を起こした。前年の97年7月にタイから始まったアジア通貨危機が広がったためだった。そして、そのあおりを受けて、9月に米ヘッジファンドLTCM(ロングターム・キャピタルマネジメント)が事実上破たんした。ノーベル賞学者を擁したLTCMは、数十倍のレバレッジをかけて、主にロシア国債など流動性の低い金融商品買い・米国債など流動性の高い金融商品を売るアービトラージ(裁定取引)を行なっていた。そのため、ロシア国債のデフォルトや、「質への逃避」による米国債の価格上昇などから壊滅的な打撃を受けたのだった。LTCMはわずか数カ月で40億ドル以上あった資本のほとんどを失ったとされ、9月下旬にウォール街の金融機関のシンジケート団から36億ドルの支援を受けた。

日本でも、97年に三洋証券、北海道拓殖銀行、山一証券が、98年にも日本長期信用銀行、日本債券信用銀行が相次いで破たん。金融危機が発生していた。日銀が当時の超低金利政策を行っていたことで、円調達・外貨投資のキャリートレードが隆盛を極めていた。

そして、LTCMの破たんを受けて、キャリートレードが一気に巻き戻され、米ドル/円は10月上旬の3日間で134円台から一時112円割れまで20円以上の円高になった。

 

リーマン・ショック

2008年に発生したリーマン・ショックは多くの説明を必要としないだろう。信用力の低い借り手向けのサブプライムの住宅ローンが焦げ付いたことが原因だった。そうした大量のサブプライム・ローンが証券化されて世界中の投資家に売られていたため、世界の金融市場がマヒする状況となった。

2008年9月にリーマン・ブラザースが破たんするかなり前から様々な兆候はみられていた。同年3月には大手証券のベア・スターンズが破たんしていた。さらに前年2007年の8月には、欧州大手金融機関のBNPパリバ傘下で、サブプライム・ローンに投資していたファンドが解約を凍結するパリバ・ショックも起きていた。

リーマン・ショックでは大手投資銀行が破たんしただけでなく、大手の商業銀行、政府系住宅金融機関、生命保険会社、そしてGMなど事業会社までが国有化されたり、公的資金の注入を受けたりした。

 

金融危機の共通点

ここで挙げた金融危機に共通した点は、米国の利上げサイクルと関係が深いということだ。米国が利上げしたことで、世界の資金の流れが変化し、とくに流動性が低下したことが様々なショックをもたらしたと解釈することができる。

ブラックマンデーの時は、前年86年12月にFRBが利上げを開始。LTCM破たんの時は、その4年前の94年2月に利上げが開始された。そして、リーマン・ショックの時にも、その4年前の2004年6月が利上げの開始だった。現局面では2015年12月に利上げが開始されている(図の↓)。


イールドカーブのフラットニング

87年のケースを除けば(*)、米国でイールドカーブ(利回り曲線)のフラットニング(平たん化)が進んだことも共通している。98年6月には短期間ながらカーブが逆転(2年債利回り>10年債利回り)した。LTCM破たんを受けてFRBが緊急利下げに踏み切ったこともあり、すぐにカーブの逆転は解消された。ただ、カーブは2000年2月に再び逆転し、IT株バブルの崩壊やその後の景気後退の前触れとなった。

(*)87年のケースでは、「双子の赤字」を背景に米国債が売られ、長期金利が上昇する形でイールドカーブはスティープニング(右上がりが急になること)していた。

現在のイールドカーブは依然として右上がり(2年債利回り<10年債利回り)だが、2年-10年のスプレッド(利回り差)はリーマン・ショックの1年前の2007年8月以来の水準まで縮小している。

イールドカーブのフラットニングや逆転は、経験的には景気減速や景気後退に2年程度先行するだけに気になるところだ。

現在との相違点

もっとも、相違点もある。
米国の利上げは非常にゆっくりとしたペースで進められている。そして、FFレート(政策金利)は中立水準に到達していないものとみられる。つまり、現在の利上げはあくまで「金融緩和の縮小」であり、景気にブレーキをかける「金融引き締め」ではないという点だ。日銀やECBが金融緩和を継続していることもあって、世界の金融市場から流動性が急速に引き揚げられているわけでもなさそうだ。

新興国の経済構造や通貨制度は以前に比べて大きく改善している。主要国の金融機関は財務の健全化が図られ、過度なレバレッジ取引は規制されている。それらは金融危機が起こりにくい要因ではある。 ただ一方で、貿易保護主義の台頭など「新しい」懸念材料もある。

リーマン・ショック10周年を迎える今年9月が近づくにつれ、金融危機説が一層取り沙汰されるかもしれない。類似点や相違点をしっかり認識したうえで、冷静に判断する必要がある。

 

(チーフエコノミスト 西田明弘)

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