市場調査部レポート

2017/08/04 13:53米政治・金融政策ともに、米ドル押し上げは期待薄

【相場環境】米政治・金融政策ともに、米ドル押し上げは期待薄
【全体観・米ドル】米ドル/円、52週MAを死守できるか
【英ポンド】英ポンド/円、重要ラインに要注目!
【豪ドル】RBAが豪ドル高をけん制、対米ドルの上値を抑えそう
【NZドル】10日のRBNZ政策金利発表に注目!!
【南アフリカランド】SARBの独立性をめぐる懸念がランドの重し


【相場環境】 米政治・金融政策ともに、米ドル押し上げは期待薄    

7月の為替相場は、中央銀行の独立性維持が危ぶまれる南アランドを除けば、米ドルが最弱でした。一方で、豪ドル、カナダドル、ユーロが強く、英ポンド、NZドル、日本円はその中間でした。

米ドルが軟調だった背景は、主に米国の政治不安と利上げ観測の後退でした。
ワシントンでは、トランプ大統領が強く望んだオバマケア改革が頓挫し、議会は成果のないままに夏休み入りしました。議会は、9月5日の夏休み明けから2018年度予算や税制改革に本腰を入れるようですが、年内の税制改革成立は大いに疑問視される状況です。

一方、足元の軟調な物価動向を受けて、FRBの利上げ観測が大きく後退しています。2日時点のFFレート(政策金利)先物に基づけば、年内の利上げの確率は50%を切っています。
それ以上に注目すべきは、2018年末までの据え置きの確率が19%、同1回利上げの確率が36%もあることです。すなわち、「2018年末までに利上げがあと1回あるか、ないか」が市場のメインシナリオになりつつあるということです。
6月のFOMCで公表されたメンバーの金融政策見通し(中央値)で想定された「2018年末まで4回の利上げ」は、現在の市場にわずか4%の確率しか織り込まれていません。

米ドル実効レートが2015年1月以降の最安値圏で推移しているため、自立調整的な米ドルの反発局面はあるかもしれません。ただし、米ドルが力強く上昇するためには、政治の安定や利上げ観測の再浮上が必要となりそうです。そして、少なくとも当面はそうした材料を期待するのは難しそうです。

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来週は、FRB関係者の講演がいくつか予定されています。7日のブラード・セントルイス連銀総裁、カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁10日のダドリーNY連銀総裁、カプラン・ダラス連銀総裁など。カプラン総裁以外は利上げに慎重なハト派とみられ、利上げ観測を高めるような発言は期待薄です。カプラン総裁も、最近はインフレの上昇を待ちたいとの意向のようです。

経済指標では、11日の米CPI(消費者物価指数)に注目です。CPIコア(食料とエネルギーを除く)今年3月まで15か月連続で2%超となった後、3か月連続で2%割れです。携帯通話料金の大幅低下が大きかった模様ですが、同要因は前年比ではまだしばらく物価の下押し要因となる見通しです。<チーフエコノミスト 西田明弘>


【全体観・米ドル】 米ドル/円、52週MAを死守できるか

7月28日付『マンスリー・アウトルック』にも記載した通り、【8月相場】は一般的に“曰(いわ)く付き”と語られることが多く、歴史的な出来事、事件や株式市場や債券市場でも【8月】はある意味“鬼門”とも思えるような傾向・パターンが確認できることは、先週のレポート(『マンスリー・アウトルック』でも記載した通りです。

あくまで「アノマリー」※の部類のため、今年の8月にも必ず当てはまるものではありませんが、ある程度季節的な傾向・パターンとして、相場における“トリヴィア”(豆知識)として押さえていただければと思います。(※アノマリー:明確な理論や根拠がある訳ではないものの、当たっているかもしれないとされる相場の経験則や事象のこと)

その一つが・・・『【8月】は豪ドル/円が下がりやすい』というアノマリー。2000年以降における【8月】の豪ドル/円について、そのデータを以下でご確認ください。(月足陽線引け:〇、同陰線引け:×)

 
上記データより、直近10年(2007-2016年)の8月における豪ドル/円の陰線引け確率は.900、過去17年(2000-2016年)の同確率は.823となっていることが分かります。

比較対象として見るために、同じオセアニア通貨のNZドル/円の同データを以下ご覧ください。


上記データでは、直近10年(2007-2016年)の8月におけるNZドル/円の陰線引け確率は.800、過去17年(2000-2016年)の同確率は.647となっており、直近10年における陰線引け確率は高くなっているものの、2000年以降過去17年間のデータでは、豪ドル/円に比べて、相対的に低いことが分かります。

さらに、比較対象として、以下米ドル/円の同データをご覧ください。

上記データでは、直近10年(2007-2016年)の8月における米ドル/円の陰線引け確率は.500、過去17年(2000-2016年)の同確率は.647となっています。2000年以降の8月における米ドル/円の陰線引け確率は、NZドル/円と同じ数値であるものの、直近10年間のデータに限っては5割の確率となっており、米ドル/円の【8月】=陰線引けという傾向・パターンは、直近10年間におけるデータでは確認できないという仮説が成り立ちます。

これらはあくまで過去の傾向・パターンであるため、繰り返しながら今年の8月にも必ず当てはまるものではありませんが、【8月】相場の“クセ”として、頭の片隅に入れて頂ければ幸いです。

閑話休題。米ドル/円・日足・スパンモデル®+21日ボリンジャーバンド+パラボリック+DMIをご覧ください。

上記チャートのメルクマール(指標)を確認していくと、1) 21日MA(21日移動平均線)が右肩下がりであること、2) 遅行スパンがローソク足の下方に下抜けしていること、3) ローソク足が青い雲(=“買い”の雲)の下方にあり、-1σラインと-2σラインの間で推移する【下降バンドウォーク】となっていること、そして4) DMI(方向性指数)において、-DI>+DIとなっている(上図青丸印)ことから、米ドル/円は緩やかな下降トレンドが継続していることが分かります。

そんな中、少し視野を広げ、タイムフレームを週足チャートに替えた上で、52週移動平均線(以下、52週MA)とローソク足の関係を見ていきましょう。以下、米ドル/円・週足チャート+52週MAをご覧ください。



上記チャートより、今年(2017年、黒点線)以降の米ドル/円は、今回も含めて3回にわたって52週MAにローソク足が接近していることが分かります。

4月中旬にかけて同ライン(≒108.00円)に接近、ワンタッチ(上図赤三角印)したのが1回目、また、6月中旬にかけて同ライン(≒109.00円)に接近、ワンタッチ(上図青三角印)したのが2回目で、そして今年に入って3回目となる今回も、同様に同ライン(≒110.00円)に接近、ワンタッチ(上図黄色三角印)する展開となっています。

米ドル/円の52週MAは徐々に切り上がる展開となっており、グランビルの法則から勘案する米ドル/円の方向性は、52週MAの方向性に準じて<緩やかな上昇トレンド>が持続すると見てよさそうです。

一方で、ローソク足が同ライン(≒110.00円)を明確に下回った場合は、トレンド転換の起点(=下降トレンドの始まり)となる可能性もあるため注意が必要です。いずれにしても、足もとの米ドル/円における重要テクニカルラインである52週MA(≒110.00円)を文字通り死守できるか否かがポイントとなりそうです。<チーフアナリスト 津田隆光>


【英ポンド】 英ポンド/円、重要ラインに要注目!

以下、英ポンド/円・日足・スパンモデル®+21日ボリンジャーバンド+パラボリック+DMIをご覧ください。

上記チャートのメルクマール(指標)を確認していくと、1) 21日MA(21日移動平均線)が横向きであること、2) 遅行スパンがローソク足と絡み合う状態であること、3) ローソク足が青い雲(=“買い”の雲)の中に入り込み、-2σライン近辺にあること、4) パラボリック・SAR(ストップ・アンド・リバース)が上方点灯に転換したこと、そして、4) DMI(方向性指数)で+DIと-DIが収斂するような形状となっていることから、英ポンド/円は、横ばい基調(レンジ相場)の下押し段階であることが分かります。

3日に開催されたBOE(イングランド銀行、英中銀)が開催したMPC(金融政策員会)において、金融政策の現状維持が決定(前回は5:3、今回は6:2の賛成)されたこと、また、3ヵ月に一度のインフレーションレポートにおいて前回(5月)に比べて経済見通しが下方修正されたことで、足もとでは、早期利上げ観測の後退→英ポンド売りフローとなっています。

上図チャートの注目ポイントは、ボリンジャーバンド・-2σライン(≒144.16円)と雲の下辺である先行2スパン(≒143.19円)。

4日時点での英ポンド/円・日足・スパンモデル®では、分厚い青色の雲が確認できるため、下押しは限定的と判断しますが、一方で、ローソク足が-2σライン(≒144.16円)を明確に下回り、またその後、先行2スパン(≒143.19円)を同様に明確に下回った場合は、レンジ相場から下降トレンド主体の相場展開に変化する可能性もあるため、大いに注意が必要でしょう。<津田>


【豪ドル】 RBAが豪ドル高をけん制、対米ドルの上値を抑えそう

RBA(豪中銀)は8月1日の会合で、政策金利を過去最低の1.50%に据え置くことを決定しました。

声明では、豪経済について「今後数年間の成長率は年3%前後を予想している」とし、成長率が今後高まるとの見方を示しました。豪州の今年1-3月期のGDP成長率は前年比+1.7%と、昨年10-12月期の+2.4%から鈍化しました。

労働市場についても比較的前向きなものでした。「雇用の伸びはここ数か月で強まっており、すべての州で増加している」と指摘。「先行きに関する指標は引き続き雇用の継続的な伸びを示している」と分析するとともに、「失業率は今後数年間、若干低下する」と予想しました。ただし、RBAが注視する賃金に関しては、「伸びが依然として鈍く、当面はこうした状況が続く可能性がある」とし、前回7月4日と同じ見方が示されました。

一方で、RBAは豪ドル高をけん制しました。声明では、米ドルの下落が一因となり、豪ドルはこのところ上昇していると分析。「豪ドル高は物価圧力を抑制する一因になると予想される」とするとともに、「(豪ドル高は)生産や雇用の見通しの重しにもなっている」と指摘。「豪ドル高により、経済活動の好転とインフレ率の上昇が、現在の想定よりも鈍くなる可能性がある」との見方を示しました。

RBAは声明の最後の段落で、新たに「低水準の金利が豪経済を引き続き支援している」との文言を加え、低金利の必要性を強調。そのうえで、従来と同様に「入手可能な情報を考慮すると、理事会は今回の会合で政策スタンスを維持することが、持続可能な経済成長およびインフレ目標の達成と一致していると判断した」と締めくくりました。

RBAは今回の声明で、豪経済について明るい見通しを示す一方で、低金利の必要性に言及し、豪ドル高をけん制しました。豪ドルにとって、前者はプラス材料、後者はマイナス材料と考えられるものの、市場は豪ドル高がけん制されたことを材料視し、それが8月1日以降の豪ドル/米ドル下落の一因となりました。

来週(8月7日の週)の豪経済指標発表は8日のNAB企業景況感(7月)9日のウエストパック消費者信頼感指数(8月)があるものの、相場材料として力不足の感があります。豪ドルは豪経済指標よりも、資源価格や米ドルなど他通貨の動向の影響をより受けやすい地合いになりそうです。ただし、豪ドル/米ドルが上昇する場面では、RBAの豪ドル高けん制が意識される可能性があります。上昇のペースは緩やかになるかもしれません。<シニアアナリスト 八代和也>


【NZドル】 10日のRBNZ政策金利発表に注目!!

RBNZ(NZ中銀)が8月10日に政策金利を発表します。今回は、政策金利と声明に加えて、金融政策報告の公表ウイーラー総裁の会見が行われます。それらの内容がNZドルの動向に影響を与える可能性があります。

RBNZは前回6月22日の会合で、政策金利を過去最低の1.75%に据え置くことを決定。その時の声明で、「金融政策はかなりの期間、緩和的になる」と改めて表明。「とりわけ国際的な見通しに多くの不確実性が残っており、それに応じて政策の調整が必要になる可能性がある」とし、引き続き、追加利下げに含みを持たせました。

8月10日の会合では、政策金利の据え置きが決定されそうです。NZの4-6月期のCPI(消費者物価指数)は前年比+1.7%と、1-3月期の+2.2%から上昇率が鈍化し、RBNZの5月時点の見通しである+2.1%を下回りました。ただし、RBNZは5月の金融政策報告で、CPI上昇率は4-6月期から鈍化し、2018年1-3月期に+1.1%に達した後、上昇率を再び高め、2019年4-6月期に+2.0%へ加速するとの見通しを示しました。4-6月期のCPIは、その見通しから大きく外れていないと考えられます。

政策金利が据え置かれた場合、市場の関心は声明や金融政策報告、ウイーラー総裁の会見に移りそうです。

声明では、NZドルに関する文言が焦点になりそうです。前回6月は、「NZドルの下落は、貿易部門の成長見通しのリバランスに寄与するだろう」でした。NZドル高をけん制するような文言に変われば、NZドルにとってマイナス材料と考えられます。

金融政策報告では、CPI上昇率やOCR(オフィシャル・キャッシュ・レート、政策金利)の見通しに注目です。RBNZは前回5月の金融政策報告で、CPI上昇率が2%に達するのは2019年4-6月期と予想。その見通しをもとに、2019年7-9月期の利上げを示唆しました(それまでは「据え置き」)。

市場では、RBNZが来年半ばにも利上げに転じるとの観測があります。OIS(翌日物金利スワップ)が8月3日時点で織り込む、RBNZが年内に利上げを行う確率は5.4%。利上げの確率は来年2月までで21.0%、3月までで24.7%、5月までで48.6%、6月までで53.3%へと上昇します。OISを参考にすると、市場のメインシナリオは来年6月のようです。

金融政策報告で示される想定される利上げの時期が、5月から前倒しされれば、NZドルにとってプラス材料と考えられます。一方、CPI上昇率やOCRの見通しが5月と同じ、あるいはCPI上昇率の下方修正や想定される利上げの時期が後ずれした場合は、NZドルに下落圧力が加わる可能性があります。<八代>


【南アフリカランド】 SARBの独立性をめぐる懸念がランドの重し

南アフリカランドは今週、対円で2か月半、対米ドルで3週間ぶりの安値をつけました。

ランドが下落した背景には、SARB(南アフリカ中銀)の独立性が損なわれるのでは?との懸念が挙げられます。ズマ大統領に近いとされる護民官が6月、SARBの責務を「物価の安定と通貨の価値を守る」から「均衡が取れた、持続可能な経済成長を促す」へと変更すべきだと提案。7月初めには、与党ANC(アフリカ民族会議)の政策委員会がSARBの国有化を提案しました。加えて、格付け会社のムーディーズが7月31日、「護民官の提案は、SARBの独立性低下を求める政治的圧力の強まりを示唆している」と指摘しました。独立性をめぐる懸念が後退しなければ、ランドは上値が重い展開になりそうです。

8月8日に下院でズマ大統領の不信任投票が行われる予定です。与党ANCは過半数を占めているため、不信任案は否決されるとの見方が有力な一方で、ANCから造反者が出て可決される可能性も指摘されており、予断を許さない状況です。不信任案の可否にランドが反応する可能性があるため、注意が必要です。<八代>




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