市場調査部レポート

2017/07/21 14:55ワシントンの混乱は米ドル安要因!?

【相場環境】ワシントンの混乱は米ドル安要因!?
【全体観・米ドル】対米ドル(ストレート)通貨、堅調な動きが継続か
【ユーロ】ユーロ/米ドル、上昇トレンドが継続しそう
【豪ドル】RBAの将来の利上げ観測を背景に上値を試す展開か
【NZドル】CPIは弱いながらも、米ドル安に支えられて堅調
【トルコリラ】27日のTCMB政策金利発表は声明が焦点に!?    


【相場環境】 ワシントンの混乱は米ドル安要因!?    

米ドルの実効レートが昨年8月以来の安値圏で推移しています。背景の一つは、ワシントンにおける経済政策の運営が行き詰まっていることです。夏休みを目前にして、オバマケア(医療保険制度)改革、2018年度予算、デットシーリング(債務上限)への対応があまり進んでいません。

18日には、上院でオバマケア(医療保険制度)改革法案が「死に体」となっていることが明らかになりました(下院は5月に独自の法案を可決)。オバマケアの改廃法案(オバマケアを撤廃したうえで、代替プランを導入)、撤廃法案ともに、共和党内で可決に十分な票が集まっていません。
マコネル院内総務(上院の共和党ナンバー1)は、今月28日までの会期を2週間延長して、審議を続ける意向ですが、先行きは予断を許しません。

18日には、ようやく下院共和党から10月1日に始まる2018年度の予算決議案(大枠を決めるもの)が発表されました。それは、5月下旬に発表されたトランプ大統領の予算教書をほぼ無視する内容だったようです。トランプ予算が国防費の540億ドル増額と非国防費の540億ドル削減を要請していたのに対して、予算決議案は国防費を720億ドル増額する一方で、議会で反対の強かった非国防費の削減は50億ドルにとどめています。また、予算決議案では、税制改革とその財源としての10年間2030億ドルの給付金削減が謳われましたが、詳細は明らかにされませんでした。

予算決議案が夏休み前に可決されるとしても、それを基にした具体的な予算編成は休み明けの9月5日以降となりそうです。議会がトランプ予算を無視したままの予算編成を行うのか、トランプ大統領がそれに拒否の姿勢をみせるのか。また、年度開始までの短期間に税制改革の詳細を詰めることができるのか、など非常に不透明な状況です。

9月に入ると、デットシーリングの引き上げが喫緊の課題になりそうです。CBO(議会予算局)によれば、財務省は10月上旬まで資金繰りが可能とのことですが、一方で税収など不確実な要因もあるため、デフォルト(債務不履行)を回避するために早めの対応が必要になるかもしれません。
ワシントンの政治的混乱が米ドルに下落圧力を加える状況は、まだしばらく続くかもしれません。

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20日、日銀は金融政策決定会合で現状維持を決定しました。そして、「展望レポート」で、2%物価の達成時期を従来の「2018年度ごろ」から「2019年度ごろ」へ1年先送りしました。黒田総裁は会見で、「現時点で追加緩和が必要だとは考えていない」と述べたものの、「何があっても追加緩和を考えないということではない」と含みを残しました。

20日、ECB理事会も現状維持を決定。現在の月間600億ユーロの債券購入(QE)に関して、ドラギ総裁は会見で「まだ、そこ(テーパリングの協議を始めるような経済状況)には至っていない」と述べ、「協議は秋以降に行う」と付け加えました。ブルームバーグによれば、複数の匿名のECB関係者が、テーパリングの決定は(次回9月7日ではなく)10月26日の理事会以降になるとの見通しを示しました。

ドラギ総裁の会見は「ハト派」的でしたが、最近のユーロ高について「やや注意をひいた」とだけ述べ、懸念を表明しなかったことがユーロ買いにつながったようです。それだけユーロの地合いが強いのかもしれません。

同じ20日、SARB(南アフリカ準備銀行)は政策金利を0.25%引き下げて6.75%としました。SARBの利下げは5年ぶり。クガニャゴ総裁は、物価見通しのリスクがほぼバランスするなかで、経済見通しが悪化したことを利下げの理由に挙げました。

6月以降、BOC(カナダ中銀)などいくつかの中央銀行が金融政策正常化の動きをみせていました。しかし、20日の日銀やECB(そしてSARB)の決定は、そうした動きが必ずしも主要中銀に共通しているわけではないことを示したと言えそうです。今後も、金融政策の方向性の違いが為替相場に影響を与える場面はみられそうです。

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来週は、FOMCや米GDPの発表があります。また、オバマケア改革やロシアゲートに関連して米議会の動向も気になるところです。

25-26日のFOMCでは現状維持が決定されそうです。声明文などに、今後の利上げペースに関するヒントがあるか注目です。バランスシートの縮小(債券再投資の縮小)に関するアナウンスメントがあれば、サプライズとなって米ドルがいったん上昇するかもしれません。

4-6月期GDPは前期に比べて成長率がやや高まりそうです。ただし、アトランタ連銀などの短期モデルの予測値は徐々に低下しており、景気の基調の弱さを示唆しています。

議会では、上院がオバマケア改革に関する審議に入れるかどうかが注目です。審議がストップした状況ならば、米ドルにとってマイナス材料でしょう。
ロシアゲートに関して、クシュナー大統領補佐官が24日に上院情報委員会で非公開の査問を受けるようです。また、トランプ・ジュニア氏と元選挙参謀のマナフォート氏に対して、上院司法委員会が26日に証言を要請しています。拒否された場合、同委員会は(処罰が発生しうる)召喚令状を視野に入れています。<チーフエコノミスト 西田明弘>


【全体観・米ドル】 対米ドル(ストレート)通貨、堅調な動きが継続か

ここもとの為替相場では、金融政策スタンスの強弱に伴う「キャリー・トレード」が主体となっていることは、当レポートやその他(M2TV等)でも繰り返しお伝えしている通りです。

そんな中、主要7通貨(米ドル/ユーロ/円/英ポンド/豪ドル/NZドル/加ドル)の実効レート推移にやや変化が現れてきました。以下、6月1日から7月20日における主要7通貨の実効レート騰落率推移(※)をご覧ください。(※6月1日=100として、各通貨の実効レートを指数化したグラフ)

6月下旬に開催されたECBフォーラムを起点に、各主要通貨の実効レートの強弱がより鮮明となっている中、ここもとの“最下位レース”に順位の変動が発生しています。

実効レートにおける相対的順位で堂々の最下位となっていた【日本円】が、7月半ばからやや円高方向にアンワインド(巻き戻し)の動きとなった一方(7/20時点:97.90※)で、【米ドル】がダラダラと右肩下がり(同:96.99※)となっています。(※6/1=100)

この背景にあるファンダメンタルズ材料については、上記【相場環境】に譲りますが、ここもとの為替相場における地勢図について上記グラフをもとに総括すると、金融政策スタンスの相違をベースとする「円キャリー・トレード」とともに、インフレ動向に翳りが見える米国経済を背景とした「ドルキャリー・トレード」が進展していることが見て取れます。

「ドルキャリー・トレード」の進展は、一部を除き、特段大きな個別材料が出ている訳ではないものの、ここもと堅調な推移となっている対米ドル通貨(ストレート通貨)の動き(=ユーロ/米ドル、豪ドル/米ドル、NZドル/米ドルの強さ)を見れば一目瞭然です。トランプ大統領を巡る政治的な不安定感や不透明感も米ドル安の背景となっていることもあり、当面は対米ドル通貨(ストレート通貨)が比較的堅調な動きが継続しそうです。

一方で、6月1日以降の実効レート推移率からも分かる通り、足もとでは【円安・米ドル安】となっており、その両通貨(円と米ドル)における力学関係から勘案する米ドル/円のトレンドは、横ばい基調(レンジ相場)主体の展開が想定されます。よって、当面の米ドル/円は、レンジ相場を前提とした戦略がワークしそうです。

そこで、いつもの通り、チャートを中心に今後の展開を予測したいと思います。米ドル/円・日足・スパンモデル®+21日ボリンジャーバンド+パラボリック+DMIをご覧ください。



上記チャートのメルクマール(指標)を確認していくと、1) 21日MA(21日移動平均線)が横向きであること、2) 遅行スパンがローソク足と絡み合いつつあること、3) ローソク足が青い雲(=“買い”の雲)の中にあること、そして4) DMI(方向性指数)において、-DI>+DIとなっている(上図青丸印)ことから、米ドル/円は横ばい基調(レンジ相場)主体の下押し段階の時間帯であることが分かります。

喫緊のポイントは、ローソク足が先行2スパン(≒111.56円)でサポートされるか否か。仮に、当該スパン(≒111.56円)を終値レベルで割り込んだ場合は、ボリンジャーバンド・-2σライン(≒111.00円)付近までの下押しを想定すべきでしょう。

前述した通り、ファンダメンタルズ面からの【円安・米ドル安】基調が継続すると仮定した上で、上図チャート形状から勘案する次週にかけての米ドル/円の動きは、上方および下方の硬直性相場が継続しそうです。<チーフアナリスト 津田隆光>


【ユーロ】 ユーロ/米ドル、上昇トレンドが継続しそう

早速ですが、以下、ユーロ/米ドル・日足・スパンモデル®+21日ボリンジャーバンド+パラボリック+DMIをご覧ください。

上記チャートのメルクマール(指標)を確認していくと、1) 21日MA(21日移動平均線)が右肩上がりであること、2) 遅行スパンがローソク足の上方に位置していること、3) ローソク足の下方に青い雲(=“買い”の雲)およびパラボリック・SAR(ストップ・アンド・リバース)があること、そして、4) DMI(方向性指数)で+DI>-DIとなっていること(上図赤丸印)から、ユーロ/米ドルは典型的な上昇トレンドとなっていることが分かります。

また、上図チャートでは、ローソク足が+1σと+2σラインの間で推移する【上昇バンドウォーク】となっていること、さらには、各ボリンジャーバンドが21日MAに対してパラレルに推移していることから、緩やかな上昇トレンドが継続しそうです。

【全体観・米ドル】に記載した通り、実効レートの相対的力学関係で「ユーロ>米ドル」となっていること、また、米ドル(米ドルインデックス、米ドル指数)がここもと右肩下がりの状態となっていることもあり、テクニカル面のみならず、ファンダメンタルズ面からもユーロ/米ドルの上昇モメンタムはしばらく継続すると捉えた方がよさそうです。<津田>


【豪ドル】 RBAの将来の利上げ観測を背景に上値を試す展開か

今週、豪ドル/米ドルが約2年2か月ぶり、豪ドル/円が1年7か月ぶりの高値をつけました。米ドルの下落が豪ドル/米ドルの支援材料となるなか、18日に公表されたRBA(豪中銀)議事録が一段の上昇要因となりました。

RBA議事録(7月4日開催分)では、豪経済について明るい見方を示し、「最近の労働市場のデータの強さが、賃金上昇予想の下振れリスクを一部除去した」と分析しました。

RBAは昨年8月に利下げを行った後、政策金利を据え置いています。その背景には、住宅市場への懸念(高水準の家計債務など)や軟調な労働市場がありました(住宅市場を考えれば利下げが難しく、労働市場を考えれば利上げは難しい)。そして、RBAは政策会合時の声明における労働市場に関する記述で、賃金の伸びの鈍さを指摘してきました。

議事録で、賃金上昇予想の下振れリスクが低下したとの見方が示されたことから、RBAの次の一手は利上げになる可能性がより高まったと考えることができそうです。

また、政策メンバーが中立金利について議論したことも議事録で判明。不確実性が大きいとしつつも、中立金利は3.5%前後との推定値が示されました。RBAの現在の政策金利は1.50%。中立金利について議論されたことは、RBAが利上げを視野に入れつつあることを示している可能性もあります。

RBA議事録を受けて、市場ではRBAが予想よりも早く利上げに踏み切るとの観測が浮上。市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)では、来年5月までに利上げが行われる確率が54.6%織り込まれています(7月20日時点)。利上げの確率は17日時点では42.9%でした。

RBAの利上げ観測は、豪ドルにとってプラス材料です。利上げ観測を背景に、豪ドル/米ドルや豪ドル/円は堅調に推移する可能性があります。一方で、豪ドル/米ドルは大台である0.80米ドルに接近していることから、利益確定売り圧力が強まることも想定されます。目先は伸び悩む可能性があるものの、0.80米ドルより上の水準で定着できれば、次は0.8159米ドル(2015年5月高値)が視野に入りそうです。豪ドル/円の上値メドとしては、大台の90円が挙げられます。<シニアアナリスト 八代和也>


【NZドル】 CPIは弱いながらも、米ドル安に支えられて堅調

NZの4-6月期のCPI(消費者物価指数)が7月18日に発表されました。結果は前年比+1.7%と、1-3月期の+2.2%から上昇率が鈍化。RBNZ(NZ中銀)の5月時点の見通しである+2.1%を下回り、インフレ目標(+1から3%)の中央値である+2%も再び下回りました。

市場では、RBNZが来年半ばにも利上げに転じるとの見方があるものの、CPIを受けて利上げ観測が若干後退しました。

<OIS(翌日物金利スワップ)が織り込む、RBNZの利上げ確率>
7月17日時点
・年内:16.6%、来年2月まで:32.0%、3月まで:44.7%、5月まで:56.2%、6月まで:80.1%
7月20日時点
・年内:10.4%、来年2月まで:24.7%、3月まで33.9%、5月まで:45.4%、6月まで:73.3%

RBNZの利上げ観測の後退は、NZドルにとってマイナス材料です。一方で、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げペース鈍化観測や米政局をめぐる懸念を背景とした、米ドル売り圧力の方が強いため、NZドル/米ドルは堅調に推移し、今週、2016年9月以来の高値をつけました。NZドル/米ドルの上昇に支えられて、NZドル/円も底堅い展開です。

来週(7月24日の週)発表されるNZの主な経済指標は、26日の6月貿易収支です。ただ、相場材料として力不足の感があり、NZドル/米ドルは米ドルの動向により影響を受けやすいと考えられます。クロス円であるNZドル/円は、NZドル/米ドルのほか、米ドル/円の動向にも目を向ける必要があります。<八代>


【トルコリラ】 27日のTCMB政策金利発表は声明が焦点に!?

TCMB(トルコ中銀)の政策金利が7月27日に発表されます。その結果がトルコリラの動向に影響を与える可能性があります。

TCMBはインフレ目標(+5%、その±2%が許容範囲)を採用しています。トルコのCPI(消費者物価指数)上昇率は、TCMBの目標を大きく上回っているものの、6月は前年比+10.90%と、5月の11.72%から鈍化。エネルギーや食品を除いたコアCPIも+9.20%と、5月の+9.38%から上昇率が鈍化しました。

TCMBはトルコリラ安を起因とするインフレ圧力に対応するため、事実上の政策金利となっている “後期流動性貸出金利”を今年1月、3月、4月と3会合連続で引き上げました。前回6月の会合では後期流動性貸出金利を据え置く一方、声明で「必要に応じて一段の金融引き締めを行う」と表明。追加利上げに含みを持たせました。

7月27日の会合では、金融政策の現状維持(=後期流動性貸出金利と3つの政策金利をすべて据え置く)が決まりそうです。前回会合以降、トルコリラは対米ドルで比較的安定し、インフレ率はTCMBの目標を上回っているものの、鈍化しました。そのため、TCMBが追加利上げを行う必要性は低いと見られます。利上げあるいは利下げが決定されれば、サプライズと考えられます。その場合、トルコリラが変動する可能性があります。

金融政策が据え置かれれば、市場の関心は声明に移ると見られます。市場では、TCMBの次の一手は利下げ(=後期流動性貸出金利の引き下げ)との見方があります。そのため、声明で追加利上げの可能性が残っていることが示されれば、トルコリラにとってプラス材料になりそうです。一方、利上げ打ち止め(あるいは、次の一手が利下げ)が示唆されば、トルコリラにとってマイナス材料と考えられます。<八代>


出所:Bloombergより作成




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