市場調査部レポート

2017/01/13 13:32“トランプノミクス”から“トランプノリスク”へ?

【相場環境】米トランプ政権スタート、注目ポイントは?
【全体観・米ドル】“トランプノミクス”から“トランプノリスク”へ?
【ユーロ】ユーロ/米ドル、上値の重い展開が継続しそう
【英ポンド】英ポンド/円、上方硬直性相場が続きそう
【NZドル】17日の乳製品オークションに注目。RBNZの利上げ観測は高まるか?
【トルコリラ】リラ安対策は奏功するか、最終的には大幅な利上げが必要!?


【相場環境】 米トランプ政権スタート、注目ポイントは?

1月20日、トランプ氏が大統領に就任し、いよいよトランプ政権がスタートします。

11月8日の大統領選挙直後から、トランプノミクス(トランプの経済政策)の景気刺激効果に期待するかのように、株高、金利高(債券価格は下落)、米ドル高が進行しました。しかし、いずれも12月中旬以降は頭打ちとなり、1月に入って反落しています。トランプ政権誕生を目前にして、さすがにマイナスの側面も意識されるようになったということでしょう。

選挙後初の公式会見となった11日の会見で、トランプ次期大統領が景気刺激策にあまり触れず、生産拠点を海外に移す企業への「国境税」やメキシコ国境の「壁」など、内向きを強く意識させる発言に終始したことも、相場にネガティブな材料となったようです。

米景気は昨年終盤にかけて、回復基調が強まったとみられます。また、12月の雇用統計でも示唆されたようにほぼ完全雇用を達成しており、賃金面からインフレ圧力が高まり易い状況です。2015年と2016年に1回ずつ利上げしたFRBは、2017年には複数回の利上げに踏み切りそうです。

トランプノミクスによって景気が刺激されるとの観測が強まれば、利上げのペースは加速しそうです。減税やインフラ投資によって財政赤字の拡大が懸念されるようならば、長期金利の上昇を通じても、ドルはサポートされるかもしれません。

一方で、長期金利の(過度な?)上昇を受けた景気減速・株安や、貿易保護主義の強まりなどがみられれば、ドルにとってはマイナスの材料になるでしょう。

以上から、景気や金融政策の格差を基に、米ドルが他の主要国通貨に比べて選好されやすいという点を基本軸としつつ、トランプ大統領の言動によってリスクオフで反動(ポジションの巻き戻し)が起きる局面が散見される展開を想定すべきかもしれません。

当面の注目点は、(1)トランプ大統領の就任演説、(2)議会での所信表明演説(一般教書演説)、(3)閣僚候補の議会承認などでしょう。
(1)は、選挙後の勝利演説のように「大統領らしく」振る舞うことができるか。(2)は、最優先で取り組む課題と具体的な提案が明示されるか(*)。(3)は、議会との良好な関係が築けるかなど、いずれもトランプ大統領の言動が注目されます。
(*)通常は、就任式の数日後に行われますが、今回は実施の有無を含めて確認できない状況です。

また、就任後も続けるとしている、トランプ大統領の「つぶやき」が、市場の思わぬ反応を生む可能性もありそうです。<チーフエコノミスト 西田明弘>


【全体観・米ドル】 “トランプノミクス”から“トランプノリスク”へ?

1月11日、初の公式記者会見に臨んだトランプ次期大統領

Twitterを巧みに利用し、既存メディアを一切スルーして、そのフォロワー(約1930万人)に直接的かつ一方的に“つぶやき”、その内容が日経新聞の1面にまで取り上げられるほどの注目度となっている、トランプ次期大統領ですが、初の公式記者会見は投資家からは“失望”“肩透かし”と捉えられました。

その会見要旨(抜粋)は以下の通りです。

・米大統領選中のロシアによるサイバー攻撃を認める。(トランプ氏の個人情報も流出したとのこと。)
・米情報当局と米メディアを改めて批判。(ナチスに準えて批判。米ロ関係は改めて重視の姿勢。)
・米国外に雇用を移転する企業に重い国境税を課すと警告。
・米製薬業界を強く批判。(背景には医薬品価格の大幅上昇も。)
・オバマケア(医療保険制度改革)早期撤廃の意向を示す。

投資家がトランプ次期大統領の記者会見に期待したのは、より具体的な大型財政政策の中身であり、また本国投資法(HIA2)についての言及だったところ、対ロシア関係の政治姿勢を中心に、自身の“つぶやき”において以前より言及している話題から大きくは逸れず、米ドルの強気筋の失望売りを誘う形となりました。

特に、米国外に雇用を移転する企業に重い国境税を課すとの警告についてですが、自身のtwitterにおいても、フォードやGMに対してメキシコ工場計画を大いに批判し、その後実際にメキシコ工場の移転計画が白紙撤回になるという事例も。

また、外国企業であるトヨタ自動車に対しても同様の“口撃”を行い、工場建設計画を変更しなければ、35%(ないしは38%)の関税を払え、との“脅し”を行う始末。(結局、トヨタ自動車は今後5年で100億ドル規模の設備投資を米国で行うと表明しました。)

このような、私企業の企業経営に干渉するやり方は、“債券王”ビル・グロス氏は「かつてのイタリア・ムッソリーニ時代の政策を思い出させる。」と批判し、「特定の企業や産業をピンポイントで狙い撃ちして、声明と脅迫で方針を変更させるやり方は、結果を出せないだろう。」との見方を示しました。

また、舌鋒鋭い批判で名高い、ローレンス・サマーズ元財務長官は、「“トランプノミクス”はブードゥー(呪術的)経済以下」とこき下ろし、「トランプ氏の掲げる経済政策の多くはそもそも実現しないだろう。あるものは議会を通らず、あるものは非現実的だからだ。」と突き放しました。

そもそも、トランプ氏の掲げる自国産業優先の保護主義については、歴史的にも景気悪化を招くことはよく知られており、同氏は「(トランプ次期大統領は)1930年のスムート・ホーリー法(※)を導入した、フーヴァー第31代大統領のようになるだろう。」との見方をしています。

(※)スムート・ホーリー法
フーヴァー政権下、1930年6月に成立した関税に関する法律。1929年10月に始まった世界大恐慌において、米国内産業保護を目的に農産物など2万品目の輸入関税を平均50%引き上げ。諸外国から報復措置として米国製品に高い関税をかけたことで、世界的に貿易が停滞し、結局のところ、世界恐慌の深刻さをさらに拡大することとなった「歴史的な悪法」のこと。

こういった保護主義を推し進めたフーヴァー大統領は、政治家になる前には名うての鉱山経営者として活躍し、大統領選挙時には「どの鍋にも鶏1羽を、どのガレージにも車2台を!」との景気のいいスローガンを掲げ当選。その後の政権運営にあたり、高官にビジネス経験者を多数入れていることも含めて、何やらトランプ次期大統領とよく似ていると思うのは気のせいでしょうか。

ちなみに、その後のフーヴァー大統領は、自身や取り巻きの政治経験の浅さが露呈し、恐慌時の政治対応が不十分かつ不適当であったことから、さらに景気悪化の傷口を広げる結果となり、2期目の選挙においてフランクリン・ルーズベルト氏に歴史的な大敗をしたということでも有名です。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」とは、かの独宰相ビスマルクの言葉ですが、こられの歴史的事実関係を頭の片隅に入れつつ、早晩“トランプノミクス相場”から“トランプノリスク相場”になる可能性についても、多少の警戒をしておいた方がいいのかもしれません。

閑話休題。以下、米ドル/円・週足・スーパーボリンジャー®+パラボリック+DMIをご覧ください。



上記チャートより、1) 21MA(21週移動平均線)の方向性が右肩上がりであること、2) 遅行スパンがローソク足の上方にあること、3) パラボリック・SAR(ストップ・アンド・リバース)がローソク足の下方に位置していること、さらには、4) DMI(方向性指数)で+DIが-DIの上方にあることから、米ドル/円の週足レベルでのトレンドは【上向き】と見てよさそうです。

終値レベルで+1σライン(≒114.50円)を割り込み、また、ADXの方向性が右肩下がりに変化した場合は、一旦下押しをする可能性もあり、その場合は下押しを拾う方法がワークしそうです。

特に、上図赤丸印にあるDMIにおいて、a) ADXの方向性が右肩下がりに変化し、b) ワニの口のように広がった+DIと-DIの乖離が縮小するような形となった場合は、反落のシグナルと捉えてよさそうです。

次なる注目は、次週20日に予定されているトランプ次期大統領の就任式とその演説の内容。その内容次第では、マーケットの景色がガラリと変わる可能性も考慮しながら、慎重なポジショニングを心掛けた方がよさそうです。<チーフアナリスト 津田隆光>


【ユーロ】 ユーロ/米ドル、上値の重い展開が継続しそう

以下、ユーロ/米ドルの週足・スパンモデル®+ボリンジャーバンド(21週)+パラボリック+DMIをご覧ください。



上記チャートより、1) 21MA(21週移動平均線)の方向性が右肩下がりであること、2) ローソク足の上方に赤い雲(=抵抗帯)があること、3) 遅行スパンがローソク足の下方にあること、4) パラボリック・SAR(ストップ・アンド・リバース)がローソク足の上方に位置していること、さらには、5) DMI(方向性指数)で-DIが+DIの上方にクロスしつつあること(上図青丸印)から、ユーロ/米ドルの週足レベルでのトレンドは【下向き】と見てよさそうです。

基本姿勢は『戻り売り』で、上昇余地は赤い雲の下辺である先行1スパン(≒1.0730ドル)近辺では、上値が重くなる上方硬直性相場となりそうです。

これからの時間帯は、DMIの動きにも十分留意したいところです。<津田>


【英ポンド】 英ポンド/円、上方硬直性相場が続きそう

以下、英ポンド/円の週足・一目均衡表+ストキャスティクス(スロー)をご覧ください。



上記チャートより、1) ローソク足の上方に先行スパン(いわゆる“雲”)があること、2) 遅行スパンがローソク足と絡み合う形状となっていること、さらには3) ストキャスティクス(スロー)の2本の線が「買われ過ぎ」メドのラインである80%ライン上方でクロス(=デッドクロス)していることから、ユーロ/米ドル同様、上値の重い上方硬直性相場となっています。

当面の英ポンド/円は、多少の戻り(=短期的な反発局面)では戻り売りを基本スタンスとした方がよさそうです。<津田>


【NZドル】 17日の乳製品オークションに注目。RBNZの利上げ観測は高まるか?

1月17日に乳製品電子オークション(GDT)が開催されます。オセアニアの天候不順などを受けた供給減の観測を背景に、GDT価格指数(乳製品国際価格の指標)は、2014年6月以来の高値圏にあります。乳製品はNZ最大の輸出品です。そのため、NZドルにとって乳製品価格の上昇はプラス材料、価格下落はマイナス材料です。

市場では、RBNZ(NZ中銀)が今年(2017年)後半にも利上げに転じるとの観測があります。OIS(翌日物金利スワップ)が1月12日時点で織り込む、RBNZが2017年8月まで政策金利を据え置く確率は57.9%、利下げを行う確率は0%、利上げの確率は42.1%。利上げの確率は、9月までで58.2%へと上昇します。市場のメインシナリオが「8月まで据え置き、9月に利上げ」であることが確認できます。

GDTが堅調な結果になれば、RBNZの利上げ観測が一段と高まる可能性があります。その場合、NZドルの支援材料となりそうです。<アナリスト 八代和也>


【トルコリラ】 リラ安対策は奏功するか、最終的には大幅な利上げが必要!?

TCMB(トルコ中銀)は1月12日、1週間物レポ入札を見送りました。それを受けて、トルコリラは急伸。対円は30円台半ばへと上昇しました。

1週間物レポ入札が見送られれば、商業銀行はより金利の高い手段で資金調達を行う必要が出てきます。TEB(トルコ経済銀行)によると、1週間物レポ入札の見送りによって、商業銀行の借入コストは平均0.2%程度上昇するとのこと。12日の1週間物レポ入札の見送りは、資金供給(流動性)を絞ることで市場金利を上昇させることが目的とみられます。それを事実上の金融引き締めと市場が受け止めたことで、トルコリラが急伸したと考えられます。

これに先立ってTCMBは10日、金融市場に15億米ドルのドル資金供給や、商業銀行に対して「トルコリラ借入限度の引き下げ」や「保有を義務付ける外貨準備の水準を引き下げる」などの措置を発表しました。それでも、トルコリラは下げ止まらず。トルコリラはその後、対米ドルや対円、対ユーロで過去最安値を更新しました。

TCMBは10日に、「市場の動向を注視し、物価や金融の安定を維持するために必要と判断した場合、追加措置を講じる可能性がある」と強調しており、12日の1週間物レポ入札の見送りは、トルコリラ安対応の追加措置の一つと考えられます。ただし、市場では、トルコリラ安に歯止めをかけるには、最終的にTCMBの“大幅な利上げ”が必要との見方が根強くあります。

TCMBはかつて2014年1月に、トルコリラ防衛のため、大幅な利上げを実施したことがあります。

その時の経緯は、以下の通りです。
・2013年5月、当時のバーナンキ米FRB議長が量的緩和の縮小に言及したことで金融市場が動揺(いわゆる「バーナンキ・ショック」)。
・同12月、閣僚の汚職事件が発生。内相、経済相、環境都市相が辞任。その3人を含めて計10人の閣僚を交代したことで、トルコリラ安が加速。
・2014年1月21日、トルコリラが対米ドルで当時過去最安値を更新するなか、TCMBが定例会合で3つの政策金利をすべて据え置く。それを受けて、トルコリラ安が加速。
・TCMBは“外貨(米ドル?)売り・トルコリラ買い”介入を実施するも、トルコリラ安は止まらず。
TCMBは1月28日に緊急会合を開催。1週間物レポ金利を「4.50%→10.00%」、翌日物貸出金利を「7.75%→12.00%」、翌日物借入金利を「3.50%→8.00%」へとそれぞれ大幅に引き上げました。
・TCMBの緊急利上げを受けてトルコリラは反発。ただ、その後にTCMBが利下げに転じたことをきっかけに、トルコリラは再び下落基調へ。

            米ドル/トルコリラ

*日足終値、2012/1/2~2014/12/31
出所:Bloombergより作成

TCMBの次回定例会合は1月24日。トルコは2016年7-9月期にマイナス成長を記録するなど、経済が低迷し、エルドアン大統領は利下げを繰り返し要求しています。TCMBが大幅に利上げを行うのは難しいとの見方があるなかで、24日の定例会合で2014年1月のような利上げができるのかどうか。TCMBの判断に注目です。<八代>




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