市場調査部レポート

2016/11/18 13:30“トランプ・ラリー”のドル高は重要な分岐点に?

【相場環境】「トランプノミクス」、負の側面に光はあたるか
【全体観・米ドル】“トランプ・ラリー”のドル高は重要な分岐点に?
【ユーロ】ユーロ/ドル、下げ過ぎの反動局面も
【豪ドル】豪ドルの材料に反応しにくい地合いは続きそう
【NZドル】対ドルは一段安の可能性あり。対円はレンジか
【トルコリラ】マイナス材料が目立つ。対円も注意が必要


【相場環境】 「トランプノミクス」、負の側面に光はあたるか

米大統領選挙でのトランプ氏の勝利を受けて、米株が高騰し、ドルがほぼ全面高(対ポンドでは下落)の展開となりました。トランプ氏が表明している所得税減税や大規模なインフラ投資によって経済成長率が高まる、その結果、インフレ率の高まりにより利上げペースが早まるとの観測が背景です。

議会も共和党の支配が続くことで、市場は「トランプノミクス(トランプ氏の経済政策)」が実現しやすくなったと評価しており、「トランプ・リスク」よりも「トランプ・ユーフォリア(高揚感)」が生じています。債券市場は必ずしもポジティブな反応ではありませんが、株高・ドル高が同時に起こっているということは、足元の金利上昇(=国債価格の下落)が、財政赤字拡大を懸念した「悪い金利の上昇」よりも、経済成長の期待が高まった「良い金利の上昇」の面が強いことを示唆しています。

いうなれば、「トランプノミクス」の正の側面が評価されているのでしょう。しかし、「トランプミクス」には強い負の側面もあります

不法移民の強制送還を含む移民規制の強化は、廉価な労働力の減少だけでなく、国内における購買力の低下も招きます。また、NAFTAからの脱退・再交渉やTPPへの反対、貿易相手国への強硬姿勢は、米国が自由貿易から距離を置くことを意味し、経済成長を抑制する要因となりかねません。中国やメキシコからの輸入に高い関税をかければ、輸入インフレをもたらし、相手国が報復措置をとれば、米国の輸出企業にとって大きな打撃になるでしょう。

つまり、「トランプノミクス」の下では、経済成長率が低下して、インフレ率が加速する「スタグフレーション」が示現するリスクも十分にあるということでしょう。

そして、減税やインフラ投資の財源が確保できず財政赤字が拡大すれば、「悪い金利の上昇」が起こる可能性があります。そのことも、経済成長率を抑制したり、株価を押し下げたりする方向に作用するでしょう。そうであれば、ドルは下落する可能性が高く、仮にそうした環境下でもドルが上昇するようなら、急落のリスクをはらんだ「危ういドル高」といえるかもしれません(85年9月のプラザ合意前のドル高と同じ?)。

「トランプ・ユーフォリア」はまだしばらく続くかもしれません。2017年1月20日に新政権が始動し、1月下旬ごろに一般教書演説で政策が示され、2月ごろの予算教書にその詳細が盛り込まれ、そしてその後に議会で法案の審議が始まるまで、「トランプノミクス」の全体像やその実現性は不透明なままかもしれません。

もっとも、市場は「予想」を織り込もうとするので、閣僚人事案や、議会、とりわけ共和党主流派との関係、あるいはトランプ氏自身の発言などで、「予想」は簡単に変わりうるのではないでしょうか(すでに政権移行チーム内の不協和音が漏れ伝わっています)。そうした「風向き」の変化には注意が必要でしょう

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来週は、トルコや南アフリカの中銀会合(後述)を除けば、あまり目立ったイベントはありません。

23日のFOMC議事録(11/1-2開催分)では利上げの準備が整いつつあることが確認されそうです。ただし、17日の議会証言で、イエレン議長がその旨を述べており、FFレート(政策金利)先物は12月の利上げを90%以上の確率で織り込んだので、議事録はあまり材料視されないかもしれません。「大統領選挙」がどの程度議論されたかは興味深いところです。

25日に発表される日本の10月のCPI(消費者物価)は、生鮮食料品(主に野菜)の値上がりが全体を押し上げそうですが(マイナス幅の縮小要因)、それを除くコアや食料とエネルギーを除くコアコアは引き続き低迷が予想されます。米国でインフレ期待が高まりつつあるなかで、日本の物価状況に大きな変化がなければ、金融政策の方向性の差が一段と鮮明となり、ドル円相場にプラスに作用する可能性はありそうです。<チーフエコノミスト 西田明弘>


【全体観・米ドル】 “トランプ・ラリー”のドル高は重要な分岐点に?

[ドル/円、来週の予想レンジ]
○ドル/円:108.00-111.80円

  【相場環境】にもある通り、今週の相場動意は「トランプノミクス」の一言に尽きると言っても過言ではありませんが、より正確な表現をすると「トランプノミクス期待相場」と言えるでしょう。

まさに、現在のマーケットは「期待感」「見込み」がその原動力となっており、いわば無形の力が相場を押し上げていると言ってもいいようなマーケット環境。

事実、トランプ次期大統領は、現時点ではあくまで“次期大統領”であって、12月の選挙人投票を経た後、1月20日の就任式を以て初めて米国第45代大統領に就任するわけで、現時点で具体的な政策はおろか、主要人事も正式に決まっていないという、いわばヨチヨチ歩きの状態。

あくまでマーケットの「期待感」や「見込み」が先行することで生み出されている相場状況は、後々、現実的なネガティブ材料の出現や「100日ハネムーン期間の終焉とともに“砂上の楼閣”になる可能性もあり、その場合はまさに現在の相場状況の逆流フロー(「“逆”トランプ・ラリー」)が発生する可能性も。(※政権交代後の最初の100日間は報道機関および野党が新政権に対する批判や性急な評価を避けるという伝統的な紳士協定、不文律のこと)

そのような相場環境下、一つ言えることは「株高」「金利高」「通貨(ドル)高」は共存し得ないということ。

その理由を、1999年のノーベル経済学賞を受賞した「マンデル・フレミングの法則」に当てはめて見てみると、非常に分かりやすいのかもしれません。以下、そのフロー図をご確認ください。

<トランプノミクスの論理的帰結予想>
[大型減税+大型財政出動]→[軍事費・インフラ投資の拡大]→[国債の大量発行]→[財政収支の悪化]→[実質長期金利の上昇※]→[設備投資・住宅投資等の減少](=クラウディング・アウト現象)→[株安]

※[実質長期金利の上昇]→[国内への資本流入圧力の増加]→[自国通貨高](=ドル高)→[輸出の減少、輸入の拡大](=貿易赤字の拡大)→[GDPの減少]→[株安]

「マンデル・フレミングの法則」自体は、変動相場制のもとで景気回復や雇用の増加を図るためには、財政政策よりも金融政策の方が効果的であるという理論ですが、別の観点から捉えてみると、財政出動を実施した場合のマーケットでは「金利高」「株高」「通貨(ドル)高」の3つの状態は長期的には共存し得ないという、先の結論に行き着きます。

要は、今のマーケットでは論理的に極めて矛盾した状態が継続している状態となっており、その“歪み(ひずみ)”は遅かれ早かれ瓦解すると考えた方がいいのかもしれません。そんな中、現在の相場状況を見るにあたって、参考までにジョージ・ソロス氏の以下2つの格言をご確認ください。

「市場は常に間違っている」というのは私の強い信念である。市場参加者の価値判断は常に偏っており、支配的なバイアスは価格に影響を与える。』

あらゆる矛盾は一度極限まで行く。』

相場に「正しい」「正しくない」といった主観的判断を持ち込むことはご法度と言われており、要は大多数の市場参加者のトレンドに乗るべきというのが相場のイロハですが、ジョージ・ソロス氏の言葉を再び借りると、市場参加者には元来誤謬性(すべては間違いを犯す傾向があることを前提とすること)があり、その理解力は本来的に不完全であるということも忘れるべきではありません。

あらゆる矛盾は一度極限まで行く』という言葉がある通り、現在の“トランプ・ラリー”はもしかすると「100日ハネムーン期間」の間は継続する可能性も考慮しつつ、素直にトレンドに従うというトレード・ルールを採用してみるのがいいのかもしれません。

閑話休題。以下、ドル/円・週足・一目均衡表+52週移動平均線(52MA)+DMIをご覧ください。



上記チャートは、今年1月3日の週からの週足チャートとなりますが、11月18日午前の時点で見てみると、52週間、つまり約1年間の市場参加者の平均売買コストである52週移動平均線(≒109.28円)をローソク足が上回っている状態となっています。

仮に、今週の終値レベルでレートが同線を上回った場合は、グランビルの法則で言うところの『重要な買いサイン』となり得ますが、もう一つテクニカルの観点で需要なポイントは、上図青丸で示した先行スパン(いわゆる“雲”)を突き抜けるのか、もしくは抵抗にあい圧し負けてしまうのかということ。

その確認にはもうしばらくの時間的経過が必要となりますが、仮にローソク足が先行スパン(いわゆる“雲”)を上抜けし、さらに遅行スパンがローソク足を上抜けした場合は、基準線・転換線の動きも含め【三役好転】となり得ます。

相場の方向性を示唆するDMIにおいても、18日時点では+DI>-DIとなっており、しばらくは強気トレンドが継続することになりそうです。

過去のパターン分析や経験則から言うと、上図のような一目均衡表の形状の場合は、ローソク足が抵抗帯の“雲”に圧し負ける確率の方が高そうですが、現在のトランプ・ラリーの勢いの過熱によってはその経験則が当てはまらない可能性も考慮する必要があります。

しばらくの間は、ローソク足と“雲”との位置関係とともに、遅行スパンの動向に注目が必要です。<チーフアナリスト 津田隆光>


【ユーロ】 ユーロ/ドル、下げ過ぎの反動局面も

[ユーロ/円・ユーロ/ドル、来週の予想レンジ
○ユーロ/円:115.80-119.00円
○ユーロ/ドル:1.0500-1.0800ドル

以下、早速ですがユーロ/ドル・週足・ボリンジャーバンド(21週)+パラボリック+DMIをご覧ください。



上記チャートより、1) 21MA(21週移動平均線)が下向きに変化していること、2) ローソク足が-2σラインを大きく下抜けしていること、3) パラボリック・SAR(ストップ・アンド・リバース)がローソク足の上方で点灯していること、そして4) DMIで-DI>+DIとなっていることから、下降トレンドのスタート期と捉えることが可能です。

-DIと+DIがクロスしたことが確認できたのが先週時点ということは、まだ“若い”相場と言うことができ、その分相場は不安定な動きをする可能性も。ローソク足が-2σラインを大きくオーバーシュートしていることから、下げ過ぎの反動高が訪れる局面も考慮する必要があります。

ただし、総合的なテクニカル判断では、短期的な反動高(=戻り)があったとしても、その動きは一過性の動きと捉えるべきで、基本的なトレード・スタイルは「戻り売り」でよさそうです。<津田>


【豪ドル】 豪ドルの材料に反応しにくい地合いは続きそう

豪ドルは今週、対米ドルで約4か月半ぶりの安値をつけました。米10年債利回りの上昇やFRB(米連邦準備理事会)の利上げペースが速まるのでは?との観測を背景に、ドル高が進んだことが主因です。一方、豪ドル/円は、豪ドル/米ドルの下落とドル/円の上昇の綱引きとなり、方向感に欠ける展開でした。

豪ドルにとってプラス材料はあります。中国の青島に荷揚げされる鉄鉱石(鉄分62%)価格は約2年ぶりの高値圏にあります。実需が増えているとの見方がある一方で、人民元安を背景に、中国の投資家が資産を鉄鉱石などの米ドル建てのものに移しているとの見方があるようです。鉄鉱石は豪州最大の輸出品であるため、その価格の上昇は豪経済にとってプラスと考えられます。


※鉄鉱石価格=中国の青島に荷揚げされる鉄鉱石(鉄分62%)
出所:Bloombergより作成

ただし、市場の関心は現在、米国に向いており、豪ドルの材料に反応しにくい地合いです。この状況は来週も続くとみられ、豪ドル/米ドルは、ドルの動向により影響を受けそうです。ドル高がさらに進めば、豪ドル/米ドルは一段安となる可能性があります。一方、ドル主導の相場展開では、豪ドル/円は方向感が出にくいとみられます。ここ2週間のレンジである80-82円を中心に上下を繰り返す可能性があります。<アナリスト 八代和也>


【NZドル】 対ドルは一段安の可能性あり。対円はレンジか

NZドルは今週、対米ドルで約3か月半ぶりの安値をつけました。豪ドルと同様、米10年債利回りの上昇やFRB(米連邦準備理事会)の利上げペースが速まるとの観測を背景に、ドル高が進んだことが主因です。一方、NZドル/円は、NZドル/米ドルの下落とドル/円の上昇の綱引きとなり、76-77円台での“もみ合い”でした。

NZドルの環境は比較的良好です。乳製品国際価格の指標となるGDT価格指数は、11月15日に開催された電子オークションで、前回11月1日の1001から1046へと上昇。2014年7月以来、2年4か月ぶりの高水準となりました。GDT価格指数は今年3月から約7割上昇しました。NZにおいて乳製品は最大の輸出品であり、その価格の上昇はNZドルにとってプラスと考えられます。

また、RBNZ(NZ中銀)は11月10日に0.25%の利下げを決定したものの、声明や金融政策報告で昨年開始した利下げが最終局面にあることを示唆しました。市場では、RBNZが来年中に利上げに転じるとの見方が浮上しているようです。そのこともやはりNZドルのプラスと考えられます。

ただし、市場の関心は現在、米国に向いているため、NZドルの材料に反応しにくい地合いです。来週もこの状況は続くとみられ、NZドル/米ドルはドルの動向により影響を受けそうです。現在の流れをみると、ドル高が一段と進んで、NZドル/米ドルは一段と下落する可能性があります。一方、ドル主導の相場展開になれば、NZドル/円は方向感が出にくいかもしれません。足もとのレンジである76-77円台で上下を繰り返す可能性があります。<八代>


出所:Bloomberg、GDTより作成


【トルコリラ】 マイナス材料が目立つ。対円も注意が必要

トルコリラは先月初め以降、対米ドルで下落基調が鮮明です。11月17日、対米ドルで過去最安値を更新しました。

その背景として、トルコ国内の政治不安や国外への資金流出懸念が挙げられます。

トルコ政府は10月3日、7月半ばのクーデター未遂事件後に発令した非常事態宣言を10月19日から3か月間延長することを決定。非常事態宣言下では、議会の審議を経ずに(エルドアン)大統領を議長とする閣議で政令を制定することが可能です。

その後、ユルドゥルム首相ら政府閣僚が相次いで憲法を改正するための国民投票実施に前向きな姿勢を示しました。与党AKP(公正発展党)は憲法改正によってエルドアン大統領の権限を強化することを目指しています。

さらに、トルコ当局は11月4日、対テロ捜査に関連した検察からの出頭要請を拒否したとして、クルド系野党のHDP(国民民主主義党)の共同党首2人を含む同党国会議員12名を拘束、うち7名を逮捕しました。

加えて、先週の米大統領選挙後、インフレ懸念から米国の10年債利回りが上昇し、FRB(米連邦準備理事会)の利上げペースが速まるのでは?との観測が浮上しました。トルコは経常収支が慢性的に赤字であり、その穴埋めに国外からの資金流入に依存しています。そのため、FRBが利上げすれば、トルコに流れていた資金が逆流(流出)し、トルコは経常赤字を埋めるのが難しくなるとの懸念があります。

現時点でトルコ政府はトルコリラ安をそれほど懸念していないようです。エルドアン大統領の上級顧問であるエルテム氏(経済担当)は11月17日、ドル高は世界的な波との見方を示し、対ドルでのトルコリラ安はトルコの危機を意味しないと強調。「為替レートは市場に委ねられる必要がある」としたうえで、「TCMB(トルコ中銀)は為替市場に介入しておらず、介入しないだろう」と述べました。

こうした状況を考えると、トルコリラは対米ドルで今後一段と下落する可能性があります。一方、トルコリラ/円は、ドル/円の上昇に支えられて比較的落ち着いた値動きになっています。ただ、ドル/円の上昇が一服する、あるいは下落に転じた場合、トルコリラ/円は再び下値を試す可能性もあり、引き続き注意が必要です。<八代>


出所:Bloombergより作成




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