市場調査部レポート

2016/11/11 14:08「トランプ・リスク」から「トランプ相場」へ

【相場環境】「トランプ・リスク」から「トランプ相場」へ
【全体観・米ドル】“トランプノミクス”=株高・ドル安政策に?
【ユーロ】ユーロ/ドル、典型的なレンジ相場シグナル!
【豪ドル】RBA議事録と豪雇用統計に要注意!
【NZドル】RBNZは利下げ打ち止めを示唆。NZドルは上値を試す可能性あり
【トルコリラ】下落圧力が加わりやすい地合い。注意が必要


【相場環境】 「トランプ・リスク」から「トランプ相場」へ

米大統領選挙でのトランプ氏の勝利はビッグ・サプライズでしたが、直後のNY市場の反応も大きなサプライズでした。ドルが大きく反発し、株価が上昇しました。
国内外の協調や団結を訴えたトランプ氏の勝利演説を好感したと説明されました。また、トランプ氏が減税やインフラ投資による景気刺激の意向を表明したことでNY株が大幅に反発、財政赤字懸念から米長期金利が上昇したことも、ドルの押し上げ要因となりました。

もっとも、来年1月20日に正式就任する「トランプ大統領」がどのような政策を打ち出すか、それが新しい議会の協力を得て日の目をみるのかどうかは、現時点では非常に不透明です。

上記の疑問に関するヒントは、これから出てくるでしょう。
まずは、新しい議会との関係です。大統領選挙と同時に行われた議会選挙で、共和党が上院でも下院でも過半数の議席を維持しました。現在の「分断された政府(divided government)」ではなく、大統領も議会も共和党が押さえる「統一された政府(unified government)」が誕生します。ただし、予備選の最中からトランプ氏と共和党主流派との確執が表面化していました。果たして、両者は大きな溝を乗り越えて融和できるのでしょうか。新大統領と野党民主党との関係も注目されるところです(*)。

(*)共和党は上院(全100議席)でも過半数の議席を獲得しましたが、野党による採決先送り策(フィリバスター)を阻止できる60議席以上は確保できませんでした。つまり、上院では民主党の協力がなければ、物事が前に進まないケースがあります。

次に、トランプ氏は政権移行チームを立ち上げ、オバマ政権からのスムーズな引継ぎを行おうとします。そうした中で、「トランプ政権」の主要メンバーの候補が明らかになるでしょう。トランプ氏が、良く知られた(=ある程度評価が定まっている)優秀な人材を配そうとするのか。それとも、論功行賞よろしく選挙戦で貢献したという理由だけで「身内」を据えようとするのか。とりわけ、外交、安全保障、経済の面で、国務長官、国防長官、財務長官や側近の補佐官の選択は重要でしょう。

トランプ氏が正式に大統領にするまでにも、同氏の言動を含めて様々な相場材料が出てきそうです。材料次第で市場がポジティブにもネガティブにも反応しうる、値動きの荒い展開になるかもしれません。そうした「トランプ相場」には十分な注意が必要でしょう。

*********
「トランプ勝利」に関連した思惑が市場を動かす状況は、まだしばらく続くかもしれません。ただ、一方で米FRBの金融政策にも注目が集まる可能性はありそうです。FFレート(政策金利)先物に織り込まれた12月14日の利上げ確率は10日時点で80%です。「トランプ優勢」や「トランプ勝利」の報道を受けて利上げ観測は一時大きく後退しましたが、同確率は投票日前の水準に戻っています。12月の利上げはほぼ既定路線と言って良いかもしれません。一方で、FRBは実現が不確かな経済政策を前提とした判断を下すとは考えにくいので、来年の利上げペースは引き続き緩やかなものを想定しそうです。

来週はFRBの金融政策判断に影響を与えうる米経済指標・イベントがいくつか出てきます。

10月の小売売上高(15日)は、既報の自動車販売台数が前月比増加、ガソリン価格が小幅上昇しており(=売上増加要因)、堅調な結果となりそうです。10月のCPI消費者物価(17日)も、食料とエネルギーを除くコアが前年比2%を超えるとみられ、利上げにGOサインを出しそうです(FRBはPCEほどCPIを重視していませんが)。

10月の鉱工業生産(16日)11月のNY連銀製造業景況指数(15日)と同フィラ指数(17日)は、やや弱めの結果となりそうです。

17日には、イエレンFRB議長が合同経済委員会で「経済見通し」について証言。利上げタイミングの接近を伝えるかもしれません。トランプ氏の経済政策や自身の進退について尋ねられる可能性もありますが、議長は政治的中立を守って慎重な発言に終始しそうです。ただし、財政規律の維持を訴える可能性はありそうです。14日の週は、他にはフィッシャー副議長(15日)、ブラード・セントルイス連銀総裁(16日)など多くのFOMC関係者が発言する機会があります。<チーフエコノミスト 西田明弘>


【全体観・米ドル】 “トランプノミクス”=株高・ドル安政策に?

[ドル/円、来週の予想レンジ]
○ドル/円:100.00-107.50

【相場環境】にもある通り、今週一番のサプライズは、米大統領選におけるトランプ氏の勝利。

事前の世論調査では、ほとんどの媒体がクリントン氏優勢を伝え、また前回のレポートでご紹介した統計学を使った選挙サイトでも、総論はクリントン氏勝利の確率が高くなっており、選挙の帰趨はほぼ決定済みと見られていた中での「まさかの坂」が現れた格好

しかしながら、やはり「選挙は水物」。先の英国のEU離脱を問う国民投票にもある通り、人の心情や周囲のムードといったものが支配する状況には常にカオス(混沌、無秩序)が存在し、決して予定調和にならないということを改めて確信された方も多かったのではないでしょうか。

そんな中、米大統領選挙における“通説”“ジンクス”は健在で、今回の選挙でも『オハイオを制する者は全米を制する』が当てはまり、そのオハイオ州で勝利したトランプ候補が見事第45代米大統領に当選することに。(※正確には、選挙人による投票[12月19日]を経た後、翌年1月6日の開票を以て決定。)

そのオハイオ州は、五大湖(エリー湖)周辺のミシガン州・ペンシルバニア州と合わせて『ラストベルト※3州』とも呼ばれており、かつて米国経済の繁栄の象徴でもあった工業地帯の衰退こそが、反民主党・反ヒラリーとなってトランプ候補を押し上げたと言えるのではないでしょうか。(※ラストベルト:ラスト(rust)は金属のさびのことで、現在脱工業化が進んでいる領域を表す呼称)

トランプ候補躍進の一因となり得たのは、こういった製造業が盛んな(盛んであった)地域の有権者の期待感であり、そういった有権者がトランプ候補の選挙スローガンであった『Make America Great Again』(米国を再び偉大な国にしよう)に共鳴・共感したとも言えます。

という事は、トランプ氏は今後の政権運営を進めていくにあたって、製造業重視の施策を実施するであろうことは容易に想像できます。しかも、他の経済面の政策として、中国の為替操作(=人民元安誘導)を是正するということは、今後のトランプ新政権下での為替政策の骨子は【ドル高忌避】ということになるのではないでしょうか。

当然、日本の円安誘導にも大いなる警戒感をもって接する姿勢が想像でき、今後の日銀の金融緩和政策にも少なからず影響を与えると考えた方がよさそうです。

以下参考ながら、トランプ次期大統領の主な政策(選挙公約)です。

<外交>
米国第一主義 ・同盟国に相応の負担を要請 ・ロシアとの友好・協力関係を構築
<社会>
・不法移民の送還 ・メキシコ国境に壁を構築 ・銃規制に反対 ・オバマケアの撤廃
<経済>
・TPP離脱 ・大幅減税の実施 ・中国の為替操作是正
<金融>
イエレンFRB議長の処遇(交代) ドッド・フランク法の全廃

トランプ氏自身は、一説によると第40代米国大統領であるロナルド・レーガン氏を目指しているとも言われており、仮にそうである場合、「強いアメリカ」を標榜し、軍事費やインフラ支出等の増大が為されるとの予測もされています。

仮に、“レーガノミクス”ならぬ“トランプノミクス”をもって大型財政出動を実施した場合は、財政収支における赤字の拡大と債券市場の落ち込みが懸念される一方で、景気刺激策に伴って株式市場には大いに好感されると言われています。

また、“新債券王”として名高いジェフリー・ガンドラック氏曰く、「(トランプ・ショック等で)一時的に大荒れの相場環境の時は“いい買い場”である」とも言っており、総合すると、トランプ新政権下では「株式、不動産、国際商品」については(↑)と考えていいのかもしれません。

以下参考ながら、通貨ペアと株式市場との相関係数一覧をご覧ください。



上図からは、NZドル/円や豪ドル/円といったオセアニア通貨のクロス円と、NYダウおよびS&Pといった米国株式相場との相関性が相対的に高いことが見て取れます。

仮に、トランプ新政権下で、株式市場が堅調に推移するならば、これら通貨ペア(NZドル/円、豪ドル/円)も同様に堅調推移が見込まれるのではないでしょうか。

閑話休題。以下、ドル/円・週足・ボリンジャーバンド(21週)+スパンモデル®+パラボリック+DMIをご覧ください。



上記チャートより、1) 21MA(21週移動平均線)の方向性が横向きであること、2) 遅行スパンがローソク足と絡み合いつつあること、3) ローソク足の上方に抵抗帯の“雲”があること、4) ローソク足の下方にパラボリック・SAR(ストップ・アンド・リバース)があることから、上方硬直性の強いレンジ相場が継続しそうであることが予想できます。

その他メルクマールでは、トレンドの方向性を示唆するDMIの+DIと-DIが接近していること、また各ボリンジャーバンド(シグマライン)が21MAに向かって平行移動しつつあることから、方向性の乏しい横向き基調(レンジ相場)が継続する可能性も。

足もとのドル/円は、上図チャート±2σライン(≒99.60-106.00円)を基本ゾーンと考えています。ただし、「トランプ相場」で上下動の激しい展開もあり得ることから、106円を超えた推移が続く場合は、107.50円を当面のメドと考えています。<チーフアナリスト 津田隆光>


【ユーロ】 ユーロ/ドル、典型的なレンジ相場シグナル!

[ユーロ/円・ユーロ/ドル、来週のトレンドおよびコアレンジ予想]
○ユーロ/円:レンジ相場111.70-116.80円
○ユーロ/ドル:レンジ相場1.0880-1.1340ドル

以下、早速ですがユーロ/ドル・週足・ボリンジャーバンド(21週)+スパンモデル®+パラボリック+DMIをご覧ください。



上記チャートより、1) 21MA(21週移動平均線)が横向きであること、2) 遅行スパンがローソク足のやや下方も、概ね絡み合う形状となっていること、3) 雲の形状が非常に薄くなっていること、4) ローソク足の下方にパラボリック・SAR(ストップ・アンド・リバース)があることから、典型的なレンジ相場シグナルとなっています。

その他メルクマールでは、トレンドの方向性を示唆するDMIの+DIと-DIがクロスしていること、また各ボリンジャーバンド(シグマライン)が21MAに対して平行移動していることから、当面は±2σラインをベースとするレンジ相場が継続しそうです。

当面のコアレンジは、±2σラインである1.0880-1.1340ドル。しばらくは、当該レンジをベースとするレンジプレイが継続しそうです。<津田>


【豪ドル】 RBA議事録と豪雇用統計に要注意!

来週の豪ドルは、15日のRBA(豪中銀)議事録や、17日の豪州の10月雇用統計が相場材料になりそうです。

RBAは11月1日の会合で政策金利を過去最低の1.50%に据え置きました。今回はその時の議事録です。RBAは1日の声明で、「入手可能な情報や、5月と8月の会合で金融政策を緩和したことを踏まえると、理事会は今回の会合で政策スタンスを維持することが、持続可能な経済成長およびインフレ目標の達成と一致していると判断した」とし、これまでと同様に先行きの金融政策について言及しませんでした。ただし、新たに「インフレ率は今後2年間に徐々に上向く見込み」との一文を追加したことで、市場では“RBAの利下げは打ち止め”との見方が浮上し、政策金利発表後に豪ドルが上昇しました。15日の議事録が、その見方をさらに強める内容になるのか注目です。

一方、10月の雇用統計では、失業率や雇用者数の増減のほか、雇用者数の内訳(パートタイム雇用者数、フルタイム雇用者数)にも目を向ける必要があります。

市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)が11月10日時点で織り込む、RBAが来年6月まで政策金利を据え置く確率は63.9%、利下げの確率は23.2%、利上げの確率は12.8%。市場のメインシナリオは「少なくとも来年6月まで据え置き」であることが確認できます。議事録や雇用統計を受けて、据え置き観測がさらに強まれば、豪ドルが堅調に推移する可能性があります。<アナリスト 八代和也>


【NZドル】 RBNZは利下げ打ち止めを示唆。NZドルは上値を試す可能性あり

RBNZは11月10日、政策金利を2.00%から0.25%引き下げ、過去最低の1.75%にすることを決定しました。

一方で、声明や金融政策報告、ウィーラー総裁の会見は、RBNZの利下げが最終局面にある可能性を示すものでした。

声明では、追加利下げに含みを残しながらも、「われわれの予測と想定は、本日の緩和(=利下げ)を含む政策設定によってインフレ率が目標レンジの中央付近で安定するのに十分な力強い成長が実現できると見込んでいる」としました。

金融政策報告におけるOCR(オフィシャル・キャッシュ・レート、政策金利)見通しでは、OCRは今年10-12月期の平均1.9%から2017年4-6月期に平均1.7%へと低下した後、2019年10-12月期までその水準に維持されるとの見方が示されました。政策金利は今回の利下げで1.75%になったため、RBNZは現時点で追加利下げを予想していないと言えそうです。

一方で、RBNZはNZドル高を強く懸念しているようです。ウィーラー総裁は11月10日の会見で、「利下げを見送った場合、NZドル高のリスクがあった」と述べました。

マクダーモット総裁補は同日、「NZドルは高すぎる」との見解を示し、「RBNZは強いNZドルが与える影響を懸念している」と発言。為替介入については、「RBNZは毎回の金融政策声明で為替市場に介入するための条件を評価する」としたうえで、「われわれはそれ(介入)をしないと言ったことはない」と述べました。

声明などでRBNZの利下げが最終局面にあることが示唆されたことを材料に、NZドルは今後、反発する可能性があります。ただし、ウィーラー総裁やマクダーモット総裁補の発言をみると、NZドルの上昇基調が続く場合、RBNZは追加利下げやNZドル売りの為替介入に動く可能性もあります。その点は注意が必要かもしれません。<八代>


【トルコリラ】 下落圧力が加わりやすい地合い。注意が必要

トルコリラは11月9日、対円で一時30円台へと下落し過去最安値を記録、対米ドルでも最安値をつけました。エルドアン大統領の一段の独裁化や治安への懸念からトルコリラに下落圧力が加わるなか、米大統領選挙で共和党候補のトランプ氏が勝利したことで、リスク回避の動きが強まったことが要因です。

エルドアン大統領の一段の独裁化や治安への懸念が高まった背景には、次のことが挙げられます。(1)トルコ当局が11月4日、対テロ捜査に関連した検察からの出頭要請を拒否したとして、クルド系野党のHDP(国民民主主義党)の共同党首2人を含む同党国会議員12名を拘束、うち7名を逮捕したこと。(2)拘束の数時間後、クルド人が住民の大半を占めるディヤルバクルで爆発事件が発生。イスタンブールなどで5日、HDP党首らの拘束や逮捕に抗議するデモが発生し、警察当局は催涙弾や放水車を使って対抗しました。

トルコリラ/円は米大統領選挙後のリスク回避の動きが一服したことで反発しました。ただ、トルコの政治をみると、トルコリラには下落圧力が加わりやすいとみられます。トルコリラ/円は下落基調を再び強める可能性があり、引き続き注意が必要です。<八代>




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