市場調査部レポート

2016/05/13 11:06伊勢志摩サミットの成功は円安要因か

・【相場環境】伊勢志摩サミットの成功は円安要因か
・【全体観・米ドル】ドル/円、目先は反発の可能性も!?
・【ユーロ】ユーロ/ドルの『三役好転』が間近?
・【ポンド】英金融政策は「据え置き」。Brexitに強い警鐘
・【豪ドル】下押し圧力が加わりやすい状況!?
・【NZドル】早期利下げ観測後退で、底堅い展開か
・【南アランド】格下げ懸念が重石。19日にSARBが政策金利を発表


【相場環境】 伊勢志摩サミットの成功は円安要因か

5月26-27日に伊勢志摩でG7サミット(主要先進国首脳会議)が開催されます。伊勢志摩サミットにおける最大の注目点は、低迷する世界景気のテコ入れに向けて主要先進国が経済政策で協調できるか、そしてそれを安倍首相が主導することができるか、でしょう。

以下では、伊勢志摩サミットに関わるシナリオを考察します。

(1)安倍首相が主導して、主要国が財政出動を含む経済政策で協調
日本のリーダーシップが評価されるならば、円が買われても不思議ではないかもしれません。しかし、以下の理由から、サミットの成功は円安要因と考えることが可能でしょう。

サミットの成功によって、アベノミクスはモメンタムを取り戻すでしょう。今年に入ってからの円高が経済政策の行き詰まりを突いた、仕掛け的な円買いだったとすれば、その流れが逆転するかもしれません。世界的に株価が上昇して投資家のリスクオン(選好)が強まると判断されれば、円安に向かいそうです。

さらに、日本やユーロ圏は、財政出動に加えて、金融を一段と緩和する可能性もあり、円やユーロの重石になりそうです。

また、主要国の景気回復が新興国景気にも波及するとの期待から、資源価格が上昇し、新興国通貨や資源国通貨が上昇しそうです。

通貨の強さの序列は、「新興国通貨・資源国通貨>米ドル(&ポンド)>ユーロ=円」と想定できます。各国が必要な政策を実行した結果が、仮に円安だとしても、それは容認されるでしょう。

(2)財政出動に対する独英などの反発が強く、政策協調は掛け声だけに終わる
サミットが失敗に終わるならば、上記(1)とは真逆の反応になりそうです。世界景気の回復期待が後退し、投資家のリスクオフ(回避)が強まるかもしれません。

サミットでの合意の有無にかかわらず、安倍政権は2016年度補正予算という形で財政を出動させる方向です。その他の経済対策も打ち出されるでしょう。また、日銀も「必要であれば躊躇なく対応する」はずです。それらは円安要因となりうるものでしょう。

ただし、サミットで「政策総動員」のお墨付きがなければ、主要国の足並みの乱れを見透かされて金融市場の反応は限られるかもしれません。また、日本の単独行動の結果が円安であれば、通貨安誘導の批判が噴き出す可能性もありそうです。

もっとも、サミットの評価は、「(1)成功か、(2)失敗か」というほどクリアカットではないかもしれません。むしろ、そうでない可能性の方が高そうです。そして、ずいぶん後になって初めて評価は固まるでしょう。それまでは時々で評価が変化するかもしれません。そこで、注目すべきスケジュールを以下に挙げておきます。



<チーフエコノミスト 西田明弘>


【全体観・米ドル】 ドル/円、目先は反発の可能性も!?

ドル/円は、5月GW中に2014年10月以来となる105.55円までの下落を示現したものの、売り方の利食いとともに、政府当局の介入シグナルを敏感に感じ取った投機筋のショートスクイーズ(空売りの買い戻し)等も巻き起こり、109円台ミドル付近まで値を戻す形となりました。

今週、麻生財務相による為替介入示唆発言があったものの、上記【相場環境】にも記載している通り再来週のG7伊勢志摩サミットにおいてアベノミクスのモメンタムを取り戻したい日本は、ホスト国としてこのタイミングで先進各国の足並みを乱すような単独行動ができない立場であることは誰の目にも明らか。

まさに隠忍自重の日々といったところですが、通常ならば嵩にかかって攻め上げる戦法(=さらなる円買い・ドル売りフロー)を使うであろう投機筋やファンド勢がおとなしくしているのは、やはり伊勢志摩サミット後に時を置かずして通常国会会期末(6/1)を迎えるというタイミングに尽きるのではないでしょうか。

彼らが恐れるシナリオとは、上記【相場環境】で記載した(1)シナリオが伊勢志摩サミットで現実となり、その各国協調財政出動に乗じて10兆円規模の追加補正予算+日銀による追加の三次元緩和(バズーカ)が同時に炸裂した場合。

しかも、各国協調財政出動ということは、<内需拡大>という錦の御旗が掲げられるため、その“ご威光”を利用した消費増税の凍結や2年程度の期間限定で消費税率を引き下げる(8%→5%)『平成の徳政令』を発布した上で、その信を問う衆参同時解散→同時選挙となる可能性もなきにしもあらず。

このシナリオが現実となった場合は円売り・日本株買いの『ジャパン・トレード』のリロード(再装填)となり、アベノミクス相場の第2ステージの号砲ともなり得ますが、現実論では様々な壁や制約があると考えるのが一般的と言えそうです。

ただし、一方で月足・20ヶ月ボリンジャーバンド+ストキャスティクス(スロー)を見る限り、現状は「売られ過ぎ」水準であると判断でき、多少の<アヤ戻し>はテクニカル理論上十分あり得ると考えてよさそうです。以下、同チャートをご確認ください。

USD/JPY 月足(Bid)・20ヶ月ボリンジャーバンド+ストキャスティクス(スロー) [期間:2011/2-2016/5]   

出所:M2J FX Chart Squareより作成

上記テクニカルチャートからは、(1)ローソク足(月足)が「売られ過ぎ」水準の-2σライン(≒108.57円)を非常に意識して推移していること、(2) ストキャスティクス(スロー)が「売られ過ぎ」水準である20%を割り込んでいること、から、少なからず短期的な上昇である<アヤ戻し>は十分に考えられます。

<アヤ戻し>の参考ラインとして-1σライン(≒113.40円)付近を念頭に入れつつ、基本のトレード戦略の座標軸では『戻り売り』姿勢をキープするのが得策と考えます。<チーフアナリスト 津田隆光>


【ユーロ】 ユーロ/ドルの『三役好転』が間近?

ズバリ、テクニカルチャートにおいて注目したいのが・・・ユーロ/ドル・週足・一目均衡表。

当該チャートからは『三役好転』サイン間近となっており、次週以降の段階で先行2スパン(≒1.1511ドル)を上抜けた場合は晴れて『三役好転』となります。

以下、ユーロ/ドル・週足・一目均衡表をご覧ください。

EUR/USD 週足(Bid)・一目均衡表 [期間:2015/2/15の週-2016/5/8の週]   

出所:M2J FX Chart Squareより作成

次週以降、ローソク足(週足)が先行2スパン、いわゆる“雲”を上抜けた場合は、今後数週間レベルにおいて上昇トレンドの速度が加速する可能性も視野に入れておきたいところです。<津田>


【ポンド】 英金融政策は「据え置き」。Brexitに強い警鐘

12日のMPC(金融政策委員会)で、BOE(英中銀)は金融政策の「据え置き」を全会一致で決定しました。結果はほぼ市場の予想通りでしたが、利下げを支持する委員がいなかったことで、次の一手は利上げとの観測が強まり、ポンドが上昇しました。ただ、それは長続きしませんでした。

金融政策の決定以上に注目されたのが、BOEがEU離脱、いわゆる「Brexit」に強い警鐘を鳴らしたことでしょう。

BOEは「インフレ報告」のなかで、EUから離脱した場合に不確実性の長期化、企業や消費者マインドの低下、ポンドを含む資産価格の下落などが、成長率の低下とインフレの上昇につながると分析しました。また、昨年11月以降、ポンドの実効レートは9%下落したが、そのうち半分はEU離脱に関する国民投票に起因するとしたうえで、EU離脱が決まれば「おそらく急激に」下落するとしました。

さらに、カーニー総裁は会見で、EU離脱は景気後退につながる可能性があると指摘しました。

6月23日の国民投票に向けて、EU離脱の有無に関する思惑がポンドやポンド建て資産の相場変動を大きくする可能性がありそうです。<西田>


【豪ドル】 下押し圧力が加わりやすい状況!?

豪ドル/米ドルは今週、約2か月ぶりの安値をつけました。3日にRBA(豪準備銀行)が0.25%の利下げを決定したことや、6日のRBA四半期金融政策報告が背景にあります。四半期金融政策報告では、今年の基調インフレ率見通しが2月時点の前年比「2-3%」から「1-2%」へと下方修正されました。四半期金融政策報告を受けて、市場ではRBAの追加利下げ観測が高まりました。市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)では、RBAが8月までに利下げを行う確率が56.1%織り込まれています(12日時点)。

加えて、鉄鉱石価格が再び下落しています。中国の青島に荷揚げされる鉄鉱石(鉄分62%)価格は9日、1トン54.99ドルと、1か月ぶりの安値をつけました。中国の鉄鉱石需要を測る指標のひとつとされる同国の港湾の鉄鉱石在庫が約1年ぶりの高水準となったことが背景です。

今年に入ってからの豪ドルの上昇は、RBAが当面、政策金利を据え置くとの見方や、鉄鉱石価格の上昇が背景にありました。しかし、RBAが5月3日に利下げを決定し、さらに追加利下げ観測が浮上。鉄鉱石価格は、高水準の港湾在庫を背景に軟調に推移する可能性があります。豪ドルには下押し圧力が加わりやすい状況と言えそうです。<アナリスト 八代和也>


*鉄鉱石価格・・・中国の青島に荷揚げされる鉄鉱石(鉄分62%)の価格
出所:Bloombergより作成


【NZドル】 早期利下げ観測後退で、底堅い展開か

RBNZ(NZ中銀)は5月11日、半期に一度の金融安定報告を発表、「金融安定見通しへのリスクは、過去6か月間に高まった」との認識が示されました。

住宅市場については、「オークランドの住宅価格は依然として収入に比べて高水準にあり、全国の多数の地域でも住宅価格が大幅に上昇し始めている」と指摘。「住宅市場の不均衡は引き続き拡大しており、金融の安定に対するリスクとなっている」とし、住宅市場に警戒感が示されました。

NZでは、最大都市オークランドを中心に住宅市場が過熱気味にあります。NZ政府の不動産鑑定機関であるQV(クオータブル・バリュー)によると、オークランド地域の平均住宅価格は今年4月までの1年間で16.5%上昇、過去3年間では52.2%上昇しました。

住宅価格の上昇を抑えるため、RBNZはこれまでに住宅融資規制の強化などの措置を実施。市場では、今回の金融安定報告で、住宅価格の上昇抑制に向けて新たな措置が発表されるとの観測がありました。しかし、金融安定報告では「追加のマクロプルデンシャル措置(金融市場全体の安定性を維持する政策)を講じることが適切なのかどうか判断するため、状況を注視する」としました。

新たな措置が打ち出されなかったことで、市場ではRBNZの次回6月9日の政策会合での利下げ観測が後退。市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)では、RBNZが6月の会合で利下げを行う確率が59.6%、政策金利を据え置く確率が40.4%織り込まれています(12日時点)。利下げの確率は10日時点では79.7%でした。

一方、NZの1-3月期CPI(消費者物価指数)は前年比+0.4%となり、RBNZのインフレ目標の下限である+1%を6四半期連続で下回りました。RBNZは4月28日の政策会合で、政策金利を2.25%に据え置いたうえで、声明で追加利下げを示唆したものの、利下げは過熱気味にある住宅市場をさらに過熱させる恐れがあります。

「インフレ圧力の弱さ」と「住宅市場への懸念」の狭間で、RBNZは6月の政策会合で追加利下げを実施するかどうか難しい判断を迫られそうです。

市場では、RBA(豪中銀)の追加利下げ観測が高まる一方、RBNZの早期追加利下げ観測が後退しました。そのことは、NZドルの下支え材料となりそうです。<八代>


【南アランド】 格下げ懸念が重石。19日にSARBが政策金利を発表

南アランド/円は5月6日に一時7.02円へと下落、約2か月ぶりの安値をつけました。南アフリカ国債の格下げ懸念を背景に、南アランドは足もと軟調に推移しています。

3大格付け会社のうち、ムーディーズは南アフリカに対して“投機的”、いわゆる「ジャンク」の2つ上の格付けを付与。5月6日には同格付けを再確認したものの、見通しを「ネガティブ」としており、格下げの可能性を示唆しています。フィッチは、投機的の1つ上の格付けで、見通しは「安定的」。S&P(スタンダード&プアーズ)は同じく投機的の1つ上の格付けで、見通しは「ネガティブ」となっています。S&Pは、6月3日に格付けの見直し結果を発表する予定で、そこで格下げが発表されるとの懸念があります。南アフリカの格下げ懸念が引き続き南アランドにとって重石となりそうです。

来週は、19日(木)にSARBが政策金利を発表します。SARBは前回3月17日の会合で、3回連続の利上げを決定。政策金利を6.75%から7.00%へ、0.25%引き上げました。この時の会合では、6人の政策メンバーのうち、3人が据え置き、3人が0.25%の利上げを主張して意見が割れ、最終的にクガニャゴ総裁が利上げを決定しました。

南アフリカの3月CPI(消費者物価指数)は前年比+6.3%と、SARBのインフレ目標(+3から6%)の上限を3か月連続で上回ったものの、2月の+7.0%から上昇率が鈍化。クガニャゴ総裁は4月22日、「3月のCPIはSARBの見通しに沿ったものだった」とした一方、「4月は、3月よりも上昇率が鈍化する可能性がある」との見解を示しました。

前回会合以降、ランドが対米ドルで反発したこともあり、5月19日の会合では政策金利の据え置きが決定されそうです。市場では、据え置きとの見方が有力ですが、利上げ期待もあるようです。そのため、政策金利が据え置かれた場合、南アランドは売られるかもしれません。
S&Pの南アフリカの格付け見直しの結果発表が6月3日に控えていることを考慮すると、南アランドは上値が重い展開になりそうです。<八代>


*黄色が南アフリカ国債の現在の格付け
出所:Bloombergより作成




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