市場調査部レポート

2016/05/06 14:55ドル/円、105.20円を下抜けたその先は?

・【相場環境】 政策行き詰まりは、いつまで円高材料になるのか
・【全体観・米ドル】 ドル/円、105.20円を下抜けたその先は?
・【ユーロ】 ECBは緩和的な政策を続ける方針
・【ポンド】 Brexitの可能性は若干後退か
・【豪ドル】 RBA利下げ決定、政策金利を過去最低の1.75%に
・【トルコリラ】 ダウトオール首相退任へ、党首選を22日に実施


【相場環境】 政策行き詰まりは、いつまで円高材料になるのか

今週、海外政治で2つの重要なイベントがありました。一つは、米大統領予備選でトランプ氏が共和党の指名を事実上確定させたこと。もう一つは、トルコのダウトオール首相が辞任に追い込まれたことです。

トランプ氏の指名確定そのものは相場材料とはなりにくいでしょう。ただ、それをもって、民主党クリントン氏と戦う11月の本選挙に向けたキャンペーンがキックオフされました。今後、金融市場は両候補の政策を吟味し、とりわけ優勢な候補の政策を相場に織り込もうとするかもしれません。まずは、トランプ氏が共和党をまとめられるか、そしてそのために従来の主張を曲げないかどうか、などが注目されます。

トルコの政局はよりストレートに金融市場に影響を与えそうです。エルドアン大統領が自身の権限強化に向けて再び動き出したと受け止めることができそうです。大統領が専制性を強めようとしていること、総選挙の可能性など政治の不透明感が強まること、TCMB(中央銀行)に対して緩和圧力が強まりそうなことなどは、トルコリラの下落要因になるかもしれません。

先週以降、ドル安、円高材料が相次いでいます。
4月27日に米FOMCは金融政策の現状維持を決定(利上げを見送り)、翌日に日銀も現状維持を決定しました(追加緩和を見送り)。
さらに、29日に米財務省の半期為替報告書は、新たに設けた「監視リスト」に日本を含めました。日本の対米貿易黒字や全体の経常黒字が、米国が設定した基準値を超えているためです。

FOMCの結果を受けて、次回6月会合での利上げ観測が一段と後退しました。5月2日に発表された4月の米ISM製造業景況指数は50.8と、2か月連続で製造業活動の拡大を示す「50超」となったものの、市場予想(51.4)を下回ったことで、利上げ観測を高める結果にはなりませんでした。

そして、日本がGW連休に入って市場参加者が減少したことが、仕掛け的なドル売り円買いを招き、それが相場変動を増幅した可能性もありそうです。

今年に入ってからの「円高」は、日本の経済や株など金融資産を外国人投資家が積極的に評価した結果というよりは、日本の政策行き詰まりを見切った投機的な動きによる面が大きいように思われます。そして、投機のポジションであれば、いずれは巻き戻されるはずです。

そのキッカケになりうるのは、5月26-27日の伊勢志摩サミット前後に日本の経済対策が打ち出され、6月の日銀の金融政策決定会合に向けて追加緩和期待が高まることでしょう。あるいは、米経済指標が景況改善を示し、6月14-15日のFOMCやそれ以降のFOMCに向けて利上げ観測が高まる必要があるかもしれません。<チーフエコノミスト 西田明弘>


【全体観・米ドル】 ドル/円、105.20円を下抜けたその先は?

今週のドル/円は2014年10月以来となる105円台半ばまで下落し、言うなれば同年10月31日に実施された日銀による「質的・量的金融緩和第2弾」、いわゆる第2弾黒田バズーカの弾道が“往って来い”で発射台に戻ってきたような形に。

ドル/円相場の俯瞰図を確認するために同・月足チャートを見てみると、史上最安値を付けた2011年10月安値の75.57円と、直近の高値となっている昨年6月高値の125.86円を結んだフィボナッチリトレースメントにおいて、下落局面において重要ポイントとなり得る38.2%押し水準である106.65円レベルが一つの分水嶺と考えてよさそう。

今週のドル/円相場では当該ラインをオーバーシュートした訳ですが、当面は当該ラインである106.65円レベルを強く意識する動きが継続しそうです。

USD/JPY 月足Bid チャート+フィボナッチリトレースメント  [期間:2011/1-2016/5]   

出所:M2J FX Chart Squareより作成

足もとの動きでは、2014年10月に付けた105.20円をキープできるか否かが重要なポイントですが、当該ポイントを割り込んだ場合は次の月足チャートにおけるフィボナッチリトレースメント50.0%押し水準である100.72円レベルまで一気に押す可能性も視野に入れておいた方がよさそうです。

あと、季節的な経験則上やはり気に留めておくべきは「2010年5月フラッシュクラッシュ」の記憶。

その“予兆”のきっかけとなり得る材料の一つが、先週28日の日銀会合における『ゼロ回答』に伴う円高フローの動きですが、別の視点では昨今のドル安の影響でやや一息ついていた感のある新興資源国通貨の豪ドルおよびトルコリラがここへ来てやや不穏な動きになったことでしょうか。

まずは豪ドルですが、先週27日に発表された豪州CPI(消費者物価指数)の低下に伴い、今週3日に開催されたRBA(豪準備銀行)会合において0.25%の利下げがあり、また次回会合での追加利下げの可能性が取り沙汰されていることもあり、対ドル・対円とも下値を試す展開に。

一方のトルコリラに関しては、5日にダウトオール首相が辞意を表明し、“良識派”の退場に伴うエルドアン独裁体制の強化が危惧されるトルコですが、内外情勢の不安定要素が拡大すると見たマーケットがトルコリラ売りを強める形に。

そんな中、今週はゴールデンウィークのお休みでゆっくりと静養された方が多いかも知れませんが、先述した「2010年5月フラッシュクラッシュ」はまさに日本のゴールデンウィークが明けた週の週末に発生したという事実を知っておく必要があります。

以下、「2010年5月フラッシュクラッシュ」における、ドル/円・豪ドル/円・NZドル/円・ポンド/円の5/6時のレートを100とした指数の動きをご覧ください。

「2010年5月 フラッシュクラッシュ」時 ドル/円・豪ドル/円・NZドル/円・ポンド/円の動き    [期間:2010/5/6-5/8]   

出所:Bloombergより作成

時間差を伴う動きの可能性も無(な)きにしも非(あら)ずとの観点で、過去の事例を参考にしていただければ幸いです。<チーフアナリスト 津田隆光>


【ユーロ】 ECBは緩和的な政策を続ける方針

ドイツのメルケル首相は4月27日に、「ECBの超低金利政策は、ぜい弱な欧州銀行の問題を悪化させる恐れがある」と述べました。ただ、「ECBを含めた中銀は独立しており、政治家は成長支援に注力すべき」と、改めてECBの独立性を支持しました。ワイトマン独連銀総裁も、「ユーロ圏のデフレリスクは限定的であり、緩和的な金融政策は適切」と、現在のECBの政策に理解を示しました。

ドラギECB総裁は「経済のたるみが改善し、物価動向が安定するまで、金融緩和に代わる方法はない」と述べ、現状の金融緩和策を続ける方針を明らかにしました。次のECB理事会は6月2日に開かれますが、緩和的な金融政策を据え置く可能性が高いと推測されます。<シニアアナリスト 山岸永幸>


【ポンド】 Brexitの可能性は若干後退か

調査機関ICMがインターネットを介して4月29日から5月3日に実施し、5月4日に公表した世論調査では、EU離脱支持が45%、残留支持が44%と、離脱派がわずかに残留派を上回りました。

ただ、前回(4月26日公表)の調査では、離脱支持が46%、残留支持が44%だったので、離脱派がポイントを減らす一方、残留派は横ばいで推移しており、やや残留派が増勢とみることが出来そうです。

4月22日に訪英したオバマ米大統領が残留を支持する発言を行ったことが奏功したほか、メルシュECB理事が「英国のEU離脱は、直接的な影響より間接的な影響のほうが大きい」と述べるなど、ECB幹部から「Brexit(ブレクジット、英国のEU離脱)」に対して、けん制発言が相次いだことも、離脱派の減少に寄与したかもしれません。

6月23日の「国民投票」までは予断を許さないものの、EU残留派が勢力を増せば、不透明要因の後退から、ポンドは強含みで推移するかもしれません。<山岸>


【豪ドル】 RBA利下げ決定、政策金利を過去最低の1.75%に

RBA(豪中銀)は5月3日の会合で、政策金利を0.25%引き下げ、過去最低の1.75%とすることを決定。声明の冒頭で、「利下げの決定は、インフレ圧力が予想以上に低いことを示す情報に基づく」と説明しました。

声明では、インフレについて「しばらくの間、極めて低い状態となっており、最近のデータは予想外に低かった」と指摘。そのうえで、「このような結果や、労働コストの非常に抑制された伸び、世界各地の極めて弱いコスト圧力は、インフレ見通しが従来予想よりも低くなることを示唆している」との認識が示されました。

4月27日に発表された豪州の1-3月期のCPI(消費者物価指数)は前年比+1.3%と、10-12月期の+1.7%から上昇率が鈍化。RBAがCPIとともに重視するとされる基調インフレ率は前年比+1.55%と、1983年の統計開始以来最低を記録しました。1-3月期のCPIや基調インフレ率の弱さが、今回の利下げの決定打になったとみられます。

ただし、RBAは今回、声明の最後の部分を「インフレ率が徐々に目標に戻り、経済が持続的に成長するとの見通しは、今回の会合で金融政策を緩和する(=利下げ)ことによって改善されると判断した」と締めくくり、今後の金融政策について特に言及しませんでした。前回4月は、「継続的な低インフレは、需要を支えるための一段の政策緩和余地をもたらす可能性がある」とし、追加利下げの可能性を示していました。

今後発表される経済指標などで、RBAは当面、政策金利を据え置くとの見方が市場で広がれば、豪ドルは底値を固める可能性があります。

豪州のモリソン財務相は5月5日、RBAのスティーブンス総裁の後任にロウ副総裁が就任すると発表しました(9月18日付、任期は7年)。副総裁が昇格することで、金融政策の継続性は維持されるとみられます。そのことは、豪ドルにとってプラス材料となりそうです。<アナリスト 八代和也>


出所:Bloombergより作成


【トルコリラ】 ダウトオール首相退任へ、党首選を22日に実施

トルコリラ/円は5月4日、一時35.72円へと下落、過去最安値を更新しました。「トルコのダウトオール首相が5月中に退任する」との報道が背景です。

エルドアン大統領は、憲法を改正し、現在の議院内閣制から自身の権限を強化する大統領制への移行を目指しています。この問題をめぐり、エルドアン大統領と移行に慎重なダウトオール首相の対立が表面化していました。

ダウトオール首相は5日の記者会見で、与党AKP(公正発展党)の臨時党大会を22日に開催し、党首選を実施すると発表。自身は党首選に立候補しないと表明しました。AKPの党の規則で、党首と首相は同じ人物が務めることになっているため、ダウトオール氏は首相を退任することとなります。

ダウトオール氏の後任には、アルバイラク・エネルギー天然資源相や、ユルドゥルム運輸相などが挙がっているようです。アルバイラク氏はエルドアン大統領の娘婿、ユルドゥルム氏はエルドアン大統領の長年の側近です。

市場では、エルドアン大統領が独裁色を強めることへの懸念があります。AKPの新たな党首(=新首相)にエルドアン大統領に近い人物や、大統領に忠実とみられる人物が就任すれば、その懸念が一段と強まるとみられます。トルコリラへの下落圧力が強まる可能性があります。来週は、22日のAKPの党首選をめぐる報道や憶測に、注意が必要かもしれません。<八代>




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