市場調査部レポート

2016/04/08 11:15「ドル安」というより「円高」、当局の対応は?

【概観】 「ドル安」というより「円高」、当局の対応は?

今週(4/1-)は、円が全面高。ドル円は一時2014年10月29日以来となる107円台を示現しました。ただ一方で、ドルが円を除く主要通貨に対して上昇したので、「ドル安」というよりも「円高」の意味合いが強かったようです。

主要通貨の対円騰落率(4/1-4/7)

出所:Bloombergより作成

先週のイエレン米FRB議長の講演を受けて、市場の利上げ観測がやや後退したのは事実でしょう。しかし、上述のようにドルが円以外の通貨に対して上昇したこと、3月雇用統計やISM非製造業指数が比較的良好だったことから、今週に限ればドル安円高の主因は米利上げ観測の後退ではないように思われます。

ではなぜ、「円高」なのでしょうか。

日銀が2013年4月以降、量的質的緩和を継続・強化してきたにもかかわらず、「早期に達成する」としていた2%の物価目標に遠く及ばない状況が続いています。今年1月のマイナス金利導入後、市場金利は狙い通り大幅に低下しましたが、一方で為替相場が円高方向に振れたことで、「日銀の金融緩和=円安」とのストーリーも書きづらくなったのかもしれません。

そして、日銀の金融緩和だけでなく、そもそものアベノミクスに対する疑念も強まっているようです。「大胆な金融緩和」を除けば、安倍首相が掲げた「三本の矢」、あるいは「新三本の矢」によって、アベノミクスが着実に前進しているとの印象はありません。足元では消費増税の再延期に向けた動きがみられ、また運用見直しを行ったGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が株式や外貨建て資産で大きな含み損を抱えるなど(短期間で評価すべきではないでしょうが)、負の側面も目立ってきました。

そうしたなか、2月27日に閉幕した上海G20(財務大臣・中央銀行総裁会議)では、競争的な通貨安を目的としないことが改めて確認されました。「円高」が経済成長や物価上昇を阻害すると判断されれば、追加緩和を含めて対策を講じることはG20の精神に反するわけではありませんが、日本政府も日銀も動きづらいということはあるかもしれません。ましてや、ドル円が100円前後とみられる購買力平価(PPP)から大きく下方にかい離しているわけではないため、安倍首相が敢えて否定しなくても、円売りドル買いの介入は難しいはずです。あるとすれば、円高の急激なペースをけん制する場合に限られそうです。

そうした状況下で、投機的な、あるいは日本当局の対応を試すような円買いが入っているのではないでしょうか。そうであれば、日本経済ファンダメンタルズや経済政策を評価する「前向きな円買い」とは言えず、短期間で資金の流れが逆転する可能性もありそうです。ただし、しばらくは一段の円高進行に注意が必要でしょう。

来週は、ベージュブック(地区連銀経済報告)、3月の小売売上高やCPI(消費者物価)など、米国の経済指標が発表されます。前回3月上旬のベージュブックでは「ほとんどの地区で景気は拡大」と総括されたものの、内容はやや弱めでした。そこから改善が見られるかどうかに注目です。小売売上高はガソリン価格の反発がプラス要因となる一方で、自動車販売の減少が足を引っ張りそうです。CPIは食料とエネルギーを除くコアが2月に前年比+2.3%と伸びを高めており、さらなる上昇は利上げをサポートする要因となるかもしれません。

中国の1-3月期のGDPが発表されます。結果が良ければ信用されず、悪ければ中国経済への懸念が強まるというように、市場の反応は非対称となりそうです。

BOC(カナダ中銀)やBOE(英中銀)の会合では、いずれも金融政策の現状維持が決定されそうです。<チーフエコノミスト 西田明弘>


【米ドル】 市場の見方は「年内は利上げ見送り」が優勢に

3月のFOMCでは、日付ではなく、経済データの評価が将来的な調節(=利上げ)のタイミングやペースを決定する点で意見が一致しました。

そのうえで、多くの参加者が経済成長を抑制する向かい風は「ゆっくりとしか」弱まらないと判断しました。

そして、数人(several)は、利上げに対する慎重なアプローチが適切であると考えたか、あるいは4月に利上げするのは「急いでいる」との印象を与えてしまうとの懸念を表明しました。

その他の数人(some)は、今後の経済データが予想通りならば、次回に利上げをすることが正当化されるかもしれないと指摘しました。

慣例的には、「some」よりも「several」の方が、数が多いので、4月利上げ見送りが主流、利上げ実施が少数派と考えることができそうです。

FFレート(政策金利)先物によれば、7日時点で市場が織り込む「利上げ」の確率は、4月がゼロ%、6月が16%、年内が48%となっています。換言すれば、年内据え置きの確率が52%となり、メインシナリオになったということです。<西田>


【ユーロ】 「ギリシャへの財政支援問題」が再燃する兆し

先週に引き続き、ユーロ側からの相場材料に乏しく、ユーロ/米ドルは週間を通じて、ほぼ横ばい推移となりました。

ただ、足もと「ギリシャへの財政支援問題」が再燃する兆しがみられることに、注意が必要かもしれません。

IMFとECB、ESM(欧州安定化メカニズム)、欧州委員会は4日にアテネで最新のギリシャ救済プログラムの付帯条件をめぐる交渉を再開しました。しかし、ギリシャ政府は追加的な年金給付の削減に慎重といわれ、ギリシャ向け債務の大幅な軽減策を求めているIMFの追加支援への参加が危ぶまれています。

ECBのノボトニー理事は「ギリシャの財政状況の安定化に向けたIMFの支援はもはや不要」との見方を示すなど、「ギリシャへの財政支援問題」についてユーロ圏諸国からの発言も増え始めています。

8日時点、米国の追加利上げピッチ鈍化観測の高まりから、対米ドルでユーロが強含みで推移していますが、ギリシャ問題のみならず、難民問題などユーロ圏が抱える問題は多岐にわたり、ユーロ/米ドルの上値を抑えるかもしれません。<シニアアナリスト 山岸永幸>


【ポンド】 Brexit懸念が強まり、ポンド/円は2013年以来の安値に

6日に公表された世論調査(ICMによる)で、EU残留支持が44%、離脱支持が43%と拮抗(きっこう)し、Brexit(ブレグジット、英国のEU離脱)懸念が強まりました。6日の欧米市場でポンド/円は一時154.47円と、2月24日安値を下回り、2013年9月以来の安値を記録しました。

先週発表された10-12月期経常収支や3月製造業など英国の経済指標の一部が市場予想を下回る結果となったことも、Brexitの影響懸念に繋がったようです。

Brexitの是非を問う国民投票は6月23日に実施されますが、それまでの世論調査の結果はマチマチとなる公算が大きく、同問題は暫くの間、ポンドの重石として残りそうです。<山岸>


【豪ドル】 14日の3月雇用統計に注目、RBAの金融政策に影響しそう

RBA(豪中銀)は5日、政策金利を過去最低の2.00%に据え置くことを決定。据え置きは10会合連続です。

声明では、据え置いた理由を「目標に近いインフレを維持しつつ、経済成長が持続すると予想することが合理的であると判断した」ためと説明しました。

今後の金融政策については、「今後、新たな情報に基づいて、理事会はインフレ見通しや昨年明確になった労働市場の改善が継続するかどうかを判断する」と表明。そのうえで、「継続的な低インフレは、需要を支えるための一段の政策緩和(=利下げ)余地をもたらす可能性がある」とし、景気支援のために必要ならば、追加利下げを実施するとの姿勢が改めて示されました。

豪ドルは先月、対米ドルで昨年7月以来の高値をつけるなど、前回会合以降、豪ドル高が進行しました。そのため、今回の声明では、豪ドルに関する文言が焦点でした。

声明では、「豪ドルは最近やや上昇した。商品価格の上昇を反映したものだが、海外の金融状況も背景にある。現在の環境下では、通貨高は進行中の経済の調整を複雑にする可能性がある」と指摘するにとどめ、豪ドル高を強くけん制する表現ではありませんでした

市場では、RBAの利下げ観測が根強くあります。市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)では、7日時点でRBAが今年8月までに利下げを行う確率が63.0%織り込まれています。

RBAはインフレ動向や労働市場を注視する姿勢を示しました。インフレ見通しが下ブレしたり、労働市場が悪化する場合、RBAは追加利下げに踏み切る可能性があります。

そのため、来週木曜日(14日)に発表される3月雇用統計は、RBAの今後の金融政策に影響を与える可能性があるため、注目です。

昨年の鉄鉱石価格の下落局面、そして今年初めに中国など世界の金融市場が動揺した状況下でも、RBAは政策金利を据え置きました。そう考えると、RBAの追加利下げのハードルは高いとみられますが、それでも雇用統計が弱い内容になれば、RBAの利下げ観測が高まる可能性はあります。その場合、豪ドルの上値を抑える要因になるかもしれません。<アナリスト 八代和也>


【NZドル】 独自材料に欠け、他通貨の影響を受けやすい状況か

5日に開催された乳製品電子オークションで、乳製品国際価格の指標であるGDT価格指数は、641となりました。前回3月15日の628から若干上昇しましたが、依然として過去12年の安値圏にあります。

RBNZ(NZ中銀)は3月10日の政策会合で、政策金利を過去最低の2.25%へと引き下げました。利下げを決定した背景として、昨年12月以降に世界の経済成長見通しが悪化したことや、国内のインフレ期待の低下を挙げました。

ただし、乳製品は輸出全体の約3割を占めるNZ最大の輸出品であり、その価格動向はNZ経済に影響を与えます。昨年実施された4回の利下げは、乳製品価格の下落による国内の経済見通しの悪化が一因でした。そのため、乳製品価格の下落は、先々の追加利下げにつながる可能性があります。

来週は、NZの主要な経済指標の発表がありません。独自材料に欠けることから、NZドルは米ドルや円など他通貨の影響を受けやすい状況となりそうです。<八代>


【トルコリラ】 TCMB総裁の任期満了迫る、後任総裁人事に市場の関心が向く可能性も!?

4日に発表されたトルコの3月CPI(消費者物価指数)は前年比+7.46%と、TCMB(トルコ中銀)のインフレ目標(+5%、±2%が許容範囲)を上回ったものの、2月の+8.78%から上昇率が大幅に鈍化。昨年8月以来の低い伸びとなりました。

TCMBは3月24日の政策会合で、世界の金融市場のボラティリティ低下を理由に、3つの政策金利を最終的に一本化する「単純化」措置を開始。主要政策金利である1週間物レポ金利を7.50%、翌日物借入金利を7.25%に据え置く一方、翌日物貸出金利を10.75%から0.25%引き下げ、10.50%とすることを決定しました。

金融市場が落ち着いた状態が続けば、TCMBは今後も小幅ずつ単純化措置を進めるとみられます。CPI上昇率が鈍化したことで、単純化措置を進めやすくなるかもしれません。それが翌日物貸出金利を下げることで行われるならば、トルコリラにとってマイナス材料となりそうです。

TCMBのバシュチュ総裁が4月19日に任期を迎えます。バシュチュ総裁が続投するのか、それとも新たな人物が総裁に就任するのか、決まっていません。

市場の関心は米FRBの次回利上げ時期などに向いていることで、トルコリラはトルコの材料には反応しにくい状況です。

ただし、バシュチュ総裁の任期満了が迫る中、TCMBの総裁人事に市場の関心が向く可能性もあります。後任総裁が決まらない状況は、トルコリラにとってマイナス材料です。また、後任総裁が決まったとしても、「利下げを行えば、インフレ率が低下する」と、TCMBに対し利下げ圧力を強めるエルドアン大統領に近い人物であれば、市場ではTCMBは積極的に利下げを実施するとの見方が広がるかもしれません。その場合、トルコリラに下押し圧力が加わる可能性があります。トルコリラにとって最も好ましいのは、バシュチュ総裁の続投かもしれません。<八代>



 

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