市場調査部レポート

2016/03/11 11:45日米金融政策の注目点

【概観】 日米金融政策の注目点

3月に入って通貨の強さの序列は概ね、「資源国・新興国通貨>ユーロ>ポンド>ドル>円」となっています。資源価格や株価の反発からも、リスク回避の後退がみてとれます。今週、サプライズの利下げがあったNZドルが下落する一方、ECBの追加緩和後にドラギ総裁が一段の利下げに否定的な発言をしたことでユーロは反発しました。英国のEU離脱懸念から先週大幅に売られたポンドは、その反動が出た格好です。

3月14-15日には日銀の金融政策決定会合、15-16日には米FOMCが開催されます(金融政策発表の時差は40時間足らず)。日米金融政策の注目点は、日銀が追加緩和、FRBが利上げという方向性の違いが一段と鮮明になるかどうかでしょう。

ただし、米国の年内利上げ観測が再び高まってきたなかでも、ドルの実効レートは低迷しており、ドルの地合いの悪さを示しています。ドル円が積極的に上値を追う展開となるためには、日米の実際の金融政策変更や、それらが差し迫っていることが示される必要があるかもしれません。現時点で、そこまでは期待できないでしょう。

日銀の金融政策決定会合:追加緩和のカードは温存か
3月10日にRBNZ(ニュージーランド中銀)が、11日にECBがそれぞれ金融緩和に踏み切ったように、世界経済や金融市場に関する懸念は根強くあります。また、2月以降も円高で推移していることもあって、日銀が追加緩和に踏み切るとの期待もあります。

先のG20財務相・中央銀行総裁会議では、経済成長のために各国があらゆる政策を検討する方向が打ち出されました。日本でも、2016年度補正予算の策定、2017年4月に予定されている消費税再増税の延期などとともに、一段の金融緩和が検討されることは自然でしょう。

ただし、日銀は前回1月29日にマイナス金利の導入を決定しました。マイナス金利の適用は2月16日に始まったばかりなので、日銀はまだしばらくその効果を見極めたいところでしょう。

また、2014年10月31日のハロウィーン緩和では、直後に安倍政権が消費税再増税の延期を打ち出したことで、日銀はハシゴを外されて苦い思いをしたはずです。その轍を踏まないためにも、日銀は追加緩和を強く示唆しつつも、そのカードを温存するのではないかと思われます。

FOMCの「タカ派」度はいかほどか?
FOMCでは金融政策の現状維持が決定されそうです。注目は、昨年12月に続く追加利上げに関してどれだけ前向きな姿勢、いわゆる「タカ派」度が示されるかでしょう。2月中旬には市場における「年内利上げ」の期待はほぼ消滅しましたが、その後の米経済指標の改善などを受けて、足元では「年内1ないし2回の利上げ」が有力な見方となっています。

FOMC直後の会見で、イエレン議長は景気や物価の下方リスクを慎重に監視しつつ、「ゆっくりとした」利上げを続ける意向を表明しそうです。また、FOMC参加者の政策金利見通し(中央値)は「年内2ないし3回の利上げ」を示唆すると予想されます。

以上の基本シナリオに対して、実際の結果がどの程度かい離するか、それらに対して金融市場がどのように反応するか。日銀会合の結果発表からFOMCの結果発表まで、大変興味深い40時間になりそうです。<チーフアナリスト 西田明弘>


【米ドル】 大統領予備選は3月15日が次のヤマ場

ドルの実効レートが軟調な展開となっている一因は、大統領予備選において有力候補がTPP反対や移民制限など、国際社会への配慮を欠いた内向きの姿勢を鮮明にしていることかもしれません。民主党、共和党の指名候補が絞られてくれば、それぞれの提唱する政策が一段と精査されて、相場材料になりそうです。



大統領予備選は3月15日に次のヤマ場を迎えます。大票田フロリダを含む5つの州で予備選があり、3月1日のスーパーチューズデーに次ぐ規模で代議員の行方が決まります。

クリントン氏は民主党の指名獲得に必要な2,383人の51%にあたる1,222人の代議員を獲得しています。3月15日に決定する792人のうち大半を獲得することができれば、党指名をほぼ確実にするかもしれません。

共和党では、トランプ氏がリードしていますが、それでも獲得代議員は指名獲得に必要な1,237人の37%にあたる458人に過ぎません。2位のクルーズ氏も359人を獲得しており、一気の逆転も不可能ではありません。共和党では、フロリダやオハイオなど、1位が州の代議員を総取りするウィナー・テーク・オール方式の州が増えるからです。もちろん、トランプ氏がスパートする可能性もあります。

他方、苦戦するルビオ氏やケーシック氏は地元(前者がフロリダ、後者がオハイオ)で勝利できなければ、撤退を余儀なくされそうです。3月15日に決定する共和党の代議員数は367人です。<西田>


【ユーロ】 思い切ったECB追加緩和も「出尽くし感」台頭か!?

ECBは10日の会合で、利下げや資産購入の拡大などの大幅な追加緩和を決定しました。

具体的には、(1)主要政策金利であるレポ金利を0.05%から0.0%へ、(2)貸出金利を0.30%から0.25%へ、(3)預金金利をマイナス0.30%からマイナス0.40%へ、それぞれ引き下げ。QE(量的緩和)については、(4)月間購入額を600億ユーロから800億ユーロに増額、(5)購入対象の拡大(国債に加え社債も対象に)、(6)対象限定型の長期融資(TLTRO)を6月に開始、という内容です。

市場では、預金金利の引き下げ、QEの購入額増加(月額100億ユーロ増額)、追加のLTRO導入を予想していましたが、レポ金利や貸出金利の引き下げ、QE増加額上乗せ(月額200億ユーロ増額)、購入対象の拡大など市場予想を上回る「てんこ盛り」の内容で、発表直後にはユーロ安・米ドル高が進行しました。

しかし、現状で打てる手は全て打ったと感じさせる追加緩和の内容が「(追加緩和期待の)出尽くし感」に繋がったこと、ドラギECB総裁が会見で「追加利下げの可能性は低い」と発言したことから、追加緩和観測が後退し、ユーロ/米ドルは発表直前よりもユーロ高・米ドル安へと振れ直しました。

ECBの追加緩和観測の後退で、ユーロはしばらく強含みで推移するかもしれません。2月以降、26週線水準の1.1ドルを挟んだ上下動が続いたユーロ/米ドルは、目下の上値節目である1.12ドルを大きく超えると、同水準が中心線となる可能性も考えられるでしょう。

ただ、今回の思い切った追加緩和の効果が表れない場合や、グローバルな株価暴落などリスクオフが極度に強まる場合には、ECBへの追加緩和圧力が再び高まる可能性も考えられます。その際には、これまでの中心線だった1.1ドルが目先節目に、さらに下振れする場合には10日の安値1.082ドル近辺が下値節目として意識されそうです。<シニアアナリスト 山岸永幸>


【ポンド】 「プロジェクト・フィアー(恐怖作戦)」が奏功!? EU残留派がやや優位に

BOE(英中銀)のカーニー総裁は8日の議会証言で「BOEはEU離脱・残留について賛否を述べない」との立場を表明する一方で、「EU加盟は過去英国経済にプラスに働いている」「EUを離脱すればロンドンに拠点を置くグローバルな銀行が英国から移転するだろう」と残留派寄りの意見を述べました。

EU離脱派は、離脱に否定的な空気を醸成しようとするキャメロン政権の陰謀であり、「プロジェクト・フィアー(恐怖作戦)」だと反論しています。

直近7回のFT紙による世論調査の平均値では、残留派が46%、離脱派が41%と、やや残留派が上回っていますが、ほぼ拮抗(きっこう)しています。6月の国民投票まで紆余曲折がありそうです。

日本時間17日21時に、BOEは政策金利を発表します。市場予想は政策据え置きです。足もとの原油価格の回復や、市場予想を上回った1月小売売上などがあるものの、2月製造業PMIなど一部に弱さも残るため、「次の一手」といわれる利上げには踏み切れないと推測されます。<山岸>


【カナダドル】 BOCが政策金利据え置きを決定、原油高もカナダドルの下支えに

BOC(カナダ中銀)は3月9日の政策決定会合で、政策金利据え置きを決定しました。据え置きは5会合連続となります。声明では「インフレリスクはおおむね均衡」「インフレリスクに対する政策は適切」と記され、経済の短期的な見通しは1月時点の評価と変わりないとの認識を示しました。

トルドー政権は22日発表の予算案に景気刺激策を盛り込む見通しです。BOCは4月に公表する経済見通しで、政府の景気対策の評価を明らかにするとしています。

カナダドルとの連動性が高い、WTI原油先物も9日時点で38ドルと昨年12月以来の高値を付けており、カナダドルの下支えとなりそうです。<山岸>


【豪ドル】 悪材料への反応鈍く、引き続き堅調に推移か

今週、豪ドル/円は約1か月、豪ドル/米ドルは約8か月ぶりの高値をつけました。足もとの豪ドルの上昇は、原油価格の反発を背景にリスク回避の動きが後退したことや、堅調な豪州の経済指標、そして鉄鉱石価格の上昇が支援材料となっています。

市場ではRBA(豪中銀)の追加利下げ観測が後退しました。市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)が織り込む、8月までに利下げが行われる確率は、2月29日の71.9%から3月10日には48.7%へと低下。8月までのRBAの政策金利に対する市場のメインシナリオが「利下げ」から「据え置き」へと変化したことが確認できます。

RBAのロウ副総裁は8日に「賃金の継続的な低い伸びは、CPI(消費者物価指数)上昇率が比較的低い状態であり続ける可能性が高いことを意味する」と指摘。そのうえで、「低インフレの見通しは、需要の伸びを支援するうえで適切な場合の金融政策緩和(=利下げ)の余地をもたらす」と述べ、改めて必要な場合に追加利下げを実施する可能性を示しました。

同日に発表された最大の輸出先である中国の2月貿易統計は、総じて弱い内容でした。貿易収支が325.9億ドルの黒字、輸出が前年比25.4%減、輸入が13.8%減。それぞれ市場予想の507.5億ドルの黒字、14.5%減、12.0%減を下回り、輸入が2009年5月以降最大の落ち込みを記録、輸入は1年4か月連続でマイナスとなりました。

ロウ副総裁の発言や中国の貿易統計の結果は、豪ドルにとってはマイナス材料です。ただ、こうしたマイナス材料への反応が鈍く、鉄鉱石価格の上昇などプラス材料により反応しやすい状況をみると、豪ドルの地合いは強いと言えるかもしれません。豪ドルは引き続き堅調に推移しそうです。

ただ、豪ドル/円は、90日および120日移動平均線が、上値抵抗線として機能しています。前回の上昇局面ではこの2本の移動平均線を超えられずに反落、今回も10日にいったん越えましたが、結局NY終値ベースで下回りました(下図の橙の丸で囲んだ部分)。

90日・120日の移動平均線をNY終値ベースで超えた場合、テクニカル的に上昇圧力が高まる可能性があります。200日移動平均線に向かう展開になるかもしれません。移動平均線は10日時点で、90日が85.01円、120日が85.30円、200日が87.38円に位置します。<アナリスト 八代和也>

豪ドル/円(日足、2015/7/31-)

出所:M2J FX Chart Square


【NZドル】 RBNZが利下げを決定、追加の可能性を示す

RBNZ(NZ中銀)は10日の政策会合で、追加利下げを決定。政策金利を2.50%から過去最低の2.25%へと引き下げました。利下げは昨年6月以降、5回目です。

声明では、昨年12月の金融政策報告以降、世界の経済成長見通しが悪化したと指摘。その要因として、中国や他の新興国市場の弱い成長や欧州経済の減速、金融市場の高いボラティリティ、商品価格の低迷を挙げました。

NZ国内経済については、移民の増加、パイプラインなどの建設が活発な一方で、酪農部門が困難に直面しているとの見解を示しました。

NZドルについては、「貿易加重ベースで昨年12月時点の予想を4%超上回っている」と指摘したうえで、「輸出商品価格の弱さを踏まえると、さらなる下落が適切」との認識を示しました。

また、今回新たに“インフレ期待の低下”に言及。長期インフレ期待は2%近辺でしっかり抑制されている一方、インフレ期待のレンジが大幅に低下したと指摘し、「インフレ期待の低下は将来のインフレ率を抑制するリスクを高めるため、これ(インフレ期待の低下)は懸念材料」と強調しました。

今後の金融政策については、「将来の平均インフレ率が目標レンジの中央近辺で安定するのを確実にするため、追加の政策緩和(=利下げ)が必要になる可能性がある」との見解を示し、追加利下げを示唆しました。

声明をみると、今回の利下げは、世界の経済見通しの悪化や国内のインフレ期待の低下が理由のようです。

また、RBNZは声明と同時に、四半期に1度の金融政策報告を公表しました。その中で、政策金利の方向性の目安になると考えられている90日物銀行手形金利は、今年1-3月期の2.6%から来年半ばまでに2.1%へ低下するとの見通しが示されました。RBNZの政策金利は10日の会合で2.25%となったため、90日物銀行手形金利を参考にすると、あと1回利下げがあるとの見方ができます。


出所:RBNZ

RBNZが利下げを行い、さらに追加利下げを示唆したことは、NZドルにとってマイナス材料です。

ただ、現在の市場の関心は各国の株価や原油価格の動向に向きがちで、来週は主要な中央銀行が相次いで金融政策を発表します。15日に日銀、16日にFRB(米連邦準備理事会)、17日にBOE(イングランド銀行)です。

そう考えると、RBNZの今回の利下げは、NZドルを一段と売り進める材料にはならないかもしれません。<八代>


【南アランド】 17日のSARB政策金利発表、市場の見方は分かれる

17日(木)にSARB(南ア中銀)が政策金利を発表します。SARBは前回1月28日の政策会合で、0.50%の利上げを決定(6.25%から6.75%へ)。クガニャゴ総裁は会見で、「SARBは依然として利上げサイクルにある」と明言し、追加利上げを示唆しました。

その後発表された南アフリカの1月CPI(消費者物価指数)は、ランド安と食品価格の上昇を主因に前年比+6.2%と、12月の+5.2%から加速。2014年8月以来の強い伸びとなり、SARB(南アフリカ中銀)のインフレ目標の上限である+6%を上回りました。

一方で、資源価格の下落などにより、南アフリカ経済は減速しています。10-12月期のGDPは前年比+0.6%と、7-9月期の+1.0%から上昇率が鈍化しました。

CPIをみると、17日の会合で追加利上げが決定されてもおかしくありません。ただ、追加利上げに踏み切れば、景気を一段と冷やすおそれがあります。また、過去2回の利上げの一因となったランド安は足もと落ち着いています。そのため、17日の会合では政策金利は6.75%に据え置かれる可能性の方が高そうです。

ブルームバーグのエコノミスト調査によれば、10人のうち6人が据え置き、4人が0.25%の利上げを予想しています。見方が分かれているだけに、ランドは結果には素直に反応するかもしれません。<八代>


出所:Bloombergより作成




※当レポートは、投資や運用等の助言を行うものではありません。また、お客様に特定の商品をお勧めするものでもありません。

※当レポートに記載する売買戦略はテクニカル指標その他を基に客観的に判断しているものであり、相場の行方を決定付けるものではありません。最終的な投資判断はご自身の意思判断によりお取引いただきますようお願いいたします。

※当レポートのデータ情報等は信頼できると思われる各種情報源から入手したものですが、当社はその正確性・安全性等を保証するものではありません。

※相場の状況により、当社のレートとレポート内のレートが異なる場合があります。

バックナンバー

  • 2018.08.17 更新トルコリラは流動性低下に要注意各通貨ペアの投資戦略については「Weekly投資戦略ガイド」をご参照ください。原則、毎月曜更新(次回は8月20日)です。◆ファンダメンタルズ◆<<相場環境>> …
  • 2018.08.10 更新トランプの戦争2各通貨ペアの投資戦略については「Weekly投資戦略ガイド」をご参照ください。原則、毎月曜更新(次回は8月13日)です。◆ファンダメンタルズ◆<<相場環境>> …
  • 2018.08.03 更新米中貿易摩擦と日米通商協議各通貨ペアの投資戦略については「Weekly投資戦略ガイド」をご参照ください。原則、毎月曜更新(次回は8月6日)です。◆ファンダメンタルズ◆<<相場環境>>  …
  • 2018.07.27 更新【マンスリー・アウトルック(2018/8)】「通商交渉」の夏― 2018年8月の為替相場展望 ― 《相場環境》8月は通商交渉の行方が相場材料になりそう。米中通商交渉(対中追加制裁関税)、NAFTA再交渉(米国とメキシコに…
  • 2018.07.20 更新自動車関税と主要国の金融政策各通貨ペアの投資戦略については「Weekly投資戦略ガイド」をご参照ください。原則、毎月曜更新(次回は7月23日)です。◆ファンダメンタルズ◆<<相場環境>> …

「市場調査部レポート」過去記事のタイトル一覧(月別)はこちら。

そのほかのマーケット情報

ページトップへ