市場調査部レポート

2016/02/19 13:38グローバルなリスク要因を再検証

【概観】 グローバルなリスク要因を再検証

米国の株価(S&P500指数)は足元でダブルボトムを形成しており、いったん底入れ感が出てもおかしくない状況です。これは昨夏の「チャイナ・ショック」でもみられた動きでした。株価が底入れするならば、ドル円も2月11日の安値(110.96円)が当面の底だったということになるかもしれません。

もっとも、グローバルなリスク要因は依然として根強く存在します。それらが顕在化すれば、市場でリスクオフのムードが再び強まる可能性もあるため、引き続き注意は必要でしょう。以下では改めてそれらを検証しておきます。


出所:Bloombergより作成

中国要因:
中国景気の実態は不透明であり、懸念は払しょくできません。ただ、春節(2/7-2/13)明けの上海株式市場は下げて始まったものの、その後は反発して春節前の水準を上回ってきました。PBOC(中国人民銀行)はここ1か月ほど、人民元の基準値を横ばい、ないしややドル安元高方向で設定しています。また、人民元のオンショア(本土)とオフショア(香港など)のレートの差はほとんどなく、投機が発生していないことを示唆しています。

原油安:
原油価格は引き続き不安定ながら、WTIでみて1バレル=30ドル前後での推移が続いています。サウジアラビアやロシアなど産油国による交渉も減産での合意には至りませんでしたが、増産凍結で合意し、それをイランが支持しました。産油国が少なくとも協調姿勢をみせたことは、原油安に歯止めをかけるかもしれません。

もっとも、現在の相場水準では、産油国の財政状況は悪化し(2月17日にベネズエラが通貨切り下げを発表しました)、エネルギー企業の破たんが増え続けるかもしれません。また、世界最大の会計会社デロイトの報告によると、資源価格が回復しなければ、世界で公開されている石油・天然ガス会社500社のうち、約3分の1が年内に破たんの危機にさらされるとのことです。ただし、同報告によれば、原油価格15ドルでも95%の企業が採算割れしないとのこと。この比率は約2年前には65%でした。つまり、技術革新や(破たんを伴う?)業界再編によって効率化が進んでいる面もあるようです。

信用ひっ迫:
金融市場の混乱(株安)、信用スプレッドの拡大(加えて米国の場合はドル高も)などが「引き締め」と同様の効果をもたらしているとの指摘もあります。信用スプレッドとは、企業が借入を行う際に市場金利に上乗せする金利分のことで、信用力の低い企業の社債利回りがとりわけ上昇しています(企業の資金繰りが難しくなることを意味します)。上記の「原油安」とも関係しますが、とくにエネルギー企業のジャンク債の価格が急落しています(=利回りが急上昇)。

また、欧州や日本ではマイナス金利の影響で銀行の収益悪化が懸念されており、その点も信用ひっ迫に拍車をかける可能性があります。そうした状況下で、米国の利上げはますます困難になり、国によっては利下げ(追加緩和)を余儀なくされるケースも出てきそうです。


来週26-27日に上海でG20財務大臣・中央銀行総裁会議が開催されます。黒田日銀総裁によれば、「最近の国際金融市場の不安定な動きの背景や、その影響について議論する」とのことですが、果たして市場の動揺を抑えて、投資家を安心させるような声明が出てくるのか。また、開催地である中国が自国の経済政策について、明確に説明するのか、注目されるところです。<チーフアナリスト 西田明弘>


【米ドル】 物価動向を受けて利上げ観測は一段と後退するか

1月26-27日に開催されたFOMCの議事録によれば、中国など世界経済の動向、株安などによる金融情勢の引き締まりとともに、物価の下振れがリスク要因として警戒されていました。

FOMCのほとんどの参加者がインフレ率は中期的に目標である2%まで上昇すると予想したものの、一方で、最近の情勢に鑑みると、物価見通しがいくぶん不透明感を増した、あるいはリスクは下振れ方向だと考えた参加者も少なからずいました。そして、数人の参加者は、物価が想定通りの動きとなっているか、実際の物価動向を緊密に監視することが重要だと強調したとのことです。

足元の物価動向をみると、食料とエネルギーを除くCPI(消費者物価)コアは前年比+2%を超えてきました。一方、FRBが重視するPCE(個人消費)コアは+1%台前半にとどまっているものの、昨年後半からジリ高傾向がうかがえます。

米国の物価は、ドル高や原油安の波及によって下押し圧力を受ける一方で、労働需給のひっ迫に伴う賃金上昇率の高まりがサービス価格を中心に押し上げる方向に作用しているとみられます。これまでみられたインフレ率の高まりが反転するかどうか。19日発表の1月CPI(本稿執筆時点で未発表)、26日の同PCEの結果が注目されます。<西田>


【ユーロ】 難民問題でユーロ圏の足並みが乱れる可能性

18-19日の日程で開催されているEU首脳会議(ベルギー・ブリュッセル)では、英のEU離脱を巡る交渉(【ポンド】の欄で解説)と、難民問題が協議されます。難民問題については人道援助、対外国境管理、ホットスポット(難民登録センター)の運用状況について議論される模様です。

EU加盟国の多くは域内を国境検査なしで自由に移動できる「シェンゲン協定」に参加しています。しかし、難民流入を防ぐためドイツやオーストリア、スウェーデンなどは昨秋から国境検査を一時的に復活しており、EUが提唱する「移動の自由」の理念が揺らいでいます。

EU離脱の可能性を巡り、事実上の移民・難民の制限を求める英国に譲歩すれば、難民流入に悩む中・東欧諸国も難民規制を強く要求するとみられており、EUの足並みが乱れる可能性があるでしょう。

その他、ドラギECB総裁は15日に「市場の混乱で物価安定が弱まれば、ECBは行動する」とブリュッセルの欧州議会で証言しました。この発言をうけて、15日の欧米市場ではユーロ安・米ドル高が進行しました。一方、ノボトニー・オーストリア中銀総裁は「3月のECB会合に対する期待を懸念」と述べ、ECBによる追加緩和への過度の期待をけん制しました。3月10日のECB理事会での追加緩和観測は根強いものの、追加緩和が行われない場合、ユーロが大きく変動する可能性にあらかじめ留意が必要かもしれません。<シニアアナリスト 山岸永幸>


【ポンド】 にわかに高まる英のEU離脱問題

英国のEU離脱の可能性を巡る話題が盛んになってきました。

18日から開催されているEU首脳会議では、キャメロン英首相が求めるEU制度改革案が協議されます。英国はEUの他の国からの移民に対して税額控除などの福祉を4年間制限できるよう求めていますが、「移動の自由」を謳うEUの基本条約に抵触する懸念があり、合意に漕ぎ着けるかどうかは予断を許しません。

ただ、「英国がEUに残るよう最大限の妥協をする」とシュルツ欧州議会議長が述べたほか、ウィリアム英王子が「他の国々と団結する力は不可欠だ」と発言するなど、英のEU残留を促す動きが足もと強まっているようです。

英の提案したEU改革案で合意が得られれば、英は緊急閣議を開催し国民投票手続きに着手します。EU離脱の是非を問う国民投票は6月下旬に行われる可能性が高いとみられています。最新の世論調査では離脱支持が45%、残留支持が36%と、やや離脱支持が上回っています。EU離脱の可能性もありますが、政府はEU残留を国民に呼びかけるとみられており、先行きは依然不透明です。

欧州のエンジニアリング業界団体「CEEMET」によれば、英国がEUから離脱した場合、英国のGDPが向こう15年間にわたり年0.5%押し下げられるとの試算もあり、EU離脱を巡る不透明感はポンドの重石となるかもしれません。<山岸>


【豪ドル】 RBAの利下げを織り込みすぎか。豪ドルは今後強含む!?

豪州の1月雇用統計は、失業率が6.0%と12月の5.8%から上昇。雇用者数が前月比0.79万人減と、2か月連続で減少しました。市場予想は、失業率が5.8%、雇用者数が1.3万人増でした。

雇用者数の内訳をみると、パートタイム就業者が増加(+3.27万人)する一方、フルタイム就業者が減少(-4.06万人)しており、今回の雇用統計は、総じて弱めの内容と言えそうです。

RBA(豪中銀)は政策金利を2.00%に据え置いていますが、その背景に「労働市場の改善」がありました。RBAは2日の政策会合時の声明で、「今後、新たな情報に基づいて、理事会は最近の労働市場の改善が継続するかどうか、最近の金融市場の混乱が世界や国内の需要の弱まりの前兆なのかどうかを判断する」と表明、労働市場や金融市場の動向を注視するとの姿勢を示しました。

そのため、今回の雇用統計を受けて、市場でRBAの追加利下げ観測が高まるかもしれません。

ただ、2015年の雇用の伸びは9年ぶりのハイペースでした。今回の雇用者数の減少は、昨年の大幅増の反動が続いているとみることもできそうです。また、雇用者数は月ごとのブレが大きい指標です。雇用者数の傾向を把握するために、6か月移動平均をみると、2014年終盤を底に上昇傾向となっており、豪州の労働市場の改善が続いていることが確認できます。


出所:Bloombergより作成

このことを踏まえると、今回の雇用統計は弱い内容でしたが、RBAがただちに利下げに動く可能性は低く、政策金利の据え置きを続けるとみられます。

市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)では、RBAが次回3月1日の会合で政策金利を2.00%に据え置く確率が85.4%、0.25%の利下げを行う確率が14.6%織り込まれており、利下げの確率は4月までで31.4%、5月までで50.7%へと上昇します(18日時点)。市場のメインシナリオは5月に利下げと言えそうです。ただ、これは織り込みすぎかもしれません。今後、利下げ観測を修正する動きとなり、その過程で豪ドルは強含む可能性があります。<アナリスト 八代和也>


【NZドル】 RBNZの追加利下げ観測がNZドルの重石に

RBNZ(NZ中銀)が企業経営者を対象に実施した四半期ごとのインフレ期待調査では、今後1年間のインフレ率予想が+1.09%と、10-12月期の+1.51%から低下し、1987年の調査開始以来最低を記録。今後2年間のインフレ率予想も、10-12月期の+1.85%から+1.63%へと低下、1994年4-6月期以来の低水準となりました。

RBNZはCPI(消費者物価)上昇率を中期的に+1-3%の範囲内に収めることを目標としています。10-12月期のCPIは前年比+0.1%と、RBNZのインフレ目標を大幅に下回りました。先行きのインフレ期待は依然としてRBNZの目標範囲内にあるものの、下限に近づきました。

また、供給過剰懸念を背景に、乳製品価格が再び下落傾向にあります。乳製品国際価格の指標となるGDT価格指数は16日の乳製品電子オークション(GDT)で、前回2日の656から638へと下落。昨年8月18日以来の低水準となりました。RBNZは昨年4回利下げを実施しましたが、乳製品価格の下落による経済見通しの悪化が一因でした。

1-3月期のインフレ期待が10-12月期から大幅に低下したことに加え、乳製品価格が一段と下落したことで、市場ではRBNZの追加利下げ観測が高まるかもしれません。利下げ観測は、NZドルの重石となりそうです。

市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)では、RBNZが次回3月10日の会合で政策金利を2.50%に据え置く確率が72.3%、0.25%の利下げを行う確率が27.7%織り込まれています(18日時点)。利下げの確率は、4月までで49.3%、6月までで63.9%へと上昇します。<八代>


【トルコリラ】 売り圧力が再び強まる可能性あり

23日にTCMB(トルコ中銀)が政策金利を発表します。トルコの1月CPI(消費者物価指数)は前年比+9.58%と、12月の+8.81%から加速。エネルギーと食品を除いたコアCPIは+9.63%と、12月の+9.51%から上昇率がやや高まりました。CPIは2014年5月以来、コアCPIは2014年8月以来の高い伸びとなり、TCMB(トルコ中銀)のインフレ目標(+5%)から一段と乖離しました。

ただ、TCMBはCPIの伸びが今後鈍化するとみています。バシュチュ総裁は1月22日に、「インフレ率は1-3月期、おそらく1月にピークに達する」との見解を示しました。

世界の金融市場の混乱もあり、23日の会合では主要政策金利はすべて据え置かれそうです。その場合、トルコリラに大きな反応はみられないかもしれません。

トルコでは、テロが再び頻発しています。17日に首都アンカラで爆弾テロが発生、18日にはトルコ南東部で再び爆発が起きました。トルコのダウトオール首相は17日のテロについて、クルド人組織YPG(人民防衛隊)の犯行と断定し、PKK(クルド労働者党)も犯行を支援したと批判、報復する姿勢を示しました。

また、シリア情勢をめぐってトルコとロシアの対立が一段と強まっています。15日にシリア北部の町アザーズの病院の近くの空爆について、ダウトオール首相はロシアがカスピ海から発射したミサイルによるものと非難しました。

トルコの地政学リスクが再び意識される可能性があり、その場合、トルコリラへの下押し圧力が強まりそうです。トルコリラ/円は過去最安値である37.63円を割り込む可能性もあります。<八代>




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