市場調査部レポート

2016/02/05 13:45日米中銀の「次の一手」は?

【概観】 日銀の次の一手は?

日銀が1月29日の金融政策決定会合で導入したマイナス金利の効果が消えつつあります。黒田総裁は会合後の会見で、マイナス金利導入の狙いについて、市場金利に「より強い下押し圧力を加えていく」と説明しました。その言葉通り、国債利回り(=市場金利)は8年物までがマイナスとなり、10年物は0.10%を割り込んで史上最低を更新しています。

ただ一方で、金融機関の収益悪化を避けるため、当座預金を3つの階層に分け、0.1%、0%、-0.1%の3種類の金利を適用するなど工夫はみられるものの、かえってマイナス金利の効果に疑問符がつけられています。また、金融機関が預金金利の引き下げを検討したり、一部の個人向け国債やMMF(安全性の高い公社債で運用する投資信託、マネー・マネジメント・ファンド)の販売が停止に追い込まれたり、マイナス金利の弊害も見え隠れしています。

日銀の隠れた目的の一つだったとみられる為替相場は、会合の当日こそ一時3円近いドル高円安になったものの、その後はドル安円高に振れています。今週に入ってからのドル安円高はFRBの利上げ観測が後退するという米国要因が主因ですが、結果的にマイナス金利の効果は数日で吹き飛んだ格好です。また、日経平均株価もほぼ会合前の水準に戻っています。

マイナス金利の導入に対して、市場では従来の量的緩和による国債購入が限界に近づいているとの見方がありました。一方で、昨年12月に日銀が金融緩和の補完的措置を発表したことで資産購入の余地は拡大しており、今回は資産購入の増額を温存したとの見方もありました。

日銀はマイナス金利の導入に際して、「今後、必要な場合、さらに金利を引き下げる」と宣言しました。2月3日の講演で、黒田日銀総裁は、マイナス金利付き量的・質的緩和を指して、「これまでの中央銀行の歴史の中で、おそらく最も強力な枠組みだ」と胸を張りました。そして、金融緩和が限界に近づいていると見方に対して「とても違和感のある表現だ」としたうえで、「追加緩和の手段に限りはない」と語りました。

果たして金融緩和の限界が近いのか、それとも全くそうではないのか。それを確認するするタイミングは意外に早くやってくるかもしれません。<チーフアナリスト 西田明弘>
 



【米ドル】 利上げ観測が一段と後退。次は利下げなのか

政策金利であるFFレート先物に基づけば、4日時点で市場が織り込む年内据え置きの確率は50%を超えています。これは、「年内の利上げは一回もない」との見方がメインシナリオになったことを意味します。

FRB関係者のコメントは、「引き締めペースは従来の見方よりもわずかに緩くなる(ウィリアムズ・サンフランシスコ連銀総裁)」、「緩やかな利上げが正当化されると引き続き予想している(メスター・クリーブランド連銀総裁)」など、今のところ利上げの方向に大きな変化はなさそうです。また、FFレート先物に織り込まれている利下げの確率はまだ0%です。ただし、今後の状況次第では利下げ観測が台頭する可能性はあり、一段の注意は必要でしょう。



昨年10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率+0.7%と、前期の同+2.0%から大幅にペースダウンしました。1月のISM製造業指数は48.2でした。昨年10月分が下方修正されたことで、4か月連続での50割れとなり、製造業の縮小をさらに明確に示しました。ISM非製造業指数は50超が続いていますが、1月は53.5と約2年ぶりの低水準となり、景気拡大ペースの鈍化を示唆しました。

来週は、1月の小売売上高や、2月のミシガン大学消費者信頼感指数などの経済指標が発表されます。前者は北東部を襲った大雪、後者は金融市場の動揺、それぞれの悪影響が懸念されます。仮に、小売売上高が不調で、それが大雪という一時的要因によるものだったとしても、市場は米景気に対する懸念を強めそうです。2月10日と11日に下院と上院でそれぞれ実施されるイエレン議長の議会証言にも要注目でしょう<西田>
 



【ユーロ】 デフレへの警戒が強いECB

ECBのドラギ総裁は先月、3月10日の理事会で金融政策を見直すとして、追加緩和の可能性を示唆しました。そして、2月4日の講演でもドラギ総裁は「(追加緩和の)副作用のリスク」に言及しつつも、「何よりも優先するのは物価安定の目標だ」と明言しました。

2月1日、ECB理事でもあるノボトニー・オーストリア中銀総裁は、「インフレ率が数か月間、マイナスとなる可能性はある」と指摘したうえで、「市場の期待が大きくなりすぎた状況が昨年12月にみられた」として追加緩和期待をけん制しました。

ただ、インフレ率の上昇が予想されないなかで、上のドラギ総裁の発言からすれば、3月の理事会では追加緩和が真剣に検討されそうです。

ユーロ圏の昨年12月CPI(消費者物価)は総合が前年比+0.2%、食料やエネルギーを除くコアは同+0.9%でした。コアを重視するFRBと異なり、ECBは総合を重視する傾向があるため、デフレへの警戒は根強いものとみられます。<西田>



【ポンド】 EU離脱国民投票は今年6月?

4日、BOE(英中銀)は政策委員9人の全会一致で政策金利の据え置きを決定しました。昨年8月から0.25%の利上げを主張してきたマカファーティ委員も今回は据え置きに同意しました。同時に公表されたインフレ報告では、経済や物価の見通しが下方修正されました。カーニー総裁は会見で、世界経済や金融市場の混乱が見通し修正の背景だと説明しました。

「次の一手は利下げ」との見方に対して、カーニー総裁は「利下げより利上げの可能性の方が高い」と語りました。ただし、市場では「少なくとも年内の利上げはない」との見方が有力になっているようです。

EU離脱の国民投票

英国が要求していた自国の移民規制について、EUが譲歩の姿勢を示しています。EUのトゥスク大統領は、草案を提示したとのことです。

草案には、移民労働者への手当てを最長4年間制限できる、子ども手当の支給額が子供の居住する国の生活水準に沿って決まる、EU加盟各国議会の55%の反対でEU法案の通過を阻止できる、などの内容が含まれているとのことです。

同草案は、今月18-19日のEU首脳会議で承認されれば、正式に発効することになります。4日にロンドンで開催された「シリア支援会議」で、キャメロン首相はEU首脳に対して根回しを行ったものとみられます。

キャメロン首相は、早ければ今年6月にもEUからの離脱の是非を問う国民投票を実施する意向のようです。キャメロン首相はEU残留を主張しており、移民規制の強化はそれを支援する材料になりそうです。

ただ、世論調査では残留派が離脱派を上回っているとの結果もあるようですが、実際に国民投票で「ノー(=残留)」が確定するまで金融市場は安心できないかもしれません。<西田>
 



【豪ドル】 RBAは追加利下げの可能性を残す

RBA(豪準備銀行)は2日に、政策金利を2.00%に据え置くことを決定。声明では、据え置いた理由を「インフレが目標に近く、経済が成長する合理的な見通しがあると判断した」ためと説明しました。

声明の最終段落では、今回新たに「今後、新たな情報に基づいて、理事会は最近の労働市場の改善が継続するかどうか、最近の金融市場の混乱が世界や国内の需要の弱まりの前兆なのかどうかを判断する」との一文が追加されました。そのうえで、「継続的な低インフレは、需要を支えるための一段の政策緩和(=利下げ)余地をもたらす可能性がある」との見解が示されました。

今回の声明では、追加利下げの可能性が残っていることが改めて示されると同時に、労働市場や金融市場の動向を注視するとの姿勢が示されました。

労働市場は順調に回復しています。1月の失業率は5.8%と、RBAの昨年11月時点の見通しを上回るペースで低下しています。RBAは昨年11月の四半期金融政策報告で、「失業率は2016年を通じて6.0-6.25%のレンジで推移した後、徐々に低下する」との見解を示していました。また、2015年の雇用の伸びは9年ぶりのハイペースとなりました。労働市場の弱さを理由にRBAが追加利下げに踏み切る可能性は低いとみられます。

追加利下げがあるとすれば、最大の貿易相手である中国や金融市場の動向が豪経済に悪影響を及ぼすと判断される場合になりそうです。<アナリスト 八代和也>
 



【NZドル】 RBNZの政策金利は当面据え置きか

RBNZのウィーラー総裁は3日の講演で、「世界経済の見通しと、そのNZへの影響についての懸念が深まれば、今後1年間に若干の追加緩和が必要になる可能性がある」と述べ、追加利下げに含みを持たせました。

一方で、目標を下回るCPI(消費者物価指数)については、原油安が低インフレの原因と指摘。金融政策を決定する際には、多くの要因を考慮する必要があるとし、「政策金利を通じて、原油安の影響を相殺しようとすることは不適切」「低インフレへの機械的な対応を避ける」と述べ、CPIが目標を下回る状況でも、追加利下げを急がない姿勢を示しました。

NZでは企業景況感が改善傾向にあります。ANZ企業景況感調査は昨年8月に-29.1へと落ち込みましたが、12月には+23まで改善、昨年4月以来の高水準となりました。また、ウィーラー総裁の3日の発言や、RBNZの政策金利が過去最低という点を踏まえると、追加利下げのハードルは高いのかもしれません。

ただ、乳製品価格が再び下落し始めています。2日に開催された乳製品電子オークション(GDT)で、乳製品国際価格の指標となるGDT価格指数は656と、前回1月19日の708から低下。昨年9月1日以来の低水準となりました。

乳製品はNZ最大の輸出品であるため、その価格動向はNZ経済に影響を与えます。RBNZは昨年4回利下げを実施しましたが、乳製品価格下落による経済見通しの悪化が一因でした。

RBNZは、次回3月10日の会合で、政策金利を2.50%に据え置くとみられますが、乳製品価格が一段と下落する場合、3月以降の会合での追加利下げが現実味を帯びてくるとみられます。

以前に比べて、NZドルの乳製品価格への反応が薄くなっている感はありますが、引き続き乳製品価格に目を向ける必要がありそうです。次回のGDTは2月16日(火)に開催されます。<八代>


出所:Bloombergより作成
 



【トルコリラ】 CPI上昇率加速も、TCMBの想定の範囲内?

3日に発表されたトルコの1月CPI(消費者物価指数)は前年比+9.58%と、12月の+8.81%から加速。エネルギーと食品を除いたコアCPIは+9.63%と、12月の+9.51%から上昇率がやや高まりました。CPIは2014年5月以来、コアCPIは2014年8月以来の高い伸びとなり、TCMB(トルコ中銀)のインフレ目標(+5%)から一段と乖離しました。

インフレ圧力の高まりは、中銀に対する利上げ圧力へとつながります。市場では、TCMBはいずれ利上げが必要になるとの見方が根強くあります。

ただ、TCMBはCPIの伸びが今後鈍化するとみています。バシュチュ総裁は1月22日に、「インフレ率は1-3月期、おそらく1月にピークに達する」との見解を示しました。

TCMBはCPIが高止まりし、トルコリラ安が進む中でも、昨年3月以降、政策金利の7.50%据え置きを続けてきました。トルコリラは今年1月半ば以降、対米ドルで反発傾向にあります。TCMBの次の一手は「利上げ」とみられますが、その時期は意外と遠いのかもしれません。<八代>


出所:Bloombergより作成
 





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