2分でわかるアメリカ

2014/05/31「お金持ちの掟36」EUの切符を買う中国富裕層

日本人やアメリカ人にはピンとこないと思いますが、新興国の人にとって海外、アメリカやヨーロッパにビザ(査証)無しで旅行するのは夢の世界です。例えば私の妻はロシア人ですが、日本に行くにもフランスに出張するにもビザが必要です。国や地域により差があるのですが、時には時間とお金がかかります。なにより面倒です。

時代が変わり、いま世界でお金持ちといわれるのは、ロシア人であり中国人です。ただ、お金が幾らあっても、国籍を変えるもしくは永住権を取得でもしない限りビザの問題は常に頭痛の種です。

1997年7月に香港がイギリスから中国へ返還される前、多くの裕福な香港人が海外へ移住しました。行き先のほとんどは、宗主国のイギリス、そして英連邦のオーストラリア、ニュージーランド、そしてカナダでした。それから17年が経った今、今度は中国本土の富裕層が海外へ移住するケースが目立っています。

中国人の移住先として最も人気があるのはアメリカです。しかし、条件が厳しく審査に時間がかかるなどハードルが高いため、アメリカを諦め、ヨーロッパを目指す富裕層も少なくありません。子供に欧米の教育を受けさせたい、中国政府の「一人っ子政策」に不満がある、もしくは社会主義で先行きが不透明なため「保険」として欧米の永住権を確保しておきたいなどが理由です。

こうした中国人の富裕層の琴線に触れたのが、キプロスが2012年8月に導入した新政策でした。EU域外の国籍保有者に対し、30万ユーロ(約4200万円)以上の不動産に投資、そしてキプロスの銀行に3万ユーロ(約420万円)以上を預けることに合意すれば、永住権を与えると発表しました。手続きは1ヶ月半程度で済むことも魅力でした。キプロスは2004年からEUの正式加盟国で、キプロスの永住権を保有することはEUを自由に移動できる切符を持つことになります。

これをきっかけに中国人の富裕層の間で、キプロスの不動産ブームが起きました。ガーディアン紙によりますと、最初の3ヶ月間で600件の不動産を中国人が買いました。その後ギリシャの破たんを受けたキプロスショックが起こり一時下火になりましたが、まだまだ「永住権」には魅力があります。キプロスの空の玄関であるラルナカ空港や高速道路、リマソールの街中では、中国語の看板がやたら目につきます。「30万ユーロで永住権」と書いてあります。

キプロスショックの後、ロシアの観光客は戻ったもののロシアの富裕層の多くは資金を引き上げたままです。しかし中国人の富裕層にとってキプロスは依然として魅力的な投資先です。キプロス経由でEUに移住する中国人が今後も増えそうです。
 
[May 29, 2014] No 0105543

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PROFILE

松島 新(まつしま あらた)氏

執筆者

昭和60年慶大卒後、テレビ東京入社。
ブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長、「ワールド・ビジネス・サテライト」担当。
平成13年ソニー入社後、CEO室、ソニー・コーポレーション・オブ・アメリカのバイスプレジデントなど歴任。
現在、金融情報サービス会社Market Editorsにて、エグゼクティブエディター(ジャーナリスト)として情報提供に携わる。ロサンゼルス在住。

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