2分でわかるアメリカ

2013/07/13「常識シリーズ39」ソフトバンクの賭け


米携帯電話3位のスプリントが9日、高速無線通信向けの周波数を多く持つクリアワイヤを完全子会社化した。そして、翌10日、ソフトバンクによる買収手続きが完了した。買収総額は216億ドル。為替予約していたため、日本円での支払いは1兆8000億円。スプリントの株式78%を得た。

スプリントの会長に就いたソフトバンクの孫正義社長はこれより先、カリフォルニア州北部のウッドサイドに豪邸を購入した。いわゆるシリコンバレーで、敷地は9エーカー。購入額は1億1750万ドル(約117億円)とみられる。米国の不動産史上で最高額を更新した。ソフトバンクとスプリントは、シリコンバレーに新サービスなどを開発する拠点を年内につくる予定だが、孫正義氏が自ら指揮をとる可能性がある。

日本では、ソフトバンクが売上で世界3位の携帯電話会社になったと大きく報じられた。孫正義氏は「世界一の会社になる」と夢を語る。勝算はあるのか。

米国の主要な携帯電話会社は4社。トップは、米通信最大手のベライゾン・コミュニケーションズと英ボーダフォンの合弁会社であるベライゾン・ワイヤレス。加入者数は1億1100万人。2位は、電話を発明したアレクサンダー・グラハム・ベルを起源とするAT&Tで、加入者数は約1億500万人。3位はソフトバンクが買収したスプリントだが、加入者数は5600万人とトップ2の半分に留まっている。4位のTモバイルも追い上げている。iPhoneは4社とも販売している。

ベライゾンとAT&Tのトップ2と比べ、スプリントとTモバイルは、ネットワークの弱さが指摘されている。電話が繋がりにくい。ドイツテレコムの子会社であるTモバイルは、欧州系の人が好んで使うが、スプリントを利用している人を筆者は知らない。スプリントの純損益は6期連続の赤字。

 スプリントは、きょう12日から価格を抑えた新サービスを導入した。通話、テキスト、データが使い放題のプランが月80ドル(約8000円)で、従来と比べ20%価格を引き下げた。新サービスは、スプリントの経営陣が前から準備していたものだが、導入が買収完了のタイミングと重なった。ソフトバンク主導のサービスが出てくるのは、来年以降とみられる。 

ソフトバンクの買収資金の一部を融資した日本の大手銀行の幹部は、「融資が焦げ付いたらうちも潰れる」と囁く。ソフトバンクの有利子負債は3兆8600億円。スプリントとクリアワイヤの分を含めると6兆円にのぼる。財務悪化により、格付け会社S&Pはソフトバンクの長期会社格付けを「投機的水準」に2段階引き下げた。スプリントに関するウォール街のアナリストの見方は分かれている。次世代高速通信「LTE」の整備を進めるが、同業者が先行。また、ソフトバンクの思惑通り加入者数を増やせるかどうかは未知数だ。

日本市場が高校野球なら米国は大リーグ。ソフトバンクが「世界一の携帯電話会社」になるかどうかは、そして融資した日本の銀行の将来は、孫正義氏の手腕にかかっている。

[JULY 12, 2013] No 0105320

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PROFILE

松島 新(まつしま あらた)氏

執筆者

昭和60年慶大卒後、テレビ東京入社。
ブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長、「ワールド・ビジネス・サテライト」担当。
平成13年ソニー入社後、CEO室、ソニー・コーポレーション・オブ・アメリカのバイスプレジデントなど歴任。
現在、金融情報サービス会社Market Editorsにて、エグゼクティブエディター(ジャーナリスト)として情報提供に携わる。ロサンゼルス在住。

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