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2013/06/08「常識シリーズ34」ヘッジファンドと「安倍取引」


6月5日午後、東京都港区にあるグランド・プリンス新高輪の宴会場は熱気に包まれていた。「演題:成長戦略スピーチ第3弾・安倍晋三内閣総理大臣」と書かれた立て看板が目立つ。会場は満席。財政と金融政策に続く「第3の矢」に世界の大きな期待が膨らんでいた。
 

しかし、ノーネクタイで登壇した安倍首相が演説を開始して5分後、期待が失望に変わった。国内のエコノミストや海外が長く指摘している日本経済の構造問題の対策が盛り込まれていないことがわかったからだ。高くはじまった東京株式市場は下げに転じ、演説が進むにつれ下げ幅が拡大した。


前兆はあった。前日の4日、日本の主要紙の夕刊には「薬ネット販売解禁へ」という見出しが並んだ。成長戦略の目玉に盛り込むと各紙が伝えた。海外の投資家は英語に翻訳された記事を読み「違う」と感じた。「日本経済を抜本的に変える戦略は出ないのではないか」との懐疑心が膨らんだ。4日のニューヨーク株式相場が目立った材料がないのに下落したのは、日本への懸念が背景にあったとされた。


英エコノミスト誌の5月18日号の表紙には、スーパーマンの衣装をまとった安倍首相が右腕を上げたポーズで空を飛んでいる写真が掲載された。「2007年に病気を理由にわずか1年で辞任した安倍首相が、わずか5年で別人になった」としてアベノミクスを評価した。同じ英国のフィナンシャル・タイムズは5月31日、健全な日本経済は近隣諸国にも恩恵があるとして、貿易自由化と労働市場の構造改革を求める社説を掲載した。


演説をきっかけに、欧米のメディアのトーンが激変した。「具体策に欠け難しい問題を先送りした」と冷たく報じた。7月の参院選後に具体的な成長戦略を決めるとされるが、懐疑心は消えない。


アベノミクスの第1弾と第2弾を受け、ジョージ・ソロス、ダン・ローブ、ポール・チューダー・ジョーンズ、ルイス・ベーコンといった大物のヘッジファンド・マネージャーは、日本株を大量に買い、ヘッジとして円のショート・ポジションを膨らませた。フォーブス誌がAbe Trade(安倍取引)」と呼ぶ投資で、日経平均株価は去年11月から5月22日までに70%も上昇した。ヘッジファンドをはじめとする外国人投資家が投資した約630億ドル(約6兆3000億円)が株価を押し上げた。


フォーブス誌は、成長戦略への失望で、「安倍取引」が終わるかもしれないとする記事を掲載した。「第3の矢は真剣なものとは思えない」と指摘。安倍首相の写真には、「Easy come, easy go(あぶく銭は身につかない)」という説明が添えられた。

[JUNE 07, 2013] No 0105292

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PROFILE

松島 新(まつしま あらた)氏

執筆者

昭和60年慶大卒後、テレビ東京入社。
ブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長、「ワールド・ビジネス・サテライト」担当。
平成13年ソニー入社後、CEO室、ソニー・コーポレーション・オブ・アメリカのバイスプレジデントなど歴任。
現在、金融情報サービス会社Market Editorsにて、エグゼクティブエディター(ジャーナリスト)として情報提供に携わる。ロサンゼルス在住。

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