2分でわかるアメリカ

2013/02/16「常識シリーズ18」 “円安”でタブー破ったジャパン


G20財務相・中央銀行総裁会議がモスクワではじまった。最大の議題は「通貨戦争」。日本の安倍政権の政策が「為替操作」にあたるかどうかが焦点となる。

ポンド危機やアジア通貨危機など、外国為替市場では過去に多くのイベントがあった。景気が悪化した局面で、自国通貨を安く誘導する国が批判される歴史が繰り返されている。2008年の金融危機後にFRBが金融緩和を実施、ドルが安くなった際には米国が非難された。

混迷の時代には為替相場のボラティリティが上昇する。投資家は政府関係者の発言に敏感になる。米国の歴代の財務長官はいつも「強いドル」を主張してきた。現実には、1973年に変動為替相場制に移行して以降、ドルは下がり続けている。次期財務長官に指名されたジャック・ルー氏は、上院公聴会で「強いドル」の政策を変えないと語った。

1999年に導入されたユーロ。17の国が採用しているユーロは、ギリシャからはじまった債務危機で大きく変動した。危機が深刻化しユーロ安が続いたことで、ドイツやフランスの輸出競争力が高まった。しかし、債務危機が安定に向かう中でユーロ相場が上昇した。フランスのオランド大統領やECBのドラギ総裁から、ユーロ高をけん制する発言が相次いだ。

 米国の高官は「強いドル」、EUの高官がユーロ相場に言及することが少なくないが、共通していることがある。具体的な相場水準に言及しないということだ。ルールがある訳ではないが、主要国間の暗黙の了解と言っていい。マーケット出身者もしくは関連業務の経歴がある欧米の財務・通貨当局者は、決して具体的な数値を公式の場で口にしない。市場原理、市場主義の原則を貫いている。 

しかし、タブーとも言える暗黙の了解を日本が破った。事実上の政府ナンバー2の麻生財務相が、国会の答弁で円の具体的水準に言及。岩田元日銀副総裁は、自民党本部での講演で「1ドル=90円から100円」が適正水準だと主張。自民党の山本氏はブルームバーグのインタビューで「通貨安競争は問題ない。1ドル=95円から100円が適正水準」などと語った。「為替管理」とも受け取れる。

G20に出席しているブレイナード米財務次官はCNBCに対し「為替に関する無規律な発言を慎むべきだ」と述べた。タブーを破った日本の高官を批判しているのは言うまでもない。ウォール・ストリート・ジャーナルは、ヘッジファンドのジョージ・ソロス氏が、円の下落を見込んだ取引で10億ドルの利益を得たと報じた。グリーンライト・キャピタル、サード・ポイント、ヘイマン・キャピタルなどのヘッジファンドも円安で巨額の利益を得た。日本の高官の無規律な発言に欧米当局者が眉間に皺を寄せる一方、ヘッジファンドは笑いが止まらない。

[FEBRUARY 15, 2013] No 0105211

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PROFILE

松島 新(まつしま あらた)氏

執筆者

昭和60年慶大卒後、テレビ東京入社。
ブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長、「ワールド・ビジネス・サテライト」担当。
平成13年ソニー入社後、CEO室、ソニー・コーポレーション・オブ・アメリカのバイスプレジデントなど歴任。
現在、金融情報サービス会社Market Editorsにて、エグゼクティブエディター(ジャーナリスト)として情報提供に携わる。ロサンゼルス在住。

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