2分でわかるアメリカ

2012/11/03「日本の常識は世界の非常識」4


10月28日から29日にかけて米国東海岸を襲ったハリケーン「サンディ」は大きい被害をもたらした。ニュージャージー州全域とニューヨーク市周辺では、多くの住宅が冠水、地下鉄やトンネルなどに海水が流れ込んだ。800万世帯以上が停電、完全復旧までには1カ月以上かかるとみられ、経済的被害は500億ドルを超える可能性がある。

認識論学者のナシーム・ニコラス・タレブ氏は、予想を超えた極端な事象を「ブラック・スワン」(黒い白鳥)と呼んだ。「サンディ」の被害はこれに相当する。冬が近い10月末に人口が密集する資本主義の都を夏型のハリケーンが直撃したからだ。

今回のブラック・スワンでは、米国の危機管理能力が光った。被害が大きかったニュージャージー州のクリス・クリスティ知事、そしてニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は、コマンダーとしての指導力を発揮した。多くの州民の命と生活を守った

特に、クリスティ知事は、被災地に何度も足を運び、前線で州職員らに対応・対策をその場で指示した。CNNをはじめとするニュース・メディアにも積極的に現地から出演、いかに状況を正確に把握しているかが滲み出ていた。どういう対応をとっているかを自分の言葉で話した。知事の言葉には重みがあった

オバマ大統領も現地に飛んだ。再選の行方が微妙になっている中、オバマ政権の政策を批判していたクリスティ知事をサポートした。2008年に米南部を襲ったハリケーン「カトリーナ」の教訓も生きた。

日本はどうか。2011年3月11日の東日本大震災での菅直人首相(当時)の対応、復旧や原発事故の対応を引き継いだ野田佳彦首相の対応は「迷走」の一言に尽きる。記者会見はメモを棒読み、言葉の重みがない。際どい質問には官僚が答える。国民の命が脅かされているのに原発・放射能対策で明確な方向が未だ見えない。被災者の不安な気持ちを思うと胸が痛む。

日本ではブラック・スワンの際、首相や大臣がジャンバーを着る。現場に行かず、執務室にいる時も何故か着る。見てくれよりも指導者としての中身が大事なのに。メディアは、ジャンバーを着た権力者と避難所の炊き出しばかりに注目する。

 企業も同様だ。ハリケーン「サンディ」の被害を受けたマンハッタンにある金融機関や大手企業の経済的ダメージは限定的だった。同時多発テロなど幾度かのブラック・スワンを経験したため企業のリスク管理が徹底されている。企業の命であるデータを収めたサーバーは西海岸や海外に分散している。 

日本企業はどうか。東京に一極集中する日本企業は、2011年の地震の直後こそ「リスク管理」を意識したが、実際に対策に動いた企業は多くない。問題は先延ばし。いつ首都圏を大地震が襲うかもしれないのに。

問題先延ばしが常識の日本。ブラック・スワンを経験するごとに危機管理を強化する米国。先延ばしは徹底的に批判される。日米ギャップは広がりこそすれ、縮まることはない。日本は、ジャンパーを買う予算で危機管理の専門家を雇った方がいいかもしれない。

[NOVEMBER 02, 2012] No 0105142

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PROFILE

松島 新(まつしま あらた)氏

執筆者

昭和60年慶大卒後、テレビ東京入社。
ブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長、「ワールド・ビジネス・サテライト」担当。
平成13年ソニー入社後、CEO室、ソニー・コーポレーション・オブ・アメリカのバイスプレジデントなど歴任。
現在、金融情報サービス会社Market Editorsにて、エグゼクティブエディター(ジャーナリスト)として情報提供に携わる。ロサンゼルス在住。

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