政策の裏がわかる!今週のマーケット・スクープ

2014/06/13 11:27
消費増税牽引で異例の同期「3人次官」=財務省「サプライズ人事」の知られざる裏側

7月に発令される財務省人事で、安倍首相に近い田中一穂主税局長の次官含みでの主計局長への横滑りが内定した。この人事は、消費税増税に積極的とは言い難い安倍首相の下で、いかに15年10月の消費税10%への再引き上げ、そしてその後の15%への再々引き上げに持って行くかという財務省の不屈の闘志がみなぎった仰天人事といえる。

安倍官邸に恭順の姿勢を鮮明にした財務省

7月に発令される財務省人事で、異変が起きた。木下康司事務次官(79年入省)が勇退し、香川俊介主計局長が次官に昇格するまでは既定路線だが、安倍首相に近い田中一穂主税局長が次期次官含みで主計局長への横滑りが内定したのだ。

本来の財務省人事であれば、同期の木下、香川両氏2人が次官を経験すれば、田中主税局長は国税庁長官で上がりというのが「常識」である。ところが、同期3人が財務官僚トップの事務次官を経験することになったのである。

香川主計局長は、竹下政権の小沢一郎官房副長官の秘書官として頭角を表し、勝栄二郎(75年入省)次官時代に、消費税増税の与野党合意に向け、水面下で奔走したことは知る人ぞ知る。

一方、田中主税局長は第1次安倍政権で首相秘書官を務め、経産省OBの今井尚哉首相政務秘書官とも懇意で安倍首相を支えてきた「安倍インナー」である。

同期で2人が次官になったのは74年入省の杉本和行、丹呉泰健両氏のケースがあるが、同期3人が財務官僚トップの事務次官というのは霞が関でもほとんど前例がない。

今回、安倍官邸に成長戦略の目玉である法人実効税率引き下げで何かと抵抗した木下次官―香川主計局長の財務省ラインだけに、同期3人の次官が無理というのであれば、官邸としては香川主計局長を「小沢系」(実際はそうではない)とレッテル貼りして、田中主税局長を一気に次官に引き上げることもできたはずだ。

しかし、かつて財務省は旧大蔵省時代に次官人事で政治家の権力闘争に巻き込まれて機能不全に陥った苦い経験がある。それは「高木-橋口」の再来であり、1974年福田赳夫元首相の信任が厚かった橋口収主計局長(後に広島銀行頭取、武藤敏郎元財務次官の岳父)が、田中角栄首相の2兆円減税に異を唱えたため、次官に昇格できず、高木文雄主税局長(後に国鉄総裁)が次官になったケースだ。

こうした過去のトラウマを教訓に、同期2人次官の規定路線に沿い香川次官を先行させるが、「財務省としては安倍首相に近い田中主税局長をも次官にすることで官邸への恭順の意を示したい」(ある官邸関係筋)。これが今度の財務省次官人事の真相である。

なお、新設された内閣人事局の初代局長は、木下現次官、香川次期次官、田中次期主計局長と大蔵省同期の加藤勝信(加藤六月の女婿)官房副長官である。

一方、木下次官、香川主計局長、田中主税局長の3人が入省したのは1979年。大平正芳首相が一般消費税導入を打ち出し、衆院選に惨敗し、竹下登元首相が初めて蔵相になった年である。

6月は財務省(旧大蔵省)と極めて因縁の深かった政治家の命日が続く。6月12日は大平元首相(1980年)、19日は竹下元首相(2000年)、28日は宮沢喜一元首相(07年)である。

大平、宮沢両氏は大蔵次官経験者の池田勇人元首相の直系の大蔵官僚出身であり、竹下元首相は党人派ながら大平、中曽根政権で通算5期、蔵相を務めた。大平、竹下両氏が消費税導入に骨身を削ったことは改めて言うまでもない。

その年の新人財務官僚の同期3人が次官となって消費税レースを牽引する。すでに、香川次官で消費税10%(15年10月)、次の田中次官でさらに15%への引き上げシナリオが蠢動しつつある。

骨太方針で20年度プライマリーバランス黒字明示

一方、消費税の段階的な15%への引き上げと共に財務省は2020年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を目指す。

すでに、経財諮問会議は「骨太方針」の骨子案に、「基礎的財政収支の赤字の対GDP比を15年度までに10年度比で半減し、20年度までに黒字化を目指す」との具体的な道筋を盛り込む予定でいる。

「骨太方針」は、来年度の予算編成や経済政策の指針で、政府や与党の調整を経て月内に閣議決定する。景気回復や消費税8%への引き上げもあり、15年度は税収増で赤字半減の目標が達成できる見込みだが、20年度の黒字化へのハードルは赤字半減の比ではない。

消費税率を15年10月に予定通り10%に引き上げ、実質2%成長を続けても20年度の財政収支は12兆円(対GDP比で約2%)の赤字が残ると試算される。

「骨太方針」(骨子案)によれば、諮問会議は「半年ごとに経済財政を点検し、財政健全化の進捗を確認」するという。問題は、アベノミクス「第2の矢」機動的な財政出動が、景気下支えの補正予算となってプライマリーバランス黒字化の足枷になりかねない。

さらに、「第3の矢」成長戦略が政府の許認可権の拡大に繋がれば、結果的に財政支出が拡大し、民間の競争環境を阻害する恐れがある。そうしたことがないよう民間人が政府の諮問会議の議論を主導すべきだが、経済財政諮問会議、産業競争力会議、規制改革会議、国家戦略特区諮問会議など「船頭多くして船山に登る」状況にある。どの会議にも民間人が含まれるが、いずれも主導できる立場にないのが実情である。

結局、最終的な結論は霞が関の官僚用語に覆われるリスクがあり、実現に向けた歳出削減策は乏しく、20年度の基礎的財政収支の黒字達成は現時点では険しいといわざるを得ない。

だが、だからこそ財務省にとって、長期安定政権の安倍政権下で早急に消費税を15年10%、さらに15%へと引き上げ、安定した財源構築を急がねばならない。

特に、20年度のプライマリーバランス黒字化には、大胆な歳出削減策が不可欠であり、それには年1兆円増える社会保障支出の削減が不可欠だ。そこで今年の「骨太方針」には人口急減に歯止めをかけるべく歴代政権で初の人口政策が盛り込まれる。

有識者らで作る民間研究機関「日本創成会議」の人口減少問題検討分科会(座長・増田寛也元総務相)が、全国の市区町村の半数が「消滅可能性がある」と発表、この『増田ショック』によって安倍政権は尻に火が付いた。

これまで省単位で議論してきた人口減少対策を首相官邸に一本化し、安倍首相を本部長とする「少子化対策総合戦略本部」を設置する。複合政策を組み合わせ、ストップ「人口減少社会」に踏み込むことで、今は「日本にはまだ先がある」と思わせる政策をアピールする。

このまま少子化が進むと、労働力不足や国内市場の縮小などで経済活動が勢いを失い、社会保障制度の土台が揺らぐ。国民皆保険と世界に誇った日本の社会保障制度は、累卵の危機に瀕している。子育てを阻む壁を除去し、若い世代の希望に寄り添い、結果として子供が増える社会への構造転換にもはや時間は残されていない。


出所:ジャパンエコノミックパルス作成

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