今月の特集

2017年04月2017年欧州政治は為替相場の波乱材料、ブレグジット、フランス大統領選挙、そしてドイツ総選挙

はじめに

 2016年はブレグジットや米大統領選など、政治イベントの予想外の結果が大きな相場材料となった。今年もトランプ政権の動向に注目が集まろうが、欧州の政治イベントにも注意する必要はありそう。いよいよスタートしたブレグジットのプロセス、極右候補が健闘するフランス大統領選挙、その他の政治情勢について概観しておきたい。

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前途多難のブレグジット(BREXIT)

 3月29日、英国のバロウ駐EU大使が、メイ首相の署名入り離脱通知をトゥスクEU大統領(欧州理事会常任議長)に手渡した。これによりリスボン条約第50条が発動され、ブレグジット(英国のEU離脱)のプロセスがスタートした。

 ただし、離脱に関する交渉ルールは4月29日のEUサミット(首脳会談)で決定されるとみられ、交渉の正式なスタートはそれ以降となるかもしれない。

 以下では、ブレグジットに関していくつかのポイントを見ておきたい。

英国のEU残留は可能か

 ここでの交渉とは離脱するか否かではなく、離脱の条件や将来の取り決めに関するものだ。交渉期間は英国の通知から2年間とされており、合意の有無とは関係なく、通知の2年後、つまり2019年3月に英国はEUを離脱することになる。それを覆す新たな取り決めの可能性もゼロではないものの、現実味があるとは言い難い。

 英国とEU双方の議会などでの批准手続きを考慮すると、交渉は2018年10月ごろまでに終了する必要があるようだ。ただし、英国を含むEU全加盟国が承認すれば、交渉期間は延長することが可能だ。

交渉の難航は必至か

 離脱通知のなかで、メイ首相は離脱条件の交渉と並行して、通商面などでの英国とEUの新たな関係や移行期の激変緩和措置についても話し合いたい意向を示した。これに対して、EUは、離脱条件を決定することが第一であり、それが固まった段階で将来の関係や移行措置について話し合いを始めるとのスタンスだ。英国がどのような形・条件でEUを離脱するかを交渉する前に、その交渉をどのように進めるかを交渉することになるかもしれない。

 EUはもともと、英国が離脱によって一方的に利益を享受しないよう、つまりは追随する国が出てこないよう厳しい条件を課す意向だ。一方、英国のEU離脱派は離脱が国民に利益をもたらすとして説得工作した経緯があり、両者の溝は簡単には埋まらないだろう。合意がないままに交渉が早期に終了するとの見方が一部にあるのはそのためだ。

ブレグジットには費用がかかる

 英国はEU離脱にあたって、加盟中に発生した債務(EUスタッフの年金債務など)や過去に約束した拠出などを精算する必要がある。EUでは、その額は500-600億ユーロと試算されているようだ。一方で、英国も拠出の必要は認めているものの、政府内の離脱推進派が拠出金の上限を30億ポンドとするよう主張しているとの報道もある。両者の巨額の溝がどのように埋められるのか不透明だ。

「ハード・ブレグジット」とは?

 「強硬離脱」との訳もあるが、「交渉がまとまらない中で英国が強引にEUを離脱する」と解釈されるのであれば、それは必ずしも正しくない。「ハード・ブレグジット」とは、移民・難民、あるいはその他の取り決めに関して英国が自由裁量を確保する一方で、単一市場参加などの優遇も放棄することを指す。「クリーン・ブレグジット」とも呼ばれ、そちらの方が本来の意味に近い。

 「ハード・ブレグジット」のケースでは、EUからすれば、英国はその他のEU外の国と同じ扱いとなる。英国はEUだけでなく、米国などEU外の国とも新たな通商協定を模索することになる。そして、通商協定を結べなければ、英国はWTO(世界貿易機関)の共通ルールに従うことになる。

スコットランドはどうなる?

 3月28日、スコットランド議会は、英国からの独立を問う住民投票の再実施について、英政府と交渉する権限をスタージョン行政府首相に与えた。2014年9月18日に実施された住民投票では55%対45%で独立が否決されたが、その後にブレグジット決定という大きな変化があった。住民投票の実施時期は、ブレグジットの条件が固まる2018年秋-2019年春を想定しているようだ。

 メイ首相は住民投票を承認しない意向のようだが、同首相は国内にも頭の痛い問題を抱えることになりそうだ。一方、自国内に類似の独立問題が燻(くすぶ)るスペインなどは、スコットランドが英国から独立したうえでEUに残留することに強く反対しそうだ。

 いずれにせよ、ブレグジットの道のりは長く、そして前途は多難と言えそうだ。

 

フランス大統領選挙でルペン氏が支持を集めるか

 フランス大統領選挙では、4月23日の第1回投票で過半数の支持を得た候補が大統領に選出される。どの候補も過半数を得られない場合は、上位2名の候補による第2回投票(決選投票)が5月7日に実施される。

 第1回投票前の世論調査では、候補者全11人中の上位でも30%の支持率に届かず、第2回投票に進むのはほぼ確実な状況だ。

 正式な選挙キャンペーンは4月10-21日。第1回投票の結果判明は4月24-26日、第2回投票の公式結果は5月11日に判明する模様だ。

 なお、6月11日と18日には議会選挙が実施される。

本命フィヨン氏は公金不正疑惑で失速

 序盤戦をリードしたのは、中道右派、共和党のフィヨン元首相だったが、身内への公金給与不正給付の疑惑によって失速した。代わって、改革派の「前進!」を主宰するマクロン前経済相と、極右、国民戦線(FN)のルペン党首が支持率で接戦を演じている。さらに、極左、左翼党のメランション共同党首が支持を伸ばしてきた。その結果、大統領選挙は、マクロン氏とルペン氏を軸に、フィヨン氏とメランション氏が絡む4つ巴の様相を呈している。

 なお、人気が低迷するオランド大統領の後継者、中道左派の社会党アモン氏は大きく出遅れているようだ。

 最大の注目は、国民戦線のマリーヌ・ルペン党首がどれだけ有権者から支持されるかだろう。ルペン氏は、フランスの国家主権を最重要視しており、「フレグジット:FREXIT(フランスのユーロ圏離脱)」に関する国民投票を実施すると公約している。また、NATO(北大西洋条約機構)からの離脱や、ユーロ通貨を放棄して独自通貨(新フラン?)を採用することも主張している。

 昨年の英国民投票や米大統領選挙で明らかになった、各国のポピュリズムや反グローバリズムの動きが一段と強まるのか、それとも3月のオランダ総選挙での自由党の敗北が示唆したように、それらにいったんブレーキがかかるのか、大いに注目されるところだ。

メインシナリオはマクロン氏勝利で、市場の反応は限定的か

 投票日の約2週間前の世論調査結果を基にすれば、ルペン氏とマクロン氏が第2回投票に進み、そこでマクロン氏が大差で勝利して大統領に当選するというのが妥当なシナリオだろう。したがって、それが実現するのであれば、金融市場はあまり反応しないのではないか。ただし、大統領選挙という不確実性が消滅することは安心感をもたらす可能性はある。ルペン氏とフィヨン氏が第2回投票に進むケースでも、ルペン氏の敗北が予想されており、市場の反応に大きな差はないのではないか。

ルペン氏躍進ならフレグジットが強く意識されそう

 第2回投票でルペン氏が勝利する(=大統領になる)ケースでは、「フレグジット」が強く意識されるため、金融市場は波乱の展開となろう。昨年の英国の国民投票や米大統領選挙でみられたように、リスクオフから一時的にせよ全面的な円高が進行する可能性もありそうだ。

 第1回投票でルペン氏が予想以上の支持を獲得するケースでも、第2回投票におけるルペン氏勝利が意識されることで、程度の差こそあれ、市場が類似の反応を見せる可能性はある。

ルペン氏早期敗退なら金融市場は好感しそう

 一方で、市場が最も好感するシナリオは、第1回投票でルペン氏が敗退するケースだろう。可能性は低いが、もしそうなれば「フレグジット」の懸念は大きく後退するだろう。第2回投票に進むのがマクロン氏とフィヨン氏であれば、国民にとっては重要な選択だろうが、金融市場にとってはどちらが勝っても影響は変わらないのではないかと思われる。

かく乱要因となりそうなメランション氏

 左翼党のメランション氏の健闘は、選挙のかく乱要因となりそうだ。最新の世論調査ではフィヨン氏と3位争いを演じているが、万が一、第1回投票で2位以内に食い込むようなことがあれば、そして第2回投票のライバルがルペン氏であったなら、有権者は「極右か極左か」という究極の選択を迫られることになる。

 メランション氏は条件付きでユーロ圏残留を主張しているため、金融市場からみればルペン氏より好まれるかもしれないが、ユーロ圏第2の大国で極左政権が誕生するならば、その影響は計り知れないだろう。

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ドイツとイタリアの総選挙までは紆余曲折も

ドイツ総選挙は9月24日に決定

 8月下旬-10月下旬に予定されていたドイツ連邦議会選挙は、9月24日投票に決定した模様だ。前回、2012年の選挙では、メルケル首相率いる中道右派のキリスト教民主同盟CDU(+姉妹地方政党のCSU)と中道左派の社会民主党SPDによる大連立がなされ、メルケル政権が3期目に入った。

 一時盤石に見えたメルケル政権だったが、難民問題のハンドリングの拙さや頻発するテロを背景に求心力が大きく低下している。ただし、メルケル首相およびCDUを強く脅かす政党が見当たらないのも事実だろう。極右のポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」はフランスの国民戦線やオランダの自由党ほど支持を集めているわけではなさそうだ。

 もっとも、激動の欧州政治(国際政治?)において、6か月先は「遥か彼方」だろう。ドイツの連邦議会選挙までに、まだまだ紆余曲折があるかもしれない。

 

イタリアは第1党、民主党(PD)の党首選が4月末に、総選挙は18年初頭か

 同様にイタリアの政局も不透明だ。レンツィ首相(当時)は憲法改正を目指した昨年12月の国民投票で敗れて、首相を辞任した(後任首相はジェンティローニ氏)。4月30日には、第一党である民主党(PD)の党首選が実施される。レンツィ氏の再選が有力視されているようだが、党首選を通じて求心力が高まるかどうかは不透明だ。当初、総選挙が今年の早い段階で実施されるとの見方があったものの、2018年初頭の実施になりそうだ。

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(チーフエコノミスト 西田明弘)

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