今月の特集

2017年07月主要中央銀行、それぞれの金融政策

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はじめに

 2008年9月のリーマン・ショック直後から積極的な金融緩和を行ってきた主要中央銀行が政策の転換期を迎えつつある。

もちろん、すでに複数回の利上げを実施し、保有債券の残高縮小を視野に入れる米FRBや、量的緩和を継続しつつ「出口」の議論は時期尚早とする日銀など、それぞれに温度差はある。以下では、各国中央銀行の採ってきた金融政策、現状、「次の一手」や注目点についてまとめた。

 

◆米国:FRB(連邦準備制度理事会)

リーマン・ショック後:

 2008年12月、政策金利(FFレート目標水準)を0-0.25%に引き下げて、事実上のゼロ金利政策を採用。2011年秋、低金利を2年程度続けることを宣言(フォワードガイダンス/時間軸効果)して、市場金利の低下による景気刺激を企図。2008年11月から2014年10月にかけて、断続的に3度のQE(量的緩和)を実施。テーパリング(QEの段階的縮小)の期間は2014年1-10月。

現状:

 非伝統的金融緩和からの正常化の途中。2014年1月にテーパリングを開始し、同年10月にQEを終了。15年12月に利上げを開始し、16年12月、17年3月、6月と追加利上げを実施して、政策金利は1.00-1.25%(6月26日現在)。

「次の一手」とその時期:

 緩やかなペースでの利上げを続ける意向(年内もう1回、9月か12月か)。満期を迎える保有債券の再投資の段階的に縮小することで、約4.5兆ドルに膨れ上がったバランスシート(B/S)の縮小を年内に開始する可能性がある。

今後の注目点:

 「ロシアゲート」など政局が不透明ななか、トランプ大統領の減税やインフラ投資が実現するか。足元の景気減速や物価鈍化が一時的現象か、それとも長期化するか。労働需給のひっ迫(≒失業率の低下)が賃金上昇率の加速につながるか。最高値を更新する株価に変調の兆しがみられるか。イエレン議長(18年2月任期満了)の後任に誰が指名されるか。

◆ユーロ圏:ECB(欧州中銀)

リーマン・ショック後:

 リーマン・ショック前に4%を超えていた政策金利(リファイナンスレート)を2009年5月にかけて1%まで引き下げ。2011年11月から利下げを再開し、2016年3月にゼロ金利へ。2014年6月に中銀預金金利をマイナス(-0.10%)へ、同金利は現在-0.40%まで引き下げ。

 リーマン・ショック直後から特殊な債券の購入や長期資金供給など量的な緩和を行っていたが、2015年1月に域内の国債等を購入する本格的なQE(量的緩和)を決定、3月に開始した。

現状:

 QE(量的緩和)を継続中。今年1月に「月800億ユーロを少なくとも17年3月まで」から「月600億ユーロを少なくとも17年12月まで」へ修正。ドラギ総裁は金融緩和の延長であり、段階的縮小(テーパリング)ではないと主張。ドラギ総裁は、6月の会見でも「金融緩和がなお必要」との見解を改めて強調した。

「次の一手」とその時期:

 ECB内部で、QEの停止を求める声が増えている模様。年内に18年1月以降のテーパリングを決定する可能性がある。

今後の注目点:

 金融緩和の引き揚げに慎重なハト派のドラギ総裁と、ドイツ連銀総裁などタカ派のECB理事との力比べで、どちらに軍配が上がるか。ブレグジット(英国のEU離脱)の影響をユーロ圏経済も受けるか。

◆英国:BOE(イングランド銀行)

リーマン・ショック後:

 リーマン・ショック前に5%だった政策金利(ベースレート)を2009年3月に0.50%まで引き下げ、同時に総額1,500億ポンドの債券購入を開始。債券購入は、2012年7月に総額を3,750億ポンドまで引き上げた後に停止。

現状:

 2016年6月の国民投票の結果(ブレグジット決定)を受けて、同年8月にベースレートを0.25%へ引き下げ、同時に債券購入の総額を4,350億ポンドへ増額した。かつてはFRBの次に利上げが近いとされていたが、ブレグジット決定によって状況が変化。

 そうした経緯もあって、2013年にBOC(カナダ中銀)総裁から転身したカーニー総裁は利上げに慎重姿勢。ただし、英ポンド安などからインフレ率がBOEの目標である2%を上回ってさらに加速しており、利上げを主張する委員が増えてきた。6月15日のMPC(金融政策委員会)では5対3の僅差で現状維持が決まり、反対票を投じた3人の委員は即時利上げを主張した。

「次の一手」とその時期:

 BOEは利上げのタイミングを模索するとみられる。カーニー総裁は「金融緩和をいくぶん解除することが必要になる公算は大きい」と述べ(6月27日の講演)、年内利上げに含みを残した。

注目点:

 ブレグジット(の交渉)が英経済や金融市場に与える影響。英ポンドの行方など。

◆日本:BOJ(日本銀行)

リーマン・ショック後:

 日銀は政策金利(無担保翌日物コールレート)を、それまでの0.5%から2008年10月に0.3%へ、同12月に0.1%へ引き下げ。さらに、社債やCPの買入れなどで潤沢な資金供給を行った。ただ、他の主要中銀に比べて利下げ幅が極めて小さかったこともあり、円高が進行して日本経済への大きな下向きの圧力となった。デフレ(物価の下落)が長期化する一因となった。

 2012年12月に第二次安倍政権が誕生して、アベノミクスを推進。2013年4月には、就任したばかりの黒田総裁が量的緩和を開始、「(黒田総裁の)バズーカ」や「異次元の金融緩和」と呼ばれた。

 2014年10月には量的緩和を拡大(ハロウィーン緩和)。さらに、2016年1月に(当座預金の一部に)マイナス金利を導入。そして、同年9月には長期金利の誘導を加えた「長短金利操作付き質的・量的金融緩和」を導入した。

現状:

 日銀は「長短金利操作付き質的・量的金融緩和」を続けており、年間80兆円を「めど」に国債を購入している。ただし、マイナス金利の導入が金融機関の収益悪化につながり、また国債購入により日銀の保有国債が発行残高の4割に達するなど、現行政策の持続可能性に疑問が生じ始めている。もっとも、日銀は「(非伝統的金融緩和からの)出口戦略を検討するのは時期尚早」との姿勢を大きく崩していない。

次の一手と注目点:

 現行の「長短金利操作付き質的・量的緩和」をいつまで続けるのか、続けることができるのか。日銀に「出口戦略」を求める声は強まっている。また、黒田総裁の任期満了が18年4月に到来するため、後任人事はどうなるか、任期満了前に黒田総裁が「出口」の地ならしを行うのか。

◆カナダ:BOC(カナダ銀行)

リーマン・ショック後:

 2009年4月にかけて、政策金利(翌日物金利)を0.25%へと引き下げ。2010年6月に利上げへと転じ、同年7月と9月に追加利上げを実施し、政策金利は1.00%へ。原油価格の大幅な下落などを背景に2015年1月と7月に利下げを行った。

現状:

 2015年7月以降、政策金利を0.50%に据え置き続けている。BOCのポロズ総裁は2017年6月、「2015年に実施した利下げは役割をほぼ果たした」と発言。近い将来に利上げに転じる可能性を示した。

「次の一手」とその時期:

 「利上げ」の可能性大。年内、早ければ年央にも実際される可能性がある。

今後の注目点:

 政策金利が2015年の利下げ前の水準に戻るとすれば、2回の利上げが想定される(1回の利上げ幅が0.25%の場合)。市場では1回目の利上げは年内との見方が有力。金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)が織り込む、2017年7月の利上げの確率は84.3%(6月30日時点)。7月の利上げがある程度織り込まれたことから、市場の関心は今後、その次(2回目)の利上げ時期に移ると見られる。原油価格の動向にも注目。

◆豪州:RBA(豪準備銀行)

リーマン・ショック後:

 リーマン・ショック前に7.25%だった政策金利(キャッシュレート)を2009年4月にかけて3.00%へと引き下げ。2009年10月に利上げへと転じ、2010年11月まで計7回の利上げを行い、政策金利は4.75%へ。その後、2011年11月に利下げへと転じ、2016年8月まで計13回の利下げを実施した。

現状:

 2016年8月の利下げ以降、政策金利を過去最低の1.50%に据え置きいている。

「次の一手」とその時期:

 RBAは、賃金の伸びの鈍さや高水準の家計債務に懸念を示し、労働市場と住宅市場を注視する意向を表明。利下げは、家計債務のさらなる増加を招く恐れがあるため、利下げ実行のハードルはかなり高いと見られる。一方、労働市場の状況を踏まえると、利上げも難しいと考えられる。次の一手は、「利上げ」の可能性が高いと見られるが、かなり先になりそう。2018年後半か。

今後の注目点:

 労働市場と住宅市場の動向が金融政策の鍵を握りそう。雇用関連や住宅関連指標に注目。労働市場の改善が続く、とりわけ賃金の伸びが加速する場合、RBAは利上げを検討し始める可能性がある。

◆NZ:RBNZ(NZ準備銀行)

リーマン・ショック後:

 リーマン・ショック前の2008年7月に8.25%だった政策金利(オフィシャル・キャッシュレート)を2009年4月にかけて2.50%まで引き下げ。2010年6月に利上げに転じ、7月に追加利上げを実施して、政策金利を3.00%に引き上げた。2011年3月、前月にクライストチャーチで発生した大地震を受けて、0.50%の利下げを行った(政策金利を2.50%へ)。2014年3月に利上げへと転換し、7月にかけて3.50%へと引き上げ。2015年6月に利下げへと転じ、2016年11月にかけて過去最低の1.75%まで引き下げた。

現状:

 NZの1-3月期のCPI(消費者物価指数)上昇率は前年比+2.2%と、2011年7-9月期以来の強い伸びを記録。RBNZのインフレ目標の中央値である+2%を上回ったものの、RBNZは一時的な要因の影響が大きいと指摘。5月の金融政策報告で、利上げは2019年7-9月期になる可能性を示した。

「次の一手」とその時期:

 「利上げ」の可能性大。一時的要因の影響とはいえ、CPI上昇率がRBNZの目標中央値を超えており、比較的堅調なNZ経済を踏まえると、RBNZの見通し(2019年7-9月期)よりも早く利上げが実施される可能性がある。利上げ時期は、新総裁が就任する2018年3月以降か。ウィーラー総裁は2017年9月26日に退任して、その翌日から2018年3月26日までスペンサー副総裁が総裁代行を務めることが決まっている。

今後の注目点:

 RBNZは5月の金融政策報告で、CPI上昇率は1-3月期がピークで今後徐々に鈍化していくと予想したが、その通りになるか。CPI上昇率が加速する(予想以上に鈍化する)場合、2018年3月の新総裁就任前でもRBNZは利上げ(利下げ)に踏み切るのか。

◆トルコ:TCMB(トルコ中央銀行)

2014年以降:

 TCMBには3つの主要政策金利がある。通常は、1週間物レポ金利を中心に、翌日物借入金利を下限、翌日物貸出金利を上限として、その範囲内(コリドー)に短期市場金利を誘導する。

 2014年1月28日、トルコの政治混乱や定例会合で利上げが見送られたことで、トルコリラが急落するなか、TCMBは緊急会合を開催。3つの主要政策金利全てを大幅に引き上げた(1週間レポ金利:4.50→10.00%、翌日物借入金利:3.50%→8.00%、翌日物貸出金利:7.75%→12.00%へ)。

 トルコリラが落ち着きをみせたことで、2014年5月から利下げへと転換。2015年2月にかけて、1週間物レポ金利を7.50%、翌日物借入金利を7.25%、翌日物借入金利を10.75%まで引き下げた。

 2016年3月、政策金利を最終的に一本化する「単純化」措置を開始。その一環として、翌日物貸出金利を9月にかけて8.25%へと引き下げた。

 その後、トルコリラ安を背景にインフレ圧力が強まるなか、TCMBは2016年11月に利上げへと転換。2017年1月半ば頃から、短期市場金利を翌日物貸出金利よりさらに高い、「後期流動性貸出金利」へと誘導している。後期流動性貸出金利は、2017年1月に1.00%、3月に0.75%、4月に0.50%と3会合連続で引き上げられた後、6月は据え置き。6月時点で12.25%。

現状:

 TCMBは、インフレ見通しが著しく改善されるまで金融政策の引き締めスタンスを維持し、必要な場合には追加利上げを行う意向。

「次の一手」とその時期:

 「利下げ」の可能性の方がやや高いか。後期流動性貸出金利は2017年に入り、大幅に引き上げられた(累計2.25%)。景気が勢いを欠くなかで、TCMBがインフレ対応で追加利上げを行うのは難しくなったと考えられる。利上げのハードルは高そう。一方、CPI上昇率がTCMBのインフレ目標を大幅に上回る状況では、ただちに利下げを行うのも難しいと見られる。利下げするとしても早くて2017年10-12月期か。

今後の注目点:

 TCMBは現在(2017年6月時点)、市場金利を後期流動性貸出金利へと誘導。後期流動性貸出金利が事実上の上限金利として機能している。ただし、トルコリラが反発基調を強めるなどしてインフレ圧力が和らげば、TCMBは上限金利を「後期流動性貸出金利」から「翌日物貸出金利」へと戻す可能性がある(事実上の利下げ)。

◆南アフリカ:SARB(南アフリカ準備銀行)

リーマン・ショック後:

 リーマン・ショック前に12.00%だった政策金利(レポレート)は、2012年7月にかけて5.00%まで引き下げられた。SARBは2014年1月に利上げへと転じ、2016年3月にかけて計6回の利上げを実施。政策金金利を7.00%へと引き上げた。

現状:

 景気の悪化とインフレ圧力のジレンマに直面するなか、2016年3月以降、政策金利を7.00%に据え置いている。

「次の一手」とその時期:

 2018年初めにも「利下げ」か。SARBのクガニャゴ総裁は、2014年に開始した利上げサイクルが終了したことを示唆する一方、CPI(消費者物価指数)上昇率がSARBの目標内で持続的に推移すれば利下げは可能だとの見方を示している。

今後の注目点:

 CPI上昇率の動向に注目。南アフリカの5月のCPIは前年比+5.4%と、4月の+5.3%から上昇率が若干加速したものの、SARBのインフレ目標(+3?6%)内に2か月連続で収まった。目標内に推移し続け、さらに+4.5%(目標の中央値)以下の水準に近づくほど、利下げがより現実味を帯びそう。

●政策金利の推移

出所:Bloombergより作成

 

●金融政策会合のスケジュール

 

(チーフエコノミスト西田明弘/シニアアナリスト八代和也)

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