今月の特集

2017年09月【アップデート版】米議会審議の行方と米ドル円相場

 

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【アップデート】

9月6日、トランプ大統領は、ハリケーン・ハービー救済金、デットシーリング(債務上限)の引き上げ、継続予算について、議会と合意しました。ただし、デットシーリングの引き上げと継続予算は12月15日までの期限付きです。つまり、トランプ政権と議会は問題を3か月程度先送りしたに過ぎません。本稿に従えば、「メインシナリオ」に沿った展開と言えるでしょう。

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<以下は、9月6日配信のオリジナル版と同一です>

【課題山積の米議会】

9月5日に再開された米議会の前には、これから年末までに取り組むべき課題が山積しています。

まず、今年10月1日から始まる2018年度の予算です。メキシコとの国境の「壁」の費用が計上されなければ、トランプ大統領は拒否権を発動するとしており、その場合はシャットダウン(政府機関の一部閉鎖)につながるかもしれません。議会が9月中に正式な予算法案を可決できなければ、継続予算(短期のつなぎ予算)で時間を稼ぎつつ、予算審議を10月1日以降も続けることになります。

デットシーリング(債務上限)の引き上げも喫緊の課題です。10月上中旬に期限が到来するとされていますが、後述するハリケーン被害救済金を勘案すれば、期限到来が早まる可能性はある。引き上げが期限に間に合わなければ、一時的にせよ米国債がデフォルト(債務不履行)することになりかねません。

ハリケーン「ハービー」の被害に対する救済金は、議会でも異論がなさそうです。政府は、デットシーリングと救済金と抱き合わせた法案を可決するように議会に求めています。議会が救済金に反対するのは難しいからです。ただ、議会が政府の思惑通り動く保証はありません。

減税を含む税制改革は、予算関連法案として、あるいは単独の法案として議会で審議されます。予算関連法案とすると、民主党によるフィリバスター(採決妨害)は回避できますが、財源の明確でない減税は財政赤字拡大につながるとして、一部の共和党議員も反対する可能性はあります。

上記以外にも、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉中国の知的所有権侵害や北朝鮮に対する制裁措置に関連して、何らかの法案が審議される可能性もあるでしょう。

 

 

【3つのシナリオ】

さて、これらの課題に対して、議会がどう取り組み、為替相場はどう反応するのか。以下に3つのシナリオを考察します。( )は、筆者が定性的に判断する各シナリオの生起確率。

 

バラ色のシナリオ:米ドル円はレンジを上放れ(20%)

議会が課題を次々にクリアするケース。共和党が政権と議会両院をコントロールする、いわゆる「統一された政府」の利点が活き、「数の論理」で物事が決まります。トランプ政権も、メキシコ国境の「壁」や対中国・北朝鮮への制裁など過激な要求を控えます。そして、ハリケーン被害救済の喫緊性が議会の審議にスピードをもたらします。18年に入ると秋の中間選挙が視野に入ることも、「結果を出す議会」を有権者にアピールするインセンティブとなります。

2018年度予算は9月中に成立し、デットシーリングも十分な余裕を持って引き上げられます。さすがに税制改革はすぐには実現しませんが、早期の実現に向けてトランプ政権と議会でのすり合わせが進みます。 

以上の「バラ色のシナリオ」の下では、北朝鮮情勢に絡むリスクオフが今後一段と強まらないことを前提として、米ドルの堅調が想定されます。米政治の不透明感が払しょくされ、税制改革(減税)による景気刺激の期待もあって、「18年に複数回利上げ」との観測が強まるでしょう。米ドルは対円でも上昇し、2017年ここまでの中心的レンジ(108円-115円)を上放れる可能性があります。

残念ながら「バラ色のシナリオ」が実現する確率は高くないでしょう。オバマケア改革の失敗にみるような、トランプ大統領の政権運営の稚拙さ、共和党内部の足並みの乱れ、共和党と民主党の対立姿勢などが劇的に好転するとは考えにくいからです。

 

メインシナリオ:レンジ相場の継続(70%)

可能性が最も高いシナリオは、議会がなんとか必要最低限の仕事だけはするというもの。議会は、年度開始までに正式予算を決められず、(いくつかの)継続予算を経て年末近くまで審議を続けます。「壁」の費用が含まれないことで、トランプ大統領が拒否権を発動すれば、一時的なシャットダウンの可能性も出てきます。ただ、一般市民は不便を強いられますが、短期間であれば市場への影響は限定的となります。

議会は、ハリケーン被害救済金を迅速に承認します。一方で、デットシーリングの引き上げは難航して、期限ギリギリになります。そして、税制改革は最小限で、ごく小規模の減税だけが成立します。 

この「メインシナリオ」の下では、米ドル円はレンジ相場の継続が想定されます。シャットダウンやデフォルトが意識されれば、米ドル円はレンジの下限に接近、それらの問題が解決に向かえば、同じく上限に接近するような展開です。

 

最悪のシナリオ:米ドル円は100円割れも(10%)

確率は低いかもしれませんが、もっと悪いシナリオもありえます。トランプ政権と議会、あるいは議会内の共和党と民主党の対立が先鋭化して何も決められないケースです。正式な予算成立の見通しは立たず、継続予算の成立が遅れてシャットダウンが頻発(ないし長期化)。デットシーリングの引き上げが間に合わず、(一時的にせよ)国債がデフォルトします。そして、予算やデットシーリングの審議で疲弊した議会は、税制改革を見送ります。 

この「最悪のシナリオ」の下では、市場は大いに混乱し、米ドルの全面安が想定されます。米ドル円は、2016年の一時期を除けば2013年以来となる、100円割れが定着するかもしれません。

トランプ政権は完全にレイムダック化し、共和党に対する有権者の信認も失墜します。民主党にも責任がないわけではありませんが、来年の中間選挙における民主党の勝利、あるいは3年後の大統領選挙での民主党政権の誕生の種がまかれることになります。そうした期待が高まれば、米ドルが底入れを探る展開が待っているかもしれません。

 

 

【最後に】

もっとも、これからの展開が上記の3つのシナリオのいずれかに明確に収れんするとは限りません。「メインシナリオ」の範囲内で、振れ幅が相応に広くなる可能性もあります。「バラ色のシナリオ」や「最悪のシナリオ」に向かっているとみえて、結局は「メインシナリオ」に収まる。あるいは、「メインシナリオ」に沿った展開から「最悪のシナリオ」に接近、それが危機バネとなって「バラ色のシナリオ」が実現する。そんなコースもあり得ないわけではありません。

 

(チーフエコノミスト 西田明弘)

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