今月の特集

2017年05月【アップデート】2017年欧州政治は為替相場の波乱材料、ブレグジット、フランス大統領選挙、そしてドイツ総選挙

 <フランス大統領選挙の結果など最新の情勢を踏まえて加筆修正しました>

はじめに

 2016年はブレグジットや米大統領選など、政治イベントの予想外の結果が大きな相場材料となった。今年もトランプ政権の動向に注目が集まろうが、欧州の政治イベントにも注意する必要はありそう。いよいよスタートしたブレグジットのプロセス、6月の英仏議会選挙、その他の政治情勢について概観しておきたい。

 

前途多難のブレグジット(BREXIT)

 3月29日、英国のバロウ駐EU大使が、メイ首相の署名入り離脱通知をトゥスクEU大統領(欧州理事会常任議長)に手渡した。これによりリスボン条約第50条が発動され、ブレグジット(英国のEU離脱)のプロセスがスタートした。

 そして、4月29日の臨時EUサミット(首脳会談)で、EU側のブレグジットに関する交渉ルールが決定された。ただし、交渉の正式なスタートは6月8日の英議会選挙後となるかもしれない。

 以下では、ブレグジットに関していくつかのポイントを見ておきたい。

image

英国のEU残留は可能か

 ここでの交渉とは離脱するか否かではなく、離脱の条件や将来の取り決めに関するものだ。交渉期間は英国の通知から2年間とされており、合意の有無とは関係なく、通知の2年後、つまり2019年3月に英国はEUを離脱することになる。それを覆す新たな取り決めの可能性もゼロではないものの、現実味があるとは言い難い。

 英国とEU双方の議会などでの批准手続きを考慮すると、交渉は2018年10月ごろまでに終了する必要があるようだ。ただし、英国を含むEU全加盟国が承認すれば、交渉期間は延長することが可能だ。

交渉の難航は必至か

 離脱通知のなかで、メイ首相は離脱条件の交渉と並行して、通商面などでの英国とEUの新たな関係や移行期の激変緩和措置についても話し合いたい意向を示した。これに対して、EUは、離脱条件を決定することが第一であり、それが固まった段階で将来の関係や移行措置について話し合いを始めるとのスタンスだ。英国がどのような形・条件でEUを離脱するかを交渉する前に、その交渉をどのように進めるかを交渉することになるかもしれない。

 EUはもともと、英国が離脱によって一方的に利益を享受しないよう、つまりは追随する国が出てこないよう厳しい条件を課す意向だ。一方、英国のEU離脱派は離脱が国民に利益をもたらすとして説得工作した経緯があり、両者の溝は簡単には埋まらないだろう。合意がないままに交渉が早期に終了するとの見方が一部にあるのはそのためだ。

ブレグジットには費用がかかる

 英国はEU離脱にあたって、加盟中に発生した債務(EUスタッフの年金債務など)や過去に約束した拠出などを精算する必要がある。EUでは、その額は500-600億ユーロと試算されているようだ。一方で、英国も拠出の必要は認めているものの、政府内の離脱推進派が拠出金の上限を30億ポンドとするよう主張しているとの報道もある。両者の巨額の溝がどのように埋められるのか不透明だ。

「ハード・ブレグジット」とは?

 「強硬離脱」との訳もあるが、「交渉がまとまらない中で英国が強引にEUを離脱する」と解釈されるのであれば、それは必ずしも正しくない。「ハード・ブレグジット」とは、移民・難民、あるいはその他の取り決めに関して英国が自由裁量を確保する一方で、単一市場参加などの優遇も放棄することを指す。「クリーン・ブレグジット」とも呼ばれ、そちらの方が本来の意味に近い。

 「ハード・ブレグジット」のケースでは、EUからすれば、英国はその他のEU外の国と同じ扱いとなる。英国はEUだけでなく、米国などEU外の国とも新たな通商協定を模索することになる。そして、通商協定を結べなければ、英国はWTO(世界貿易機関)の共通ルールに従うことになる。

スコットランドはどうなる?

 3月28日、スコットランド議会は、英国からの独立を問う住民投票の再実施について、英政府と交渉する権限をスタージョン行政府首相に与えた。2014年9月18日に実施された住民投票では55%対45%で独立が否決されたが、その後にブレグジット決定という大きな変化があった。住民投票の実施時期は、ブレグジットの条件が固まる2018年秋-2019年春を想定しているようだ。

 メイ首相は住民投票を承認しない意向のようだが、同首相は国内にも頭の痛い問題を抱えることになりそうだ。一方、自国内に類似の独立問題が燻(くすぶ)るスペインなどは、スコットランドが英国から独立したうえでEUに残留することに強く反対しそうだ。

英総選挙はメイ首相を助けるか

 4月18日、メイ首相は緊急声明を発表し、解散総選挙に踏み切る方針を明らかにした。既に議会の承認を得ており、6月8日に総選挙が実施される。

 メイ首相が総選挙を決断したのは以下の理由からだろう。

 まず、最大野党の労働党が弱体化しているなかで、ギリギリ過半数を維持する与党保守党の勢力を拡大すること。EU離脱直後の2020年の総選挙を前倒しすることで、政権長期化を図ること。そして、政権の基盤を固めた上で、EUとの離脱交渉に臨むこと、などだ。

 直近の世論調査では、保守党が野党に支持率で大差をつけているため、総選挙で保守党が圧勝すれば、メイ首相の政治基盤は強固になるだろう。もっとも、「選挙は水物」だ。総選挙でBREXIT反対派やスコットランド独立派が勢力を増さないとも限らないし、そうなればメイ首相の狙いが大きく外れる、という事態も考えられよう。

 いずれにせよ、ブレグジットの道のりは長く、そして前途は多難と言えそうだ。

 

フランス大統領選挙はマクロン氏が勝利も、手腕は未知数

 フランス大統領選挙は、4月23日の第1回投票で中道・改革派「前進!」のマクロン氏と極右・国民戦線(FN)のルペン氏が勝利。2人の間で争われた5月7日の第2回投票(決選投票)では、マクロン氏がルペン氏を大差で破り、大統領に当選した。

image

マクロン勝利は金融市場にプラス

 ルペン氏は、反グローバリズム・反EUの立場から「フレグジット:FREXIT(フランスのユーロ圏離脱)」に関する国民投票の実施を公約。また、NATO(北大西洋条約機構)からの離脱や、独自通貨の採用も主張していた。これに対して、マクロン氏はグローバリズムやEUを是とする立場を鮮明にしていた。

 昨年から大きく盛り上がった反グローバリズム・反EUの流れは、3月のオランダ総選挙やフランス大統領選挙で親EU側が勝利したことで、いったん歯止めがかかった。金融市場参加者にとっては一安心といったところだろう。

マクロン氏の手腕は未知数

 もっとも、オランダでもフランスでも、選挙で敗れたのは極右政党だ。2度の悲惨な大戦を経験した大陸欧州で「極右」が広く一般から支持をされるのは難しいのだろう。今回の大統領選挙でも、マクロン氏は、積極的に支持されたというより、消去法的に選択されたのであり、その政治手腕は未知数だ。

 6月11、18日にフランスの議会選挙が実施される。これまで交代で政権を担ってきた中道左派と中道右派は、今回の大統領選挙では決選投票に進めずに惨敗したが、議会選挙では引き続き大きな勢力であり続けそうだ。

 マクロン氏が、新しい大統領として、新議会とどう折り合いをつけて改革を進めることができるのか、大いに注目されるところだ。マクロン氏が結果を残せなければ、国民の不満は一段と高まるかもしれない。

ドイツとイタリアの総選挙までは紆余曲折も

ドイツ総選挙は9月24日に決定

 8月下旬-10月下旬に予定されていたドイツ連邦議会選挙は、9月24日投票に決定した。前回、2012年の選挙では、メルケル首相率いる中道右派のキリスト教民主同盟CDU(+姉妹地方政党のCSU)と中道左派の社会民主党SPDによる大連立がなされ、メルケル政権が3期目に入った。

 一時盤石に見えたメルケル政権だったが、難民問題のハンドリングの拙さや頻発するテロを背景に求心力が大きく低下している。ただし、メルケル首相およびCDUを強く脅かす政党が見当たらないのも事実だろう。極右のポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」はフランスの国民戦線やオランダの自由党ほど支持を集めているわけではなさそうだ。

 もっとも、激動の欧州政治(国際政治?)において、4か月先は「遥か彼方」だろう。ドイツの連邦議会選挙までに、まだまだ紆余曲折があるかもしれない。

 

イタリアでは、レンツィ氏が首相返り咲きを目指して総選挙前倒しも

 同様にイタリアの政局も不透明だ。レンツィ首相(当時)は憲法改正を目指した昨年12月の国民投票で敗れて、首相および第一党である民主党(PD)の党首を辞任した(後任首相はジェンティローニ氏)。

 そして、4月30日、民主党の党首選が実施され、レンツィ氏が再び党首に就いた。一部報道では、2018年初頭に予定される総選挙を今年10月に前倒しして、レンツィ氏が首相返り咲きを目指すとの見方もあるようだ。

 ただし、直近の世論調査では、ポピュリズム政党「五つ星運動」が支持率で民主党を上回ったとの結果もあり、レンツィ氏は厳しい戦いを強いられるかもしれない。

 また、総選挙で「五つ星運動」が躍進するようなら、今度はイタリアがユーロ崩壊の引き金になるとの懸念が強まるかもしれない。

 

image

(チーフエコノミスト 西田明弘)

※当レポートは、投資や運用等の助言を行うものではありません。また、お客様に特定の商品をお勧めするものでもありません。

※当レポートに記載する売買戦略はテクニカル指標その他を基に客観的に判断しているものであり、相場の行方を決定付けるものではありません。最終的な投資判断はご自身の意思判断によりお取引いただきますようお願いいたします。

※当レポートのデータ情報等は信頼できると思われる各種情報源から入手したものですが、当社はその正確性・安全性等を保証するものではありません。

※相場の状況により、当社のレートとレポート内のレートが異なる場合があります。

バックナンバー

「今月の特集」過去記事のタイトル一覧(月別)はこちら。

そのほかのマーケット情報

ページトップへ