市場調査部レポート

2016/12/02 13:25ドル/円、上抜けブレークor反落起点の分水嶺に

【相場環境】イタリア国民投票のシナリオ
【全体観・米ドル】ドル/円、上抜けブレークor反落起点の分水嶺に
【ユーロ】ユーロ/ドル、イタリア国民投票結果を待つ展開に
【豪ドル】資源価格や米国の材料に影響を受けやすい地合いか
【カナダドル】OPECが減産合意!カナダドルのプラス材料になりそう
【トルコリラ】下落圧力が加わりやすい地合い。注意が必要


【相場環境】 イタリア国民投票のシナリオ

足元の市場では、「トランプノミクス(トランプ氏の経済政策)」をポジティブに評価した株高やドル高基調が続いています。ただし、4日のイタリアの国民投票の結果次第では、そうしたユーフォリア(高揚感)に冷水が浴びせられる可能性があり、注意が必要でしょう。

イタリアの国民投票は、憲法を改正して、(1)上院の議席を減らし、権限を縮小させること、(2)地方政府を簡素化して中央政府との重複を解消することの是非を問うものです。

現在のイタリア議会では、上院と下院が同等の権限を持っており、両院を同一の条文の法案が通過しない限り、立法化できません。そのため、多くの改革に時間がかかり、あるいは日の目をみないこともあるからです。レンツィ首相は憲法を改正したうえで、法人税減税や銀行制度健全化などの成長戦略を推進しようとしています。

現時点で、憲法改正の反対派が勢いを増しているようです。憲法改正が否決された場合、レンツィ首相は辞任する意向を表明しており、政局の流動化は避けられない状況です。

想定されるシナリオは以下の通りです。

(1)憲法改正が大差での否決
レンツィ首相が辞任し、最大野党の「五つ星」運動は早期の総選挙を強く要求するでしょう。現在の選挙制度では、下院での最多得票の政党が過半数の議席を与えられるため、政府は選挙制度を改正してから総選挙に踏み切ろうとするはずです(*)。それでも、強硬な反EUの「五つ星」運動による政権奪取の可能性が意識されるかもしれません。また、経営難の銀行支援が難しくなることで、金融市場に動揺が走りそうです。2017年のオランダ、フランス、ドイツなどの選挙への影響も懸念されるでしょう。市場でのリスクオフの強まりやユーロ安が想定されます。

(*)「五つ星」運動には連立を組む政党が見当たらないため、得票数に応じて議席を配分する選挙制度改正を行えば、最多得票であっても過半数に達さないと与党になれない。

(2)憲法改正が小差で否決
レンツィ首相は辞任を思いとどまるか、与党民主党の党首に留まって自身に近い人物を後継に推すでしょう。マッタレッラ大統領の仲介により暫定政権が誕生して(政治家でなく官僚によるテクノクラート内閣になるかもしれませんが)、総選挙は期限である2018年春まで先送りされるでしょう。ただし、政治の不安定化は避けられず、また他の国での反EUへの影響も懸念されるため、ユーロに下押し圧力が加わりそうです。

(3)憲法改正が可決
レンツィ政権の基盤が強化され、次回総選挙が実施されるとみられる2018年春まで政局は安定化するでしょう。経済改革や銀行支援が前進するとの期待が、リスクオンを通じて株高やユーロ高をもたらしそうです。世論調査の結果などから、憲法改正は否決されるとの見方が強まっているだけに、可決された場合の反応は大きくなるかもしれません。2017年の各国の選挙で反EU勢力の躍進が懸念されることに変わりはありませんが、当面は安心感が広がりそうです。

上記シナリオが実現する確率は、(2)>(1)>(3)といったところでしょうか。

なお、4日にはオーストリアの大統領選挙も予定されています。5月に敗れた極右の自由党ホーファー候補が今回のやり直し選挙では勝利するかもしれません。オーストリアの大統領には儀礼的な役割しかありませんが、同候補は反移民を公言しており、その影響は無視できないかもしれません。

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来週の注目は、8日に開催されるECBの理事会(金融政策を決める会合)です。

ECBは現在、QE(量的緩和)を行っており、これを「少なくとも2017年3月まで」続けるとしています。ECBは8日の理事会でQEの延長を判断するとしており、QE延長が決定される可能性が高そうです。ただし、同時にQE終了のヒントを発信する可能性も指摘され始めています。理事会の決定が「現状維持」であったり、QE終了のヒントが発信されたりすれば、ユーロはいったん反発するかもしれません。<チーフエコノミスト 西田明弘>


【全体観・米ドル】 ドル/円、上抜けブレークor反落起点の分水嶺に

[ドル/円、来週の予想レンジ]
○ドル/円:110.00-115.50円

12月相場がスタートしました。12月相場といえば、「サンタクロース・ラリー」「掉尾の一振(とうびのいっしん)」に代表される通り、株式市場では年末(大納会)に向けてブル(強気)相場となりやすいという、過去のアノマリー・通例でも有名です。

こういった過去の通例がある中、マーケットではもう一つの強力な“ラリー”である「トランプ・ラリー」と呼ばれる株高・金利高・ドル高フローがトランプ氏勝利後から継続しており、いわば“トランプ・フィーバー”といったところ。

直近では、そこへ新たに原油高が加わりました。11月30日、OPEC(石油輸出国機構)が8年ぶりとなる日量120万バレルの減産で合意し、WTI原油市場は一時1バレル=52ドル手前の水準まで上昇し、エネルギー関連株の上昇とともに、原油価格の上昇に伴うインフレ観測の強まりが米10年債利回りの上昇を支援し、同利回りは2日時点で2.4%を超える水準まで上昇(債券価格は下落)しています。

債券市場から株式市場へのマネーの流入がさらに加速し、日米株式市場ともにリスク選好の動きとなり、また日米金利差の拡大に伴い、ドル高・円安基調が進展。ドル/円は1日には今年2月16日以来の高値となる114.79円を示現しています。

現在のマーケット環境は、一部新興国を除いてはまさに「死角なし」といった感もありますが、はたしてこのまま順調な“ラリー”が継続するのでしょうか。

結論から申し上げると、今般のようなドル独歩高の動きは、「ドル高による弊害」となってそう遠くない未来において米経済の足を引っ張る主因になり得る可能性があること、また、“ラスト・ベルト”と呼ばれる製造業地帯のトランプ氏ないしは共和党支持者にとって、ドル高は「招かれざる客」となり得、批判が高まる可能性があると考えます。

現時点(12月2日時点)のドル・インデックス(ドル指数)の値は100pを上回っており(100.88)、オバマ政権・ルー財務長官がすかさず口先介入をしたラインである100を上抜けています。「厳然たる(ドル・インデックス)100の壁」を超然と超えて行く状態が続くことは、米経済にとって足枷ないしはブレーキとなり得ることはマンスリー・アウトルックにも記載した通りです。

その“監視”および“牽制”をする立場である次期財務長官に、スティーブン・ムニューチン氏が起用されるとの報道が先日為されましたが、同氏の手腕は未知数といったところが多くのマーケット関係者の見方となっています。(※同氏は元ゴールドマン・サックス幹部であるものの、映画プロデューサーとして「Xメン」「アバター」「ドラゴンボール」「ハドソン川の奇跡」といったビッグヒット作品に関わったことでも有名です。)

昨今の“トランプ・ラリー”の強気相場が続く中、トランプ次期大統領とともに、金融・経済の舵取り役であるムニューチン次期財務長官に共通する点が・・・「手腕が未知数(or計測不能)」というところ。

報道によると、ムニューチン次期財務長官は、3-4%の経済成長を目指すために、税制改正と貿易協定の見直しを最優先事項とするとの見通しを示し、ゴールドマン・サックス出身者らしく「ウォール街に優しい」政策を打ち出すとの期待感がマーケットに好感されているとのこと。

金融規制改革法(ドッド・フランク法)についても否定的な立場を示しており、まさにトランプ次期大統領の経済・金融政策における“大番頭”の役割を担うことが期待されています。

トランプゲームのジョーカーの如く、トランプノミクスの“切り札”となり得るのか、それとも“道化師(ピエロ)”となってしまうのか。その結論を出すには、もうしばらくの時間的経過が必要となりそうです。

閑話休題。以下、ドル/円・週足・一目均衡表+フィボナッチ+ストキャスティクス(スロー)をご覧ください。



上記チャートにおける注目ポイントは・・・ドル/円が上抜けブレークを果たすのか、はたまた反落起点となり得るのかということ。

各種メルクマール解説につき、以下ご確認ください。

1. 足もとでは、ドル/円の直近高値である125.86円(2015/6)[上図A]と直近安値である98.76円(2016/6)[上図B]を結んだフィボナッチ・61.8%戻しである115.51円[上図C]を目指す展開。

2. ローソク足が先行スパン(いわゆる“雲”)の中にあり、当該スパンを上抜けブレークした場合は、他の一目均衡表の指標と合わせ、【三役好転】(=強力な上昇フローシグナル)となる可能性も。

3. 一方で、オシレーター系指標であるストキャスティクス(スロー)が「買われ過ぎ」水準のメドである80%ラインよりも上方でクロスしつつあり、仮にクロスした後に下向き方向に移動した場合(=デッド・クロス)は、過去のパターン[上図赤丸印]同様、反落の起点になる可能性も。

これらより、足もとのドル/円は「上抜けブレーク」なのか、はたまた「反落起点」なのかの分水嶺となっており、その意味でも2日の米11月雇用統計結果とともに、4日のイタリア国民投票+オーストリア大統領選挙結果がその“トリガー”となるのかもしれません。

ファンダメンタルズ材料と合わせて、上図週足チャートの動向に要注目です。<チーフアナリスト 津田隆光>


【ユーロ】 ユーロ/ドル、イタリア国民投票結果を待つ展開に

[ユーロ/円・ユーロ/ドル、来週の予想レンジ
○ユーロ/円:118.00-122.70円
○ユーロ/ドル:1.0500-1.0830ドル

以下、早速ですがユーロ/ドル・週足・ボリンジャーバンド(21週)+ストキャスティクス(スロー)をご覧ください。



上記チャートを見てみると、1) 21MA(21週移動平均線)が右肩下がりとなっていること、2) ローソク足が-2σライン近辺にあることから、基本トレンドは「下向き」と言えそうです。

一方で、オシレーター系指標のストキャスティクス(スロー)では、「売られ過ぎ」水準のメドである20%ラインよりも下方でクロスしつつあり、仮にクロスした後に上向き方向に移動した場合(=ゴールデン・クロス)は、過去のパターン[上図赤丸印]同様、反騰の起点になる可能性も。

ただし、基本トレンドは「下向き」となっていることから、一時的な上昇(=「戻り」)と見るべきで、そのメドは-1σラインである1.0830ドル近辺と想定します。

ストキャスティクス(スロー)といった<逆張り>指標特有の「ダマし」には十二分に注意しつつ、ドル/円と同じく2日の米11月雇用統計結果とともに、4日のイタリア国民投票+オーストリア大統領選挙結果を見極める必要があると考えます。<津田>


【豪ドル】 資源価格や米国の材料に影響を受けやすい地合いか

RBA(豪中銀)が6日、政策金利を発表します。RBAは前回11月の会合で政策金利を過去最低の1.50%に据え置く一方、声明で「インフレ率は今後2年間に徐々に上向く見込み」との一文を追加。この文言を受けて、市場ではRBAの利下げ打ち止め観測が浮上しました。

主力輸出品である鉄鉱石価格が約2年ぶりの高値圏にあり、豪ドルは対米ドルで11月の会合以降に下落しました。加えて、豪州の10-12月期インフレ率が来月(1月)発表されます。以上を踏まえると、RBAは今回も政策金利を1.50%に据え置くとみられます。注目は、声明で今後の金融政策について新たな材料が提供されるかどうか。とりわけ、インフレや金融政策に関する文言が焦点になりそうです。声明が市場の利下げ打ち止め観測を強めるものであれば豪ドルが上昇し、反対に利下げ打ち止め観測を後退させるものであれば豪ドルが下落しそうです。

一方、声明の内容に前回から大きな変化がなければ、豪ドル/米ドルは原油や鉄鉱石などの資源価格や、米国(米ドル)の材料に影響を受けやすいとみられます。対円は、資源価格のほか、ドル/円の動向にも目を向ける必要がありそうです。<アナリスト 八代和也>


【カナダドル】 OPECが減産合意!カナダドルのプラス材料になりそう

OPEC(石油輸出国機構)は11月30日の総会で、原油を減産することで合意しました。OPECの減産は2008年以来、8年ぶりです。10月の生産量から120万バレル削減し、日量3250万バレルを生産目標とします。サウジアラビアが日量48.6万バレル削減し、ナイジェリアやリビア、イランを除いた他の加盟国も減産。ナイジェリアやリビアは政情不安や内戦により生産量が減少しているため減産の対象外となり、経済制裁が今年解除されたイランは若干の増産が認められました。

OPECの減産合意を背景に、原油価格は今後一段と上昇する可能性があります。カナダは原油を主力輸出品とするため、原油価格の上昇はカナダドルにとってプラス材料です。

7日にBOC(カナダ中銀)が政策金利を発表します。政策金利は現行の0.50%に据え置かるとみられます。注目点は、前回10月の会合で検討された利下げが、今回も検討されたのかどうか、そして声明における金融政策に関する文言になりそうです。金融政策に関する文言は、前回10月の会合では「リスクバランスは、現在の金融政策スタンスが適切となる領域にとどまっており、BOC理事会は政策金利を0.50%に据え置くことが適切と判断した」でした。利下げの検討の有無や、声明の内容にカナダドルが反応する可能性もあります。<八代>


出所:Bloombergより作成


【トルコリラ】 下落圧力が加わりやすい地合い。注意が必要

トルコリラは12月1日、対米ドルや対ユーロで過去最安値をつけました。トルコのユルドゥルム首相の発言が背景です。ユルドゥルム首相は1日、エルドアン大統領の権限を拡大する憲法改正案を来週(12月4日の週)議会に提出すると表明し、「来年の夏の初めに憲法改正の賛否を問う国民投票を実施する可能性がある」と述べました。

市場は、憲法改正によってエルドアン大統領が一段と独裁色を強めることを懸念しており、トルコ国外への資金流出懸念とともに、トルコリラへの下落圧力となっています。

与党AKP(公正発展党)の議会における議席は317。国民投票の実施に必要な330議席に足りませんが、野党のMHP(民族主義者行動党、40議席)がAKPの憲法改正案に賛成する姿勢を示しており、憲法改正の賛否を問う国民投票が実施される可能性大です。

ユルドゥルム首相が憲法改正案の提出や国民投票の時期に言及したことで、トルコリラには引き続き下落圧力が加わりやすいとみられます。対円(トルコリラ/円)は、ドル/円の上昇に支えられて比較的落ち着いた値動きになっているものの、注意が必要です。<八代>


出所:Bloombergより作成




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