週刊2分でわかるトルコ

2016/07/18拡大版:トルコの現在、過去、未来

「現在:6000人拘束」

週末、世界のメディアが報じたトルコのクーデター関連のニュースを集中的に見ました。テレビカメラが映し出したトルコはまさにカオス状態。戦車や銃を構える兵士がイスタンブールの中心部になだれ込む。首都アンカラの上空には戦闘機。瓦礫と化した議会ビル。多くの民間人を含む265人が死亡、多数が負傷した15日のクーデター未遂事件は不安定なトルコの現在を象徴しています。

トルコ政府は、これまでにクーデターに関与したとされる6000人を拘束しました。軍の幹部クラスが複数含まれています。裁判官や検察官2700人の身柄も拘束されました。

クーデターの背景を追求していますが、首謀者はまだわかっていません。トルコでは過去3回、軍によるクーデターが成功しています。いずれも軍の幹部によるものでしたが、今回はエルドアン大統領の強権に反発する「草の根」の反乱だった可能性があるとアメリカの元CIA幹部がCBSにコメントしています。

エルドアン大統領は事態を完全に掌握したと宣言しました。同時に、敵対するイスラム教穏健派指導者のギュレン師が背後にいるとして、アメリカに身柄の引き渡しを求めました。ギュレン師は現在、アメリカ東部ペンシルバニア州の山奥に住んでいます。

イスラム教と政治の分離、世俗主義の併存を認めた「トルコ建国の父」であるアタチュルク氏の主張を引き継いだギュレン師の運動は「ギュレン運動」と呼ばれます。トルコ国内の大手銀行、放送局、新聞社などを傘下におき、影響力があります。世界中に活動を広げています。

ギュレン氏はアメリカのメディアに対し、クーデター未遂事件への関与を完全に否定しました。同時に、かつて盟友だったエルドアン大統領が「市民の資産を差し押さえている」と強く批判しました。

アメリカのケリー国務長官は、ギュレン師について「正式の身柄引き渡し要求がまだない」と述べています。今後、外交問題に発展する可能性があります。NATO加盟国であるトルコは、アメリカにとって中東政策の重要な要ですが、「非民主的なクーデター未遂事件」と「非民主的な大統領」の間で、アメリカのトルコ外交は複雑さを増しました

「過去:永久大統領」

世界に衝撃を与えたクーデター未遂事件をきっかけに、トルコのエルドアン大統領の変貌にあらためて注目が集まりました。

Financial Timesは「トルコで最も権力を持つ男」と題した記事を掲載しました。1954年2月に5人兄弟の末っ子として生まれたエルドアン氏は、優秀な生徒ではありませんでしたが、社会活動に関心があり、論争好き、詩を好んで読んでいました。1970年代半ばに学校を卒業しましたが、トルコは暴力で溢れ、汚職がまん延するなど荒れていました。

政治家、活動家として頭角を現したエルドアン氏はイスタンブール市長に選ばれ、注目を集めます。インフラ整備を積極的に進め、公共の建物での飲酒を禁止、売春宿を閉鎖しました。治安が改善、トルコ最大都市が生まれ変わりました。

その後、政治犯として監獄されたこともありましたが、2002年にエルドアン氏が率いる公正発展党(AKP)が政権を取り、トルコ経済が飛躍的に発展。「イスラム民主主義の模範」とされました。

2014年8月、民主的な選挙で大統領に就任します。しかし、この頃から、エルドアン大統領が変わり始めます。異常と言っていいほど権力に固執、批判的なジャーナリスト、学術関係者を相次いで拘束します。イスラム教に大きく傾斜、イスラム金融を強化します。自らの権限を強化する憲法改正に協力的な側近を首相に指名、「永久の大統領」を目指しているとの指摘もあります。

さらに、ISISとクルド系武装組織PKKに攻撃したことで、報復によるテロがトルコ国内で相次ぎました。エルドアン大統領は敵だらけ。

「未来:信頼感低下」

クーデター未遂事件の混乱が残る17日。トルコの中央銀行は、市中銀行に無制限の流動性を供給すると発表しました。また、シムシェキ副首相は記者会見し、「政府による統制がとれていて、心配する必要がない」と述べました。投資家に向けツイッターにも投稿しました。週明けのマーケットをにらんだ動きです。

クーデターが発覚したのは15日のニューヨーク市場が閉まる直前でした。トルコリラの対米ドル相場が短時間で約5%急落しました。2008年以来の下落率。クロス取引の対円相場は36円台から34円台に急落しました。

通貨安は経済赤字の拡大につながります。44人が死亡した先月末のアタチュルク空港での爆弾テロ事件も影響して、観光客がさらに減ることが予想されます。トルコの銀行関係者は「テロがあり、クーデターがあり、諜報が欠如している」として、トルコ経済の低迷が長期化するとFinancial Timesにコメントしています。

トルコ経済の鍵となるのが外国資本。外国人投資家のトルコに対する信頼感が、クーデダー未遂事件でさらに悪化したことは間違いありません。グローバル・ソースのエコノミストは「深刻なほど信頼感が低下した。通貨安がどこまで続くかが重要だ」とコメントしました。

今週初めのイスタンブール市場は荒れそうです 。The Wall Street Journalは、政治の不安定化により、アナリストがトルコリラの一段安を予想していると伝えました。株価も下落するとみられています。

ファンド会社のルーミス・サイレスの新興国担当者は、18日のイスタンブール市場が売り圧力にさらされると予想しました。ただ、混乱はトルコに限定されると見ています。トルコ独自の問題であり、産油国でもないため、海外への影響は限定的との見方が優勢です。

トルコの中央銀行が近く、政策金利を追加利下げするとみられていましたが、トルコリラ安を懸念して利下げを当面見送る可能性があると指摘されています。

一方、ルネサンス・キャピタルのストラテジストは、エルドアン大統領が総選挙に動くと見ています。憲法を改正するための十分な議席を確保するため。この手の選挙は通常、投資家が好みますが、大統領の専制政治につながる選挙はネガティブに受け止められる可能性が高そうです。

[July 18, 2016 T0086]

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PROFILE

松島 新(まつしま あらた)氏

執筆者

昭和60年慶大卒後、テレビ東京入社。
ブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長、「ワールド・ビジネス・サテライト」担当。
平成13年ソニー入社後、CEO室、ソニー・コーポレーション・オブ・アメリカのバイスプレジデントなど歴任。
現在、金融情報サービス会社Market Editorsにて、エグゼクティブエディター(ジャーナリスト)として情報提供に携わる。ロサンゼルス在住。

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